冥界に剣聖あり   作:ポン酢おじや

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白玉楼

生きる者は訪れぬ冥界。

そんな場所に建つ広大な屋敷『白玉楼』

そこには一人の主人と庭師が住むだけだという。

 

 

三人は巨大な門を通り抜けると、まず美しい庭が視界に広がった。

 

「ほぉ...見事な手入れじゃ」

「全部この子がやってくれてるのよ」

「剣の腕に加え見事じゃ...まったく驚かされる」

 

二人の会話を聞いて、幽々子に抱き抱えられてる妖夢の顔は赤くなっている。

 

その表情を見て幽々子は楽しんでいるようだ。

 

 

屋敷に入ると、一心は客間に待たされる。

 

あの主人は妖夢の治療を行っているのだろう。

 

しばらくすると幽々子が部屋に入り、一心の正面に座る。

「見事な屋敷じゃな」

「気に入ってもらって良かったわ」

「さて...わしらお互いは何も知らぬ。教えてもらおうか、お主の事」

「そうね。なら私から自己紹介するわ。私は西行寺幽々子。ここ冥界の白玉楼の主よ」

「...葦名一心。わしは葦名の主と言ったところか」

「葦名...どんなところなの?」

「まこと美しき場所よ。だが人外なる力も眠っておる。わしもその力に染まった老いぼれじゃ」

「人外?どういう事?」

「わしはそこらの刀で斬られても死なぬのよ。見た目は人でも...最早人ではない」

「不死って事かしら」

「そうじゃ」

「なら私たち正反対ね」

 

幽々子の言葉に、一心は疑問に思う。

正反対とは何の事か?

すると彼女は淡々と説明し始めた。

 

「貴方は死なない。けど私はもう死んでるの」

「死んでいる...?」

「私は亡霊...魂を持たない存在」

「ほう...確かにお主らからはあまり生気が感じられぬと思ってはいたが...しかし亡霊と言えば透けるものであろう?」

「触れもするし、食べることも飲むことも出来るわ。普通は透けてて人魂でふわふわ漂う事しか出来ないけど...私は特別」

「あの娘も亡霊か」

「いえ、あの子は半分だけ。もう半分は人間よ」

「半霊...なんと不思議な事もあるものじゃ」

 

すると幽々子は一心の服装を見る。

 

「随分とボロボロね」

「わしが動くとすぐ破れる。だがこの格好が一番動きやすい」

「破れすぎて着物じゃ無くなってるわよ?」

「カカカッ!」

 

一心は笑うと、幽々子もつられて少し笑う。

 

「ふふ...面白い人」

「さぁて、西行寺とやら。頼みとはなんじゃ」

「...あの子に剣の指導をしてくれないかしら」

「指導とな」

「あの子には腕や資質もあるのだけども...あと一押し足りないって感じちゃうの」

「ふぅむ...」

 

一心はしばらく悩むが、ゆっくりと頷いた。

 

「構わぬ」

「ほんと?嬉しいわぁ」

「しかしわしは手加減というものを知らん。あの小娘に葦名流を嫌と言うほど叩き込むが...よいか?」

「ええ、あの子のいい経験になるわ」

「よかろう」

 

一心は立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「わしがあの小娘にこの事を伝えよう。どこにいる」

「左に行って二つ隣の部屋よ」

 

一心は幽々子の説明通り、妖夢がいる部屋へと向かう。

 

「少しは楽しくなるかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢は斬られた場所に包帯を巻かれ、布団で安静にしていた。

半人半霊の彼女はそこらの人間よりも、何百倍と頑丈だ。

しかしそんな彼女に動けないほどの傷をつけたあの老人は何者なのだろうか。

 

そんなことを妖夢は考えていると、部屋の襖が強く開かれ、一心が入ってきた。

 

「いいっ!?」

 

あまりの驚きに、近くにある刀を取ろうとするが痛みで動けない。

 

「まて、そう構えなくてもよい」

一心は妖夢の布団の近くに座ると、刀を自分の右に置く。

 

「お主の主から頼まれた。今後わしはお主の剣の指導に当たる事となった」

「し、指導?貴方が?」

「傷が癒え次第、稽古をしようぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり過ぎて頭が混乱してます」

「カカカッ!そうだろうよ。それより、傷はどうじゃ」

妖夢は包帯で巻かれて自分の傷に触れる。

 

「.....すぐ治りますので」

「...そうか」

 

一心は少し安心すると、妖夢の近くにある刀を見る。

 

「その刀...お主のだろう」

「え、ええ」

「見せてはくれぬか」

「...どうぞ」

 

妖夢は長刀と小太刀を一心に渡す。

彼はゆっくりと刀を抜いた。

 

「.....いい刃じゃ。名はあるのか」

「楼観剣、そちらは白楼剣」

「楼観剣...ふぅむ」

 

一心は楼観剣を鞘にしまうと、妖夢に返した。

 

「お主は...二本の刀を扱うか」

「そ、そうですが」

「中々見事な連携だった。あの光る柱を産み出した技も中々驚かされたものよ」

「あ、ありがとうございます」

 

妖夢は少し照れて、布団で頬を隠している。

 

「しかし...お主はまだ未熟よ」

「.....」

「お主の剣筋には迷いが見える。それが消えた時...敵は消える」

「迷い...ですか」

「迷えば敗れる...それを常に心得よ」

 

一心は自分の刀をもって立ち上がる。

 

「ではな。よく休み、傷を癒せ」

「あ、は、はい。よろしくお願いします」

 

一心は部屋から去り、襖を閉じる。

 

静かになって部屋に一人、妖夢は動かす襖を見つめていた。

 

「...あの強い人が稽古してくれる。少しは強くなれるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界には朝も昼もない。

永遠に夜が続く。

しかし夕食や朝食などは決められており、現在は夕食の時間だ。

いつもは妖夢が作るのだが、現在妖夢は負傷中。

 

なので幽々子が簡単なものを作り、一心と彼女の二人での食事となった。

 

「済まぬな」

「いいのいいの。たまにはあの子も休ませてあげましょ。お口に合うといいけど」

「カカカッ!構わぬ...それよりも、そこに置いておるのは」

「お酒よ。一心さんはいける口?」

「好物じゃ」

「なら良かった」

 

幽々子は持っていた酒瓶と猪口を二つ用意し、注いでいく。

そして酒が入った猪口を一つ一心に渡した。

 

「では、頂くぞ」

「召し上がれ」

「...ぷはぁ!うまい!」

「いい飲みっぷりね」

「死する前も、死んだ後も酒はうまい!カカカッ!」

幽々子も猪口に入った酒を飲んでいく。

一心は幽々子が作ったお握りや、漬物、お味噌汁や少し焦げた魚等を食べていく。

 

「うむ、うまい」

「よかった。お料理するなんて何十年ぶりだったから」

「何十年か!今まで誰が作っていたのじゃ」

「妖夢よ。あの子の料理は絶品なんだから」

「ほぉ...料理までうまいのか」

「何でもできるのよあの子は」

「カカカッ!葦名にも欲しいものじゃ」

「駄目よ。妖夢は私のなんだから」

「...だが最早...滅んだ葦名には意味は無し...」

「滅んだ?」

「酒の席じゃ。老人の戯言と思うて聞いてくれるか...西行寺」

「...ええ」

 

一心はゆっくりと語りだした。

酒を飲みながら時には嬉しそうに、時には悲しそうに。

孫の弦一郎、九郎、内府、梟...そして隻狼。

死ぬ前に葦名で起こった出来事を全て話した。

 

幽々子は話を優しく聞き、ただ黙って彼の全てを受け止める。

 

 

 

 

酒が尽きる頃、ようやく一心の話に区切りがついた。

 

「.....そしてわしは...隻狼に敗れここに行き着いた」

「...」

「葦名も、家も全て失って...わしにあるのは不死斬りのみじゃ」

「色々あったのね」

「.....少し飲みすぎたか。どうも口が緩い」

「いいじゃない。今日くらいは」

 

幽々子は別の皿に分けた料理を持って、立ち上がる。

 

「妖夢に食事届けてくるわ」

「うむ」

「それと、まだお酒飲みたい?」

「カカカッ...そうじゃな」

「了解」

 

幽々子は襖を開けて、部屋からでる。

 

 

一人になった一心は、空いた襖から見える空を見た。

 

「.....」

 

今頃葦名は内府に占領されただろう。

しかし気がかりなのは九郎と隻狼の事だ。

 

自分を倒した後、彼等はどうなったのか。

 

死人の訪れる場所では調べようも無し。

 

「...最早わしに出来ることはない」

 

一心はそう自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 




次回 葦名流稽古!
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