深夜廻戦   作:フールル

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釘崎、相対する油と水。
ハルちゃん、特訓開始!

の2本です。


二夜目

 

 異質だ。

 目の前で仲良くじゃれ合う先輩達を前に釘崎は、その様な思いを抱いた。

 まず、長身で眼鏡を掛けた女性。

 虎杖を亡くし、落ち込んだ伏黒と釘崎を通夜みたいだと称したことを後悔している様子からしてもマトモな感性を持っているのかもしれない。

 次に語彙がおにぎりの具材な先輩。伏黒は呪言師と説明しているが、いまいちピンと来ない。

 体格から中肉中背な男性であることは伺えるが、語彙と口元を覆い隠す様に襟元がチャックで上げられていて表情が読めない。

 そして動いて喋るパンダ。もはやヒトですらない。

 呪術界のパンダは動いて喋る! そんな事がまかり通ってしまっている。

 どいつもこいつも個性のバーゲンセールですか? と尋ねてしまうレベルにキャラが濃い。

 自分の事を棚に上げて割と失礼なことを考えている釘崎の目を引いているのはその三人いずれでもない。

 瞳孔を開きガン見する釘崎の視線に困ったように笑みを浮かべる少女。

 背丈がかなり小さい……いや、これはもう幼いと称していいのではないか。

 小学生女児を呪術高専の制服を着せて連れてきましたと言っても良いぐらいだ。

 

「ハル先輩。高専のマスコット兼清涼剤」

「はぁ!?」

 

 先輩。やはり彼女も先輩らしい。

 自分よりも一つ年上であることに釘崎は驚きが隠せない。

 伏黒の説明も説明だ。マスコット? 清涼剤? 一体何なんだ。

 普通女子学生という生き物は、その年齢を重ねる行程で色々な社会を知り、学び、擦れていくモノなのだ。

 そこに田舎も都会も差なんてあったものではない。

 なのに。なのにだ。釘崎が感じ取ったハルの異質さ。

 純粋(ピュア)だ。

 小学生の頃、ある一定の時期を超えてから見ることが無くなったソレ。

 久しく目にしていなかった存在に釘崎は自身の目を疑う。

 早くにして周りよりも擦れ、斜に構えた様なプライドを持った自身と対極に位置するような存在。

 自分が早々に捨て去ったモノを彼女は今も持ち続けているというのか。

 人々の負の感情、呪によって悪意に晒され続けるこの業界で?

 既知を覆す目の前の少女の存在を釘崎は呑みこめないでいた。

 

「釘崎……釘崎、大丈夫か?」

「っは! 大丈夫、伏黒。私は大丈夫。って、なによコレ」

 

 口にしたその言葉は壊れたブリキの玩具の様であったが、手渡された物体に釘崎の意識が向く。

 コンビニに売られているような包装紙に包まれた駄菓子。

 何故、今これを?

 疑問に思う釘崎の視線を受けて、伏黒は口を開く。

 

「飴玉。お前がハル先輩見て固まってるから。先輩と馴染むならコレだ」

「飴玉って……」

 

 餌付けかよ。

 内心にぼやく。が、同級生から背を押されてスルーする(無視を決め込む)のは極まりが悪い。

 よいせっと階段から腰をあげて、スタスタとハルへと歩み寄る。

 うわちっさ。顔ちっちゃ。

 近くに歩み寄れば益々分かるハルの小柄さ。

 傍で見下ろせば見上げるハルと目が合った。

 膝を折り、目線を合わせて飴玉を差し出す。

 

「ハル先輩、釘崎です。よろしくお願いします」

「わー! ありがとう!」

 

 知らない人からモノを受け取っちゃダメって教わらなかったのか、オマエ。

 満面の笑みを浮かべて受け取るハルに釘崎、内心ささくれる。

 

「うん、美味しい」

「それは……よかったです」

 

 あぁ、ダメだわ私。

 いつの間にか汚れてしまったのね。

 飴玉を頬に転がし、笑みを浮かべるハルを見つめると釘崎の瞳から滴が流れ落ちた。

 遠い過去に失ったことを惜しんだことはない。

 されど、失ったものをありありと突きつけられると月日の残酷さが胸を痛めつけてくるのであった。

 

 

――閑話休題

 

 

「ハル先輩、こっち側なんですね……」

「ぇ? う、うん!」

 

 気を引き締め、交流会に向け二年先輩勢から指導を受けることになった伏黒、釘崎。

 伏黒は所用の為一時的に席を外しているのでこの場に居るのは一年釘崎のみ。

 あと、その横で気勢をあげるハル。

 毒気が抜かれるとはこの様か。気合を入れているのに反して何故か微笑ましく見える。

 恐るべきマスコット力。

 そもそも先輩は指導する側じゃないのか。

 気合入れている中にそれを聞くのも無粋か。と釘崎は疑問を呑みこんだ。

 

「交流会のハルは弱いからな。呪具が馴染んでからが漸くスタートラインってところだ」

 

 表情に出ていたのだろう。

 ハルに呪具を渡しながら釘崎に真希が答える。

 その横では、数珠と木刀を持ったハルが感触を確かめる様にぶんぶんと右腕を振っている。

 お土産屋で遊ぶ子供の姿を連想されるのは何故だろうか。

 

 

 ハルは弱いからな。

 真希の口から出た言葉をハルは否定しない。

 事実であるからだ。

 本来、呪霊を見ることが出来るだけのほぼ呪力0の一般人なハルが呪具で幾分か増力(ブースト)をかけたところで、たかが知れていた。

 一年前はその特殊な背景から呪術界の意向を汲んでの選出。

 今年は面子不足が原因の補欠要員抜擢。

 面子が足りていれば今年の選抜はなかっただろうことは、ハルも理解している。

 ハルは弱い。その通りなのだろう。

 だけど、あの五条先生が去年の自分から大きく成長したのだと自信を持って言い切ったのだから、ここは成長した自分を同級生に示そうではないか。

 真希ちゃんは……初っ端からハードルが高いので後に回すとして。

 

狗巻くん! パンダさん! 一年前から成長した私を見せるよ! 何処からでもかかって来て!」

「おおう!」

「しゃけ!」

 

 一年前の私は一人ずつでも厳しかったけれど、今年の私は二人掛かりでも相手出来る!

 ……筈!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 膝を抱えて顔を埋めるハルを伏黒が見かけて、溜息を零すのは一時間後のことであった。

 




 赤頭巾さん、さーくるぷりんとさん誤字報告ありがとうございます。
 
 田舎に居を構えていますが、子供が虫取り網を片手に歩き回ったり、自転車にサッカーボールを載せて走っているところを見ると、寂寥感に襲われます。
 あの時の新鮮な今を楽しむ心は、既にこの手から零れ落ちてしまったのだと。
 今回はそんな話です。
 
仲間に熱い情を持つ乙女な釘崎ですが、初対面ということもあって人を測ってます。二面性が強い彼女を作者別に嫌っているわけではありません。
 仲間と敵。あとは恨み。付随する要素によって顔を替える釘崎ですが、だいたいそれが普通です。

 自分を歪め、擦れていくことを否定し、意地を張ってあるがままの自分を変えないハルちゃんが少し異常なだけです。
 
ただ作者は、小説版で蹲る女性の幽霊に傘を差しに戻るハルちゃんの優しさが成長と共に損なわれていくのは、ちょっと惜しいかなと思った次第です。


 蛇足ですが、理様に接続しない状態で呪具によるブーストをかけたハルちゃんの戦闘力は伊地知さんに毛が生えたレベルです。
 あと、主にハルをマスコットにして餌付けを楽しんでいるのは五条被害者の会の面々だったりもします。
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