書いてるときにニヤケてました。
切り立った崖の奥に立つ古城。分厚い門がある入口を過ぎると存在する大広間。入口から逆の位置にある王座。そして二つの王座には劣るものの豪華な椅子。バルバトス家の三人はそこにいた。
「ムクク。そろそろ落ちたころじゃないかなぁ? 兄さん」
「七百をスカーレット家を包囲するように配置して送った。黒狼やキョウの実力は知らんがもう終わってるだろう」
「そろそろ確認に行くかのう」
のんきに夕餉を嗜みながら重要性のないいつもの会話のように。しかし、その夕食が彼らの最後の晩餐になるなどと微塵も思っていないだろう。すぐそこに悪魔、いや魔王が迫っていることも。
「おや? 誰か来たのう。打ち取った報告なら入れ」
パズズが自分のメインディッシュを口に運んだ時だった。
「そこらにいる奴等なら全員打ち取ってきたよ」
扉をわずかに開けて、ほぼ全身を血に濡らしたグランが入ってきた。
「な、何だとッ!? き、貴様、どこから入ってきた!?」
「普通に玄関から」
「ムガァ!! 冗談言うな、この恥さらしがッ!! お前がそこらの雑魚にでも勝てるわけないだろがッ!!」
グランは無言で入ってきた両扉を開けた。
「「んなッ!?」」
バラムとブエルが声を上げたのは無理もないだろう。そこにあった光景は肉の塊と化した三百の兵たちだったからだ。まるで内側から破裂したかのように、綺麗に血が部屋中を染めていた。無事な兵士は一人もいない。
「雑魚相手とはいえなかなかやるようだのう。バラム、ブエル、相手をしてやりなさい」
「「わかったよ、父さん」」
二人は席を立ち、バラムはネックレスを、ブエルは指輪を取り、地面に叩きつける。そこから現れた蛇の少年二人。グランは何も焦ることなく右手を挙げた。
「
すると扉の奥にあった血が、グランの右手上空に集合し始めた。三百という人数の血はグラン一人に対しては大きすぎて、まるで一つの紅い太陽のように妖しく輝いた。
「
その血の半分がグランを覆い、
「
半分が空中にいるまま変化し始める。空中に浮いた方は人型の妖怪にとっては巨大すぎる〝真紅の斧〟へと変わっていく。血のしゃれこうべが大量にくっついたように見えるそれは、しゃれこうべの部分は刃となって、間から出てきた柄を血の塊のグランがつかむ。
「傍若無人に振る舞え、貪り尽くせ、喰らい潰せ、『ルキフグス』」
体を覆っていた血が水を滴らせるようにグランの体から離れていく。その場にいた三人が目を見開いた。その場にいたのは小さく子供のようなグランではなく、ミニーアと同じくらいの身長で、グランの面影を残した青年だったからである。
「……」
無言で血の斧を握らない手を握ったり開いたりする。不意に斧のほうを向くと、その斧が反応したのか、いくつか残っているしゃれこうべが奇妙な声を上げた。
「……ここにきてよかったのかの? お前の仲間が我らの部下たちにやられているか知れないのに」
「心配ないよ。響さんや亮介さんは億年を生きる妖怪。あんな奴らなんて傷どころか触れることすらかなわないさ」
元から高かったグランの声が少し低めに響く。パズズやブエル、バラムは何も表情を変えない。
「ムクク。ならその二人に来させればよかったものを。どんなすべを使ったのかは知らないが、妖力を手に入れてるみたいだけど大した量じゃないしな」
「わずかな妖力を手に入れて、ただの雑魚をいくらか殺して調子にのっているのか。底が知れるな。ペントゥ、サートゥ、とっと殺れ」
バラムとブエルの傍にいた二人の蛇は何の迷いもなく、グランに突っ込んだ。両の手を蛇に変えて、ペントゥはグランの喉に、サートゥは目に噛み付いた。
「無駄だよ。何をしてもね」
牙が中途半端に刺さってはいるもののグランは何も答えていなかった。それに反応し、二人は牙を押し込もうとするが出来ず、抜こうとするがそれも出来なかった。
「存在を拒絶しろ『ルキフグス』」
一太刀で大地を抉るのだろうと思えるような大きさを持つ斧に視線だけを向けて、つぶやいた。すると斧の刃の部分にまるで牙が生えそろうように黒き突起物が生える。そして、
「ギャァァッァアアッァァアアァッァアァァ!!!」
城を壊すのではないかといえるほどの咆哮。ただ食らうだけの口に舌というものは存在しない。味など感じるだけ無駄なのだから。
「「……ッ!!」」
本能的に危機を察知した二匹の蛇は逃げようとする。しかしもう遅い。彼らはクモの巣にかかってしまった蝶でしかない。グランは柄だけで成長した彼の身長ほどあるその斧を、柄を短めに持って手首を返す。開いた地獄の入口はえさを求めるライオンのように二匹の蛇を呆気なく食った。もしゃもしゃと聞こえるような大胆な口の動きに、逆らうように中が数か所膨れ上がるがすぐに収まった。
「グガッ!?」
バラムの腕輪が、
「ムグッ!?」
ブエルのピアスが破裂した。使い魔は基本そのままの状態でとどめておくことはできるが、好きな時に呼び出したいときはそれを封じ込めた何かを使う必要がある。緊急用を含め二つ必要になるものが
「二人の反応が消えた……だと……」
バラムの言葉に答えたのか『ルキフグス』が口を開いた。ごちそうさまといわんばかりにゲップをしながら。
「さぁ、まだ満足をするわけがないよね『ルキフグス』。まだ前菜の役割が終わっただけ。肉料理で仕込みも何もしてないけど、それが君の好みだろう?」
バラムは剣盾を、ブエルは弓を妖力で作りだした。それは恐怖か、はたまた勇気か。パズズだけが何もうろたえずに席に座り続けている。
「
斧の柄すら黒き牙が生えて、刃が裂ける。グランの持つ部分以外は全て地獄へと続く口となった。
「な……舐めるなッッッ!!! この恥さらしがァァァァ!!!」
バラムが盾を前に構えて跳びかかる。大きく振ったその剣をグランは軽く斧で受け止める。
「後ろががら空きだぞ!」
その瞬間を狙い、ブエルがグランの首に矢を刺した。バラムごとブエルをなぎ払おうとするが、二人ともに逃げられる。
「ムクク。今お前に撃った矢に仕込んであったのは水銀。吸血鬼にとっては相称最悪の毒だ!! 十数秒しないうちに死ぬぞ。ムークッークッ!!」
グランが矢を抜く途中で、ブエルが額を抱えて笑いだす。しかし、それに相反するかのようにグランは少し口角を上げた。
「
グランの体のあちこちから銀と赤が混ざったような色の液体が集まりだす。それを手の上に浮かせた。
「水銀ならすべてこの中だ」
「ムガッ!? そんなのありえん、吸血鬼なら触れるどころか近づくだけで溶ける代物だぞ!!」
「お前らの部下の吸血鬼じゃない者の血を使って集めさせてもらった。さて、これはお返ししようか」
グランの手にあった水銀と血の塊がぶくぶくと膨れ出し、一瞬で周りを覆うほどの槍と化した。
「
グランが手を開いたときにはバラムもブエルも串刺しになっていた。吹き飛んだ二人をグランは斧を回すことで二人を一気に食らう。
「残りはお前だ。パズズ・バルバトス」
「フフフ、まさかここまでやるとはおどろいたのう」
杖に両手を置き、豪快に笑った。この場に際ほどまでいた者の死など気にしないかのように。
「全く動じてないね。どうして?」
「いや、どうじてないわけじゃないぞ。私にはとっておきの秘策があるのだよッ!!」
パズズが地面に思いっきり地面に杖を突き立てた。すると、茶色の巨大な魔方陣が浮かび上がる。その魔方陣はどんどんと膨張し、城の天井を吹き飛ばしてもなお巨大化する。そして、元の魔方陣の一割ぐらいしか見えない程ぐらいになったところでようやく止まった。
「貴様ッ、この島ごと吹き飛ばす気か!!」
「ふふふ、この魔法は発動者以外の全てを吹き飛ばした後に全てをもう一度再構築する、
どんどんと光が強くなる。そして光が全てを吹き飛ばそうとしたその時、
「これは人質を取る行為と判断されますよ、バルバトス卿?」
まるで何事もなかったかのように景色が元に戻った。グラン、パズズ両方が目を見開く。唯一景色が違ったのは響がいたことだった。
「反則行為とみなし、排除させていただきました。続きはゆっくりとお続けください」
「こォのォ餓鬼がァッ!?!? 何をしよったァ!?!?」
「はるか彼方へ反射させていただきました。これ以上語ることはありません。では、失礼」
響はすぐに虚空へと消えた。グランはもう何も気にしなかった。パズズへと歩み出す。
「ひィッ!?」
尻もちをつき、手と足を動かし後ろに逃げるが、壁に当たって動きを止める。
「ま、待てッ!! 待ってくれ! な、なんでも払う、許してくれ!!」
すぐに体勢を変えて土下座に移行する。グランは無表情のまま四人の命を貪り尽くした『ルキフグス』を振り上げた。
「なんでも、か?」
「あ、ああ!!」
「ならお前の命だ」
パズズの顔が絶望に染まる。グランはその顔を見て歯ぎしりをした。浮かべた顔は憤怒。
「消えろ老害。お前には後悔させる時間すら惜しい!!」
無慈悲に、残酷に、衝動に任せ、グランはその『
あれこれって誰が主人公だっけ?
響と亮介だよね。
…………あれ!?!?!?