目覚ましのアラームを切って重い身体を起こす。今日はいつにも増して身体が重い……。
スマホのスケジュールに目を通して、それから支度をして会社に向かう。
朝食はいつも食べていない。食欲が無くて結局残しちゃうからだ。
会社に出社、タイムカードを切った時に後ろから声が掛けられる。
「おはよう、マネージャー!」
「おはようございます、りおさん。今日も元気ですね」
「マネージャーは元気が無いなー。あ、それより今から社長室来れる?」
「社長室ですか?」
「私も呼ばれてるんだけど、呼び出される心当たりが無くて……」
「自分もですよ……」
なんだろう、嫌な予感とかは特にしないけれども、不安になる。
ノックをして社長室に入ると、社長と桐香先生が頭を抱えている様な深刻そうな表情をしていた。
まさか、不祥事か何かでもあったのか、それとも声優の子達の身に何か有ったのだろうか……?
「失礼します」
「来たわね、二人とも。実は、折り入って相談があるのだけれども……」
そう言われて自分とりおさんは顔を見合わせた。
§
寮のロビー、此処には今所属メンバーの全16人が集まっていた。その表情は晴れやかで、中には不敵な笑みを浮かべている子も居る。
陽菜は志穂の言葉を窘めてる様にも見えるし、舞花とほのかはわくわくした感じがしている。
悠希は時計を頻りに確認し、千紗は落ち着く様に何度も注意をしている。
あいりと柚葉は楽しそうに何かを談笑し、他のWindやMoonもまた、時々時計を確認しながら楽しそうにお喋りをしていた。
所属メンバー全16人が集まってテレビと時計を交互に見ると言うのは、珍しい光景だ。
そもそも仕事の都合やバイトの都合で集まれない子も居るはずなのに、全員が全員この時の為に集まっていると言うのはどう言うことだろうか?
その疑問が解かれたのは、その日の午後7時、とある番組が始まった瞬間だった。
「始まった!」
「悠希、静かに!」
「今のはあたしじゃないよ!」
「あ、ごめーん、今の私……」
「凛音、静かにして……」
「ちょっとあんた達、聞こえないから静かにして」
「まほろも随分楽しみにしてたみたいだね」
「莉子、茶化さないで……」
テレビに映っていたのは、AiRBLUE。そして直ぐに切り替わって二人の男女に切り替わる。
『こちらがAiRBLUEを支える敏腕チーフマネージャー、五十鈴りおさん。現マネージャーが来る前までは一人で16人の仕事を探して放送局やプロダクションに営業で頭を下げたり、送迎をしたり、悩み相談に乗ったりしていました。そしてそんな彼女の重責を減らしてくれているのが、彼女の下に居るこちらの新人マネージャー』
「マネージャー、かちこちだね」
「舞花も最初はあんな感じでしょ?」
「まぁね」
『声優マネージャーの1日は担当している声優の仕事の内容によって決まります。収録やオーディションに同行する日は、朝から車で迎えに行って現場に送り届け本番に立ち会い、終わり次第また事務所や自宅に送り届けます。事務所で作業をする日もあれば放送局やプロダクションなどの取引先に営業に出向く日もあります』
「マネージャーって大変なのね」
「柚葉ちゃん、凄い人ごとみたいだね……」
「私のマネージャーもそうだったわ」
『この声優マネージャー。実はなるのに資格や免許は必要ありません。あるとしても声優の子を送迎する運転免許一つあれば良く、学歴も問われないので高卒で受けられる場所もあります。ではマネージャー職に大事なのは何か、それはコミュニケーション能力が高く、よく気が利いて献身的な人ほど活躍ができる職業といわれています』
「確かに、マネージャーってよく気が利くよね!」
「コミュニケーション能力も問題無いしね。マネージャーには天職なのかも」
『これほど大変なマネージャー職、給与も相当高い様に伺えますが、声優マネージャーの年収に関する統計は公開されていませんが、求人票を見ると年収200~300万ほどになることが多いようです。国家資格や免許を必要とする専門職ではないことや、芸能関係の仕事は景気や流行に左右されやすいことから、声優マネージャーの収入もそれほど高くはない傾向にあるようです』
「じゃあ、マネージャーも月17万円くらいってこと?」
「大変な割に、私達の様な新人声優のマネージャーだと稼げないのね……」
「もっとマネージャーに優しくしないと……」
『声優マネージャーはハードな仕事をこなすこともあります。事務所の方針によっては複数の声優をかけもちで担当することも多く、営業活動や事務仕事、送迎などをこなすだけで朝から晩までスケジュールが埋まってしまうということも珍しくありません。また、声優の体調やメンタルを常に気にかけなければいかないので、自分自身が強いストレスを感じてしまうこともあります。体力はもちろんのこと気力も必要とされる仕事なのです』
「まほろ、マネージャーに負担掛けさせてたかな……」
「確かに、メンバー皆癖強いし、強いストレスは持ってそうだね……」
『声優マネージャーは、担当している声優の仕事によって臨機応変に勤務スケジュールを組んでいます。遠方での営業活動があるときには早朝から出勤して出張に出向くこともありますし、収録が夜遅くまで長引いたときには深夜の帰宅になることもあります。また、舞台やアニメのキャンペーンイベントは土日や祝日に行われることが多いので休日出勤も珍しくありません。一般的な会社員よりも生活が不規則になりがちな職業です』
「我輩がイベントで出た時も、朝から晩まで付きっ切りだったな……」
「私も、土日にマネージャーに休みだからって手伝って貰ったりもしてたわ……」
「マネージャー、倒れないよね?」
「今の所は大丈夫だけど、どうかしらね……」
『それでは、代表として五十鈴チーフマネージャーにお話を聞きたいと思います。五十鈴さん、声優マネージャー大変だと思いますが、やはりやりがいと言う物はあるのでしょうか?』
『はい。元々声優マネージャーになりたいという人は、アニメや映画、ゲーム好きという人が多いです。声優マネージャーになることでキャスティングやオーディションの段階から制作現場に携わることができますし、アフレコや収録現場に立ち会ったり制作スタッフ向けの完成試写に参加したりと貴重な経験をすることができます。ものづくりの裏側を支える喜びを感じたい人にとっては最高の経験ができる職場だと思っています』
「りおさん、そんな風に思ってたんだね!」
「でも、マネージャーは望んでこの界隈に来た訳じゃない……。マネージャーは……」
『自分は一人の声優の卵の子に声を掛けたのが切っ掛けでした。チーフマネージャーの下で行き成りスカウトに駆り出された事もありましたけれど、それからレッスンする姿を見て、収録する姿を見て、普段テレビで見ているアニメや映画の吹き替えをしている人たちの裏側と言うか、その努力をする姿を見て、自分がそんな方達を支えれるんだと思うと、誇らしく思えますし、頑張ろうっていう気にもなりますね』
『ありがとうございました。さて、今夜は声優を支える声優マネージャーについて取材をして来ました。どんな仕事であっても頑張ってる人、支えてくれる人と言うのはいるのですね。それでは次回もお楽しみに!』
番組が終わると、まほろがテレビを消す。マネージャーに無茶を言っていたかもしれないと思っていた子達は肩を落とし、マネージャーのコメントに感銘を受けた子達は自分のことの様に嬉しそうにしていた。
この中で影響受けずに居るのは、別の所でもマネージャーと言う役職に関わりを持っていた柚葉とまほろくらいだろう。
マネージャー職が大変なのは、小さな頃からこの二人は知っている。
だから、この番組を見たからと言っても特に変える事は無いだろう。
美晴は最初から分かっていたから、最初からマネージャーには優しく接しているし、莉子は無茶を言うけどマネージャーへちゃんと恩を返している。
Moonのメンバーはそもそも言う程無茶をマネージャーにはお願いしていないが、それでも少しだけ優しくしようと決めていた。
翌日、意識し過ぎてマネージャーから不審な目で見られた子が何人か居たのはもう少し先の話である。