余暇を別の事に使っていた為です。
ってことで、話の切り替わり、話としては序。
章としては破に当たります。
ではではどうぞ。
夏が過ぎ、秋が訪れて暫く、秋晴れの夕暮れを背にハルは高専の敷地内をチャコと共に散歩していた。
肌を撫でる風が少し冷たく感じる。
冬はもうそこまで来ていた。
茜色に染まった空を見上げてハルは足を止めた。
何処までも続く澄んだ赤。
この空は場所が違っても今も昔も一緒だった。
”夕焼けが綺麗に見えるから明日は晴れだよ"
親友はいつもハルの知らないモノを優しく教えてくれた。
ハルが目を輝かして褒めれば、照れくさそうに頬を染めて笑う親友の表情がハルは大好きだった。
「ううん、なんでもないよ」
ふと足を止めた主人が気になるのか、先導するように歩いていたチャコが振り返り、首を傾げる。
愛くるしいペットの気遣いに微笑みながら首を振ったハルはリードを握り直した。
散歩再開。
嬉しそうに尻尾を振りながら前を歩くチャコを眺めながらハルは歩く。
ふと、校舎の角から此方に向かって駆けて来る人影が見えた。
「ハルちゃん」
「乙骨君、こんばんは」
夜には少し早かったけどハルの目の前で止まった乙骨にハルは挨拶を返した。
上下運動着に揃え、息を整え汗を拭っている様子からランニングの最中だったのだろう。
たまたま見掛けたから立ち寄ったのか。
乙骨の足元でクルクルと回るチャコに手を伸ばして撫でる乙骨は何処か穏やかな様子である。
「ごめんよ、いまおやつは持ってないんだ」
「もー……乙骨君もそうだけど、皆チャコを甘やかすから太らないようにするの大変なんだよ」
人懐っこく、賢い小型犬のチャコは都高専のアイドルだ。
会う人、会う人がチャコを撫でておやつをあげるものだからチャコの健康管理に気を遣うハルは少し大変な目にあっている。
いつの間にか購買の隅に犬用のおやつが置かれているのを発見した時は、思わず驚きの声を漏らしてしまった程だ。
ハルの抗議の声に乙骨は軽く笑いながら"ごめんごめん"と謝った。
「ハルちゃんはまだ散歩?」
「うん、もう少し歩こうかな」
「ついて行こうか?」
もうじき日が沈む。
そうしたら
都高専といえどもお化けは湧く。
否、これは都高専云々の話ではない。夜を恐れる人がいるからお化けはそこに在るのだ。
呪が土地に染み付いてしまっているから尚更のこと。
呪力を持たないハルがお化けに遭っても容易に祓えないことを気にしての乙骨の提案である。
その乙骨の提案をハルは首を振って断った。
「ううん、大丈夫。乙骨君も汗冷えして風邪ひいちゃうかもしれないし」
「そう……気を付けてね。それじゃ」
「うん、またね」
少し残念そうな表情を浮かべたものの、ハルの言葉に乙骨はランニングを再開した。
遠ざかる乙骨の背中を眺めて、ハルはほぅっと息を吐く。
足元でチャコが早く早くと急かしている。
「うん?」
握りしめたリードに引っ張られるように一歩踏み出した時、ポケットの中の携帯電話が着信を知らせた。
「チャコ、ちょっと待って」
ハルが声を掛ければ、チャコを此方に駆け寄りお座りをする。
ありがとう、チャコ。
賢い愛犬に感謝して、ハルはリードを手放しポケットの中から携帯電話を取り出した。
「……」
着信画面を見て、表情が引き締まる。
彼女からの電話は、だいたいが彼女の手に余り、自身に助けを求める連絡であったからだ。
〈はい、ハルです。──うん〉
〈──そうだね……先生に相談してみる。ううん、気にしないで大丈夫〉
「本日の授業は──特別実習に変わりまぁす!」
「ハぁ?」
翌日、始業のチャイムと同時に教室にダイナミックエントリーしたのは、授業科目の担当教員ではなく五条悟であった。
いつにもなく、テンションが高い。
そんな話聞いてないぞと怪訝な鋭い真希の視線なんてどこ吹く風だ。
生徒との触れ合いを楽しみにしているのか。
それとも何か良いことがあったのか。
どちらにせよ、都高専一の社会不適合者にして問題児に振り回されることを予見したのか、ハルを除く教室の面々はげんなりとした雰囲気を空気に漂わせる。
勿論、五条はそんなのお構いなく火が付いたテンションのまま、生徒たちの尻を叩いて高専の駐車場へ移動させた。
駐車場にはエンジンが掛かったハイエース一台がハル達を待っていた。
その車の側で佇む男性が一人いる。伊地知だ。
わざわざ待っていなくてもいいのに。
ハルはそう思ったがたとえ冬の到来を待つばかりな気温の中でも大人の事情がそこにはあるということだ。
そんな伊地知を五条は軽く弄った後に我先にと、車に乗り込み後部座席の一番後ろを占領した。
それに続くように生徒達も乗車を始める。
「ハル、後ろの席まだ余裕があるぞ」
「ううん、真希ちゃん。私は此処に座らないといけないから」
真希が口にしたように五条含めて五人座ってもまだ後部座席には余裕がある。
進んで助手席に座ったハルに違和感を覚えられてもおかしくないが、これはあらかじめ決めていたこと。
ハルの含みのある言葉に首を傾げつつも、事情ならあとに分かるかと真希が座席に腰を下ろしたのを確認して、伊地知は車のアクセルを踏んだ。無論、乗車している全員にシートベルトの着用をお願いして。
「そろそろ実習の詳細を話せよ、悟」
「んふっぶふ~」
「口の中呑みこんで話せ!」
五条が持ち込んだお菓子をシェアしながら朗らかに目的地に向けて進む呪術高専一行。
一人シートベルトを付けないで席を移動する五条に痺れを切らして詰め寄る真希の姿をハルは座席越しに覗き込んでいた。
「気になるのでしたら一度止めて、後ろに行きますか?」
「……いえ、此処で見ているだけでも楽しいので大丈夫です」
ハルさんがそれで良いなら……。
お気遣いありがとうございます。と、後ろ髪引かれながら頭を下げたハルを伊地知は缶コーヒーを口に含みながら見つめた。
謙虚で引っ込み思案と呪術師には珍しく我を表に出さないハルを伊地知的には積み重なる心労の癒しにしているのだが、それはそれとして見た目相応に自分を強く出しても良い場面では大人に甘えて欲しいと思うことも多々ある。
その背中を押すのは私では……ないですね。
あくまで自分は補助監督。そこの線引きを伊地知は弁えていた。
「今回の実習地は──……××市でーすっ!!」
「は?」
「は? じゃないでしょう。は? じゃ。えー知らないの真希ちゃん?」
あぁ、イライラしてる。真希ちゃん。
サプライズ成功からダル絡みに移った五条にその餌食になった真希が目に見えて機嫌が悪くなっていくのをハルは感じ取った。
うわ……近寄らんとこ。
真希から立ち上る黒いオーラを見て、狗巻が一つ後ろの席へ移動する。
「い・い・か・ら──さっさと話せや!」
直接五条を殴っても意味がないのは百も承知だ。
だから真希は壊れない程度に前に座る五条の座席を何度も何度も蹴りつける。
勿論それも大した意味はなさないのだが……。
ナイスコミュニケーション。
生徒と戯れることが出来て満足気に笑みを浮かべた五条が本題に触れるにはもう少し時間を要したのだった。
「××市は、ハルちゃんの故郷だよ」
ようやく真面目に詳細を説明する気になった五条の言葉に一同の視線はハルへと向いた。
ちょっと物騒な里帰り。と表現は出来るが、ハルがその街に居たのは九つの夏の終わりまでだ。
実家は別の街にある。
助手席に五条ではなくハルが座っているのは道案内の為だ。
道はたぶん変わっていないよね。うん、きっと大丈夫。
これから向かう場所はハルでも六年のスパンを空けている。
事前に地図アプリで道路図の大掛かりな変更のチェックは済ませていた。
それでも不安が残るのは、日が差している間にその場所を訪れたことがない為だ。
昼と夜では町の印象はガラリと変わる。
ハルがあの日、町中を駆け回り懐中電灯の明かりだけを頼りにしていた際とは違って見えるモノが多過ぎた。
「ってことで、ハルちゃん説明よろしく!!」
「へ、っあ、わっ!?」
ポンとハルの肩に手を置いてサムズアップする五条。
その瞬間グルンと視界が回る。
ハルが瞬きをすればいつの間にか五条の座った席に腰を下ろして、五条が助手席に座っていた。
瞬間転移。
高度な術式を五条は雑に扱った。
「で、でも道案内が」
「まだ××市に着くまで時間あるでしょ? 僕、仲間外れって良くないと思うんだよねー」
単にあなたが面倒を負いたくないだけでは?
隣で運転する伊地知の視線を素知らぬ振りをして、”到着まで寝るねー”とリクライニングを倒した五条にハルは反論を突く暇がなかった。
事前に先生には話していたのに……先生が説明するって言ってたのにー。
戸惑うハルが五条に視線を向けてももう意味がない。
サングラスの奥の眼は既に閉じられているのだろうか、大変リラックスしている様子である。
「ま、とりあえず悟が用意したお菓子でも食べて駄弁ろうぜ」
「うん……ありがとう、真希ちゃん」
ハルは真希からうまい棒を一つ、受け取って包装紙を剥く。
あ、コーンポタージュだ。美味しいっ。
サクッと口の中で割れる駄菓子。口の中に広がる優しい味にハルの頬がほころぶ。
モグモグと一本食べ終えると、頭の整理が追い付いたのか言葉一つ一つを選びながらハルは同級生達に今回の案件の詳細を説明するのであった。
立派なお屋敷だ。
その建物を見た乙骨は素直な感想を胸中に抱いた。
周囲の住宅からは少し距離を置いて、木々に囲まれた空間にポツリとその建物はあった。
立派な木造の屋敷。
少し年月を感じる様な風貌だがボロではない。
しかし、それはこの場において異質他ならないモノになっていた。
荒れ果てて雑草が生い茂った庭。錆びついた柵の付いた朽ちた煉瓦支柱。
ヒトから離れてだいぶ時間が経っているのが分かる。
チグハグなのだ。
この屋敷だけが時間から取り残されたように状態を保っている。
──危険 立ち入り禁止!
煉瓦の支柱に真新しい張り紙が張られていた。
誰が残したんだろう。家の人ではなさそうだけど……。
張り紙を一瞥して乙骨は屋敷の入口へと向かう。
閉ざされた両開きの戸。それを前に伊地知が軍手を佩いてペンチを片手に格闘を続けている。
有刺鉄線がドアノブをグルグル巻きにしており、乙骨達の侵入を阻んでいた為だ。
暫く時間が掛かりそうだったので乙骨達は各々、周囲探索で時間を潰していた。
特にめぼしい物は見当たらなかった。
「……あぁ乙骨君ですか。もうすぐ終わるので皆さんを集めてくれますか」
進捗は如何ですか。
伊地知の手元を覗き込んだ乙骨に軍手で汗を拭いながら伊地知は声を掛けた。
乙骨が声をかけ回れば、皆ようやくかと心待ちにした様子である。
後はハルちゃんだけだな。何処にいるんだろう。
キョロキョロと辺りをくまなく見渡しながら乙骨はハルを探す。
小柄なハルは物陰にその身を遮られるとすぐには発見することが困難だ。
「あそこかな?」
敷地内を練り歩きながら虱潰しに選択肢を絞って行けば、残すは庭の角に生えている木の周辺。
大きな一本の幹の陰に揺れる枯草色の髪を見つけて乙骨は安堵の溜息を吐いた。
「ハルちゃん、もうすぐ有刺鉄線取れるって」
「え、そうなの。ありがとう乙骨くん」
草葉の陰にナニかいるのか注意深く探しているハルは、乙骨が声を掛けるとパッと顔上げた。
よほど集中していたのか、近づいてきた乙骨の存在に気が付いてなかったようだ。
乙骨もハルに倣って地面を俯瞰して見るが、見えるのは冬の雑草だけ。何もおかしなモノはない。
「ナニか探していたの?」
「ううん、ずっと前に一度見掛けたことがあって……また、此処にいるかななんて思ってただけ。それよりも早く行こ、皆待ってるんだよね」
ハルに手を引かれる様に二人連れあって屋敷の玄関へ向かう。
後ろの草むらが微かに揺れた気がしたが乙骨は気のせいだろうと気にも留めなかった。
『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』
呪術高専一同が集まったのを確認して五条が帳を下ろす。
日の光は結界に遮られ、疑似的な夜の空間が辺りを囲い込んだ。
ゾワリと生ぬるい風が屋敷の方から流れて乙骨の肌を撫でる。
やっぱり、この建物ナニかある。帳を下ろす前とじゃ全然違う!
乙骨の探知感覚でも感じ取れる嫌な雰囲気。それが目の前の屋敷にある。
「詳細は車の中で説明したからもう一度口にする気はないけど、パンダ、真希は他の面子と逸れないようにね」
「了解」
「子供じゃねえんだ、そう念を押さなくても分かってる」
五条の言葉に二人は頷く。
二級から準一級の呪霊と推定されている今回の討伐対象は個々の能力を見ると真希とパンダではまだ荷が重い可能性があった。
「僕は2時間後に皆が戻ってこなかったら様子見に行くから、危ないと思ったらなんとか持ちこたえてね」
頑張ってきてね。
五条の言葉に背を押されるように先導してハルがドアノブへ手を掛ける。
鈍く軋むような音を立てて、お化け屋敷はその口を開けた。
「行ってきます」
「うん、いってらっしゃい」
ペコリと会釈したハルに五条は手を振る。
最後尾の狗巻が屋敷に入ったところで扉は不自然な動きを見せてバタンと固く閉じた。
誤字脱字報告ありがとうございます。以下敬称略。順不同。
ヌルポ撲滅の使徒、赤頭巾、甲乙、烏瑠。
大柱パイセン討伐実習です。
唯一ハルが遭遇した中で呪術廻戦でも取り上げられそうな怪異です。
下水道のネズミは供養してますし、同じく雨女も供養?済み。
山の神は理様が討伐。
割と夜廻シリーズのボスってことも、ハルによって祓われるケースが多いですよね。
アニメ見ていると花御戦加筆修正出来ないかなーなんて思う日々です。
もうちっと表現を厚くしたい気がします。(いつかやります)
此処からは話から外れて。
作者、角川ホラー文庫をなんとなしに読み漁ったりしています。
書き方がちょくちょく変えているのは試験的なモノですね。
ホラーモノって、神の視点であってもキャラクターの内情をそのまま文として語らせたりしているのが気になったので。
あと、動画サイトで深夜廻の実況の更新を確認するのも日課になりました。
個人的な百点満点は以前にも話した通り、でいま期待の星がpik〇meeさんです。
ゲームの雰囲気を大事にしてる事、お化けを怖がっている事などなど……後は、明るい声色の彼女が廃電車の後の急展開、赤いリボン入手の時の心情、ラストのお別れでどんな実況をするのだろうと愉悦が溢れてきますね。