「ええええええ!? 妖怪だったの!?」
「「そういううことです」」
てっきり人間だと思っていた人物が妖怪だったことに驚く。それもそうだ、彼女自身彼に神力で探りを入れていたのだ。それで見抜けなかったのだから、彼の力が彼女より圧倒的に飢えということを意味している。
「私から見たら完全に人間だったじゃないか!?」
「俺は、能力が二つあってな。そのうちの一つが『人間に完全に化ける程度の能力』っていうんだ。どんな能力を使っても俺が人間に化けているときは、俺が妖怪だとわかんないんだ」
「なにそれ卑怯。そんでもう一つは?」
「『どんなものでもゼロにする程度の能力』。目に見えるもんだったら大半ゼロにできるぜ、耐久力しかり限界値しかり」
呆れ顔で固まるのはもちろん諏訪子。一つ能力があるだけでも十分なのに二つ、それも強力な能力ばかり。
「……」
ただ一人、そんなことを気にもせず、亮介の揺れる尻尾を唇に指を当て、触りたそうに見ている者がいた。その様子に気づいた亮介は、卑弥呼に言う。
「触るか?」
その言葉にとてつもなくうれしそうな顔で、亮介を見る。ロリコンの彼が耐えられるわけもなく、承諾した。卑弥呼は最初は遠慮気味だったが、触って触り心地が分かった瞬間抱きつき、気持ちよさそうに顔を緩める。
「やっぱロリはいいね」
「ん? なんか言った?」
「なんでも」
諏訪湖の質問をかるーく流し、話を一気に変える。
「んでさ、仕事はもらえんのか?」
「うん、妖怪を倒せる腕力があるなら力仕事を頼みたいね」
「りょーかい」
○それから一週間後……、
「亮介さ~ん、この米俵もよろしくお願いします」
「わかった~」
現在、米の収穫時期である秋の真っただ中。村のほぼ全体が黄金色に覆われ、大人子供問わず、笑顔で黄金色の食物をとっている。その中にいる唯一、人ではない者。それは先週に、ここの土地神がこの村に雇われた黒い狼の妖怪。最初、民たちや子供たちは亮介を怪しむ目で見ていたが、彼の気さくで表裏がない性格からどんどんとみんなの信頼を得ていった。
「おらっ」
収穫した米を詰め込んだ米俵を十個ほどピラミッド型に投げ重ね持ち上げる。普通一つ持ち上げるだけでも大人二人分の力がいるのだが、彼は余裕の表情で高床倉庫へ運んでいく。
「これで最後か?」
「はい、ご苦労様です。あなたのおかげで、普通日暮れまで運ぶのに時間がかかるのですが正午を少し過ぎたくらいで終わりました」
「住まわせてもらって飯まで食わしてもらってるんだ。これぐらいするぜ」
この時代の妖怪は例にもれず、災厄の象徴とされている。しかし、彼の場合は人を襲うどころか人を助けるのだ。
「亮兄~、遊んで~」
「わたしも~」
家の陰から数人の子供たちが飛び出してきて、亮介に遊んでほしいとねだる。
「おうおう、何して遊ぶんだ?」
「んっとね、かくれんぼ!!」
「よ~し、みんな隠れろ!! 俺が鬼やるぞ~」
「「「「「わ~い!!」」」」」
集まってきた子供たちがそれぞれ散らばっていく。亮介は眼を隠して待とうとした時に、高床倉庫の柱の陰に一人の少女を見つける。二つに分けた黒い髪に巫女服。間違いなく卑弥呼である。
「卑弥呼じゃん。どうした?」
彼が卑弥呼に話しかけた瞬間、彼女の体がビクッと震える。そしてそそくさと出てくる。
「また抜け出したのか?」
「……はい」
実を言うと彼女、結構サボリ癖があるのだ。巫女の修行もちょくちょく抜け出し、遊んでいることが多い。村の子供たちも彼女の味方である。
「……」
亮介に会って少し気まずそう泣顔をする。諏訪湖につきだされると思っているのだろう。しかし、亮介はこういうことには、
「よし、卑弥呼。諏訪湖につかまらないようにかくれんぼするぞ!!」
「ふぇ?」
参加したくなる側である。
「諏訪子様に突き出さないんですか?」
「ハァ? サボりたいならサボればいいさ。人生楽しまなきゃ損だぜ?」
何食わぬ顔で答える。少し手間取っていた卑弥呼を見かね、尻尾で卑弥呼を巻き上げる。
「ひゃわっ!?」
「よっしゃ、もういいか~い?」
「「「「「もういいよ~」」」」」
「よし、お前も探すの手伝え、卑弥呼!!」
「うん!!」
そのかくれんぼは夕方まで続いた……。
○日が沈んだ頃の洩矢神社……。
「何してんだよ、おバカどもーーーーー!!」
「イテッ」
「あぅ」
神社内にて亮介と卑弥呼は正座させられ、拳骨を食らっていた。
「調子に乗って村の壁を崩壊させるとか意味分からんわーーーーーー!!」
彼らはちょっと調子に乗り、亮介の能力を使って少しばかり暴れたのである。そして、村を覆う壁の一部を壊してしまったのである。(亮介が直したが)
「まあまあ、直したんだしいいじゃん」
「そういう問題じゃない!! それに卑弥呼!!」
亮介が両の掌を見せて言い訳をしているときに、自分の名前を呼ばれると思っていなかった彼女は体をブルブルと震わせる。
「……!!」
目をつぶり覚悟を決める。
「遊びたいならそう言いなさい、 修行を抜け出すんじゃないよ」
「……?」
てっきり怒られると思っていた彼女は、不思議な顔で顔を上げる。
「その顔、おこられるとおもっていたのかい?」
「……はい」
そんな卑弥呼に諏訪子はため息をつき、卑弥呼を抱きしめる。
「別に怒ってないよ。修行を抜け出したことは悪いけどね。いやならいやって素直に言えばいいんだよ。卑弥呼に強制的にやらせるのは私も嫌だからさ」
その言葉を聞き、卑弥呼は諏訪子の胸に顔をうずめる。少しだけ泣き声が聞こえた。
そのあと、しばらく彼女が泣いた後に諏訪子が寝かしつける。そして、縁側で月見酒をする亮介の隣に諏訪子は座る。
「ごめんね、迷惑かけちゃってさ」
「別にいいさ。それにしてもさ」
諏訪子を見ていたずらっぽく笑う亮介。
「なんでわざわざ俺に演技なんてさせたのさ。お前から言えばいいじゃん」
「あーうー、そこは気にしないでくれよう。私はそんなに度胸ないから……」
今回の一軒は二人が組んでいたのである。抜け出し癖のある彼女をどうにか直せないかと諏訪子が亮介に相談したところ、この案が出たそうだ。
「神様が度胸ない、か」
「……笑いたければ笑えよう」
「わらわねぇよ。そんなことに笑ってどうすんのさ?」
「……本当に笑わないのかい?」
少し涙目で亮介を諏訪子は見る。小さな盃を持ち月を見ながら彼はこう言った。
「度胸がない? んなことどうでもいいだろ。自分に正直に生きたほうがいいに決まってるさ」
「……///」
青の様子がかっこよくて、諏訪子は少し顔を赤らめる。
「どうした、顔が赤いぞ?」
「酔ったんだよ!!」
「酒飲んでないじゃん」
「うっ……、いいじゃん、今夜は徹底的に飲むよ!! とことん付き合ってね!」
この時代、米俵ありましたっけ?
では、また。