魔法少女、作戦会議
私は今、非常に困っていた。如何せん、私の童貞力は高く、女性に対しての免疫が皆無であることは周知の事実であろう。いやまぁ知られたくないのだが。ともかく、そんな私が今、女の子に囲まれているのである。
さて、そこで殺気を放つ男性諸君に問いたい。それが本当に良い空間なのか。1度荒ぶる怒りを鎮めて考えていただきたい。
例えば、だ。女子校の文化祭があるとしよう。かの女子校というものは男子禁制であり、その文化祭の時のみ入ることを許される。その為、その瞬間を狙って女子校へ向かう男子諸君がいたとする。彼女を作ると意気込んで行って、彼らはどうなると思う?
正解は、何もせず帰る、だ。いや、正しくは何もできずに帰ってくるのだ。つまりは、彼らはその女子たちの雰囲気によって、自然とよりつけないままに時間を無為にしたのだ。
そう、我々男子に男子なりのノリと雰囲気があるように、女子たちにもあるのだ。
さて、それを踏まえた上で話を戻そう。つまりは、私は孤立していた。みんなキャイキャイ楽しそうであるが、この雰囲気はまさしく女性特有のそれだった。何なら、話している言語すら違う。話しかけづらい。帰っていい? 駄目? そう。
白いクロステーブルの長机を囲うように、私達は座っていた。今ここにいるのはロシア各地区の魔法少女達である。一人で広大な範囲を守っていることもあってか、全員精鋭である。
『にしても、こうして集まるのは初めてじゃないかしら?』
『凄いよね! 私も興奮しちゃった!』
『同僚の魔法少女自体、出会うことが少ないものね』
何だか楽しそうだなぁと思う一方、エレーナがいたら彼女も嬉しいだろうなとも思う。主催側だが、遅れてくるようなのだ。しかし、だとしたら前日の遊ぶ約束、そんなに必要なかったのでは? 急にいたたまれなくなってきた。
『で、彼は何?』
『日本人? なんで男がいるの?』
『さぁ? 魔法少女だったりして』
『そんなまさか』
『でも日本だよ?』
『日本人だもんねぇ』
へるぷみーまいほーぷ連さん。
全く何言ってるか分かりません。ただ、何となく凄まじい誤解が生まれている気がする。彼女らの目線がこちらを向いていることから、なんとなくそう察する。
こんな事なら第二ヶ国語をもっと勉強していればよかった。そう思っていると、奥の扉が開き、ある女性が出てきた。あの白をベースにしたドレス調の姿は、魔法少女のエレーナであった。遅れてくる原因はつまり、戦闘があったのだろうか。
『ごめんなさい。遅れてしまったわ』
『良いわよ。はじめましてエレーナ』
『魔法少女の格好ってことは、何かあったの?』
『まぁ、色々とあったわ。皆、はじめまして。私はエレーナ。よろしくね?』
とはいえ、こうして集まることができて寂しくなさそうなのは喜ばしいことである。私は少々安堵のため息をついた。エレーナは若干たどたどしく感じるが、堂々と同じ仲間と接していた。仲良くなれたようで何よりである。私の中のオタク君も、ユリの花が咲かないか気になっているようだが、祝福していた。うむ。帰っていいぞ。
『ところで、彼は誰?』
『エレーナの知り合い?』
『まさか魔法少女ってことはないよね?』
『ふふ、そのまさか、なのよ』
『『えぇ〜〜〜!?』』
「うぁ!? な、何何?」
突然こちらを向いて驚きの声を上げるとビビるとも。できる限り空気になっていたというのに、唐突に舞台に上げられた観客Aみたいな気分である。
『でもエレーナ、彼男よ?』
『まさか女装するとか?』
『それはそれで見たいかも』
『で、で? どうなの?』
何か言い寄られるエレーナは、しかし得意げに答えた
『美しい女の子になってたわ。凄いわよ、あれは』
『見てみたい!』
『どんな感じなの?』
『変身して貰いましょうよ!』
こちらをチラチラ見ながら会話されると、私は変な勘ぐりをしてしまう。あれもしかして不審者か何かだと思われてなかろうか。不安でしかない。
その雰囲気を破るかのように、奥からエレーナパパ、その他数名の黒服の男性と女性。おそらく、職員の方々だろう彼らは一般的なビジネスマンとそう変り無い格好で現れた。おおよそこれから魔法少女によるお話とは思えない重厚さというか……真面目さがあるというか……。ますます疎外感を感じる私は、とにかく空気になっていた。
『済まない、待たせてしまったな魔法少女諸君』
『あ、パパ』
『『パパ!?』』
皆さんの驚き様から、たぶんあれが父親なのかと驚かされたのだろう。いやまぁ、誰だってあんな優しそうで厳ついパパさん出てきたら驚くでしょう? 現にニコニコ笑ってはいるが私への殺気を少々感じるのだから。
『まずはお集まり頂き感謝します。君たちには数日中にあると予測されるミラーの攻勢の迎撃を行ってもらうべく連絡をしました』
すると、ニコニコと笑顔を浮かべて現れたのはマイホープ連さんだった。良かった! 心細さからは開放される……!
『今回はミラー予測探知のエラーかと思われた内容が、大規模攻勢の可能性があることから日本より魔法少女遊撃隊を派遣してもらった。現在は一人だそうだが、十分な戦力になるとのことだ』
『詳しい戦闘範囲についてはこちらの資料をご確認ください。対象の州はモスクワ、トゥーラの両州だ。距離がある分厄介だが、各魔法少女の配置はこのように敷く』
そう言うと、パパさんは地図を広げて私達に見せた。各地に魔法少女が配置された地図の様だが、いかんせんロシア語のわからない私には何が書かれているのかチンプンカンプンである。
『手薄となる各地の防衛は後続の魔法少女見習いたちが引き受ける。何かがあれば彼を向かわせるが、基本的には君たちが最前線で大敵と当たってもらうこととなる』
『ガイドがよくいなくなってたのはスカウトだと思ってたけど、これを見越してだったのね』
なんか納得しているようですが、全くわからない。私もそのポーズだけでも真似しておこうと思い、腕を組んで地図を眺める。
『さて、詳しい戦闘の内容は逐次戦況を読んで戦う、いつもの形となる。だが、大規模な戦闘を見越してある程度詰めておけるものは詰めておきたい。何か意見はあるかな?』
その言葉を皮切りに、みんなが話し始めた。私はというと、とりあえず頷いているだけである。まるでトラの置物だった。
「あー、幹之助君は分からないよね」
「連さん、全くわからなくて困ってます。助けてください」
冷静に、真剣な表情で呟く。明確なSOSであった。それに連さんはため息をついて困った表情を見せると、端的に説明する。
「簡潔に言ってしまえば、ロシア全土を守ることとなるかな」
「んな無茶な」
いや無茶苦茶でしょう? 報酬とかその他諸々と絶対釣り合わないどころか、確実に守れないでしょうに。何を考えてるんだこの方達は。
すると、連さんは苦笑して続ける。
「確かに、無茶苦茶だよ。ただ、予測される侵攻ルートが圧倒的に数が多く、その地区以外は問題がなさそうなんだ。後輩の魔法少女たちも育ってきているようで、手薄なところには彼女らが配備されるのさ」
「じゃあ、その侵攻ルートだけ抑えればよろしいのですか?」
「そう。基本的にはそれでいいが、2つも州を守るとなると、範囲は一気に増えてくる。ただ、君のその膨大な魔力ならば遊撃戦闘による支援攻撃が可能だろう」
「はぁ」
言うは易し。それだけの力が私にあるのかと聞かれるとわからないと本人が答えてしまうほどのあやふやなものだというのに、連さんたちは1ミリも疑わない。それがいかほどの魔力量を私が有しているのかを示していた。改めて驚いちゃうわ。
「今は何を話されてますか?」
「今後の作戦だよ。どう動くのかは知っておいたほうがいいだろうけれど、君は遊撃戦闘だから、こちらの指示通りに動いてくれさえすればいいかな……」
「じゃあ、私のいる意味ってなんなので……」
「人を覚えるためかな。あとは君には後で変身してもらって、彼女たちに覚えてもらうのさ」
何というか、公開処刑ということなのだろうか。こんなフツメンが美少女になっちまったら、全力拒否が目に見える。なんと言っても、過去に二回ほど美少女を卒倒させてしまったのだ。
罪深いモブメンフェイスに涙しつつ、私はわかりましたと話を切り上げた。とはいえ、流石にある程度の作戦概要は頭に叩き込まなければならないために、私の隣で連さんが会話内容を訳してくれた。その内容を頭に入れながら私は話の終わりを眺めるのだった。
『で、続いてだが、彼が今回参戦する遊撃隊所属の魔法少女、ミキノスキーだ』
「あ、どうも。幹之助です」
スッと手がこちらに向いたので、思わずペコリと一礼をする私。なんというか、染み付いた所作はどうにも抜けそうになく、日本人式な挨拶を行ってしまう。続けて、連さんが紹介を始める。
『彼は初の男性の魔法少女です。かつ、内包されている魔力量は計り知れず、歴代でも随一と言って過言ではありません。ただ、変身後の姿は変身前の姿と変わっているため、今確認しておいてほしいです。よろしいでしょうか?』
『わかったわ! 分かったから見せてちょうだい!』
『どんな姿になるの? ねぇ?』
『はやくみせなさいよ!』
期待の眼差しとはこれこのことなり。凄まじくキラキラした視線を向けられる私。おそらく連さんは変身した姿を確認してほしいとでも言ったのだろう。私はコクリと頷くと、何を燃やすかを考え始める。さて、どういたそう。
「羞恥心よ、燃えろ……!」
「みゃ……悲しい目みゃ……!」
お前いたのか。
などと突っ込み虚しく、私はあらんばかりの光に包まれ、身体の変化を感じる。おぉ、おおぉ、お山ができましたぞ……これこそ、天地創造……!!
馬鹿なひとり芝居をしつつ、私は美少女へと化けたのだった。フリッフリのスカートに大和撫子の美貌を詰め合わせた元男の魔法少女の完成である。
『『おぉ〜〜〜!!』』
「な、なに」
作戦会議場に歓声が上がる。彼女たちの目はキラキラしていた。皆の視線はこちらに首ったけ、もはやパパさんに目もくれない。それを見越したのかはしらないが、こほんと1つ咳を入れると彼は続けた。
『というわけで彼、いや、彼女がサポートする。覚えておくように』
そう言うと、彼らは部屋をあとにした。どうやら更に会議があるようで別室で行うこととなっているそうだ。そして、残念なことに連さんもその後に続いて出ていってしまった……。
「あの……」
『……!!』
どうやら、帰られそうには無いようで。
助けて!