大和の土地の奥にある巨大な神殿『天月佐殿』の奥にある〝神の間″にて、四人の神が集まっていた。黒い長髪に黄色や赤で彩られた和服をまとった、おとなしい雰囲気の女性である天照。金髪で少し長めの髪に現代風の衣服を着こみ、鋭い雰囲気を持つ男、月読。緑の短髪にタンクトップに似たような服にジャケットを着て、短パンをはく男。須佐ノ男。そして、背中を覆う巨大なしめ縄を担いだ藍色と濃い赤の服を着て、胸に鏡を付けている女性、八坂 神奈子。
「姉さん、なぜ僕らを呼んだのかな? 特に何もないはずなんだけど」
月読の質問に天照が首を振り、今の状況を伝える。
「今、何者かが恐ろしいスピードでここに近づいてきているのです。力は見ただけでも異常なレベルです」
「……姉貴、つまり」
「戦闘態勢準備開始。入口に頼れる人物をおくように」
「了解いたしました、天照様」
少しの会話だけで、理由を把握した三人は準備を始める。ただ、今回の敵は彼女たちにとって恐ろしい相手だった。そして、このことを別室で能力を使い、聞いていた人物が一人いた。その人物は女性のような顔をしているにもかかわらず、怖くも見える笑顔を浮かべた。
○大和の国、入口付近……。
「天照様が戦闘準備とか言ってたけど、なんでそんなことしなきゃいけないんだ?」
「「さぁ?」」
三人の神が、大和の国の入口近くにたむろっている。天照の命令でここに入るが、なぜここにいるかわからないのである。しかし、すぐに知ることになる。
「……おい、あの黒いの何だ?」
空にある一つの黒い点。それがものすごいスピードで近づいてくる。
「なんか来る、うわぁ!?」
その言葉を言い切る前に〝何か″が目の前に降り立つ。巨大な音とともに降り立った、黒い狼の尻尾と耳を持った黒髪で赤眼の少年を神たちは迎え撃とうと試みる。
「貴様、ここに何をしに来た? 即刻立ち去らなければ貴様を殺すぞ?」
神の一人が少年に忠告するが、その少年は不思議と笑顔を浮かべる。
「雑魚がいきがんな。勝てるかどうかもわかんねえのか?」
本気の目で語られたそんな言葉を聞けば、誰でも相手を倒そうとしてくるのだが、神たちは動けずにいた。なぜなら彼のその一つの意思のある声を、一瞬で膨らんだ気迫を、恐ろしい大きさの力を恐怖してしまったのだから。
「とっと吹っ飛ばして奥へ行こう。『
逆立ちして恐ろしい勢いで回転する。あまりのスピードに空気すら蹴り飛ばし、筋肉のしなりによる音の衝撃波であらゆるものを切り刻む。
「「「ギャァァァァァ!?!?」」」
刻まれるのは物だけでなく、神も同じ。体を真っ二つにされ、倒れる。門は崩れて形は残ってない。近くにいた民たちはなんだなんだと逃げ惑う。
「奥のあの神殿かねぇ? この果たし状くれたやつ」
一応彼は果たし状を持ってきたのだ。というかなぜか懐に入れられていたのだ。おそらく諏訪子かミシャクジのせいだろう。
「よーし、ちゃっちゃっと行くか」
○大和の国 奥の神殿『天月佐殿』 〝神の間″……。
「報告致します! 戦力となる神の五割強が戦闘不能! もうすでにここに入る入口前の階段まで来ている模様! 幸いなことに民たちに一切被害が出ていません」
謎の存在がここに降り立ってから、十数分。天照らに知らされた報告は彼女らの想像を大きく上回るものだった。いくら強くても少しは止めることができると思っていたのがそもそもの間違いだったと感じさせられた。
「……まずいですね。ここまですごいとは」
「どうする
、姉さん? 僕たちで迎え撃つか?」
「俺等なら勝てるだろ。簡単だ」
天照、月読、須佐ノ男の三人が戦い前では最後となろう話合いをしていた。その時、
「だぁしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
壁の一部をぶち破り、黒い狼の男の妖怪が飛び込んできた。そしてそのまま飛んでいき、「だぁぁぁぁ」と言いながら、三人の前で瓦礫の中に突っ込んでいった。
「行き過ぎた」
すぐに起き上がり、表情が固まっている天照たちを見る。
「おぉ!? 天照さんか!?」
「……どこかでお会いしましたか?」
天照の反応に彼はしまったと口を隠す。そして、咳をした後に改めて話し出す。
「天照に須佐ノ男か……、それに……」
月読を見て、彼は言い放つ。
「誰だ?」
おもいっきりずっこける全員。月読は言いたい事が多そうだ。
「なぜ姉さんと弟のことを知っていて、僕のことを知らない!?」
「いや、知らねぇもんは知らん。誰だお前?」
屈辱の色を濃く出す月読は彼の言動と、笑い転げる須佐ノ男と含み笑いをこらえられなさそうな天照が加わり、怒りを爆発させる。
「僕は月読ノ命! 月の神だ、よく覚えとけよ、狼!」
そんな言葉に彼は笑って月読を見る。しかし、天照だけが彼が一瞬、顔をひきつらせたのを見逃さなかった。
「……それで、何の用だよ? 黒狼よぉ」
笑いを抑え込んだ須佐ノ男が質問を始める。その言葉を待ってましたと亮介は懐から例の紙を出す。
「それは、諏訪の国に送った手紙!? あなた、諏訪の国のものですか!?」
天照の質問に彼は首を振って、そのことを肯定する。
「この手紙を断りに来たんだ」
「なぜだ? そちらに悪いことはないはずだし、僕たちの国を破壊する理由もないはずだけど?」
その言葉に彼は何言ってんだ? みたいな顔をする。
「この内容を見て、そんなこと言えんのか?」
その手紙の内容を彼は三人に見せる。その内容を見て歯ぎしりをしたのは月読である。
「バカな部下どもが……」
「なんだ? あんたらが指示したんじゃないのか?」
「違います」
亮介の疑問を天照が否定する。
「私たちが書いたのは一方的な内容ではありません! 話合いをして決める気でした!」
天照のその言葉に、亮介は悩ましそうな顔をする。だが、彼は再度笑った。
「だが、最初に仕掛けてきたのはあんたらだろ? 道中に諏訪の国の周辺の生き物の死骸が結構あった。どう責任取る気だよ?」
その言葉に全員が何も言えなくなる。さらに亮介は続ける。
「村の人たちも今の冬を生きていくために、生き物を狩ることが必要になる。それを壊そうとしたんだ、責任は取ってもらうぜ」
「何を……すれば……」
亮介は改めて首をひねる。そして彼らしい一つの案を出す。
「その手紙にあった通り、戦争をして勝ったほうが相手の国を管理下に置くことができるってのはどうだ?」
それは負けた国が実質的に支配されることを意味する。月読も須佐ノ男も反論しようとするが、天照に止められる。
「それならこちらが圧倒的有利にはなりませんか?」
「確かにそうなる。だから三対三にしようぜ。こっちとそっちの巫女、用心棒、神で戦闘する。だけど、あんたらリーダー格の参加はなしだ」
「そんな身勝手n「その勝負引き受けましょう」姉貴!?」
須佐ノ男が文句を言おうとしたところを天照が止める。
「今回は私たちの不始末ですから、彼のどんな要求も受け入れるべきです」
「交渉成立、だな。じゃぁ一週間後にここの南にある巨大な草原で」
狼は言い終わるかわからないうちに空に跳んでいく。それを三人はただ見守った。
「どうする気ですか、姉さん?」
名前も能力も知らぬ相手に対策を立てるのはとても難しい。相手国の神の能力ならある程度は分かるので対策の使用はなくはないのだが。
「こちら側の巫女は台与(とよ)に行かせます。神は神奈子に決定でしょう。用心棒は……彼以外はあり得ませんね。月読、交渉してきてもらえますか?」
「あいつは僕、苦手なんだけど……。しかたないあいつほど強いやつもそうはいない」
「あいつなら勝てるんじゃねえか? さっきの黒狼にさ」
月読と天照、そして須佐ノ男がそんな会話していることを諏訪の国のものが知る由もない。
スサノオって、「須佐ノ男」か「須佐能乎」のどっちなんですかねぇ。