その日妖夢はいつものように修行していた。
その近くには幽々子、一心が座っている。
「葦名流は極めた...」
「カカカッ!そのようじゃな」
すると妖夢は修行を中断し、一心の前に座る。
「一心さん...」
「んん?」
「私...すごい後悔してるんです」
「ほぉ...何にじゃ」
「一心さんが霊夢さんと戦う時...私は見に行きませんでした」
「...」
「それは霊夢さんが勝つと確信していたからです。霊夢さんは幻想郷でも最強といっても過言ではありませんでしたから」
「カカカッ!最強か!確かに過言ではないな!」
「でも貴方は勝った...」
「...」
「私は貴方の全力をまだ見てません。霊夢さんとの戦いでは...」
「ああ、わしも全力だった」
「やっぱり...」
すると一心は笑い、妖夢の頭に手を乗せる。
「カカカッ!全く弱気になるでない魂魄」
「...え?」
「お主が鍛えれば、いつかわしもお主相手に全力で挑む日も来よう...まずは鍛練あるのみじゃ」
「...はい」
「しかし...まずはどの程度鍛えたか見てやろうではないか」
一心は木刀を手に取り、立ち上がる。
「さぁ参れ!」
「は、はい!」
幽々子は二人の修行を見ながら、お茶を飲む。
そして道場から見える暗い空をじっと見つめた。
「...もうすぐお別れね」
修行を終え、三人は夕食を済ましていた。
妖夢は修行の疲れで寝てしまい、一心と幽々子は縁側に座っていた
「.....」
「...地獄から連絡がきたわ」
「ほう」
「今夜来るって」
「カカカッ...やっとか」
一心は不死斬りを鞘から抜き、刃を見る。
「地獄からの使者がくるのに随分と楽しそうね」
「...」
「...隻狼さんが来るんでしょ?」
「...何故そう思う」
「幻想郷の強者を倒した人がそこらの死神で倒せるわけないじゃない。なら一度貴方を倒した人が適任...って地獄側は考えると思ってね」
「.....」
「それを全てわかった上で、閻魔に喧嘩売ったんでしょ?」
一心は幽々子の言葉を聞いて、さらに笑いだす。
「カカカッ!見抜いておったか!」
「強さを求める貴方ならこのくらいするわ」
一心は不死斬りを鞘に戻し、空を見上げる。
「...魂魄にわしとあやつの見届け人となってもらう」
「え?」
「魂魄に見せるのじゃ...わしの全力をな」
「...」
「魂魄の心中にわしを残せば...暫くはいい修行相手となろう」
「...そう」
「構わぬか」
「ええ」
一心は立ち上がり、幽々子を見る
「魂魄との修行...ここの暮らし...悪くはなかった」
「貴方とのお酒、美味しかったわ」
「...世話になった」
「妖夢ちゃんを鍛えてくれてありがとう」
一心は妖夢の部屋へと向かう。
「さらばじゃ...西行寺幽々子よ」
「いい旅を...葦名一心さん」
「魂魄よ」
妖夢は名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開けた。
そこには一心が見下ろしており、彼女は直ぐ様起き上がる。
「!?一心さん!?」
「出かけるぞ」
「え?」
一心はそう言い残すと、部屋を出た。
妖夢は何が何だかわからなかったが、とりあえず着替えて一心についていく。
庭に出ると、白玉楼の門の近くで一心は待っていた。
「どうしたんですか?」
「...今夜地獄からの使者が来る」
「!」
「恐らく相手は...わしを斬った隻狼じゃ」
「え!?」
「...魂魄よ、お主はその戦いを見届けるのじゃ」
「見届ける...?」
「そしてお主の心中に刻め...わしの全力を」
「心中に刻む...」
「そして強くなれ!お主にはその才がある!」
一心は妖夢の頭を撫でる。
「いつかお主はわしを越える」
「わ、私が?」
「そうじゃ...必ずな」
妖夢は一心の言葉ががまるで最後のように聞こえた。
一心が負ければ地獄に魂を回収される。
もう二度と会えないだろう。
しかし霊夢を倒した一心に、最早敵う相手がいるのだろうか?
それが例え一度負けた相手であっても。
妖夢は思わず、ポツリと一言一心に呟く。
「...負けません...よね?」
一心はその言葉を聞くと、黙ってしまう。
妖夢はその反応に、胸が締めつけられる。
いつもなら笑って、自分は負けない、飲み込んでやると言ってくれる。
しかし何も言わない。
もしかして一心は何かを予感しているのだろうか?
敗けの匂いを嗅ぎとったのではないのだろうか?
すると妖夢の顔に焦りが見え始める。
「い、行ってはだめです」
「...んん?」
「ま、まだ私は貴方に教わっていません」
違う。
一心からは葦名流を全て教わった。
「そ、そうだ!修行しましょう!妖怪の山という場所にいい修行場が」
「...何を言うておる。わしが教えられる事は全て...」
「まだ...まだです!」
妖夢は必死に話す。
すると二人の近くで、足音が響く。
一心は音のするほうに振り向いた。
「...隻狼か」
森から現れたのは、かつて葦名の国にて鍛え上げられた熟達の忍。
竜胤の御子に仕え、たった一人で主人を葦名から救いだした男。
そして剣聖葦名一心を斬った唯一の剣士。
忍義手をつけた隻腕の狼。
「.....」
隻狼は一心の前まで歩くと、片膝を地面につけて頭を下げる。
その背中には、赤の不死斬りを背負っていた。
「一心様」
「久しいな...隻狼よ」
「...」
「カカカッ...お主に斬られた傷が疼いてくるわ」
「.....もう一度貴方を斬りに参りました」
「地獄からの使いだろう」
「はっ」
妖夢は隻狼を見る。
この男が隣にいる葦名一心を斬った男。
殺気を感じない。
だがその姿は異様だった。
とくに左手に装着してある謎の義手が目に留まる。
妖夢は無意識に、刀に手を伸ばす。
「.....」
すると隻狼は妖夢を睨んだ。
その瞬間彼女の顔に冷や汗がどっと流れる。
恐らくこの冥界、幻想郷に関わるようになってから初めて味わう明確な殺意。
殺すというシンプルな意思を宿す目に、妖夢の腕は震える。
弾幕ごっこで鍛え上げた心は、あっという間に崩れた。
「隻狼よ、この娘は関係ない」
「...はっ」
隻狼は頭を下げる。
そして彼は密かに握った刀から手を離した。
「さて...この先に丁度よい広場がある。そこで死合おうぞ」
「御意」
一心は広場へと歩き始めると、隻狼と妖夢もついていく。
三人が歩いていると、一心は隻狼に話しかけた。
「隻狼...お主、九郎を人に戻すため自害したそうじゃな」
「.....」
「...見事な覚悟、天晴れじゃ」
「...それが我が主の為でした」
「...あの閻魔に何を言われた?」
「.....貴方を解放させよ...と」
「カカカッ!」
三人は広場にたどり着いた。
そこはレミリア、霊夢との激戦の跡が残されている。
「隻狼、先に行って待っておれ」
「はっ」
隻狼は言われた通り、先に広場の中心へと歩く。
一心は妖夢の方に振り向き、優しく話しかけた。
「これで別れじゃ魂魄」
「.....」
「そう悲しそうにするな」
一心は妖夢の頭に手をのせ、くしゃくしゃと撫でた。
「わしの姿を最後まで見届けるのじゃ...そして刻み、覚えよ。さすれば心中にてわしは残る」
「...寂しくなりますね」
妖夢の目には、涙が浮かんでいた。
それを見た一心は、妖夢と同じ目線になるように屈む。
「葦名を失い、全てを失ったが...最後の最後にわしの技を受け継ぐ弟子ができた...これ程嬉しいことはない」
「.....」
一心は妖夢の両肩に手を乗せる。
「...妖夢よ、体を大事にな」
そう話すと、一心は立ち上がり隻狼の方へ振り向いた。
そしてゆっくりと不死斬りを鞘から抜く。
「...師匠!」
妖夢の言葉に、一心の歩みは止まる。
「.....」
「...師匠...私は貴方を越えて見せます!お達者で!」
妖夢は涙を拭き、その場に座る。
一心は笑みを浮かべ、歩み始める。
「ああ...迷えば...敗れる...!」
一心は隻狼へ向かっていく。
「待たせた」
一心は隻狼の正面に立った。
「.....」
「さぁ、始めよう」
「.....」
「お主はもう不死ではない。回生はできぬ筈じゃ」
「.....」
「死ねば終わり...わかっておるな」
「...はっ」
「ならば...」
「参れ!隻狼!」
UA10000突破!
ありがとうございます!