諏訪大戦開始当日、昼過ぎ。空は真っ青と言えるほど晴れ渡り、草原は風にたなびき、この後に戦争が起こるとは思えないぐらいの安らぎを感じられる。そんな中で、諏訪大国のメンバーである亮介、諏訪子、卑弥呼は一時間ほど前からここに居座っていた。
「モグモグ……今日で、モグモグ……時間、モグモグ……合ってるよな、モグモグ」
亮介が諏訪子に尋ねるが、諏訪子は汗を掻き続けている。なんてったって、誰もが戦争前で緊張感で張り裂けそうになっているときに、亮介は巨大なおにぎりをほおばっているのだから。
「よく、こんな時におにぎりなんか食えるね。食べ物なんて喉を通らないよ、普通」
「腹が減っては戦は出来ぬ、だ」
頬にいくつか米粒をつけるその様子は何とも幸せそうだ。諏訪子はもう何も言うまいとため息をついた。卑弥呼はミシャクジを体に巻きつけ、亮介の言う修行をしていて。何回かやっていくうちにミシャクジを巻きつけたまま修業をやると、疲れないのに修行の効率が良くなることがわかったのだ。ミシャクジの神力によるものだと諏訪子は仮定づけていた。
「卑弥呼~、あまりやりすぎんなよ? 疲れて倒れるぞ?」
「……」
聞く耳なし。だが、彼女はすぐに目を開く。ミシャクジはスルリと卑弥呼の体から離れ、亮介に顔を向けてほほ笑む。
「心配ありませんよ、体制は万全ですっ!!」
握りこぶしを作り、覚悟を語る。その覚悟を含む笑顔を、亮介はおにぎりを食べながらも笑いながら見ていた。
「全員、お集まりですか。結構なことです」
ここにいないはずの人物の声がして、その場にいる全員は身を固める。光とともに六人の人物がすぐそばに降り立つ。三人は言わずもがな、天照、月読、須佐ノ男。とてつもなく長い茶髪で巫女服を着込んだ少女、巨大なしめ縄を担いで胸に鏡を掲げている神、黒いローブを着て顔が見えない人物が一人。
「今回の相手、三人用意いたしました。早速ですが、始めましょう」
天照の一言で諏訪側の卑弥呼が、大和側の茶髪の少女が一歩みでる。
「私は台与というものなのです。今回は正々堂々と行きますのです」
「卑弥呼です。負けませんよ!」
二人がそれぞれの構えをとる。卑弥呼は一般的な札をつかみ、相手に向ける構え。台与は脱力したようにも見える直立した構え。気迫は負けじ劣らじ。札も目に目るほど霊力が凝縮される。
「始めっ!!」
天照の一言に二人がほぼ同時に地面を蹴り、一気に至近距離に持ち込む。そのまま宙に浮き、札をばらまいて相手に突撃させる。本人たちはそれを避けながら、相手に向けて直線的な強力な霊力を込めた札を当てあう。それを見ていた亮介は一つ疑問に思った点を諏訪子にぶつける。
「おい、諏訪子。あの台与ってやつ、神力使ってないか?」
「うん、二割に満たないけど使ってるね」
神力は簡単に言えば、霊力の上位互換に近い。神力は霊力に比べて強大であるのはもちろん、形を変えやすいという点がある。霊力が神力にかなうのは創りやすいことと米康子とである。
「ふふふ、卑弥呼さん、あなたでは私にはかないませんのです。早めに負けを認めることをおすすめするのです」
「そんなことしません!!」
台与がかけた言葉に反論する卑弥呼。そして、瞬間にできた隙を狙い、打ち込もうとしたその時。
「!?」
地面にあった植物が異常成長して卑弥呼を弾き飛ばした。台与はその隙をわざと作ったように見えるような、自信に満ちた態度ををとる。
「私の能力は『自然を味方とする程度の能力』です。あなたがどんな能力であろうと無駄なのです」
台与が語った能力は卑弥呼の能力と相反する。相反する能力はその影響力が強いほうが相手の能力を打ち消す。神力すら持つ台与に霊力のみしか持たぬ卑弥呼が勝てる道理はなかった。
「……どうするよ、諏訪子?」
「私は、あの子の行く末を見守るよ。今はそれしかできないから……」
亮介もいつものようなへらへらした顔はしていなかった。戦う時に時折見せる真剣な顔。それを出すのは哀れみか、はたまた期待の心か。
「あきらめなければ、活路は開けます。私はそれを信じます」
「無駄な期待なのです。すぐに地に突っ伏すのです」
そこからは一方的な戦いとなった。台与は神力を惜しみなく使い、卑弥呼をつぶそうと襲いかかってくる。卑弥呼はそれをしのぐのに精いっぱいになり反撃ができず、徐々にダメージを受けていく。傷が出来、血が噴き出し、打撲の紫色のあざが浮かび上がり、指が折れ、脚首は変に曲がり、少したった彼女の体は立っていられるような状態ですらなかった。
「ウプ……グフッ、ケホッ」
「いい加減あきらめるのです。もう勝ち目など皆無なのです」
地に膝をつき、口から血を出し、苦渋に悶える卑弥呼に対して、台与はほぼ傷一つないからだと顔から満面の笑みを浮かべていた。大和側は微笑を浮かべ、諏訪側は顔をゆがませる。
「そう、……ですね……」
ふらふらになりながらも立ち上がる。その様子を諏訪子は涙を浮かべながら見ていたが、一番泣きたいはずの彼女は満面の笑みすら浮かべ、台与に対してこう言い放つ。
「さすがです……。心からその強さ尊敬します……。ですから、喜んで……敗北致します」
その言葉が終ると同時に、卑弥呼が倒れ、台与に雷が落ちた。ひとつ確認するが、今は……晴天の空が見渡す限り広がっているのである。その場にいた全員が表情を驚愕で固める。
「くぁあ……。なに、が、起きた、のです……?」
全身が黒こげになり、もだえる台与。自然を味方にできる彼女にとって、自分自身に雷が落ちるなど思ってもみなかっただろう。
「まさか……、最後の最後で台与の能力を上回ったのか……」
月読の一言に諏訪子、そして天照がそれぞれの国の巫女に駆け寄る。それぞれが重傷を負っていて、それぞれが治療を開始していたとき、須佐ノ男が亮介に向けてしゃべりだす。
「俺らの一勝でいいよな? 弐回戦始めようぜ」
「おう」
亮介がゆっくり立ち上がる。しかし、諏訪湖に袖をつかまれて途中で止まる。
「どうした?」
「決して無理しないでね……。亮介までこんなことにはならないでね……」
卑弥呼を抱えながら、諏訪子は涙声で話す。そんな諏訪子に亮介は満面の笑みを向け、言う。
「涙拭いとけ。大将はどっしり構えときゃいいんだ。神としての威厳がねえぞ?」
その一言を聞き、彼女は涙をふき、真剣そのものの顔になった。そこへ少しだけ風が吹いた。諏訪子の髪をたなびかせ、神としての彼女の顔を一瞬見せる。
「うん、そうだね。行ってきて。そして勝ってきて」
「おう」
亮介は黒色の尻尾をたなびかせ、戦場に立つ。その行動を見た須佐ノ男が後ろの人物に声をかける。巫女二人の戦いを見向きもせず、声すら上げなかったローブの男がゆっくりと立ち上がり、亮介の前に立つ。
「お前が俺の相手か? 見たところあんま強そうじゃないが」
亮介の余裕そうな一言にローブの人物は体を震わせる。しかし、それは恐怖ではなく、笑いから来るものだと彼はすぐに気付く。
「いつも道理そうだな、亮介。改めて安心したぜ」
その一言を聞いた瞬間、亮介の顔が面白い顔をして固まる。
「え……、まさか……」
「お前の考えなしはかわらないらしいな。まぁ、それがお前のいいところだが」
ローブを脱いだ人物は紫銀色の髪を持つ男。銀色の特徴的な剣を持つ男。亮介が最も信頼を置く男。
「きょ、きょ、響!?」
「よぉ、数億年ぶり、か? 亮介」