東方雲狼劇   作:鏡狼 嵐星

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仙、尸解、丹

「では、まず仙術を身につける上で知ってもらっておきたい事を教えますよ?」

 

一通りゴタゴタが終わった後、青娥が仙術について知っておかなければならないことを教えることになった。長机が二脚、前後に並び、前には神子と屠自古と布都が座り、後ろには響と亮介が座っている。

 

「最初に、仙術には段階が七つあって、出来る数が多いほど高い能力を持っていることになるわ。簡単な方から、気膜、体術、方術、道術、遠隔力場、気殻、具現化。最低でも最初の三つはできないと話にならないわ」

 

彼女の説明をまとめると、生物の体を覆う〝生〟の膜を気膜と呼び、それを自在に大きさや強さを変えれるようになることが第一段階。気を練り上げられるようになり、それを動くときに完全に操れるようになるのが第二段階の目標。仙人になるのに最も難易度が高いのが『方術』で、特別な道具を使ったりして気を違う力に変換し、それを使用して力場と言う名の結界を張る。この結界は簡単に言うなら蓋であるらしく、気というエネルギーは常に体から放出されているため、仙術を普通の状態で使うと気の消費が多くなるから、力場を作り、気のエネルギーの放出を抑えるのだそうだ。

 

「ここまでいいかしら?」

 

机に突っ伏して、頭から煙を上げている黒髪の少年以外はうなずく。

 

「じゃあ、次はあなたたちがやることを説明するわ。仙人になるのに必要なことを端的にまとめるなら、重要なのは呼吸と集中力よ。呼吸による精神と体の安定が気を操る力となり、集中力は気を操る力を安定させる。だからこれからしばらくはその二つを鍛錬するわ」

 

神子はつかの間の休憩にお茶を口に含む。屠自子は今まで聞いた事からの質問を尋ねる。

 

「集中力はともかく、呼吸に関してはどんな修行法はするんだ?」

 

ん~と考えるようなそぶりを見せた後、ニヤッと笑顔を見せて答える。

 

「そうですね~、手っ取り早い方法なら房中術とか?」

 

「ブホォッ!?」

 

神子が口の中のお茶を吐きだし、青娥に少しかかる。元からハンカチのような布で型をふいた後、顔を伏せて震えている神子に話しかける。

 

「どうされたのですか~? 神子さん?」

 

「場所をわきまえてください!! 何を考えているんですか、あなたは!?」

 

机に手を叩きつけ、騒ぐ。それもそうだろう。普通の神経なら、男女が関わり呼吸を促進する方法をいきなりするかと言われたらびっくりするだろう。そんな中、布都は訳が分からないという顔をして、亮介は頭から煙をまだ出しており、響はそんな彼の上に氷の塊を置いていた。

 

「房中術なんて効果あるのか?」

 

「どんな術なのじゃ、それは?」

 

「お前らにゃ一生わかんねぇよ。特に響は」

 

響と布都は納得がいかないという顔をしている。青娥は上品ながらも大きく笑い、神子は頬を紅潮させたままになっていた。

 

「……私の質問は?」

 

屠自子は苦労人になりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○ その後……、

 

法隆塔の一室。畳を基調とした大きな部屋に三人が座禅をし、集中力を磨こうとしている。開けられた襖から風が流れてきて女性陣の髪を揺らす。その風に乗せられて飛んできた一枚の花弁が布都の鼻の近くを通る。かすかにこそぐられた様な感覚が鼻を突き抜け、布都は大きくくしゃみをする。その彼女を青娥が、持っていた棒で叩く。

 

「痛ッ!?」

 

「ほら、集中力を乱してはいけません。たとえどんなことがあっても」

 

肩に一撃をくらい、悶絶する。

 

「まぁ、数時間集中出来るだけマシですけど……。休憩しましょうか」

 

全員が一気に力を抜く。肩を回し、深呼吸をする。

 

「つらいですね。集中力だけでここまでとは……」

 

神子の言葉に青娥があら、まだ序の口にも達してませんわよ、と言ったものだから布都が大きく沈んだ。

 

「そういえば、響と亮介は?」

 

三人だけが一室に呼ばれ、二人は他の部屋に呼ばれたのだ。響本人は知識だけでいいと言っていたのだが、亮介がやってみたいと言い出したので二人でやることになった。

 

「あぁ……、先ほど見に言ったのですけど、さすがとしか言いようがない状態でした」

 

彼女の説明では、あまりの集中力に開け放っていた扉から鳥すら入りこんでいたというのだ。ふすまを開けても一切動じることなく、二人は集中し続けていた。青娥ですら感嘆するレベルなら相当のものだということが聞き取れた。改めて彼らの強大さが見て取れた。

 

「最強の妖怪、か……」

 

屠自古が爪を噛んだ。彼女は最初に彼らの戦いを見たときから普通という定義には収まらないと感じていた。それがある邪仙の訪問により、覆った。本当の異常のなのだという確信に。

 

「……」

 

屠自子の様子を見た神子は心配になっていた。彼らに近くいた人物で彼らのことを最も認めていない彼女は、神子自身のことを最も心配してくれている事は神子自身が最も分かっていた。

 

「どうしたのだ、屠自古? いつもの馬鹿顔がさらに馬鹿みたいになっているぞ?」

 

「ッ、何だとこの野郎ッ!?」

 

布都が屠自子の顔をのぞきこみ、馬鹿にした笑みのようなものを浮かべながら罵る。屠自古がその挑発に乗ろうとした時、

 

「青娥は入るか?」

 

響が入り込んできた。その響に視線を向けられた瞬間、屠自子は舌打ちをして、もう一つの出入り口から部屋から出て行った。響は少なからず表情を歪めたがすぐに戻す。

 

「はい、ここにおりますわ。どうされたので?」

 

「神子たちの様子がどうか気になってな」

 

響の後ろから亮介が顔を出す。二人は部屋に入り、胡坐をかいて座る。

 

「簡単に申し上げると仙人になれる可能性は低くありません」

 

神子と布都は少なからず安堵の表情を見せる。しかし、青娥は表情を曇らせて話す。

 

「しかし、今での判定ではおそらく三十年はかかるでしょう」

 

「さんじゅう!?」

 

布都が間抜けな声を出す。神子も顎に手を置き、いい顔を浮かべない。

 

「一般的な仙術の方法ではおそらく寿命の中には間に合わないでしょう。仙食や私の仙具もほんの少ししか助けになりません」

 

全員が沈黙。響だけは手の上に顎置き、上の空に近いような状態だったが。

 

「そこで聞いておきたいのですが、あなた方はどういう手段でも、どんな状態でも仙人になれればいいのですか?」

 

神子は何の迷いもなくうなずく。布都は神子のうなずきを見て、我もじゃとうなずく。

 

「では、危険ですが確実な方法をご紹介します」

 

彼女は頭から簪を向くと地面に円を描く。黒く穴があいた所に一つの入れ物を取り出す。そしてそれを目の前に置く。

 

「……!! それは……、いや、たしかにそれなら……」

 

響がその入れ物の中に入っている物を見たとき、目を見開き、自問自答した。

 

「響、この中に入っているのいったい何なんだ?」

 

亮介の問いにため息をつきながら答える。ただし、今回のため息は亮介に対してではなかった。

 

「仙人には、天仙、地仙が有名だがここまで達してるのは本当の天才だ。一般的に目指すなら尸解仙だ。自分が死んだあと、肉体を尸解させて、仙人になる方法を使う。尸解ってのは肉体を残したまま魂を体外に出すこと。この術を使うには肉体をある意味で腐らせる必要がある。仙食で限界まで気を練る方法は恐ろしく時間がかかるが、こいつを使えば圧倒的なスピードで条件を満たせる。この丹、水銀を使えばな」

 

液体の金属。世界でも五本の指に入るほどの密度。そして、強すぎる毒性を持つ。かつて秦と言う国を造り上げ、万里の長城を製作した始皇帝を不老不死にすることなく死に至らしめた毒物。それが青娥の出した入れ物の中にあった。

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