大和の国と諏訪の国の間にある巨大な草原が半分消滅し、大和側の下級神たちがなんとか直そうと神力を振り絞っているときに諏訪の国にて……。
「……知らない天井だ」
亮介は一枚の布団の上で眼を覚ましていた。周りが畳で敷き詰められていることや障子があることなどからここが居間であることが分かった。体を起き上がらせようとするが体が言うことを聞かず、起き上がることすらままらなかった。
「お前は知ってる天井じゃないのか?」
亮介は自分から見て右から聞こえてきた声に反応して顔を右に向ける。そこには壁にもたれかかりながら剣の切れ味を見ている包帯だらけの響の姿だった。そんな響がこちらを見ながら呆れたような表情を作る。
「響、いたのか」
「最初からここにいたよ」
少し笑いながら亮介を見る響。亮介も思わず笑ってしまうが、頬の筋肉が痛くてうまく笑えなかった。少し変化した妖力を感じ取ったのか数分もたたないうちに廊下からどたどたと音が聞こえてきた。
「亮介、起きたの!?」
「亮介さん!?」
ふすまを開けて跳びこんできたのは亮介や響ほどではないが包帯に巻かれた卑弥呼と諏訪子だった。
「お~き~た~ぜ~」
首だけを起こして二人を見る。そんな亮介の顔を見て、涙目の二人は笑みを作る。そんなドタバタを聞きつけたのか天照や月読などの大和衆も居間に入ってきた。
「起きましたか、響」
「亮介が起きる少し前にな」
少しだけ皆で雑談をした後に、天照が今回の戦争について全く理解していない二人に対して諏訪子と神奈子の戦いで神奈子が勝ったということと響達が起きてから交渉の件をすると決めたことを話した。
「負けちまったのか……」
「うん、ごめんね、亮介が頑張ってくれたのに……」
亮介が諏訪子に顔を向けると、彼女は悲しそうな表情をして謝罪をする。そんな諏訪子に対して頭の上に手を置いて「気に済んな」と言葉をかける。その瞬間完全に泣きだし、亮介に泣きついた。亮介は傷のせいかなかなかつらそうだったが天照たちに話を続けてほしいと顔を向ける。
「コホン、では戦いの交渉をいたします。諏訪大国はこれから大和の国の管理下に置くということでよろしいですね?」
天照が諏訪子に問いかけると亮介に泣きついたまま首を縦に振る。同意と受け取った月読がさらに口を開く。
「じゃあ、洩矢 諏訪子。あなたの信仰を大和側に献上してもらうがいいか?」
「!! ちょっと待て。それは諏訪子に死ねっていうわけか!?」
亮介には珍しく完全に理解したらしく月読に対してその言葉の真意を問う。亮介の必死の言葉に月読は何を言っているのかという表情を作る。
「君が言ったんじゃないか。
月読の言っていることは正論ととらえたのか亮介は何も言えなくなる。亮介の隣にいる卑弥呼は絶望の表情と言っていいだろう。諏訪子はそんな二人に涙を残す顔で笑いかける。
「いいんだよ、分かってたことだし。最後に二人の顔を見れてよかったよ。ありがとね……亮介、卑弥呼……」
その言葉に卑弥呼も泣きつきしばらく鳴き声が響き渡った。彼女が落ち着いた後、諏訪子は大和側の神たちに顔を向けて決意の覚悟を見せた。のだが、
「そのことについてなんだが、……たぶん無理だぞ?」
響ののんきな一言に全員の表情が固まる。そしてまるで機械人形の動きのようにぎこちない動きで全員が響を見る。そんな全員の表情に響は頬を掻きながら、
「いやさ、諏訪子さんは祟り神だろ? それなら簡単に民たちが信仰を変えることなんてないだろうし、信仰を献上するにしても土地神でもある彼女を消してしまえば少なからず影響はでる。まずなにより……」
少し間をおいて決定打を打つように最後の言葉を放つ。
「大和の国の人物に諏訪大国の全権代理者を決めてないじゃないか」
「……どういうことだい、響?」
理解が追いつかないのか表情を固めたまま月読が響に尋ねる。彼はその質問を自信満々の顔で答える。
「亮介はあくまで〝管理下に置く″としか言ってない。だから大和の国全ての神の配下になるとは言ってないと捉えることはできるだろ。配下に置くってことは諏訪大国を代表して管理する人物は最低限いるんだよ。一番重要なのは全権代理者であるその人物を選ぶ権利は諏訪大国側にあるっていうことだなこれが」
「た、確かに……」
大和の国でも政治の一部を管理していた神奈子が納得する。政治に詳しくない亮介、卑弥呼、台与、須佐ノ男はわかってないようだが他のメンバーは半分以上は理解していた。
「じゃあ、諏訪子さん。あなたには大和の国の人物の中に諏訪大国の全権代理者を選ぶ権利がある。まぁ、すぐにとは言いませんが選んでいただけますか?」
響の一言を理解するのにたっぷり数十秒を使い理解が追いついた諏訪子は少しだけあたふたした後、亮介に助言を求めた。
「ど、どう、する?」
「えっと……、俺は響がいいと思う。あいつは俺と違って知識量がめっちゃ多いし、そういう頭使うことに対してはあいつ以上の適応者はいないだろうし」
亮介が言ったことは正論だろうが諏訪子は少し考えた。響本人が完全にあちら側だった場合、結局最悪なのは自分たち。他の人物を選んでも天照以外にまともな立場をくれることはないだろう。亮介を信じるか、自分を信じるか。彼女はすぐに決めた。
「北川 響、あんたを諏訪大国の全権代理者として認めるよ」
あまりにあっけなかったのか響は少しばかり気の抜けた表情をした後、すぐに先ほどの自信に満ちた表情へと戻る。
「りょーかい、それじゃすぐにでも政策を始めるとするか」
手のひらを打ち合わせさらに伸びをする。
「まず一個目に諏訪大国は大和の国の干渉を一切受けず政治する権利を諏訪子さんに与える。こうすれば大和の国の神たちに不当な交渉をされない。二個目、諏訪大国は毎年の個人の収穫高の五分を大和の国に献上する。結果、大和の国は得をしても諏訪大国は現在の状況を保てる。三個目は……」
少し考えるようなそぶりを見せた後、神奈子に顔を向けてあることを問う。
「神奈子、お前土地の管理者はやってたがちゃんとした土地神じゃあなかったよな?」
「え? あぁ、そこからの信仰でやってるが……」
「それならお前を諏訪大国の全権代理者代理管理者にさせてもらう。そして諏訪子さんの信仰の二割を神奈子に献上すれば、諏訪大国は大和の国に反乱できない。……っと、こんなもんか」
あまりにあっけなく二つの国の上下関係がほとんどなくなってしまったことに亮介は大きく笑いだした。そして、諏訪大国のメンバーは微笑を浮かべ始めた。
「あまりにあっけねぇなぁ、おい」
須佐ノ男はあまりのあっけなさに表情を変えずに言葉を絞り出す。響はそんな須佐ノ男を見て月読に話しかける。
「月読、宴会のよういはできてるよな?」
「……ん? あぁ、出来てるよ」
「じゃ、神は全員呼べ。宴会始めるぞ!!」
○
諏訪大国の巨大な広場にて宴会が始まって半日近くがたち、真夜中に輝く星たちが大量に空に浮いているころ……。
現在、ほとんどの神たちが酔い潰れて残っているのは響、亮介、諏訪子、神奈子となっていた。後者二人は結構酔っているが、前者二人はほろ酔いといった様子だった。ちなみに響と亮介の傷は『
「酔うの早すぎないか? 二人とも」
「あんたぁらぁ強ぉすぎ……」
周りには響の持っていた月の都時代に響の鏡の中で数億年熟成していた酒の樽が転がっている。あまりに長い間熟成していた酒はとてつもなく濃厚で、なんとアルコールは異常中の異常の200%である。そんな酒を飲んでほろ酔い状態の響と亮介も異常だが、酔っていても倒れていない諏訪子と神奈子も十分だと思われる。
「それにぃしても響さぁ……こんなおいしい酒をぉどこで手に入れたのさぁ?」
なかなかにろれつの回らない感じで諏訪子が響に尋ねる。
「月の都の酒さ。長いこと熟成させてたからな。すごいうまいだろ、諏訪子?」
酔った勢いからか響を呼び捨てにしているので響の方も諏訪子を呼び捨てにしている。亮介も神奈子もその光景を見て笑っている。そんな中神奈子が響に視線を向けると、
「響? どうしたそんな顔して……」
響の少し物思いに老けたような顔をみて、心配になり尋ねた。もちろん普通に心配しているだけなのだが……ここで茶々を入れたくなるのが亮介である。
「どうしたよ、神奈子。響に思いでも寄せてんのか?」
そんな亮介の完全にからかう言葉を真に受け、酔っていて赤かった顔をさらに真っ赤にして亮介を風でぶっ飛ばす。響の方に飛んできて、響が顔をのぞきこむとしてやったり顔をしていた。
「何してんだお前……」
「楽しそうだったから」
亮介はグッと親指を立てる。そんな様子を見てため息をつく響。外部から見れば奇妙な関係だとも思われる二人の関係。だが、諏訪子から見ても神奈子から見ても完璧に信頼し合っていることが分かる。目の中には疑いの念を一切持っていないのだから。
「んでさ、お前があんな表情してたのはなんでだ?」
「ひとつ決めたことがあってな。……次の朝、ここを発つ」
「「……はい?」」「マジで?」
「もともと大和の国にいたのは亮介の現在地を知りたかったから。お前がいたことが分かった以上ここにいる必要もない。それに風の噂で聞いた行きたいところがあるからな」
言い終わるやいなや樽から直接巨大な盃に酒を酌んで飲み干す。プハァッと勢い良く息を吐き、唇を舐める。
「そこで聞いておきたい。亮介、お前はどうする? ついてくるのでもここに残るのでもかまわない」
響が盃にさらに酒を酌みながら亮介に問う。神奈子はそんな響に文句を言っているのか意見を言っているのかは分からないが猛然と怒鳴り付け始めた。キョトンとしている響を亮介は見ながら近寄ってきた諏訪子を見直す。
「りょうすけぇ、行っちゃうのぉ……?」
薄く涙を浮かべて亮介に泣きつくような形になっている諏訪子を見て、少し満足になっている自分を抑えながら亮介は答えを言う。
「……行くことにするよ。あいつがああいうなら」
諏訪子はそっかと呟いて亮介の胸に顔をうずめる。そのあと顔をあげて満面の笑みを浮かべた諏訪子にギョッとなる亮介に対して囁くように言った。
「たまには帰ってきてね。卑弥呼もそう思うだろうから」
「もちのろん」
その返事を聞いた諏訪子はさらに笑った。
テスト四回連続とかふざけてんですかねぇ。
では、また。