では、また。
小体強者の戦士と御伽噺の伝説
水が川を流れる音がする。川沿いを歩けば、カエルの鳴き声も聞こえる。トンボも飛ぶ、晴れた夏の昼下がり。着物の袖をほぼなくしたような黒、紫の服装をした二人の青年は町とは全く別のほうへ歩いていた。向かう先にあるのは巨大な山。そこにいるのは日本妖怪で唯一の社会というものを作り上げた天狗である。
「遠いな~~。どれくらいあるんだよ~~。暑い~~~~」
「言うな。俺も暑くなるだろうが」
扇子を大きく扇ぎ、汗だくの額をぬぐう黒狼。それをいなす雲外鏡。滲み出た妖力を隠すこともなく、真っ直ぐ歩いていく。普通なら哨戒天狗が飛んできてもおかしくはないのだが、響が妖力を鏡により分散させているため、向こうから見ると幾百もの集団に見えている。そのため、向こうから攻められることはない。
「それにしてもあれが〝妖焔山〟か。でかいし、ところどころに建物っぽいの見えるな。あそこにいるのか? もう二人の最強」
「天狗の元締め、天魔。鬼の総大将、鬼子母神。名すら知られていない俺らと同じ最強の異名を持つ二人。まぁ、俺らの名も情報操作して広まらないようにして入るが」
よっしゃーと気合を入れ直す喧嘩好きに呆れのため息を吐く知識の塊。
「貴様ら、妖怪だな!? 成敗してくれる!!」
「んお?」
どこからともなく声がする。高い女性のような声。しかし、声が聞こえども姿は見えず。まっ平らな草原にも、川にも誰もいない。
「響、変な声出すなよ」
「俺じゃないのは目に見えてんだろうが」
響は亮介の足元を指さす。底に視線を向けると、マッチ一本ほど、12cm、一寸の人物がいた。
「あらまー!? 名の通りの一寸法師」
亮介は地面すれすれまで視線を下し、その人物を見る。赤い動きやすそうな着物と針を元としたのであろう剣をこちらに構えている。
「
地面に着いた亮介の腕の上を器用に走り抜け、亮介の耳を斬りつける。しかし、そんな安物刀に傷一つつけられる亮介ではない。
ペキンッ!
あっけなくその刀は折れた。もうあっさりと。
「んな……ッ!?」
「まぁ、そうなるな。こいつ、そんじょそこらの鉄より硬いしな」
鏡の冷静な分析も聞こえていないのか、わなわなとふるえている。そして、ついに泣きだした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! お婆様から、お婆様から頂いた大切な剣がぁぁぁぁぁ!!」
「お、おい、泣くな! しかも肩の上で! おい!」
こういうことに離れているはずの亮介があたふたする。響は折れた剣先を拾うと、剛妙丸の持っていた鍔の部分を剛妙丸から奪う。
「あっ、何をする!?」
「ちょっと待ってろ」
手のひらサイズの鏡を創りだすと剣を直していく。すっかり元の姿になった剣を剛妙丸の前に差し出す。
「ど、どうやって!?」
「おれの能力だ。というか、思い出の品とはいえそれを使うことはお勧めしないな。切れ味なんて皆無。ただの針から作った剣なんて、あんたの剣技の才をわざわざどぶに捨ててるようなもんじゃないか」
響は虚空から出現した鏡に手を突っ込む。はたから見ればなかなかシュールな光景だが、その鏡から響が引き抜いたものがさらにおかしいものだった。
「なんだそれ。剣か?」
「一応な。俺は扱いにくいからしまっておいたものだ」
一言で表すなら剣の形をした槍だ。イメージしやすい形はフェンシングで使う剣が近い。普通刀の刃は片方にしか付いていない。しかし、響が引っ張り出したものは針のように全ての範囲が刃となっている。
「『
「……剣を治してもらったことはうれしいし、剣の腕を最強の妖怪に認めてもらったのも、まぁうれしいと思う。だが、その剣は受け取れない。妖怪は倒すべきものだ」
「つーか、それ以前に大きさ考えろ。あつかえられねぇだろ」
剛妙丸の意見はもっとも、亮介の意見は前提そのものだろう。しかし、そんなことを考え忘れる響ではない。
「剛妙丸さん、あんたは妖焔山に向かってた。都は逆方向だしな。理由は酒吞童子に会うためだろ?」
「……知ってたのか」
「酒吞童子 伊吹萃香。『密と疎を操る程度の能力』の持ち主。自らを巨大化させたり、分身させたりできる能力。あんたはそのの力を使って普通の人と同じ体格を手に入れようとしてた、ってところだろ?」
剛妙丸が押し黙る。一寸法師が持つ思考から考えると確かにそこに生き立つのだが、亮介は物語しか知らないので、ある神器が思い立つ。
「打ち出の小槌じゃないのか?」
「それは存在自体秘匿にされてるしろものだ。知らないのは無理ない。どっかにはあるだろうが」
響は一拍区切ってから、言いたかったことを言う。
「おれたちも妖焔山に向かうところだが、どうだ、組まないか?」
「答えは分かり切ってるだろう。組まん」
がんとした態度の小さき戦士に憎たらしくも見える笑みを浮かべて、響はつづけた。
「まぁ、話を聞いてくれ。あんたの実力は認めるが、そんな刀じゃ哨戒天狗にも勝てやしないし、そんな体格じゃ一発でも攻撃に当たったらおだぶつだ。そこで俺はあんたに剣と体を提供しよう。それに組むと言っても頼むのは俺たちに攻撃をせず暴れてもらうだけさ」
「体、とはどういうことだ?」
「それは見せたほうが早い」
剛妙丸をつまみあげると空へわずかに浮かせる。
「『像変
二枚の鏡が現れ、剛妙丸を両側から挟みこむ。鏡の中に入ったのか、二枚の鏡の間に隙間はない。さらに、鏡が回転して大きくなっていく。鏡が響の身長と変わらないぐらいに巨大化した時、二枚の鏡が離れる。
「うわッ!?」
そこから出てきたのは赤い着物を着た女性。そう、普通の人のサイズになっている剛妙丸である。
「な、なにをすッ!? は?」
顔をあげて見た二人の顔の大きさから、自分がどうなったかを判断したらしい剛妙丸は顔を真っ赤にして響に迫った。
「どういうつもりだ、貴様!?」
「それが体の提供だ。というか単純に拡大しただけだよ。ただ、この技は一日しか持たないからそこは理解しとけよ」
「そういう問題じゃない!! 私は組まないと言っただろう、何故こんなことをする!?」
「そう切り詰めるなよ。ほら、刀。あんたがもと持っていた刀は使い物にならないから渡しとくよ。刀は使い手がいないと話にならない。あんたが持っていた方がこいつもうれしいだろうさ」
響は持っていた刀を剛妙丸へと投げた。刃が入った鞘の部分が思いっきり顔面に当たり、剛妙丸は縮こまった。
「こ、この……ッ!!」
「じゃぁ、山に直接送るから、いってらっしゃい」
「ちょッ!?」
言うや否や、響は地面に鏡を出現させる。少しすると鏡からビターンという音も聞こえた。
「うーわ、これ後が怖そう」
亮介の一言も無視して、響は一枚の鏡を開くとその先の人物に声をかけた。
「調子はどうだ、ミライト?」
「りょーこーですよ~。いつでも突撃可能ですぜ~」
その先から聞こえてきた、響と亮介の中間ほどの声の高さをした声は軽快そうに笑いながら言った。
「じゃぁ、見せてもらおうか。お前の誇る龍の力とやらを」
「別にー誇ってませんがね~。まぁ、みせてーあげますさ~」
○
平安時代。それは日本の歴史で、もっとも闇が栄えた時代といっていいだろう。それに反するように人間も陰陽術や退魔術を身に付けた。なぜ、こんなにも妖怪が栄えたのか? それはこの時代に占いなどの神秘的なものが広がったからだ。もちろん、それが良いものばかりだったわけではない。禁忌に手をかけたものは人ならざるものとして下の世界へと落とされる。そう、地獄である。
「地獄か~。本物みることになるとはなぁ」
剛妙丸と出会う少し前。亮介と響は現在、下へ降りている。そう、下へ。生きるものの存在しない、いや刑罰を受けるための場所へ。
「目的は地獄へ行くことじゃないぞ。地獄の近くにある〝龍祠〟に行くだけだ」
「そういや、そんなこと言ってたな。その龍祠って何だ?」
「歴史に興味のないお前が知らないのは無理ないか。えっと、どこから説明したもんかな……」
さて、ここでは龍についての昔話を語るとしよう。今はもう昔の話だが、龍という生物がおったそうな。その龍は何もなかったこの世界に神と共にさまざまなものを創り上げた。天を、色を、自然を、水を、火を、闇を、地を、風を、進化を、音を、法則を。そこから生き物が生まれ、世界は平和となったそうな。しかし、ある一匹の龍がその世界を我がものにしようと、強大な力を使って戦を起こしたそうな。その龍を仲間だった龍が抑え込んだ。しかし、他の神や龍はそれを許さなかった。反乱を起こした龍はもちろん、抑え込んだ龍も含めて十二匹を封じたそうだ。これが語られるものには語られる伝説である。
「んで、その龍祠ってのはその龍たちが封じられた場所ってことか。んで、どうするんだよ、それを」
「封印を解く。簡単だろ?」
「軽く言ってくるぜ」
地底の底には大きく二つ場所がある。ひとつは地獄、そしてもう一つは魔界。龍祠があるのはその中間に位置する場所そのものが不安定な場所にある。
「『
響は自分と亮介との両方の体に球体上の鏡を纏わせる。空中に浮いているため、移動に困ることはなさそうだ。
「ん? これってまさか月の都の爆発の時のあれか?」
「ああ。それを可視化したものだ。外も中も衝撃では破れないようにしてある。ただ、合言葉を言えば外でも中でも開く」
響のにやけた顔を亮介は苦笑いでしか見ることができなかった。
「これで時空の奔流に巻き込まれることはない。行くぞ」
空中を滑るように進んでいく。しばらく進むと小さな祠が見える。しかし、響は祠より百メートル以上離れているところで地面に降り立った。
「まだ行けるじゃんか、どった?」
「ループ式の結界が張られてる。いくら進んでも無駄だな。まぁ、何もしなければの話だが」
響は前に手を置き、そのまま進んでいく。さらに逆の手で亮介にあとを突いてくるように合図する。何も迷わず迷路を進むように響は右に、左に曲がるを繰り返す。そして、一時間ほど曲がることを繰り返した頃、響が真っ直ぐにしか歩かなくなる。
「ついたぜ、龍祠」
人が入れる大きさではないほど小さな寺。伝説で語られるぐらいだからもっと大きいの方思っていた亮介は少し拍子抜けした。
「亮介、少しお前の妖力貸せ」
言われるがままに手の上に妖力の玉を浮かせた亮介。その玉に響は自分の妖力を上乗せし、祠に向けはじいた。
「『自立崩壊 鏡零』」
祠が電子パズルのように崩壊した。さらに、白い爆発が起きる。余りの勢いに周りを覆っていた鏡が後ろに押し返される。白い爆発が晴れた先にいたのは白と黒を合わせたような一人の少年だった。髪は黒い自下に白が水玉のように染まっている。服装は生地はこの時代のものだが、現代のように上下に分かれたようになっている。立ったままの状態だった彼は時代に目を開いていく。
「あなーたは?」
気の伸びるような声で二人に名を尋ねてきた。外見は容姿端麗の為、思わず亮介はずっこけた。
「俺が北川 響。今こけたやつが清水 亮介。起こさせてもらったぜ、龍」
「ふ~ん、そうですか。自分は龍ではーないのですが、名乗っておきましょーか。ミライト・カオス。それが私の名ですー」
体のさまざまな箇所を柔軟していく様子は何かぎこちない。柔軟をし終えた瞬間、目の色が一気に変わる。
『貴様ら、これがどういうことか分かっているのか?』
声が幾つにも重なったような不気味な声が響く。だが、そんなものに臆する二人ではない。
「ああ、わかっているつもりだ。龍の封印を解いたってことはその龍が暴れる可能性がある。それを理解しているつもりだ」
『なら、なぜ我らを起こしたのだ? 龍祠は巨大封印の二つのうちの一つ。それを破壊した時点で龍の封印がとかれるのも時間の問題だ。これをどう責任取ってくれる?』
「責任は取るさ。方法がある。良いことをした奴が報われない話は嫌いなんでね」
『ならば、示して見せよ。その方法とやらを』
「了解いたしました。お気に召すかと思います」
○
「ほへ~、とんでもないことしますねー。中にーいる人たちもー収まりましたよ」
「上手くいって良かった」
ミライトは両手を見たり、背中を見ようとしたり、まるで珍しいものを見るように体を見ている。
「なぁ、ミライト。お前ってどういう存在なの? 龍じゃないんだろ?」
「自分は~龍を封印する二つの巨大封印のもう一つ、『生きた封印術』ですねー。龍はとてつもなく強いので~封印を解きかけることがー良くあるんですよ。それを制御してー再封印するのが~自分の役目ですね」
生きた封印術。それはあり得ない技術である。自立した力を生み出すには時間とそれ相応の力も必要となる。これで、ミライトは偽物ではないことが証明できる。
「んでー、自分を起こした本当の理由はなんです~? あなたみたいな人がーただでそんなこと~しませんよね」
「あぁ、今からある場所へ行こうと思っているから、それについてきてほしい。戦力が欲しかったところでな」
「まーさーかー、それだけの為に起こしたんですか~? 規格外ですねー、まったくー」
そんなことをいいながらも、ミライトは中々の笑顔をしていた。
作「忘れられたころにっ、後書きラジオ、第二段!!」
響「ほんとにどれくらい中止してたんだよ、まったく」
亮「ながかったな~」
作「というわけで、第二段最初のゲストは諏訪子様ですぞ~~」
諏「亮介、ここどこなの? この変な奴誰?」
亮「かくかくしかじかまるまるうまうまなのよ」
諏「なるほど……ってなるかッ!! 説明のせの字もないわ!!」
作「ナイスノリツッコミ。さすが亮介のツッコミ役を任せただけあるぜ」
諏「何の話をしてんのよ、あんたは!?」
響「変人だから許してやってくれないか? さらに磨きがかかってるような気がしなくもない」
作「ひどいな、オイッ!? まぁ、いいけど。自己紹介入れるのめんどくさくなったからな。そんな感じでよろしく」
亮「なにがよろしくなのかね~」
諏「なんで私ここに呼ばれたのさ!? ちょっとくらい説明してよ!!」
作「そんなひまはな~い。次回は卑弥呼予定ですぞ。では、また!」