深夜廻戦   作:フールル

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 お待たせしました。
 交流会編完結です。


 理様の出番はまた暫くお休みになるのかなぁ。


十二夜目

「やっぱり、エビとカニの方が良かったんじゃね?」

「馬鹿ね、あんた。ピザといったらトマトとチーズよ」

 

 業者の出入りが制限される都立呪術高専。

 校門の駐在に挨拶しながら、虎杖と釘崎は駄弁りながら歩いていた。

 釘崎の片手にはピザ箱が入ったビニール袋、虎杖の手には炭酸飲料の大型ペットボトルが入ったビニール袋が吊るされている。

 二人はこれから伏黒の部屋で団体戦の個人反省会を行おうと企画していた。

 特級呪霊の乱入によって滅茶苦茶になってしまった団体戦。

 一年組である三人は軽傷で済んだが、その理由は先輩達による尽力であったと言っても過言ではない。

 それぞれが抱いた胸の内をこの際ぶちまけようといった企画である。ジャンクフードと共に。

 

 じゃんけんで負けたが故、ピザの具材の主導権を釘崎に握られたことを悔やみながら虎杖は歩く。

 買い戻しは利かない揺れるピザの箱を見つめる最中ポケットの中で携帯電話が揺れた。

 

「お」

「どうしたの、伏黒から追加注文? もう、遅いわよ」

「真希先輩からだ」

 

 早く出ろやと怒気が込められた釘崎の声を背景に虎杖は通話ボタンを押した。

 

 

「お、もう来たのか」

「割とすぐ近くまで来てたんで」

 

 校門付近から談話室まで走ってきました。

 とは言わず、涼しい顔で虎杖は装う。

 せめてペットボトル置いてから行け! と文句垂れた釘崎に荷物を押し付けたことを後悔はしていない。

 ……仕返しでピザを伏黒と共に食いきるなんてことは無い筈だ、多分。

 ちょっとだけ嫌な予感が脳裏に走ったが虎杖はそれを振り払った。

 

「東堂は居ないんですね」

「あぁ、あいつなら先に来てさっさと帰ったらしい」

 

 入り口には真希の姿しか見えない。

 虎杖が嫌でもその存在感を示す巨漢の存在を口に出せば、真希は眉間に皺を寄せる。

 中のハルが引き留めたんだがな。

 社会性が欠けてる奴だよ。ほんと。

 そう漏らした真希に虎杖は頷いた。

 

「ハル、来たぞ」

「っえ!? もう? ちょっと待っててね、今お茶淹れるから」

 

 椅子から飛び降り、急いで電気ケトルから急須にお湯を注ぐ先輩を見つめて虎杖は思う。

 よく分らない先輩だ、と。

 初対面の時も今も穏やかで素朴な雰囲気を出していた先輩が、得体のしれない不気味な雰囲気を纏い、冷徹な殺意を向けて襲い掛かってくるとは夢にも思えなかった。

 対極に位置している二面性。

 今回、真希から呼び出しが掛かったのもそのことについてだと電話で伝えられていた。

 

 テーブルに三つの湯飲みが置かれ、うっすらと湯気を立てている。

 並んで座る虎杖と真希。対面に座るハルがほぅっと息を吐いて立ち上がった。

 

「この度は大変なご迷惑をおかけして、ごめんなさい!」

 

 綺麗なお辞儀を見せたハルに虎杖、一瞬の思考の空白が生まれる。

 まさか席を設けて謝られるとは思ってもいなかった為だ。

 実のところ、ハルが頭を下げるのは二回目であった。

 一回目は五条の背中で目覚めた後に半べそかきながら、三人の身体に傷がないことを確認しながらぺこぺこと頭を下げていた。

 幸いにも傷を負うことがなかったが、襲った側のハルの方が気に病んでいる様子だった為に虎杖は毒気が抜かれてしまった。

 詳しくは後で話すねと、事件の後処理もあってバタバタしそうな空気があった為にその場は一時お開きにするという形を取っていた。

 

「おう、いいぞ。私も悠仁も傷を負ってないしな」

 

 お前からもなんか言え。

 真希の目が口ほど物を言う。

 

「先輩、俺も気にしていないので頭を上げてください」

「そう? ……ありがとう」

 

 緊張が解れたのは表情を綻ばせ、安心したようにハルは席に腰を下ろす。

 襲われたことは気にしていない。

 それは正直な虎杖の気持ちだ。ただ、どうしても気にかかることがあった。

 

「ハル先輩はどうして俺を襲ったんですか?」

 

 同期と違って虎杖がハルと過ごした機会は数える程もない。

 ハルの手の内も知らなければ、背景も知らない。

 団体戦前のミーティングでそこまで詳しく自己紹介をする時間もなかった。

 虎杖の疑問にハルは難しい表情を浮かべる。

 何故理様が虎杖を襲ったか。

 ハルには暴走当時の記憶がない。

 そこに加えて理様は言葉を交えてコミュニケーションが取れる存在ではない。

 真相は分らず仕舞いだけどある程度の推測で良いならと、前置きを挟んだうえでハルは理様について説明する。

 

 ハルの地元、山の中で人々から忘れ去られた荒廃した神社の神様であり、縁切りと縁結びの神様であると。

 全盛期はどうなのかは分らないが、歪んだ願いを叶え続けた所為で呪の影響を受けてしまい荒神に類する存在に近くなってしまっていること。

 ……たぶん、その所為でやることが物騒……いや、荒っぽくなってること。

 その他縁切りの神に類する知識を口にしつつ、考えをまとめたハルは虎杖の疑問に答える。

 

「理様は……虎杖君を助けたかったんだと思うよ」

 

 まさか自身と虎杖が縁を結ぶことを忌み嫌って、犯行に及んだとは露知らずハルは縁切りの神様の所業を好意的に捉えていた。

 ハルだって昔は一度や二度どころじゃなく何度も殺されかけた。

 

 でも最後は助けてくれたのだから……たぶん、そうだよね。

 だから、理様のことを許してとは言えないけどある程度、理由があったんだと分かって欲しいな。

 

 懐古に浸るハルの視線を受けながら、不承不承ながら虎杖は頷く。

 当人としては、神様の善意であっても殺されかけたのだから仕方のないことだった。

 

「ちなみに先輩は俺と宿儺の縁って切れるんですか?」

「え? そうだね……」

 

 これはちょっとした興味本位の言葉であった。

 だけどそれを真に受けたハルは探るような視線を虎杖に向ける。

 魂レベルで呪霊に取りつかれた──否、自身を呪霊の檻として封じた縁はどうすれば切れるのか。

 ハルの視界では複雑に絡み合った縁が虎杖を取り巻いている。

 

「……ごめんね、今の私だと分らないかな」

「そうですか……すみません、変なこと聞いちゃって」

 

 嘘だ。

 本当は切れるかもしれない。

 それを表に出さずハルは申し訳ない表情を取り繕った。

 両腕では足りない。両足も。それでも足りないかもしれない。

 後輩に向かって首を落とせば切れる可能性があると、ハルはとても言えなかった。

 そんなハルの表情を真希は見透かすように眺めていた。

 

「あの虎杖君!」

 

 聞くことを聞き、長居する用事もない虎杖が席を立った時、ハルは嬉しそうな声で引き留めた。

 

「どうかしました先輩?」

「東堂君と仲良くなってくれてありがとう! 東堂君、嬉しそうに話してたよ!」

「アッ、ハイ」

 

 眩しい笑顔を見せるハルに一時の気の迷いでしたとは言えない虎杖。

 雰囲気に酔っていた。何故自分があそこまで意気投合してしまったのか振り返っても分らない。

 東堂も東堂で偽りの経歴や思い出を捏造し始めてだいぶ気味が悪くなってきている。

 暫く距離を空けて置きたい相手、と根明の虎杖でも珍しい選択を選ばざる得ない巨漢だ。

 

 そういえば、ハル先輩東堂と友達なんだよなぁ……。

 

 団体戦前のミーティングの様子を虎杖は思い返した。

 当時は実物を見ていなかったから、何とも思わなかったが今になって分かる。

 この先輩、何処かオカシイわ。

 あの東堂と友達を続けているハルの懐の広さに虎杖は尊敬を通り越して畏れすら抱く。

 

「それで、コレが東堂君のSNSのアカウント名なんだけど、良かったら反応してあげると東堂君すっごく喜ぶから!」

 

 ハイ、これ! 

 受け渡されたメモ用紙に目を通す。

 執着しているアイドルの名前を捩ったIDを虎杖は白い目で眺めた。

 なんか……地雷臭がする。

 

「ワカリマシタ」

 

 どうすれば良いんだ、俺。

 自分の気持ちとハルの厚意の板挟みを受けた虎杖は痛む頭を抱えながら、談話室を後にした。

 

 

 

 先に行ってるから。と真希が言い残して談話室の戸は閉まった。

 机に置かれた湯飲みを片付けながらハルは一仕事終えたように一つ息を付く。

 

「お疲れ様、ハルちゃん」

 

 何故か自分も一仕事を終えたように五条が椅子に腰を下ろした。

 その五条の前に新しく淹れたお茶を出して、ハルは向かい合うように椅子に座る。

 呆れの混じった視線をハルが向ければ、五条は悪戯小僧のように笑った。

 五条は隠形を以てして初めから最後まで壁際で鑑賞していた。

 ハル以外の生徒には見えていないことを良い事に下らない悪戯を敢行したりもした。

 

「先生は皆に何か言うために来たんじゃなかったんですか?」

「いや、単に暇つぶしなだけだよ」

 

 本当かな。

 訝しむハルを他所に湯飲みに口を付けのびのびと背を伸ばす五条は、如何にも自由人である。

 無論、暇つぶしになったのは結果だけを見ての話しだ。

 ハルが仲間との不和を残したり、この場で虎杖に襲い掛かるようであったなら仲裁に入るつもりではあったのだ。

 その心配は杞憂であったが。

 

「ハルちゃん、今年の団体戦は楽しかったかい?」

 

 世間話をするような気分で五条はハルに問う。

 額面通り受け取っていいのだろうか。ハルは思い悩む。

 特級呪霊の襲撃によって団体戦の結果は有耶無耶に終わってしまった。

 良いところを作ることも出来ず、挙句の果てに暴走してしまったハルにそんなことを聞いてくるのか。

 ハルは俯いて悶々と考える。

 五条から悪意は向けられていない。徒にハルを傷つけたくて話を聞いてきたわけではないのだ。

 本校の方では襲撃によって人死にまで出てしまった為に交流会を個人戦まで続けるかも怪しくなってしまっている。

 このまま終われば去年同様足を引っ張るだけの存在で──いや、それは違う。

 ハルは俯いた視線をぐっと上げて五条を見る。

 何かを期待するような、そんな表情を五条は浮かべていた。

 

「皆にはいろいろ迷惑かけて……虎杖君を殺しかけたりもしました。……だけど、楽しかったです」

 

 去年とは違う。

 鍛錬を重ねたり、作戦を練ったりもした。

 交流会前の準備があったから、ハルは都高専のメンバーとして共に肩を並べることが出来た。

 結果は散々だったけど、その過程を振り返れば良い思い出になっている。

 

「君を交流会に誘ってよかった」

 

 ハルの言葉を五条は笑って受け止める。

 そして肩を鳴らしながら、席を立った。

 

「さて、と。皆が待ってるぜ、行こうかハルちゃん」

「はいっ」

 

 これから交流会を続行するか、否かの話し合いが始まる。

 最弱のハルにとって個人戦の有無は大した影響ではない。

 団体戦でもそうであったように個人で勝てる相手を見つける方が難しい。

 それでも、もし個人戦が設けられたら精一杯応援して、思い出をまた一つ作ろう。

 ハルは笑顔を浮かべて談話室を施錠する。

 廊下を歩く足取りは軽くなっていた。




 誤字脱字報告ありがとうござます。以下敬称略。
 赤犬、赤頭巾、甲乙。

 ってことで、交流会編完結です。

 え? 野球?
 そんなモノはナカッタ。イイネ?

 最近、深夜廻の動画を見直して……アフターエピソードでコトモちゃんがしっかりとムカデ神社の巫女をやっていたことを思い出しました。(感想で触れた方、すみません)

 ……けど、神社取り壊されて力の大部分が弱くなった巫女要素を廻戦の世界戦に持ってきたら、蹂躙される未来しか見えないんですよね。
 加護マシマシのソルトスプラッシュでも限度があるよ、コトモちゃん。

 アンケート置いておきます。〆切はだいたい1週間後くらいを考えてます。
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