魔法少女遊撃隊   作:黒助さん

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魔法少女、新技を会得する

 

魔法少女、新技を会得する

 

 

 

「連さん」

「何かな?」

 

 途中でレンタカーに乗り換えた私達は、執事さんから見送りされつつ帰路につく。その間に話すこともない私は、とりあえず先程の安心できない会話について、確認を取る。できれば夢であってほしいためだ。

 

「私が、万が一捕まった場合に話すことも出来ない状況になるとしたら、どうすればよろしいのでしょうか」

「そうならないように僕達が守る、としか言えないな。さっきの話でもしていたように、未然に防ぐか、変身して記憶を消して逃げるかの2択しかないと思うよ」

「ですよね」

 

 確認ゆえ、回答はわかりきっている。だが、言葉にされるとやはり辛いものだ。人は殴りたくないなぁ。誤って殺してしまいそう。などと、漫画等で見かけそうな、殺人鬼のような台詞が頭を過る。一発だけなら誤射かもしれないとは言うが、私の場合は一発でアウトなのだ。それも相まって戦いたくない。

 そんな私は不安な表情を浮かべていたようで、連さんが苦笑しながら声をかけてくれる。

 

「まぁ、安心してください。日本人への攻撃は流石に印象を悪くするだけですし、早々ありませんよ」

「なるほど。安心です」

 

 まぁ、こんなイケメンにそう言われるならそっかぁと信頼を寄せてしまう。私は詐欺によく騙されるタイプだろうな。それでなくとも、連さんの優しい声音には安心と安らぎを得られるのだ。安心もするさ。

 

「あっ」

 

 えっ。

 なんだか、不味いものと出会った時のような「あっ」を鼓膜に響かせてしまい、一気に不安になる私。

 

「……どうされました?」

 

 できれば続きは聞きたくないが、見えない不安より見える不安のほうが安心するというものだ。プリーズトークミー。

 

「……どうやら、読みが外れたみたい。掴まって!」

「なんですとぉおおおお!!」

 

 その瞬間、急加速と急カーブを一気に行い、全身が慣性の法則に従って扉に激突する。窓ガラスとキッスを交した私は、前歯が折れてないか確認しつつ、後ろを見てみた。

 後部座席から見えるのは、車の間を割ってこちらを猛烈に追いかける黒いバンが一台。どうやら、相手はそれほど慎重に進むタイプではなかったのだろう。どうあれ、これで数時間ぶり2回目のカーチェイスが始まってしまったのだった。

 

「いやあああああああああああ」

「くっ! しぶといなぁ……!」

「ひええええええええええええ」

 

 急カーブ急ブレーキ急加速。遠慮のない機動に体はついていかず、私は後部座席でハンバーグの種のような気分になっていた。この調子だと、収まった頃には私は楕円形の平たい肉片になっていることだろう。ロシアの魔法少女の助けで来た筈なのに、着いてから何回目かのSOSを叫んでいる。心の中の私はもはや何がどうなっているのか関係なく笑っていた。現実の私は? もちろん叫んでそれどころではない。

 しかし、事態はさらなる悪化を招いた。唐突に、銃声が聞こえたのだ。乾いたその音は、アスファルトを切りつけるタイヤの音にも負けず聞こえてきた。なんでやねん。捕らえるのが目的だったはずでは!?

 

『緊急事態発生、緊急事態発生! 紅き剣による銃撃を受けている! 奴らが何か誤った情報を掴んだか、計画的戦闘かはわからないが! とにかく応援を頼む!』

「えええええええええええ!?」

 

 その時である。

 大きな破裂音と共に車がガタりと傾いたのだ。感覚的にわかるのは、完全にタイヤのパンクであるということ。これレンタカーなんですけど!?

 

「クソッ! 幹之助くん! 君は変身して脱出し、やつらの記憶を消すんだ!」

「で、でも連さんが!」

「俺はどうとでもなる! 早く!」

 

 なんというか、切羽詰まった状況である。映画のワンシーンにありがちな台詞を吐いた気がするが構っていられない。兎に角、私はすぐにでも変身する必要があるのだ。

 切り替えていきましょう。本日の何を燃やそかなのコーナー!

 そう心で呟くものの、これまた考える余裕もない。なぜ悪ふざけしてるのか? 冷静でありたいためだよ!

 

「っ、マーチよ燃えろぉぉ!」

「もやすなみゃああ!」

 

 いったいいつまでカバンの中でじっとしているのかと文句も兼ねて叫んで見る。すると、カバンの中のUMAは青筋を立ててカバンから出てきたのであった。起きてたんか……こんな状況下でよく寝ていられるものだと感心していたところである。もしかして、先程の頭ぐりぐりで気絶してたのだろうか。まぁ、どうでも良いのである。

 さて。問題の変身キーワードを叫んだ私は瞬時に美少女魔法戦士へとチェンジする。そして、私は後部座席の扉を勢い良く開いて―――

 

「いやいやいやいや」

「何を閉めてるんだ幹之助くん!?」

 

 閉じました。

 いや、飛び出すのに勇気が必要じゃないかな?

 現在、非常に高速で揺れているこの車から飛び出すというのは、つまり高速で地面にキッスして転がったり何だったりで絶対無事で済まないだろう。うん。無理では?

 しかし、業を煮やしたのか、それとも先程の発言の復讐からか、マーチが私の後頭部を飛び蹴りした。

 

「はやくいくみゃーーー!!」

「ヴェァ゛アあ!?」

 

 小さいながらも確かな衝撃を受ける私。それにあわせるように車が急カーブし、さながら弾丸ロケットのごとく私はレンタカーより射出された。

 あ、死んだわ。

 

「死んでたまるかぁぁぁあああ!」

 

 根性で地面を殴り、倒れ込む姿勢から空中へと飛び上がる。そのまま一回転して3点着地をすると、そのポーズのまま滑る私。地面が音を立てて燃えた。私の脚削れてないなってない? と心配するも、それも杞憂なようだった。むしろ、私が着地したあと地面を削っていたようで、アスファルトのほうが無事では無かった。

 すぐさま正面を見てみると、追っていたバンが目の前に止まり、幾人かが銃を持ち出してこちらに向ける。やはり過激な連中だ。だけど、ちょっと計算して攻撃をしているフシはあるようだった。

 

『止まれ! でなければ撃つ!』

 

 そう、叫ぶ男たちはあえて人の少ないところで私達を追い詰めたのだ。ここにいる人たちはそれぞれ阿鼻叫喚ではあるが、私を捕えたあとすぐにでも逃げ出せるだろう。加えて夕刻であるために、暗闇に紛れて追跡も交わせるかもしれない。

 兎にも角にも、私達はこの人達を撃退し、記憶を消して逃げなければならない。とりあえずはそう、ただ一つ言いたい。

 

「日本語で話してください!!」

『ぐわぁぁぁああ!!』

 

 そう叫びながら手にしているアサルトライフルを蹴り壊し、その勢いで相手をふっ飛ばした。とりあえず、私とお話するなら日本語で喋ってくれ! ここについてからコミュニケーションらしいことを何一つとしてできていない為か、凄まじいフラストレーションが溜まっているのだ。

 正直、ホテルでもうゆっくり休みたかったというのにこの始末。戦うのは嫌だなぁとは思いつつも少しは怒ってもいいのではなかろうか。

 

『このやろ!!』

「ホタタタタタタ!」

 

 すると、遂に一人が引き金を引いた。が、私の魔法少女パゥワによりその銃弾は明後日の方向へと飛びたっていく。具体的にいうと、素手で一つ一つ弾き返していた。腕が衝撃で飛んでいかないか心配だが、これがイメージの力だ。強すぎでは? 私。

 

『ば、化物か!?』

『銃弾を跳ね返している、だと!?』

「とりあえず、ここで倒れてほしいですね!」

 

 しかし、このままでは埒が明かない。この場から逃げられたりすると、記憶を消して平穏無事な世界を保つことも儘ならない。だが、本気を出すとミンチどころか血煙となって消えちゃうかもしれない……!

 悩んでいると、後ろに隠れていたマーチが叫んだ。

 

「イメージするんだみゃ! そのイメージを固めて出すために、技名を叫ぶのみゃ!」

「どんな技名ですか!?」

「考えるんだみゃあ! たった今、この事態を解決する技を!」

 

 んな無茶苦茶な!?

 だが、今その無茶を叶えなければ、少ないとはいえ人に危害が及ぶかもしれないし、逃げられてしまうかもしれない……!

 私は脳裏に浮かぶイメージを固めていく。倒す、でも殺さず、気絶させる? 安全に、即効で、少し苦しんでほしいなぁ。おっと?

 

「偏☆頭痛!!」

「えぇ……」

 

 名前はもうリアルに想像しやすく、かつ行き過ぎたら気絶するほど痛いだろう頭痛を選択した私は、そう叫んだ。とんでもないドン引きを見せるマーチをよそに、私はその効力をその双眼で見届けるに至った。

 

『がああああああ』

『ぐぁぁぁあああ』

『いぎぎぎぎぎぎ』

 

 うーん、まるで緊箍○をつけられた孫悟○のようである。皆一様に頭を抱えてのたうち回り、やがて動かなくなった。非常に厄介な致死率の高いウイルスにでもかかったかのような物言いだが、事実として彼らはそうして気を失ったのだった。しかし安心してほしい。その記憶すら今から消し飛ぶのだ。良かったな。

 

「悪魔か何かだみゃ」

「うるさいですよ。結果として万々歳じゃあないですか」

「いや、うーん、もっとこう……魔法少女らしくみゃあ……」

 

 気に食わなさそうであるが、とっさのことなのだ。私だって魔法少女がこんな最大級に心根の悪い悪役みたいな技を出すのはナンセンスだと思っているよ。今後もお世話になりたくはないな。

 

「とりあえず、アレしますか……」

「みゃ。ボクは連を探してくるみゃ」

「あ」

 

 すっかり忘れていたのである。マイホープ連さんはどこへ? とりあえずノヴァ・ステラ・キュアを唱えると、周囲の弾痕や衝突した車は復旧し、人々も特に何も気にせず行動をし始めた。これで良いだろう。

 

「よし、と。私も連さんを探しますか……マーチ!」

「こっちだみゃー!」

 

 ちらりと声のする方を見やると、どうやら曲がり角で停車している形であった。いくら人通りが少ないとはいえ、マーチを晒し続けるのは如何なものだろうか。そう考える私は、足早に車のもとへと駆けたのだった。




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