以後、生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。
一夜目
「交流会……ですか?」
「そう、交流会」
寝耳に水。
ハルが確認の意味を込めて繰り返した言葉は、聞き間違いではなかった、
交流会などとあたかも柔らかく和気藹々とした雰囲気の言葉だが、実態は全くの逆だということをハルは知っている。
身をもって一年前に知らしめられていた。
東京校と京都校、二校の呪術高専の学生による交流戦。
主に二、三年生が参加メンバーとして選出されるのが通例であったが、特例として当時一年生だったハルは無理矢理出場権利を与えられ――そして、何も成果を出さず惨敗した。
そんな苦い思いでしかない催し事に今年も参加しないか、と誘いが来たのだ。
耳を疑いたくなると同時にむしろこんな私が参加して良いのか、と申し訳ない気持ちがハルの胸の内を満たす。
「え? ええ……そんな、わたしが、だなんて」
「そんな謙遜することなんてないさ。ハルちゃん、君は一年前とは違う。それは僕が保証するよ」
困惑し、表情を暗くするハルとは対照的に対面に座る五条はニコニコ顔だ。
何の心配もない。大丈夫。だからもっと自信持って良いんだよ。
目元がバンダナで隠れていても分かる穏やかな笑みと言葉が俯いたハルを励ます。
それは長雨で痩せ細った草葉に一筋の光が照らしたような包み込む優しさであった。
「五条せんせぇ……」
思わず潤んだ目の縁をハルは拭う。
そうして励ましてくれた五条に感謝の意を込めて熱い視線を向けたハルは、その視界に
対面に座る五条から伸びて、何処かへ消えていった一本の線。
「五条先生……」
口を開いて……言葉が続かない。
言うべきか。言わないべきか。
ハルの脳内でグルグルと問いが巡って、答えが出ない。
自分が触れていい話題なのか。
五条から伸びる一本の
それは五条悟が特定の何かに対して憎悪の想を抱いていることを示している。
「……まいったな。君には隠し事は出来ないね、ハルちゃん」
もごもごと口ごもるハルの様子に五条は苦笑を零す。
「あの、私のせいですか?」
真っ先に疑うのは自身の失態。それとも自身の存在か。
呪術高専入学前から呪術界の上層部と軋轢を生み、それに対して後ろ盾となる五条が色々と働きかけているのをハルは知っていた。
今回もまたそれなのかとハルの胸の内は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いや、君のせいじゃない。だからそんな顔しなくてもいいんだよ」
「……はい」
とは言ったものの、目の前の尊敬する恩師の暗い胸の内を覗き見て、何もしないというのもどうなのかとハルは思う。
薄情ではないだろうか。
お世話になっている恩返しの一つでもするべきだ。手を差し伸べるべきだ。
目の前の恩師に心の内を吐き出すような友が、淀んだ心の膿を取り除ける
「五条先生!」
想像していたよりも大きな声が出る。
「こんな私で良ければ気晴らしにお付き合いします!」
なんでもは出来ませんが、望むがままに気晴らしのお手伝いをさせてください。
そう、ハルは五条に提案するのであった。
「って、ことがありまして……」
こってりと個人指導でクタクタにされました。
同級生と連れ立って歩きながら、ハルは覇気のない声で世間話を締め括った。
全身に伸し掛かる疲労感が日を跨いでもずっしりと残っている。
「ハルは、人が良いっていうか……変なところまで気を回すよねー」
と、パンダ。
「しゃけ」
肯定する狗巻。
「悟は
振り返ってハルの顔を覗き込みながらぴしゃりと窘める真希。
三者同様の反応にハルは間違ったことをしたのかという気分に落ち込んでしまった。
真希の言う通り、余計なお世話だったのかもしれない。
ただ、ハルは五条に初めて会った時から今までの間、五条の人間関係の縁が変わらないことを気に病んでいた。
孤高の人。他人から求められることはあっても自分から他人に求めることは滅多にない。
絆と呼べる縁の糸が薄く細いからこそ、誰かが寄り添ってあげなければ、とハルは思っている。
余計なお世話なのだろうか。独りの人に手を差し伸べることが。
その感情は強くハルに焼き付いて色褪せることはない。
立ち止まり俯いたハル。
その様子に三人の足も止まる。
――真希、言い過ぎでは?
――しゃけ
――ハぁ? 私の所為じゃねぇだろ! お前らだって同じだろうが!
――真希
――たらこ
――~~っ!! ……あー! もぅ!
「っぁ!? ま、真希ちゃん!?」
「気に病みすぎ! そこはハルの良いところでもあるんだから、他人に言われたくらいでくよくよすんな。私だってハルのそういう所に救われたことだってあるし……」
「髪が! 髪が! 真希ちゃん、もっと優しく! 優しく!」
「これから一年との初顔合わせなんだからシャンとしろ! ただでさえ、嘗められ易い見た目してるんだから」
「は、はい~」
不意打ち気味に頭をぐりぐりと強く撫でられ目を回すハル。
慣れないことをした為か、それとも照れ隠しか。そんなハルの様子を一瞥した真希は先に行ってるからな。と言い残して一人ずんずんと歩き出していった。
「……素直じゃないねぇ」
「しゃけ」
「ぅう~……」
パンダと狗巻はそんな真希の背中を眺めて、ため息をつくのであった。
誤字報告ありがとうございます。以下敬称略。
甲乙。
登場人物紹介(おそらく今回だけ)
ハル
世界一幼女に優しくないゲームを作る日本一ソフトウェア作ホラーゲーム『深夜廻』の主人公の一人。
エンディングのおまけでコトワリ様に赤い裁ちばさみを返却したところ、そのまま授けられたシーンあったからこそ、作者の膨れる妄想の糧となった。
この作品では大前提としてハルがコトワリ様の巫女として、大敵である山の神以外にもその能力を行使できることがあげられる。
身長は150も届かず、小柄。髪型は原典同様色の薄い黄土色の髪を三つ編みお下げにしている。頭頂部のトレードマークの青リボンは流石に高校生だとこどもっぽいと判断して、青いリボン付きの小さなヘアピンを前髪につけている。
コトワリ様(理様)
巷では断り様と言われることも多いけど、小説版では理様。
ちなみに縁を切るだけではなくて、縁結びの神としても信仰を受けていた。
(え? マジでポイント)。
作者の独自的な判断で呪霊として扱うなら特級クラス。
(原典では能力なし、術式無しは押し並べて2級扱い)。
ぶっちゃけると、1級は噛ませ以外のイメージもなく、また特級でも上振りと下振りの差があり過ぎて、もぅ…ってなっている。
0巻で堕ちた土地神が一級クラスだって触れられているんだけども、その信仰の関係上縁切りの神で呪の影響を受ける理様を呪霊として扱うのは賛否が分かれそう。
今作では暴走していた時はともかくとして、巫女であるハルの下で制御が可能なので呪術界ではアウトに近いセーフというグレーゾーンに位置している。
(まぁ、見た目も雰囲気も荒神化した所為で真っ当な神にはとても見えない所為もある)
ちなみに、ハルちゃんは大のお気に入り(当然)。
ハルちゃんの活躍で信仰はなくても畏怖は集められているので着々と全盛期以上の力を付けようとしている。