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町から離れた場所に位置つる森の一角に建つ、ホテルのような巨大な建物。〝コ〟のような形で中心に庭が存在し、中心の上部には大きな時計の羅針盤が設置されている綺麗に左右対称的な、森の中でも際立つ真紅の屋敷。もうおわかりだろう、ここはスカーレット家のお屋敷である。
その屋上に位置する場所に、紅茶と三段のティースタンドのそれぞれの皿にに欧州風のお菓子が乗った丸い小さなテーブルの周りに、それぞれのいすに座り込む四人の人物。二人は言わずもがな、響と亮介。そして、この館の現、主であるグラン・スカーレット。その友人ミニーア・フェルナンデスである。
「こうも早くスカーレット卿に会えるとは思ってなかったな……、あっ、この紅茶うまい」
微笑しながら紅茶が入ったティーカップを口に運び、その美味しさに素直に感想を言う響。
「でしょ! グランの入れる紅茶は天下逸品なのよ」
まるで自分のことのように表情を明るくして嬉しがるミニーア。
「いや、そんなことないよ……」
頬を赤く染めながら、両手の人差し指をあててもじもじするグラン。
「んぐんぐ……はぐはぐ……」
スコーンを口いっぱいに詰め込み、口を動かすだけの亮介。
端から見れば平和な一面である。しかし、先ほどの出来事から少し関係ができただけなのである。そのことをないがしろして話際は早々出来ないのだ。
「それじゃ聞いてもいいかしら。なぜスカーレットの名を持つ吸血鬼に会いに来たの? 他にも強い吸血鬼入るのに」
両肘を机に置き、両手で自分の顔を覆うようにして響に対してミニーアが質問を開始する。
「俺たちは東洋から来たんだが、その時聞いたんだ。スカーレットの吸血鬼の噂を、な」
「そんな単純な理由で?」
疑惑の目を強くしたミニーアに対して、何の反応を見せることもなく答えを述べる。
「まぁ、それだけじゃないが……。しいていうと、吸血鬼に興味があったことと今の個々の技術や文化を見たかったからだな」
「ふ~ん」
張りつめた空気に反応したのかグランが少しだけ肩を震わせる。そして、おずおずと手を上げると口を開いた。
「あの、響さんたちはどこから来たどんな妖怪なんですか?」
「東洋。俺は吸血鬼ではなく雲外鏡と言う鏡の妖怪。んで、亮介は狼男。ちなみに個人名も持ってるぜ」
グランは目を少し細めた後、もう一度笑顔に戻り、質問を繰り返す。
「どれくらい生きてるんですか?」
「ん~、正式に数えてはないが億はたってるはず」
さすがの二人も椅子から崩れ落ちかけた。
「そんなわけないでしょっ!! そんなに歳くってるなら、もっと妖力は高いはずよ!!」
「普段は隠しているだけだし、本気出したらここら一帯なくなるぞ?」
正論を真正面からたたきつけられたミニーアは口を閉じる。しかし、グランはそのことに言及はしなかった。
「じゃ、最後に。あなた方は私達の敵なんですか? 味方なんですか?」
「……敵じゃない。バルバトス兄弟みたいなやつが俺たちは嫌いなだけさ」
グランは少しの間、響を見つめた後、そうですかと納得して質問をやめた。響はいつになく顔の表情を緩ませていた。
「それじゃあ、こっちから質問だ。グランさん、あなたが妖力を使わない、いや
椅子に深く座り込み、あの一件で響が最も疑問に思ったことを口にする。あの一件ではグランは一切、
「グランでいいよ。響さんの言った通り、僕は妖力を使えない。それは僕が拒力症にかかってるからなんだ」
「拒力症!? あんた妖怪、しかも吸血鬼だろ?」
グランの言った〝拒力症〟というワードに過剰反応する響。その言葉を知らない亮介はそれを聞かざるを得ない。
「拒力症ってなんだ?」
「自らの力が自分を拒絶する。簡単にいえば霊力や妖力がまったく使えなくなる病気だ。俺は人間でしか例を聞いたことがない。妖怪にとって妖力が出ないのは致命傷どころか生命維持すら困難になるはずだ」
「理論所はそうだけど、実際に僕は生きてるからね」
グランの苦笑いするその姿は少し疲れたようだった。
「ほんじゃ、落ちこぼれって言われてたのは……」
亮介の顔を苦笑いした顔のまま見る。質問した本人はまたお菓子を食べ始めた。
「スカーレット家はここの最大の権力を持つ
全員がほぼ同じタイミングで紅茶をすする。グランが一気に紅茶を飲み干し、立ち上がる。
「お世話になったことは確かだからね。今日はうちに泊まっていってよ。部屋は用意するから」
「おおう!? 泊ってっていいのか?」
「うん、ゆっくりしていって」
よっしゃーと拳を上げる亮介に少し、呆れる息を吐きながら、響はお礼、そして彼の言いたい事を言った。
「ありがとう。泊めてくれること感謝するよ。あと、うれしいぜ、同族にあえてな」
「ふふっ、響さんほどじゃないよ」
三人で家の中へ進もうとした時、制止する声が聞こえる。
「響。もう少し話したいんだけどいい? 二人で」
「……グラン、先に亮介を連れてってやってくれ」
グランはちょっとムスッとしたがすぐに了承し、亮介と共に屋敷の中に入っていく。その間にミニーアは自分のティーカップと響のティーカップに紅茶を入れる。二人はイスに座りなおし、会話を始める。
「あなたの言うことはやっぱり信じられない。グランが何も言わなかったから追求はしないけど、本当の目的は?」
響はミニーアの様子に少しばかりため息をついた後、たくらむような笑顔に表情を変えた。その瞬間、周りの雰囲気が一気に変わる。ミニーアは思わず唾を飲んでしまう。
「あんたはどちらかと言うと亮介に似た体質なんだな」
「は? どういうことよ?」
「この世には二種類の人間がいる。勘を信じる奴と頭を信じる奴。だが、ほとんどが勘を信じてるやつが多い。いわゆる何となく出行動する奴。あんたはその一人だ」
響の言っていることの意図をくみ取れず、頭を悩ませるミニーア。
「俺は自分で言うのもなんだが、後者だと思ってる。そして、グランもそうだろう。ミニーアさん、俺とグランの質問内容を覚えるか?」
「ミニーアでかまわないわ。えっと、グランからは『あなたたちがどんな妖怪か、いくつか、敵かどうか』で響からは『グランが妖力を出せない理由』だったわ」
「俺はグランの質問の一つ目に『雲外鏡』と名乗ったのに『固有名がある』とわざわざ言ったのはなんでだと思う?」
「……グランに信用させるため?」
「それが五割。そして、残り五割は
明らかに何故と言う顔をして響の方を向くミニーアに紅茶をすすりながら話した。
「俺が答えた最初のミニーアの質問。あれは完全な嘘じゃないが嘘をついた。後半は後付けの理由で、本心じゃない嘘だ。それで俺はグランの反応を伺った」
響が飲みきった紅茶のティーカップを机の上に置く。
「俺の嘘に反応したグランはミニーアに他の質問をさせないために、質問を続けた」
「ちょっと待って!! グランはなんで響の質問が嘘だって分かったの!?」
「俺らが出会ったとき、あんたらは俺を吸血鬼だと思ったはずだ。そんな奴が堂々と『吸血鬼に興味があった』なんて言ったらおかしいだろ」
「そうだけどッ、それは次の質問であなたが正体をばらしたじゃない!!」
机に手を叩きつける衝撃で倒れそうになったティーカップを響が支える。
「その正体が本当という証拠がない。技術や文化を見るためと言うのも、もし俺がグランなら、相手が自分と同じ頭を使うなら下調べをしないはずがないと思えばそれで終わりだ」
ミニーアは自分が怒ったのか、呆れたのか、分からないのか、それすら分からなくなってきた。
「ここで俺とグランは自分たちが同類だと気付いた。これなら嘘は極力使ないほうがいい。相手に弱みを握られちまう」
続けて、
「『どれくらい生きているか』。これは相手の実力を測るためだ。ここでグランはミニーアでも俺らには勝てないと判断したはずだ。『敵かどうか』。これには俺は敵じゃないと言った。だが、イコール味方じゃない。あくまで敵対しないってことだけしか俺はグランに保証はしてない」
最後に、
「俺の質問はグラン本人が力を隠しているかどうかを確認するために言った質問。これは特に意味はなかったが。最後はグランの提案だ。あれはミニーア、あんたに被害がほとんど出ないようにするため。と、まぁ、こんなところか」
ティースタンドからクッキーを一枚とると口にくわえる。
「んで、本当の理由が聞きたいんだったな。ほんとうの俺の目的はスカーレット家のある権利をもらうためだ」
「ある、権利……?」
「これ以上はしゃべるわけにはいかないな。グランに利用されかねない。俺も寝させてもらおうかな?」
椅子から立ち上がり、中央の庭の道を歩いていく。ミニーアにはとても恐ろしく、だがすぐ近くにいた少年に似た雰囲気を持っていたように感じた。