なんか筆が進んで良い切りどころだったので更新です。
「もうすぐ××市に入りますが、二人とも詳細は五条先生より聞きましたね?」
運転席に座る伊地知が信号で停車した際に、乙骨とハルの方へ振り返り尋ねた。
呪本についての話だ。
五条先生からはえらく省かれて説明された覚えがある。
流れる風景を眺めていた乙骨は五条の話を思い起こした。
「いえ、聞いていません」
大枠だけしか聞かされていないことを伊地知へ伝えると、がっくりと肩を落として彼は息を吐いた。
青信号、車が発進する。
想定していた段取り通りにいかなかったのだろう。
眉間に皺を寄せて、頭を整理させるために缶コーヒーを一口二口。
暫くして内容が纏まったのか、伊地知はハンドルを握りながら仕事の詳細を口に出し始めた。
××市に住む三人の一般人が呪霊の被害に遭った。
三人の共通点として市立図書館を利用した事があげられ、その際に三人とも借りた覚えのない一冊の本が紛れ込んでいた。
本を借りたその日の晩から
また本を返却すると怪現象が止む。
伊地知の話の要点を纏めると以上の事が分かった。
「術師を駆り出すまでもない案件だと上の方も判断し、
チラリと乙骨が視線を横に向けると座席に深く腰掛けた為か足をプラプラと揺らしながら話を聞いているハルの姿がある。
そういえば五条先生は失せ物探しのプロと彼女を称していた。
伊地知さんの様な補助監督からも信頼されてて凄いなぁ。
乙骨の尊敬の眼差しに気づいたのか。
ハルは乙骨の方を一瞥して首を傾げる。その後、ハンドルを握る伊地知に視線を向けた。
「遺留品はあるんですか?」
「被呪者の図書カードをお借りしてきました。現場に到着次第渡します」
それから暫く移動して、住宅街に囲まれた図書館の前で車は停車した。
何処か真新しい、とても呪本が存在するなんて思えない様な雰囲気だ。
車から降りた乙骨は不思議そうに図書館を観察する。
片手指で足りる程しか現場は経験していない乙骨の予想を外れた。
学校は何かと曰くが付く。シャッターの多い商店街も寂れた感じがして、如何にもという雰囲気があった。
目の前の建物は全然ボロボロではない。
補修工事中でもない。ペンキはキチンと塗り直され、管理が行き届いている事が窺い知れる。
「こちらが話にあった図書カードになります」
図書館の外観観察を早々に切りあげれば、車から降りた伊地知から図書カードをハルに手渡しているのが見えた。
そういえば、ハルちゃんのこと何も知らないや。
真希は呪具、狗巻は呪言、パンダはパンダ。
三人のことはそれなりに知っているが乙骨はハルの事について何も知らなかった。
見た目が小さい。幼く見える。左腕がない。笑う時に花が綻んだ様な優しさが溢れている。
それくらいしか知らない。
「図書カードで何か分かるんですか?」
隣に立ってハルが注視する図書カードを眺める。
何処にでもある有り触れた
乙骨が尋ねればハルは日の光に図書カードを翳して答えた。
「私はね、モノに結ばれた縁の糸が見えるの。この図書カードだと持ち主の人がこういう本を借りたんだ。みたいな事が分かるんだよ」
「……まるで探偵ですね」
「そこまでじゃないよ」
優しく説明するハルの言葉に乙骨が凄いと漏らせば、ハルは首を振って否定した。
無論照れ隠しだ。
呪術師でも見えないモノがあることを素直に信じて褒める乙骨の好意にハルの頬が少しだけ火照る。
外の駐車場で待っていると伊地知が伝えてきたので、二人は早速図書館の中に入ることにした。
自動ドアを潜れば古い本の匂いが鼻に吸い込まれる。
外観がそうであったように図書館の内部もまたキチンと管理が行き届いたモノになっていた。
平日の昼下がりとはいえ、少ないが他の利用者の姿も見える。
それでいて、一切の雑音がないのは此処が図書館であるからであろう。
ハルの先導に従って本棚の波を縫うように歩く。
地元では見ない学生服に職員からは注目されているが、他の利用者からはたいして気にもされていない。
「この本棚の……左から三つ目お願い」
「これ?」
「ううん、それのもう一つ隣」
図書館ではお静かに。
声量を出来るだけ落としたハルの指示に従いながら高い位置にある本を選び取る。
それを何度か繰り返し、乙骨が両手で本を抱える様になったところで一度机に戻ることになった。
机に置かれた大量の本。
それを一冊、一冊目を通して確認する。
民話。地域史についての本が多いな。
ハルに倣って乙骨もパラパラとページを流し読みしながら確認する。
ハルが選び取った本のジャンルは概ね固まっていた。
この内のどれかが呪本なのだろうか。
呪力探知を尖らせる気持ちで一冊一冊確認するが、乙骨にはどれも同じように見える。
その内の一冊に乙骨は目が留まった。
タイトルは全国の縁結び、縁切り神社について。
中々にニッチな内容を監修した本も図書館に置かれているんだなと感心すると共に意識は呪本ではなく自身に憑いた呪霊里香に向けられた。
縁切り神社の力を借りれば、里香の解呪も進むのだろうか。
そう思ったところで乙骨は頭を振る。
特級呪霊である里香を早々に祓える神社があるなら、今こうして呪術高専に通っているわけがなくなる。
僕が里香を祓わなければいけないんだ。――だけど、もし祓うことが出来たら僕は……どうなるのだろう。
「乙骨君、大丈夫?」
「ああ、うん、ごめんごめん。なにかあった?」
固まった乙骨が気になったのか掛けられたハルの声に乙骨は渦巻いた思考から意識を戻す。
見ればあれだけあった本は確認し終えている。
呪本はあったのだろうか。
乙骨の視線にハルは首を横に振った。
「此処に呪本はないよ」
本を返却カートに戻した二人は図書館を後にし、伊地知の下へと戻った。
いつの間に時間が経ったのか茜色に空が染まっている。
「なるほど……やはり呪本は見つからなかった、と」
「はい」
乙骨を除いた二人はダメで元々な気持ちで呪本を探していた。
本に憑いた低級呪霊を日のある内から探すのは無理があったのだ。
やはりこうなるのか、と肩を落とした伊地知は携帯を取り出して何処かへ連絡をかけ始めた。
「ハルちゃん、これからどうするの?」
「夜にもう一回出直して探すことになるかな。呪霊ってやっぱり、夜の方が活発化するから」
なるほど。
ハルの言葉に乙骨は頷いた。
帳を掛けれない以上、昼間の探索で呪本が見つけれないのなら夜にもう一度図書館の探索を行うしかない。
「うん?」
そこで、ふと思考が立ち止まった。
ナニか見落としている気がしたのだ。
固まった乙骨を不思議そうに見上げるハル。
そこに通話を終えた伊地知が二人に向き直った。
「二人とも、ホテルを無事取ることが出来ました。深夜まで休憩しましょう」
それだ!
喉に刺さった骨が取れるように乙骨の違和感は晴れた。
「深夜って伊地知さん、図書館はそんな時間まで開いてませんよ」
図書館の自動ドアには夜八時には閉館すると記載されている。
それ以降の時間に此処に来たって本を探すどころじゃないだろう。
そう思って口にした乙骨だったが、二人の口から同意の言葉はない。
「申し訳ありませんが、忍び込んで貰うしかないです」
「うん、不法侵入だね」
「え、えーー!?」
さも当然のことの様に口を揃えた二人に乙骨はカルチャーギャップを感じるのであった。
誤字脱字報告ありがとうございます。以下順不同、敬称略。
赤頭巾、甲乙。
まだ前説でした。
可笑しいな……深夜徘徊入れると思っていたのに。
ってことで、夜廻なんだからね! そら、美味しいネタ仕上げないと!
けどこれ、呪術廻戦のクロスオーバーなんですよねー。
テイストに呪霊味薄すぎて……。
読了ありがとうございました。