深夜廻戦   作:フールル

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 どうも作者です、
 今回も無事、書ききることが出来ました。
 呪術廻戦の戦闘か? と問われると作者は首を傾げますねぇ。
 どちらかというと夜廻チックかなぁ?

 ってことで、どうぞ。


十一夜目

不義遊義

 

 少女の突き出した鋏の切っ先は空を切り、傍らに碁石がポトリと落ちた。

 東堂、虎杖,真希は少女の側から飛びのき、その存在を注視する。

 

「ハル……先輩?」

「悠仁お前、ハルに敵意向けたのか!?」

「そんなことしてないですよっ!!」

 

 困惑する虎杖。

 恐れていた事態が起こってしまったと、焦りを隠せない真希。

 東堂は黙して思案顔を浮かべて虎杖を横目に見るだけである。

 背筋に流れ落ちる冷たい汗。

 得体が知れない。呪霊の中でも最上級の特級呪霊なら何度か目にする機会があったが、そのどれにも当て嵌まらない。

 深淵を覗いてしまったような恐怖が虎杖の中で渦巻いた。

 少女(ハル)を指さして虎杖は問う。

 

「先輩、アレは何ですか?」

「……ハルだ。今はいつもハルの後ろにいるやつが表層人格を乗っ取ってる」

 

 宿儺(自分)と同じようなモノか。

 だとすれば、表層意識をハルが取り戻すことも可能な筈だ。

 真希の言葉を呑みこんだところで再びハルの姿が空気に溶ける。

 先ほどの不意打ちならともかく来ると分かっているなら、と虎杖は呪力の探知に意識を集中させた。

 ──その虎杖を東堂が蹴り飛ばす。

 

「何するんだよっ!?」

 

 不様に転がらぬよう受け身を取り、東堂に視線を向けた虎杖は言葉を失った。

 少女がいる。

 先の一瞬まで自分が居たところに赤い鋏を携えて、自分を見ている。

 そんな訳があるか。一瞬の隙も見逃さないと意識を向けていた筈だ。

 

「呪力の探知に頼るな! 超親友(ブラザー)ハル(マイフレンド)は、元来呪力を持たない者、探知の網など呪力のonoffでいくらでも潜り抜けれる!」

「押忍っ!」

 

 東堂の言葉に虎杖は意識を切り替える。

 頼れるのは視覚と直感のみ。

 再び少女の姿が消える。

 今度は躱す。その意識で虎杖は集中する。

 死角に現れる少女。

 突き出された鋏を寸前、横にステップを刻んで躱す。

 物のついでに伸びきった腕の先にある鋏を蹴り飛ばす。

 

「よしっ」

 

 放物線を描いて川に落ちる鋏。

 これで目の前にいるのは、武器を持たない少女だけ。

 

「馬鹿野郎っ! 近づくな!」

 

 少女を取り押さえようとした虎杖に”真希”の怒声が入る。

 寸前動きを止めた虎杖は迫りくる斬撃を間一髪後退することで避けれた。

 少女の手には蹴り飛ばした筈の赤い鋏。

 武器を手放させてもダメなのか!?

 こちらの想定を何度となく外す得体の知れない相手に戸惑いが隠せない。 

 気絶させるしかないのか。

 それが手っ取り早く安全に少女の身体からハルが起きるのを待つ手段だと確信し、虎杖は拳を構えた。

 その虎杖の側に真希が駆け寄る。

 

「良いか悠仁、ハルを()()させるな」

「え?」

 

 ああ、そうだよな。ナニ言ってるんだって顔するよな、普通。

 

 分かり易い後輩(虎杖)の表情に苦笑を漏らしたいが事態はそう悠長な場合ではない。

()()少女を気絶させてはいけない。絶対に。

 にじり寄るハルから逃げる虎杖と並走しながら言い聞かせるように真希は続ける。

 

「気絶させたらさせたで表層意識を乗っ取ってる奴が出張って来る」

 

 出張ってきたやつを三人で倒しちまえば、話は早いんだが正直()()の相手はしたくない。

 悟案件だ。私等の手に負えるやつじゃないんだよ。

 深刻な事実を告げる言葉に唾を呑みこむ虎杖。

 

「じゃあ、どうしたらいいんですか?」

「……忘れた」

「ハぁ!?」

「悪い、悠仁。私も直接ハルから聞いたわけじゃないんだ。何処かで……いや、ダメだな、全部朧気になってて欠片も思い出せねぇ」

 

 すまなさそうに頭をかく真希に当てが外れた虎杖はこの場にいるもう一人のハルの友達である東堂に期待の視線を向けた。

 彼はあえてハルに鋏を出させて戦おうとしていたほどの男である。

 この状態になったハルの起こし方を知っているやもしれない。

 だが、虎杖の視線に東堂は首を横に振った。

 

「残念ながら超親友(ブラザー)、俺はハル(マイフレンド)の起こし方を知らん。だが、用意してる策はある」

「おぉ!」

 

 ピンと指を立てる東堂に虎杖の期待は膨らむ。

 真希も感心するような視線を向けた。

 

ハル(マイフレンド)は隻腕だ。その手数には限りがある。その上で右手を無力化すれば何も出来なくなると俺は考えた」

 

 先の超親友(ブラザー)の発想は悪いものじゃなかったのだよ。

 クールな表情を浮かべて、”東堂”は語る。

 

「まず、ハル(マイフレンド)の右手から鋏を取り上げる。次に空いたハル(マイフレンド)の手を掴む! 鋏が持てなければハル(マイフレンド)はただの少女同然! 名付けて握手会作戦だ!」

 

 いや、そのネーミングセンスはどうなのよ。とは真希は突っ込まなかった。

 確かに理には適ってるからだ。

 それにしても先ほどから妙にハルの攻撃が消極的だ。

 瞬間移動を繰り返し、虎杖に奇襲をかけていた時とは違い、歩み寄って来るだけの少女の様子に違和感を覚えた真希は虎杖から離れ少女を注視した。

 目を見開いて唾を呑む。そして指を指した。

 

()()はどうするつもりだったんだ?」

「……想定外だ」

 

 伏黒がそうしていた様に、ハルの影から巨大な赤い裁ち鋏が浮き出てくる。

 ヒトどころか牛や馬でも輪切りに出来そうな強靭かつ巨大な刃渡り。

 ハルがえっちらほっちら頑張って操作していた状態が嘘のように素早く開かれた鋏の咢が獲物(虎杖)を喰らわんと飛ぶような速度で突っ込んでいった。

 

 

 

 夜の街灯の下でハルは目を覚ました。

 

「あれ?」

 

 首を傾げる。首に吊るした懐中電灯が揺れた。

 空を雲が覆い月明かりの無い夜の街道。

 向ける視線の先は夜の闇で覆い隠され、道の先が知れない。

 

「どうして()()に?」

 

 ハルの呟きは夏の終わりを告げる鈴虫の鳴き声と共に溶けた。

 ハルの心象風景。

 何故自身が此処にいるのか。

 その理由に検討がつかない。

 心象風景で目が覚める時はいつも神社の境内だったからこそ、ハルは呆然とその場に立ち尽くした。

 暫し時が経って、ハルは懐中電灯を片手に街灯の下から闇の中へ飛び込んだ。

 

 確か……以前にもこの様なことがあった気がする。

 

 記憶を思い起こしながら夜の道を歩く。

 自身の心象風景故に故郷の様なお化けには襲われない。

 ただ、この一本道がずっとずっと終わることなく続いているのをハルは知っている。

 どうか夜の闇の先が明かされませんように。

 それがハルの願い。

 多くの恐れと可能性を孕んだ光が差さない夜の闇の中でなら失ってしまった繋がりの先にもう一度会えるかも知れないと祈る心の形。

 

「っあ!!」

 

 しばらく当てもなく歩んだ末にようやくハルは思い出した。

 縁切りの神が此処にはいない。

 心象風景が境内だった時は呼び出されたハルと心象風景の主である縁切りの神がいた。

 ハルがこの場に一人ということは──縁切りの神が表に出ていることになる。

 

「え? どうしよう!?」

 

 青い顔して慌てふためくハル。

 あれだけ避けようとしていた事態が今、起こってしまっていた。

 表層意識に浮上しようにも表に出ている縁切りの神を押し退ける力をハルは持っていない。

 

「……真希ちゃん、知ってるかなぁ」

 

 誤って縁切りの神を呼び出してしまった際に縁切りの神を鎮める対処方法は存在する。

 それを実行に移せる可能性が一番高いのはハルが自ら人形を手渡した真希であった。 

 ハルはただその時が来るのを待つしかなかった。

 

 

不義遊戯

 

 何度繰り返されたか。東堂の術式によって虎杖は避けきれなかった少女の斬撃を躱す。

 

「サンキュー東堂(ベストフレンド)!」

「応よ、超親友(ブラザー)!」

 

 虎杖防衛戦線は危うい均衡を保ち続けたまま、解決の糸口を見つけれず時だけが過ぎていった。

 虎杖は回避に専念し、東堂と真希で巨大な鋏をいなす。

 注意が逸れた際に奇襲を掛けて来る少女が厄介であった。

 

「ハル先輩、まだなんですか!?」

「悠仁の例がハルに当てはまるとは限らねぇだろ」

 

 虎杖の体験例を参考に時間を稼ぐが待てども待てどもハルが起きる兆候は見られない。

 ハルが起きるよりも先に外部に居た悟が加勢に来る方が早いのではないか。真希はその様に思い始めた。

 その矢先である。少女は鋏を手放し、静止した。

 

「やった!?」

「まだ安心するのは早いだろ」

 

 鬼ごっこの終焉か。それとも新たな変わり種の投入か。

 警戒を強めた三人が静かに佇む少女を見つめる。

 陽炎が立つ様に少女の側にもう一人の少女が現れた。

 

「増えたッ!?」

「……最悪だ」

 

 瓜二つ、全く同じ似姿の少女の登場に驚きの声をあげる虎杖。

 真希はこれから起こる事態を想像し、険しい表情を浮かべる。

 粘る虎杖に業を煮やしたか。それをされたら打つ手がない。

 虎杖は輪切りにされるか、両腕をきりおとされるしかないだろう。

 詰みの一手だ。

 ここでハルを気絶させようと意味がなく、虎杖を逃がそうと瞬間移動が出来る相手では有効射程など些細な問題でしかない。

 三人の視線を受けながら空いた少女の右手と右手、二つを合わせて一つの印を形作る。

 

領域展--

 

「はい、そこまで。大事な後輩を傷つけたらハルちゃんが悲しむだろ? 石頭」

 

 会場を覆った帳が解ける。

 同時に姿を現した五条が領域展開を遮る様にぬいぐるみを少女に投げつけた。

 少女の動きが固まる。

 結んだ手と手は解け、一方の少女が最初からそこにいなかった様に掻き消えた。

 凝視されるぬいぐるみ。

 五条は黙ってその様子を見守っている。

 ふッと少女の右手に鋏が現れるや否やそれをぬいぐるみに振り下ろした。

 

「はい、お疲れ様」

 

 ぬいぐるみの四肢と頭部をバラバラに解体した後に少女は糸が切れたように倒れこんだ。

 五条がハルを抱きとめる様子に虎杖は地面へとへたり込んだ。

 呪霊の襲撃から始まりハルの暴走に繋がった騒動にケリがついた。

 東堂は胸をなで下ろし、真希はため息を一つ吐く。

 

「おせぇ、もっと早く来い」

「いやーごめんごめん、ちょーっと手間取っちゃてね」

 

 ちっとも悪びれない様子で笑う五条は背中に眠るハルを背負い込むと帰ろうかと、一同を先導し始めた。

 真希ちゃん。後ろを歩く真希に五条が呼び掛けた。

 

「ハルちゃんのケアよろしくね」

「言われるまでもねぇよ」

 

 五条の背中で眠る少女を見て、真希はため息をついた。

 取り返しのつかない事態に陥る事だけは避けることが出来た。

 ならば、彼女が謝り。それを許せば丸く収まるだろうと当たりをつけて。




 誤字脱字報告ありがとうございます。以下敬称略。
 のばら、甲乙。

 ってことで、十と少し続いた交流会編もいよいよ終わります。

 
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