最初に言っておきます。しばらく中心となるのは響や亮介ではなく、別のこです。
なぜ〝こ〟を漢字にしないのかは察してください。
せは、また。
ある陰陽師の夜明け
ザッ、ザッ、ザッ。
よく晴れた昼、空を覆うほどに育った木々が日光を遮る中、一匹の妖怪が逃げていくように慌ただしく走る。
「くそっ、まけたか?」
巨大なクモのような体を持つ妖怪は後ろを向いて止まる。その先には誰もいない。
「よし、早く逃げ、ッ!?」
皿に盛りの奥へ逃げようとした時、妖怪の周りに半透明の結界のようなものが張られる。その妖怪が脚を思いっきりその結界をたたく。ただ、傷一つ着かない。
「さっきから言ってるじゃないですか、別にあなたを攻撃するわけじゃないですから安心してください」
木の陰から烏帽子をかぶり、白い陰陽服を着た人物が出てくる。声も高くきれいで、女性としてはとてつもなく美人な顔立ちをしている。
「くそがッ、女なんぞに捕まっちまうとは俺も堕ちちまったもんだな!」
「僕は男だっ!!」
「はぁ? お前が男だと。冗談にもほどがあんだろ」
「こんななりでも、れっきとした男だよ!!」
結界の中にいた妖怪は結界そのものの強度が自分の実力では破壊できないことを知ると、諦めたように地面に体を下した。
「滅すならとっととしろ。命乞いはせん」
「だから、そんなことしないって。ただ、交渉をしに来たんです」
妖怪は顔だけを少年に向けて、いぶかしむような顔をする。それを見た少年は懐の中から太めの巻物を取り出す。それを広げて妖怪に見せながら話しかける。
「話は簡単です。あなたは人を食べない妖怪だと聞きました。ですから、あなたが労働力を出してくれれば、衣食住の提供を妖焔山が保証します」
「……話の筋が読めないぞ。お前は人間、俺は妖怪。お前に得なんざないだろ」
黒い目に力がこもる感覚をかんじるも、少年は臆することもなく態度も変えずに巻物を閉じた。
「それがあるんですよね。まぁ、僕の満足感が多いですが」
「信じられないな。妖焔山は鬼と天狗が住まう場所。そこに俺のような雑魚を入れてくれるはずがない」
「いえいえ、今はその方針を変えて『労働力が確保でき、平和に暮らせる妖怪』を下町にのみ入れることを許可してます。問題はありません」
妖焔山は山の中腹に妖怪の、正確には天狗と鬼の町が作られている。下町、城下町、頂上部の三つに分けられており、一般的な天狗や鬼は下町が城下町にいる。そして、下町には様々な妖怪を入れようという上の意思があったため、一般妖怪の妖焔山入山が可能になった。
「そもそもなぜ、そんなことをお前が知っている? 人間のお前が」
「僕は妖焔山の偉い方に拾われているので、妖焔山ではある程度知られてますので」
クモの妖怪が重そうな体を起こす。ため息を吐くような動作をすると、首を縦に振った。
「いいだろう。お前の言い分聞いてやる。どうせここにいても他の陰陽師に滅されるだけだ」
少年の顔が一気に明るくなる。
「それは良かった! 妖焔山に飛ばしますので、そこでこの札を持っていれば中に入れますので」
そう言って、クモの妖怪の結果に張りつけるように一枚の紙をくっつけると、少年は左腕の振りそでの中から皿に何イカが書かれたお札を取り出す。
「『移転 妖焔山』」
クモの妖怪の結界が光り輝き、空に舞い上がるようにして飛んでいく。その様子を見届けた少年は大きく背伸びをする。
「ふぅ~、結構時間かかっちゃったな~。文句言われそう」
「そんなに言われたいのならいくらでも言って上げますよ?
突如として響いたこれまた女性の声。しかし、その声には少々怒気が含まれているようにも聞こえる。
「きょ、
「あなたが逃げる妖怪を結界にはめたあたりからですね。一言でいいます。甘い」
木の上から飛び降りるようにあらわれた銀髪赤眼の少女。女性にしては身長が高く、スタイルもいい。ストレートで長く伸ばした銀髪と鷹のような赤眼は刀のように鋭い印象を持たせた。
「あの程度の相手なぞ、五分もかけないようにしなさい」
「無茶言わないでよっ!」
「あなたの霊力ならば問題なんてないでしょう。まったく。……ところで、軌響。移転札はあと何枚ありますか?」
移転札とは、さきほど軌響が使った物体をある場所へと瞬間的に移動させる札のことである。
「えっと、後二枚ぐらい」
「私は先ほど使い切りました。ですから、妖焔山に新しく取りに行きましょう」
「りょ、了解」
軌響は鏡夢に振りそでの中から移転札を二枚取り出し、一枚を鏡夢に渡し、二人で叫ぶ。
「「『移転 妖焔山』」」
○
妖焔山には四方それぞれに入口が存在する。そのうちの一つの前に光と共に着地する。
「おお、いきなり誰かと思えば、軌響に鏡夢ちゃんじゃねえか」
「
その山の入口にある巨大な門の前に居座っていた巨大な赤鬼。凱朗と呼ばれたその鬼ゆっくり腰を上げ、門の前から退く。
「お前らなら特に証明書も必要ねえ。入んな」
「ありがとうございます」
人間の脚では一歩で渡れないほどに大きい扉の下枠を通り、山の中へと入る。山の頂上部に向けて一つの道が真っ直ぐ進むようになっており、その周りは繁華街のようにとても賑やかになっている。ただ、その原因は人間ではなく、妖怪であるのだが。
「おや、軌響の坊やじゃないか。大きくなったねぇ」
「小豆洗いのおばさん! いつもおいしいあんこありがとうございます」
「二人で上へ行くのかい? これ持ってきな!」
大量にあんこの入った竹の葉でつつまれたまんじゅうを軌響に向けて渡す。
「えっ、いいですよ。そんな」
「あんたの親御さんのおかげでワシらはここにいるんだ。これでも足りないぐらいさ」
「う~ん、では、いただきますね。ありがとうございます」
まんじゅうを片手で持ちながら大通りを進み、下町から大きな屋敷がある天狗や鬼の身が入れる上町に入ろうとすると、上から声がかかる。
「オオ、イツゾヤノ陰陽師ノ二人カ? アン時ハ世話ニナッタナ」
巨大な人間の骸に眼だけが入り込んだようなその妖怪は上から軌響と鏡夢を見下ろしながら言った。
「がしゃどくろ、ここでの生活には慣れましたか?」
妖怪に対して、がしゃどくろと呼び捨てにする上に眼まで飛ばす鏡夢にがしゃどくろは少し眼をそらせた。
「アイカワラズ女ノクセニ怖エ奴ダナ。マァマァッテトコダナ。アト、ソッチノ女、オラノ妖力ハナジムカ?」
「僕は男だよっ! もういいけどさ……。えっと、しっかり使わせてもらってます」
「ソリャヨカッタ。モシ相性ガワルリャ、オラハ上ノ輩ニシバカレチマウゼ」
「さすがにそんなことしませんよ、あの人たちでも」
軌響は笑いながら、がしゃどくろにお礼を言いながら門をくぐった。その後も、軌響と鏡夢は天狗や鬼に話しかけられながら、奥の屋敷に辿り着く。三度目となる巨大な門の前にいたのは狐のような細い目を持つ鴉天狗、射命丸 久遠である。ちなみに酒が入っているのであろうヒョウタンを持っている。
「おや、軌響くんに鏡夢ちゃん。久しぶりだねぇ」
「久遠、真面目に仕事をしているのですか。酒など片手に守備など」
「固い、固いよ、鏡夢ちゃん。暇なのは僕にとって耐えられないものなんだよ。それに酒の飲み過ぎで戦えなくなるほど馬鹿でもないよ」
言われてみれば、ヒョウタンは小さい。久遠はそれの口を自分の口に当て少し傾ける。
「……中に用があります。入ってよろしいですね?」
「むしろ、君たちを入れない理由がないよ。どうぞ」
門から入り口までも歩いて数分かかるという広さを持つ屋敷をゆっくり歩いていく。そして、入口からちゃんと入り、一番奥の一番大きい部屋にたどり着くと、二人は今までより気を張ったようになりゆっくりとその部屋の襖をあける。
「ん? あぁ、軌響に鏡夢か。どうした、移転札が足りなくなったのか?」
とても広い部屋にたった一人の仕事をしている人物がいた。真ん中より奥側に陣取り、机の上で筆を動かしている。彼の隣には巻物の山ができている。
「主様、お久しぶりです」
「おう、軌響。だいぶ実力を上げたみたいだな。霊力の質が違う」
「はいっ! ありがとうございます!」
軌響はその人物のことを
「鏡夢、お前は調子は……問題なさそうだな」
「主様、あなたには本当の名で呼んでいただきたいのですが」
「そういえばそうだったな。軌響のほうはどうだ?
「まだまだのびしろはあるのに成長速度がとても遅いです。主様が目に賭けたほどの〝何か〟があるとは思えません」
鏡夢、そしてラグナシアと呼ばれた少女は軌響の評価を厳しく伝える。主と呼ばれた人物は机の上にあった湯のみの中身を飲み干す。
「軌響に何もないわけはない。それはお前が一番分かってるだろ?」
「はい。あなたほどの人がそんなお姿になったのですから」
そう言って立ち上がった主と呼ばれた人物は、立ちあがったのに正座している二人の身長ほどしかない。
「この体格も慣れれば、なかなか楽しいものだぞ」
一メートルあるかどうかという身長になった、紫死雲外鏡こと響であった。
「何が楽しいのですか?」
「この姿だと下町でいろいろとおまけをくれるぞ」
「子どもと間違われてるだけでしょう。のちにあなたの正体がわかった時の彼らの顔、知ってますか?」
「知らん」
のっけからんと言った響にその場にいた二人は冷や汗をかく。普通に考えればすぐに分かるのだろうのだが、彼の考えは普通の価値観では理解できない。
「んで、用は?」
「そういえばそうでした! 主様の言う通りで、移転札が足りなくなりました」
「それなら問題はない。そこの箪笥の中に百枚ぐらい作っておいた」
「は、はい」
軌響は部屋の奥にポツンと置いてある箪笥に向けて歩いていき、中から移転札を探す。
「お~い、響はいるか?」
屋敷の外の方に位置する襖から亮介が顔を出す。中にいる二人の人物を見ると顔をニヤケさせる。
「なんだ、二人とも来てたのか」
「先ほどここに来ました。亮介さんはなぜここに?」
「響に客が来ててな。天奈も直接お前に合わせるように言ってきた。だからここに連れてきたんだが」
「……軌響、ラグナシア、とりあえず席をはずしてくれ。ちょいと厄介な奴みたいだ」
響の表情と声から、言っていたことが事実だと判断した二人は部屋から出ていく。亮介に合図をして、客を中に入れる。その客は紫色のドレスを身に纏った金髪の髪を持つ女性。どこかあやしい雰囲気を出している。
「八雲 紫か」
「あら、知っておられたのですか?」
上品に響の前に座り込む。響は机の上に置いてあった急須からお茶をコップに注ぎ、紫に渡す。亮介は壁にもたれるようにして二人を見張っている。
「さて、用件はなんだ?」
「あなたに対して回りくどく言っても無駄でしょう。なので、単刀直入に申し上げさせていただきますわ」
口元に当てていた扇子を閉じ、響に対して頭を下げる。その行動に亮介はもちろん、響までもがギョッとした。
「私の夢、〝人と妖怪が暮らす理想郷〟の製作に協力していただきたいのです」
「……まず聞かせてほしいことが二つある。一つは何故それを創りたいと思ったのか。もう一つは俺にどう協力しろと言うのか」
「最初の質問は〝憧れ〟ですわ。人と妖怪は似ているのに似ていない。相入れない存在のはずなのにそれには向かうものも現れる。私はその先を知りたい、ただそれだけですわ」
顔を上げずに下げたまま、夢を語る。そこには何か隠したような奥ゆかしさはない。
「二つ目は別にありません、が答えですわ。あなたとの協力関係がほしいのです。妖焔山現最高権力者のあなたと協力関係にあれば、それだけ速く事を進ませることができますので」
響は顎に手を置いて、品定めをするかごとく考えを巡ぐらせる。亮介はその様子を嬉々として見ている。
「いいだろう。協力しよう」
「本当ですかっ!?」
夢をかなえた子供のように目を輝かせて喜ぶ紫を見て苦笑いする二人。
「なんか想像してたイメージと違うんだが」
「まぁ、夢をかなえる一歩が踏み出せたと思うとあんな表情できるもんなんだな」
自分の行動に気付いたのか、顔を赤らめて顔を下げてしまう。
「今はただのうわべだけの協力関係だが三つの条件を成功できれば、俺自身全力であんたを手伝おう」
「条件?」
「一つ、ここである程度の実権を持つこと。最低限計らう。二つ、この山からお前についてきてくれる奴を見つけること。三つ、
最初と二つ目の条件には納得していたようだが、最後のには少し疑問を持った顔をした。まぁ、妖怪が人間を見守れと言われれば少なからず気になるだろう。
「あんたにとって、そいつは人間側のお前。陰陽師として〝人妖平等〟を掲げる男だ」
作「前回、誰が来るか予告してなかったので、今回はなしです」
亮「あらま」
響「……」
作「響、どったの?」
響「ふざけんな! お前のせいでひどい目にあったわ! あの後台与にどんな目にあわされたか知ってんのかお前!?」
作「いんや」
亮「響、忘れた方がいいと思う」
響「もう嫌だ……」
作「今の響の記憶でTS化したら、どうなるだろうか」
亮「やめて。響のメンタルが終わる」
作「まぁいいんだけど。という訳で今回は短めです。次は布都と屠自古二人を予定です」