東方雲狼劇   作:鏡狼 嵐星

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最後のグランのセリフが分かる人は居ますかね?
いや、結構いるかなぁ?


殺戮遊戯

「グラン、いるか?」

 

屋敷の中でも少しだけ大きく造られている扉の前に立って、扉をノックした。コンコンッと響きのいい音がなる。

 

「……何さ、響さん」

 

扉は開けられることなく、扉の奥から声がする。出来れば面と向かって話したかったか、今の状態なら仕方ない。

 

「俺と一つ交渉をしないか?」

 

「……どんな?」

 

消極的じゃないみたいだし、交渉の余地はある、か。十分だ。

 

「お前が、今一番欲しているであろう情報を提供する。そのかわり、俺のある技、いやある鏡の実験台になってほしい」

 

グランが口ごもったのが扉越しでもわかる。すると、扉が少し開く。その間からグランが顔を出す。

 

「情報の内容は?」

 

「俺たちとミニーアが分かれた後からミニーアの使い魔が来るまで」

 

「……とりあえず入って」

 

グランの部屋に入らせてもらう。部屋の内装はそんなに変な点はないが、一面真っ赤だった。昼間に見たら目が痛くなるだろうな。

 

「とりあえずどういうことか説明してくれないかな?」

 

俺はあの晩、ミニーアに仕掛けた技を説明するためにそれを召喚する。指先にあらわれたのは一匹の蝿。

 

「『鏡聴音蝿(マスクモルパァー)』。簡単に言うと盗聴する蝿だ。こいつをミニーアが出ていくときに髪にくっつけたんだ」

 

「それで盗聴してたの?」

 

「あぁ、そうだ。それで交渉するのかしないのか。はっきり言ってもらおうか」

 

「する」

 

間髪いれずに返事をするその様子は、落ち着きを払っていながらも強い気迫があった。こういう奴とやり取りするのはやっぱり楽しいな。

 

「それで響さん。あなたが言っていた〝あの鏡〟ってなんですか?」

 

俺はグランに話した。その鏡の名を。圧倒的力ゆえに俺の能力の範疇外にある異端児(イレギュラー)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリスは巨大な島国である。この時代のイギリスは北側を吸血鬼が、南側を人間が納めていた。その北側に存在する土地の中で、四王貴族や十二将貴族の多くは海岸に近い場所に存在する。その貴族の中で最も強大な力を持つ吸血鬼〝バルバトス家〟は切り立った崖の上に一国の城のような家を持っていた。

 

「……ハァ」

 

その家といえるかどうか定かではない建物の中のある一室で、ミニーアはため息をついていた。白いウエディングドレスを着たその姿は、十人中十人が振り返りそうな絶世の美女となっていた。金髪は白いウエディングドレスにアクセントとなっていて、彼女の細い体からは想像できないような大きな胸を窮屈そうに服に入れていた。

 

「中々さまになっているじゃないか、ミニーア?」

 

部屋の中にいたメイドが扉を開けた瞬間、華美すぎる部屋に男性の声が響く。黒いタキシードを着た茶髪の吸血鬼。

 

「なによ、バラム。まだ結婚式は始まらないでしょ?」

 

振り返らずに言うミニーアに不気味な薄笑いを浮かべてバラムは返事した。

 

「そう不貞腐れないでくれよ。美々(メイメイ)さんの意思を尊重したまでだよ?」

 

ミニーアに近づき、彼女の肩にバラムが触れようとした時、

 

「バラム様、バルバトス卿が呼んでいらっしゃいます」

 

一人の執事がバラムに耳打ちをする。バラムは表情を少し曇らせたが、執事の後をついていった。

 

ミニーアはまた窓を見る。まるで悪者にとらわれたお姫様のごとく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これよりバラム・バルバトス様とミニーア・フェルナンデス様の結婚式を始めます!」

 

人が百人入ってもまだ余裕がありそうな特大の部屋にいくつもの机が置かれ、そこに四王・十二将貴族はもちろん、人型、半人型の妖怪一切問わずに椅子に座っていた。ただ、唯一、スカーレット家の席だけがあいていた。司会の女性の言葉に全員が静かになる。

 

「では、最初にバルバトス家当主 パズズ・バルバトス卿からご挨拶があります」

 

普通の服よりも一層華美な服にマントをはおり、さながら高い位の悪魔を彷彿とさせた。

 

「えー、このたびは息子の式に集まっていただき…………」

 

そこから長々と自分の家や息子について語っている最中、バラムは隣にいるミニーアに耳打ちをする。

 

「君のお気に入りの落ちこぼれは来てないようだね。寂しいかい?」

 

「別に。あなたには関係のないことでしょ」

 

つれないなぁとバラムがつぶやく。しばらくしてパズズの話が終わった。

 

「では、誓いの口づけです!!」

 

バラムがミニーアを立ち上がらせて、口づけをしようとした瞬間に扉の外から騒ぎ声が聞こえる。

 

「何事だ!?」

 

「そ、外から侵入者が三名。一人はグラン・スカーレットと思われマッ!?」

 

扉の前にいた執事は両扉の巨門が開いたと同時に吹き飛ばされる。そこにいたのは

 

「なんだおちこぼれじゃないか。黒狼、それにキョウ。もう少し頭がいいと思っていたぞ、お前は」

 

普段と変わらぬ服装のグラン、執事服の響に亮介だった。

 

「自分の頭の良さより悪い人にそう言われるのは変な気分ですね。私は有利な方に着くだけですしね」

 

響は口を押さえ上品に笑う。亮介にいたっては話すら聞いておらず、これ動きずらいなーと独り言を言っている始末である。バラムは額に青筋を浮かべた。

 

「パズズ・バルバトス卿、バラム・バルバトス、ブエル・バルバトス。僕は君たちに用があってきた」

 

グランの一声により、全体が静まる。

 

「スカーレット家はバルバトス家に殺戮遊戯(キリングゲーム)を申し込む」

 

あたりが一斉にざわめく。殺戮遊戯(キリングゲーム)。それは相対した吸血鬼が行う、自らの力や権力を示して相手を服従させる、つまり殺し合いによる取引なのだ。

 

「何バカなこと言ってるの!! 今すぐ帰りなさい、グラン!!」

 

余りの必死さか、その言葉の恐怖か、顔が青ざめているミニーアの顔をグランはいつものような笑顔ではなく、無表情の顔で見た。

 

「約束を破った人にそんなことを言われたくないよ。それで、受けるの? バルバトス家」

 

指名された三人は笑いをこらえきれないのか、大きく口をあけて笑う。パズズのみがなんとか笑いをこらえ、返事をする。

 

「よかろう。受けて立つぞ、その挑戦。それで、内容は?」

 

「君たちにかけてもらうのはミニーアの身柄、君たちが持っているフェルナンデス家の権利、人材、物資全て。そして僕が賭けるのは……」

 

一拍置いて、

 

「スカーレット家全権利」

 

その場にいる響と亮介をのぞく全員が目を見開いた。吸血鬼にとって地位がなくなるほど不幸なこともない。いや、全員が思ったのは正確にはこっちだろう。たった一人の身柄に近いものにそこまで賭けるのかと。

 

「ムークックッ、馬鹿なのか、頭だけの落ちこぼれがついに頭まで馬鹿になったのか、これは傑作だね、兄さん」

 

「まったくだ。もう落ちこぼれの域を通り越して、吸血鬼と呼ぶのもおかしいぐらいだな!!」

 

バラム、ブエルの罵倒も一切気にしてないのか、表情を一切変えず、グランは横に立っている響に目配せをする。響はうなずくと前に出て、一礼をした。

 

「では、詳しいルール説明を。今回行うのは最も一般的(ポピュラー)な方法、将軍狩り(ジェネラルハント)とします」

 

将軍狩り(ジェネラルハント)。それぞれにリーダーを立て、それをどんな方法でも狩ったら勝ちのシンプルなルールである。

 

「スカーレット家からはグラン・スカーレット卿が、バルバトス家からはパズズ・バルバトス卿が将軍でよろしいですか?」

 

両方が頷いた。

 

「今回参加できるのはそれぞれの家の血統、眷族の身となりますのでフェルナンデス家は対象外となりますので、人質などの行為は反則とみなします」

 

これにはパズズは少し唸ったが、納得した。

 

「開始は真夜中、零時。その時に全体に響くように鐘の音を鳴らします。それが開始の合図となります」

 

言い終わると同時に、響が手に小さな鐘を出して鳴らした。これが開始の合図の音だと示すために。

 

「ここにいる皆様にはいったん家へ帰っていただきます。私の能力で中継いたしますので心配はなさらなくて結構です」

 

説明が終わると響は一礼した後に、一歩後ろに下がった。グランはその様子を見届けると背中の翼をはためかせる。

 

「じゃあ、また会おう。バルバトス」

 

入ってきた入口から空を飛んで出て行った。響は一瞬にして虚空に消え、亮介はジャンプして、窓をたたき割り、走って行った。

 

「ククク、これはとてつもないほどのラッキーだな。これで我らに逆らうものはもういなくなるな!!」

 

パズズはもう勝った気でいた。帰って行った三人の目が獲物を見る目だと気づいていたミニーアは顔をくらませた。

 

「グラン……、いったい何をする気なの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真紅の暗い部屋に、オレンジのランタンの火が光る。このあたり一帯を示した地図の上で響は白と黒のチェスの駒を取り出した。スカーレット家に位置する場所に白いキング、ルーク、ナイト、ポーンを三つ置いた。

 

「俺たちが持つ駒はこれだ。キングがグラン、ルークが亮介、ナイトが俺、ポーン一個が戦力になる兵士の百人だとしよう。そうするとバルバトス家はこうなる」

 

バルバトス家のところに黒いキング、クイーン、ビショップ、ポーンが十個。

 

「キングがパズズ、クイーンがバラム、ビショップがブエル。兵士面での戦力差は圧倒的だ」

 

響が黒いポーンを四個ずつスカーレット家の左右に置く。

 

「おそらく敵は俺たちを舐め腐ってる。三百か四百の兵を左右からぶつけて壊滅させる、みたいな自分たちが動かない手段を使うはずだ。だからこうする」

 

ナイトとポーン一つ、ルークとポーン一つを左右に当てる。ポーンを一つ、スカーレット家に残し、キングをバルバトス家に置く。

 

「俺と亮介が左右の牽制に当たる。残りはスカーレット家の守護、バルバトス家襲撃はお前に任せるぞグラン」

 

「うん大丈夫。任せて」

 

「おいおい、良いのか? ……いや、別にいいか。お前らが考えなしに突っ込むわけないもんな」

 

ランタンの光がともすのは地図だけ。他の人物の顔はそれぞれが見えない。

 

「さぁ、僕たちの戦争を始めよう」

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