魔理沙と阿求と小鈴が鈴奈庵でラジオを聴きながら駄弁るだけのお話です。

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湯呑一杯の戦争

 八時から始まったばかりの女子二楽坊演奏会が突然中断されたので魔理沙は舌打ちした。

「そのラジオ、故障か?」彼女は小鈴に(あご)をしゃくった。「ガタが来たんじゃないのか。にとりのやつに話をつけてやるから、新しいのに買い換えたらどうだ」

「魔理沙さんが借りっぱなしにしてる本をちゃんと返してくれたら、その延滞料で買いますよ」

 近眼鏡を掛けた小鈴が唇を突き出して、かわいらしくイイをして見せた。

「ほかの所は、出ないの?」と隣の阿求が花果子念報を見ながら言った。「幺樂団の再放送があるのよ。XYを出してみて」

 小鈴がラジオのつまみをまわしたが、XYはやはりブツブツ言うだけだった。

「やっぱりWZに戻してくれよ。女子二楽坊が聴きたいんだよ」

 小鈴がWZに調節したが、音楽はやはり聴こえてこなかった。

「馬鹿らしい」魔理沙はぼやいた。「小鈴、この文々春新報貸してくれ」

「ちゃんと期限内に返してくれるならいいですよ、魔理沙さん」

「ああ、死ぬまでには返すぜ。ついでに茶もくれ」

 小鈴は湯呑に緑茶をそそぎ、砂糖菓子をそえて、盆に載せる。

 

「臨時ニュースを申し上げます」

 突然ラジオが(しゃべ)り出す。

「本日、日本時間午後七時二十分、米本土、北西部に、中国のものと思われる核ミサイルが来襲しました。ミサイルはアラスカおよびカナダの山中におち、山間部に若干の被害があった模様です。くりかえします、本日午後……」そこで声はプツンと切れる。

 

「ミサイルって何かしら……」

「バカだな、阿求お前がミサイルを知らないのかよ……弾幕だぜ」

「はい、魔理沙さん」

 

只今(ただいま)新しくはいりましたニュース……」別のアナウンサーの声が言う。「アラスカ、グリーンランド及びNATO軍司令下にある各ミサイル基地は、本日午後七時二十五分、中国本土に向けて、核弾頭ミサイルを発射しました。米大統領の談話では、これは中国の不意打ち攻撃に対する純粋な報復措置であり……」

 ここでまた声はプツンと切れる。

 

「うるさいなあ。いいから幻想浄瑠璃を聞かせろよ」

「でも魔理沙さん、ミサイルを撃ちあってるって言ってるみたいですよ。弾幕ごっこってニュースになるんですか?」と小鈴が言う。

「おっ、そうすると異変か? また稼ぎ時だぜ」

「あなた、また後先考えずに無茶する気でしょ」と阿求が魔理沙をつつく。

「大丈夫だよ、私はまだ死んでないからな」

「死なれちゃ困るわよ、幻想郷縁起のための大事な情報源なんだから」

 

 突然ラジオが女子二楽坊の奏でる激しい幻想浄瑠璃を流し出す。

 

「あー? 異変じゃないのか。まあ聴けるならいいや」魔理沙がぼやく。

「私は幺樂団の方が好きね。音盤(レコード)を持ってきたらよかったかしら」

「うちの蓄音機は親が使ってるのよ」

 

「只今はいりましたニュース……」また歌が途切れて魔理沙は舌打ちする。「中国各地より新たにとび立ったミサイルは、アメリカ本土の主要各都市に落下、ニューヨーク、ワシントンは完全に壊滅した模様であります。また西部辺境基地よりのミサイルは、西ヨーロッパおよび英本土の基地を……」

 

「やっぱり何か異変が起こってるんじゃない?」と阿求は珈琲(コーヒー)を優雅に飲みながら言う。魔理沙は半分ほど飲んだ緑茶の湯飲みを思案顔で見ながらうなずく。

「このアメリカってやつと中国ってやつは前から仲が悪そうだったからな。まあ一回喧嘩した方がかえって良くなることもあるぜ」

「そうですよねえ。射命丸さんと犬走さんなんか見てると喧嘩するほど仲がいいって思いますよ」

 小鈴はいつものように目を輝かせて喋る。――どうもこいつは夢見がちでいけないな。

 

「コロラド・スプリング発……」とラジオは言う。

「NORADの通信によれば、北米本土の主要都市は(ほとん)ど壊滅……」

「ストックホルム発……」別の声がせきこんで言う。

「当地の観測によれば、中国本土及びロシアの主要都市は……」

 

「何がどうなってるのかしら」阿求は額に人差し指を当ててぶつぶつ言う。魔理沙は三分の一になった緑茶の湯呑をぱちゃぱちゃ振った。

「今晩はそろそろ帰ろうかな……それとももう一冊ぐらい……」

「今日はここまでにしといたらどうです? ていうか、いま貸してる『全て妖怪の仕業なのか』を返却してからにしてくださいよ」と小鈴。

 

「カイロ発……」沈痛な声が言った。「当地情報筋の観測によれば、本日日本時間八時一分現在、アラスカ、カナダをふくむ北米大陸全土、及びシベリア、外蒙をふくむアジア、ヨーロッパ大陸全土は、殆ど完全にノーマンズランドと化した模様であります。リオデジャネイロ発、政府当局筋の言によると、中国およびアメリカの外交筋より、日本時間八時すぎ、それぞれ戦争終結についての話し合いを仲介してほしいとの申し入れがあった模様です」

 

「あら、もう終わりなの?」と阿求が言った。「これじゃあ縁起に残すほどの異変にはならなさそうね」

 

「戦争も終わった模様ですので……」と女性アナの声。「この後続けてホリズムリバー楽団アンド女子二楽坊演奏会をお送りいたしますが、今後臨時ニュースで中断されることがあるかもしれませんのでご了承下さい」

 

「じゃあ帰るか、阿求。送っていくよ」

 魔理沙は湯呑をぐっとほして立ち上った。

「女子二楽坊は聴いていかないのかしら?」

「今はいいよ。霊夢のとこに行って、酒を入れてからにするぜ」

「ご返却、忘れないでくださいよ」

「任しときなって」

 魔理沙は阿求と並んで、格子戸を開けた。

「気をつけて帰ってくださいね、魔理沙さんも阿求も」

 小鈴の声を後に、箒にまたがって阿求をしがみ付かせる。

 

 博麗神社へ向かう道すがら、ふと見上げると、降るような星月夜だ。そうだ、今夜は紫のやつも来ているはずだ、二人になんて言ってやろうか。――お前たち、さっき弾幕ごっこがあったんだぜ。アメリカと中国が喧嘩したんだってさ。お前たち、知らないだろ。




 小松左京先生の傑作ショートショート『コップ一杯の戦争』を幻想少女たちに演じてもらったのが読みたかったのですがなかったので自分で書きました。
 最初はもっとラジオ放送が通ってる理由とか彼女らが外の国々の事をどう考えているかとか書くつもりでしたが、言葉を重ねるほど原作の鋭い切れ味が鈍っていくとわかったので今の形に落ち着きました。
 原作はもっともっと凄いので皆さんも読んでください。

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