では、どうぞ。
○ 諏訪大国にて、亮介の大和の国の襲撃後、真夜中……。
「……という感じだから、よろしく」
諏訪大国の居間にて、事情を話された諏訪子と卑弥呼、そしてミシャクジは話を聞いていたが、彼がこの国の名で大和の国に喧嘩を売ったことが頭に大きくあってあまり状況を飲み込めずにいた。
「あのさ、なんでわざわざ喧嘩なんて売ったのさ? 別にあの手紙だけ破棄してもらえればなと思って、亮介の懐の中に入れたんだけど……」
諏訪子が汗を掻きながら、笑みを浮かべている亮介になぜこうなったかの理由を問う。ただ単に彼は戦いたかっただけなのだが、それを言えるはずもなく他の理由を考える。う~んと少し唸った後に答える。
「あんな手紙送られてきたのに、何の見返りもなく終わっていいのかよ?」
「それは、相手によるでしょ!? 大和の国にそんなもの求めようとしたあんたの頭の中大丈夫!? ミシャクジも笑ってないでさぁ、なんか言ってやってよ!」
亮介が必死に考えた納得させる理由は、諏訪子の一言であっけなくつぶれる。ミシャクジはしゃべれないのだが、今の彼女はそんなことお構いなしにミシャクジに話しかける。その様子を見て、ミシャクジは頭を少し震わせ、笑うように目を細める。そんな言い争いをしているのは自分の実力がある程度はある者たちなのだが、そんな項目に当てはまらない人物である卑弥呼は顔が青ざめていた。
「今回……私、勝てるでしょうか……?」
完全に落ち込んでしまった卑弥呼を、なんとか元気づけようとしたミシャクジが彼女の頬をやさしく舐める。その行動に卑弥呼はなんとか落ち着きを取り戻し、普通に戻った。
「あーうー、受けちゃったんだから、今更断るわけにもいかないし……。しかたない、全面戦争だね」
亮介の考えを肯定するわけにはいかないが、今更否定しても何ともならないと判断した諏訪子は戦争を決断する。亮介をのぞく全員が、顔を強い決意見せる。しかし、当の本人である亮介は笑いつづけていた。
「何を笑ってんのさ!? 一週間後は戦争だよ!?」
「俺を紹介する時にも言わなかったか? 俺は戦闘好きだ。戦えるとわかって楽しみなんだよ」
目が本気なのは、殺気を感知するのには一番疎い卑弥呼でさえ分かった。ここにいる誰もが彼の気持ちを理解できないだろう。戦闘はただ痛いだけと思っているのは、誰でも同じ。彼は少しねじ曲がっているのだろうと、諏訪子は思った。
「……怠けている場合じゃないね。少しでも強くならなきゃいけない。修行するよ!!」
諏訪子が立ち上がり、練習場へと向かいだす。その様子を見て、諏訪子も立ち上がる。
「はい! がんばります!」
そして、小走りをしてついていく。ミシャクジはその場にとどまる亮介に顔を向ける。
「……俺も行ったほうがいいか」
そういうと立ち上がり、彼もまた練習場へ向かった。ミシャクジはその様子を見て、土にもぐった。
○ 大和の国『天月佐殿』……。
『天月佐殿』の巨大な居間に五人の神力が存在する。その五人は、大和の国の最高神と太陽の神とされる天照、月の神 月読、剛力の神 須佐ノ男、乾の神 八坂 神奈子、そして正座していても地面に広がるぐらいの長い茶髪と巫女服を着込んだ少女。
「今回の話は一週間後にある三対三の戦争について……はいわずもがな、ですね」
「私が呼ばれたことは何となく理解していますのです。詳しいお話を希望いたしますのです」
巫女服の少女が特徴的なしゃべり方で天照に問いかける。しかし、そのしゃべり方は周りの緊張感をぶち壊すため、全員が汗をかいている。
「ま、まあね、台与(とよ)? その緊張感ない話し方やめない?」
「いやいや、このしゃべり方がいいのですよ、月読様!」
台与と呼ばれた少女はつ月読に迫る。このままだとしゃべり方について論破しそうだと判断した須佐ノ男は天照に話しかける。
「話しつづけてくれよ、姉貴」
「は、はい。今回の三対三ですが、私と月読と須佐ノ男は参加できません。なので、提案された巫女担当を台与、神担当を神奈子とします」
冷静に判断をくだし、台与と神奈子が返事をする。しかし、状況が少しわかっていない台与は当たり前と言わんばかりに質問をする。
「もう一人は誰なのですか?」
「用心棒担当は…………言わなくても分かるでしょう。私たちでも止められないぐらいの実力を持つあの人です」
天照のいいようをこの場にいる一名をのぞき、全員が理解している。その理由を彼を発見した際にとがめたときに、反撃され彼の実力を思い知ったからである。
「確かにあの人なら可能なのですね……。はぁ、今思い出しても彼の姿はすばらしかったですぅ~」
顔を紅潮させ、興奮する台与。惚れたわけではないが、憧れを抱いていることを全員が知っている。それほどの人物が〝彼″である。
「月読様、彼への交渉はできたのですか?」
台与の行動にあきれていた神奈子が、話を変えるために月読に問いかける。
「あ、あぁ、なんか交渉を受けた時、あいつ変だったぞ。最初は受けないような様子だったんだが、黒狼の話題を出した瞬間に、宴の用意が交換条件だと言って簡単に戦うことを引き受けた。なぜなんだろう?」
今までに彼を頼ったことは二回ほどあるのだが、何かと引き換えにその依頼をこなしたのだ。その条件が、俺を含むここにいる人民全員に無料で一か月食料を配るなど不思議なものばかりだった。
「宴……ですか……」
八坂が不思議な声を上げる。宴を要求するといううことは、勝利を確信しているのか、それとも他の何かか。悩み固まっている全員を、そういうことが苦手な須佐ノ男が一言かける。
「だけどよ、あいつの参加はこっちに圧倒的有利じゃねえか? あっち側の黒狼に対抗できるのは確かだろ。神としての位置取りはこっちのほうが強いんだから」
須佐ノ男の一言に全員の心に活気が芽生える。それは、彼の参加はこちら側の圧倒的優先となることはすぐにわかったことだったからである。その時に、一つ疑問が浮いた神奈子は月読にその疑問を尋ねる。
「月読様、彼は今どこに?」
「ここの裏手の奥の大木の切り株があるところだよ。なんでも体を動かしたいそうだ」
○ 天月佐殿の裏手奥の大きな切り株がある場所……。
銀を中心とした六つの突起が左右対称にある刀身、鍔は赤、柄は黒の剣を目に見えないスピードでふるう。体をひねり、剣を回す。流れるように動いた後剣をしまいこむ。
「ふぅ……」
少し息を漏らし、体の緊張を抜く。しかし、その様子に一切隙はない。
「俺が目を覚ましてから一週間もたっていないが、こんなに速くあいつと会えるとはな……。運命とは分からないものだな」
人が座ってもまだまだ余るぐらいの太さを持つ切り株に座り、苦笑いする。その顔には喜色を多く湛えていた。
「相変わらず無茶苦茶な馬鹿力で安心したぜな」
そして、立ち上がる。冬の寒さが彼の身にしみこむ。彼は満天の星空を見上げ、もう一言独り言を言う。
「お前と戦えることを楽しみにしてるよ。亮介」
天月佐殿のほうへ体を向け、歩きだす。紫銀色の髪は風にあおられ、たなびいていた。