ミニーア視点で書いてみたッす。
私はグランの屋敷から自分の屋敷への帰路についていた。私の家はグランの家からそんなに遠くはなく、全力で飛行すれば数分とも立たない距離しかなかった。ここまで家が近かったことがグランと私が仲良くなった要因の一つでもあった。
「グラン……」
今日、あった出来事を思い出す。いつものようにグランの家を訪ねると、メイドの一人が、買い物から帰ってきていないと少しそわそわした様子で言った。私は嫌な予感がして、町に向かった。あたってほしくない予感が当たり、グランはバラム、ブエルにいたぶられていた。もちろん止めに入ったが、二人とも個人で私と張り合えるレベルの実力を持っている。勝機が薄いのは分かっていたが、やるしかなかった。しかし、そこに乱入者が現れた。
「響に亮介、か……」
最初に来た黒狼の妖怪、亮介。彼は、バルバトス兄弟の使い魔であるペントゥ、サートゥを片手で同時に叩きのめした。使い魔は従える人物の実力が大きいほど強くなる。つまり、ペントゥもサートゥもそうそうやられるような実力じゃない。それを一撃で沈めた亮介の実力は私よりも圧倒的に上。さらに警戒すべきなのは雲外鏡と呼ばれる妖怪である、響。さっきの一件で彼の頭の良さは私の理解できる領域を超えていることが分かった。今まででグランの頭の良さに驚いたことは何度もあった。だが、グランと同じかそれ以上の頭の良さを持つ人物が、グランと知識勝負をいている所なんて私は見たことがなかった。
「あっ、お嬢様!?」
その声に、うつむかせていた顔を上げる。そこにいたのはあわてた様子のオレンジ色のチャイナドレスを身にマットた赤いショートヘアーの女性。
「
「どうした、じゃありませんよ!! グラン様のお宅を訪ねると言っていながら、町で騒動を起こしたそうですね!? 何をされてるんですか!?」
あわてた様子の彼女の名前は
「グランがまたいじめられてたの。『ダーインスグレイヴ』も使ったわ」
「あれを使ったのですか!? お嬢様の魔力でも、あれは手に余ります!!」
「わかってるわ」
『ダーインスグレイヴ』は血を求める剣。召喚すれば、その時間の分だけその場にある血を食らって消えていく。さっきは誰も血を流さなかったため、私の血を食らって消えた。けど、私は吸血鬼だから血はいくらでも補給できる。
「四王貴族 フェルナンデス家の跡取りに傷ついてもらっては困りますからね」
「何度聞いたか分からないわ、その言葉」
私達はゆっくり歩いて、自分の家に向かった。
○
四王貴族 フェルナンデス家。四王貴族の中で最も新米の吸血鬼一家。私はその家に唯一の跡取りとして生まれた。別に父親や母親が完璧主義だったわけではなかったので、両親には何不自由なく育ててもらったが、幼いころの私は妖力の扱い方に対しての才能が全くといていいほどなかった。そのせいで私は同じ四王貴族や十二将貴族に差別の目を向けられた。そのことに対して、両親は気にすることはないと慰めてくれた。だが、私はそんな両親に心配をかけられない気持ちと迷惑はかけられない気持ち、周りからの恐怖を押し殺そうと近くの森でいつも一人で泣いていた。あるとき、声をかけてくれた人物がいた。
「だいじょーぶ?」
小さな赤色のハンカチを取り出した、小さなバッグを背中にしょった銀髪で赤い目の自分よりも小さな少年。近くの真紅の屋敷に住む、グラン・スカーレットだった。
「……何の用?」
「いや、うつむいて泣いてたからどうしたのかなって、思って」
「なにもないよっ!!」
私はすぐにでも一人になりたくて、その少年を追い返そうとした。すると、その少年は何を思ったのか、自分のバッグを下し、中から三脚のきれいな装飾を施されたケトルを取り出した。
「?」
そして水や茶葉、そして一すくいのジャムを入れ、火をおこし、ゆっくりと過熱する。鼻歌を奏でながらスプーンで鮮やかな赤茶色の中身を掻きまわし、二つのティーカップと小さな紙袋を取り出した。そして、ティーカップに、ケトルに着く蛇口のようなものから紅茶を流し込み、私に渡してこう言った。
「召し上がれ♪」
その紅茶の香りに思わず喉を鳴らしてしまうが、すぐに怒りを彼に見せつける。
「何のつもりッ!?」
「君が、今、どんな気持ちなのかは知らないけど、紅茶でも飲んでゆっくりしない? 落ち着くよ?」
何の悪気もなさそうに言う彼に、思わず口を閉じてしまうがまだ言い訳しようと口を開いたときに、紅茶の入ったティーカップを目の前に押し出される。
「とりあえず飲んでみてよ。まずかったらどんなに文句を言ってくれていいからさ」
「……いただきます」
私はその紅茶を受け取ると少し口に含んだ。わずかに入れられたジャムの酸味が、紅茶の甘くて苦い風味にとても合っていてすごくおいしかった。私はこの時からグランの紅茶に病みつきになってしまったのだと今でも思っている。
「……おいしい……すごく」
「えへへ、入れたかいがあるってものだよ~。クッキー食べる?」
「うん」
彼は持っていた紙袋を広げて、私に見せた。その中には大量のクッキーがあった。すごくいいにおいが漂ってきたため、思わずお腹が鳴り、私は顔を紅潮させた。
「どれだけ食べてもいいよ、えっと、名前なんだっけ?」
「ミニーア。ミニーア・フェルナンデスよ」
「僕はグラン・スカーレットだよ。よろしくね、ミニーアちゃん」
○
グランと会った後に彼のことについて、お父様に聞いたところ、なかなか不思議な少年だという。私と同じで十二将貴族 スカーレット家唯一の跡取り。他者を寄せ付けないほどの頭の回転の良さをしていて、頭脳勝負で勝てるものは今のところいないと言われている。が、妖力が全く出なくなる拒力症を患っており、二重の意味で一目置かれている存在だとお父様は私に話した。
私は頻繁、ではないペースだったがグランに会いに行った。グランはどんな時でも私を歓迎してくれた。ある時、私はグランに気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、グラン?」
「なに?」
「グランも有名な貴族だからさ、跡取りとかいろんな問題があるじゃない? グランは拒力症だから妖力を扱えない。周りからの評価とか気にならない?」
私の質問に頭を掻きながら、長い間考えた後答えた。
「僕は周りの評価を気にしてると思う。頭の回転には自信があるけど、妖力を扱えないのは大きいからね。たぶん、今よりも周りからの評価を下げちゃう。けど……」
グランは紅茶を一口飲んでから空を見上げる。
「出来ないことをしても意味はない。僕はそう考えてるから、自分にできることをやっていくつもりだよ。まぁ、出来ることは動く限られてるけど」
まるで詩人のように、柔らかい雰囲気を纏いながらグランはつぶやいた。自分の言っていることになにも後悔も悩みもないように。そんなグランの様子を見ていたら聞かずにいられなくなった。
「グランは……私のことどう思う? 私は四王貴族だけど、人並みにしか妖力を使えない。頭もグランみたいに良いわけじゃない。こんな私をあなたはどう思う?」
ずっと聞きたかったこと。ずっと言いたかったこと。ずっと心の中に潜めていたこと。私ははじめて血の繋がっていない人物にそれをぶちまけた。私のことをずっと変わらない目で見てくれた少年に。
「別にどうも思わないよ? 僕はね、ミニーアはすごい吸血鬼になると思ってる。ミニーアみたいに他人に優しくできる人がさげすまれるだけなんてありえない。断言するよ!!」
グランは私の手を握り、輝いた目で言った。
「ミニーアは努力すれば絶っ対にすごい吸血鬼になる!! 僕はずっと待ってるよ、ミニーアが自分を誇れるようになるまで。ずっと支える、ミニーアが自分に自信が持てるようになるまで」
私はこの時、頬が紅潮していくのを感じていた。グランは変なことは一切考えていないことは眼を見て分かる。なのにグランは私の言ってほしかった言葉を何の躊躇もなく言ってくれた。そこに底知れぬ幸福感を感じたのをグランとの出会いで一番の思い出だと思っている。
○
とても長い歳月がたった。私はグランの期待にこたえるべく努力し続けた。とても時間がかかったが、妖力の使い方など様々なことをグランといっしょに学んだ。それにより、私は吸血鬼が契約できる武器の中で最上位に属する『ダーインスグレイヴ』と契約することができた。
私が『ダーインスグレイヴ』と契約できたことを聞いたほかの吸血鬼は、驚くべきスピードで手のひら返しをした。すっかり大人の姿になった私にいやらしい目を向けてくる男の吸血鬼も多かった。私はそんな奴らにへどが出るほど気持ち悪い気分になった。
「やぁ、ミニーア。元気?」
「ええ、グランは?」
「僕も」
グランはあった当初からほとんど成長していなかった。スカーレット家は育つのに普通の倍近い時間がかかるらしい。そのため、他の視点から見ると親子にしか見えないような感じらしい(お父様談)
私が一流になったことでいじめる相手がいなくなったバルバトス兄弟は、妖力を使えないグランを標的にし始めた。グランは努力をしていないわけじゃないのに、それを踏みにじるようなことをするその行為を私は許せなかった。だが、グランは何をされても何も言わなかった。なぜか問い詰めたことがあるが彼は怒る理由がないと言っただけだった。
グランがいたぶられる回数を数えるのも面倒になった頃、中心街で起きた公開処刑のようないたぶり。もう私は我慢の限界だった。『ダーインスグレイヴ』を顕現させ、決着をつける気だった。しかし、二人の東洋妖怪によって邪魔をされた。だが、助けられたことは確かだった。グランも彼らをすぐに信用したのか、家にまで泊めさせていた。私は気に入らなかった。また、グランに迷惑かけに来たやつだったと思った。……のちにわたしは知ることになる。この二人の妖怪が私達の運命を大きく変えることを。