深夜廻戦   作:フールル

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 構成はあるがモチベが持たない。
 遅くなりました。どうぞ。


二夜目

 「大丈夫? 伏黒君?」

 「はい、ありがとうございます。ハル先輩」

 

 真希による過酷な扱きによって出来た外傷へ的確な応急処置をして貰った伏黒はハルへ頭を下げる。

 

「今回はわたしがやったけど……いずれは自分で出来るように覚えてね。伏黒君、釘崎ちゃん」

 

 申し訳なさそうに眉尻を下げつつ、使用した医療キットを鞄に戻しながらハルは後輩たちへと注告を残した。

 包帯の巻き方。止血の方法。そのどれもが自分でやって覚えるモノ。

 戦場における咄嗟の応急手当は、生傷の絶えない呪術師にとって習得必須の技術。ハルを含めた二年生の総意である。

 コレを必要としないのは一部の例外であり、一年の担当教師である五条悟はソレに該当する決して教材にならない存在なのだから。

 

「ついでにソーイングの技術もあると損しないぞ」

「昆布……」

「あはは……それはパンダ君くらいじゃないかなぁ」

 

 どこからともなく取り出した裁縫セットを掲げながら茶化すパンダに場の空気は和む。

 人間ではないのだから当たり前だと言われたらそれはそうなのだが、緊急の医療キットの恩恵をパンダが受けることは出来ない。

 何故ならパンダ(呪骸)だからだ。

 

「では改めて自己紹介しよう! 俺はパンダ。見ての通り呪骸だ。笹は食わないから間違っても差し入れるなよ」

 

 差し入れるなと言っておきながら何処からともなく笹を取り出して、口に含むパンダ。身体を張った一発芸なのだろうか。

 

「……しゃけ、かつお、カッツォ」

『ボクの名前は狗巻棘。言葉に呪術が乗る呪言師だから意味のない言葉を羅列しているよ。よろしく』

 

 端末に文字を打ち込み、読み上げソフトで再生する狗巻。

 言葉を介したコミュニケーションには一癖あることをアピールする。

 

◾️◾️(かみしろ)ハルです。苗字は取られちゃったからハルって呼んでね」

 

 ペコリと頭を下げるハル。

 左腕がないのか空虚な袖が風に靡いている。

 彼女の苗字を釘崎は聞き取ることが出来なかった。苗字を取られるとはどういうことなのだろう。

 

「さっき、俺たちをボコしたのが禪院真希先輩。苗字で呼ぶと拳が飛んでくるから注意しろ」

 

 隣で神妙な顔を作りながら説明する伏黒の言葉に耳を傾けながら釘崎は死んだような魚の目をする。

 遠い空の澄んだ青が妙に腹立たしい。

 マトモな先輩が居ない……。

 その嘆きは当然のモノだった。

 


 

「近々、京都姉妹校交流会があってな……頭数が足りないんだわ」

「交流会ぃ?」

 

 連れだって歩く先輩達の後ろについていた野薔薇は首を傾げた。

 呪術高専は自分たちが通う東京校の他にもう一校、京都校が存在する。

 文字通りの意味なら同世代のレクリエーションのような集いが連想されそうなモノだった。

 

「乙骨先輩は帰って来ないんですか?」

「うん……そうみたい」

 

 本来であれば面子の数は満たしている筈だと記憶している恵の言葉にハルが頷く。

 

「禪院先輩の様子見る限り、交流会の内容って術式ありのぶつかり合いってこと?」

「しゃけ」

「ああ、殺しは無しの呪術合戦だな。あと、真希の前で苗字で呼ぶなよ……」

「はーい」

 

 頬に張られたガーゼを撫でながらぶーたれた返事を返す野薔薇に、上級生一同は悩まし気に息を吐いた。

 一本の筋が通った気の強い真希の言動は後輩とのファーストコンタクトとしてはあまり受けが良くない。

 今でこそ、人柄を知って頼りになる先輩として見ている恵でさえ、最初の頃は接触を避けていた程だ。

 

「そろそろだな」

「しゃけ」

「結構歩いたけど、何処に向かってるの?」

「第7修練場。わたしたちがよく使っている運動場だよ」

 

 広い高専の敷地の隅。

 森を背にした開かれた土地に真希は居た。

 樹齢500年は超えているだろう大きな丸太を背に乗っけて腕立て伏せをする姿は、思考回路を吹っ飛ばすまでの衝撃である。

 

「うわぁ……」

 

 何やってんだ、あの先輩。

 言葉を漏らして立ち止まった野薔薇の肩を恵が叩く。

 お前もいつか慣れる。諦めたような表情を浮かべた恵の顔にはそんな諦観の言葉が浮かんでいた。

 近づいてくるハル達の気配を感じ取ってたのだろうか。

 腕立て伏せを止めた真希が丸太を下ろし、汗の滲んだ顔をシャツの袖で拭う。

 息一つ乱していない真希の下へ、ハルは鞄の中身を漁りながら駆け寄っていく。

 しごきを加えた後輩達の前、ワンクッション挟んで真希の心情を図るための行動でもある。

 

「もうちょっと早く来いよ」

「真希ちゃんがもう少し加減すれば良かったんだよ?」

「アレでも加減した。それにハル、弱ければ何一つ守れず奪われるだけだ。恵と野薔薇――戦いのイロハも身についてないひよっこ共を測るのにも必要なことだ」

「……それはそう、かもしれないけど」

 

 説得失敗。

 真希の口から後輩達へ「ごめんなさい」を引き出せない。

 ”ごめんね、伏黒君、野薔薇ちゃん……”

 内心謝るハル。そもそも誰かを傷つけることを嫌う彼女の本質は口論には全く向いていない。

 ”なんで落ち込んでるんだ?”ハルからタオルとスポーツドリンクを受け取った真希は首は傾げるが、真希自身は悪いことをしたとは微塵も思っていない為にこの話は此処で終わるしかない。

 パンダ、棘と並ぶ後輩達を一瞥した彼女は「何処まで話した?」と、過激な指導への反省を述べるまでもなくハルに尋ねた。

 ”もう少し思いやりの気持ちを表に出せばいいのに……”ハルの口からため息が漏れる。

 面倒見の良いお姉さんの気質を持ちながらも性根がねじ曲がってしまった不器用な友人は、とにかく誤解され易い。

 言葉が強く、荒い。直情的な感情はすぐ表に出すのに、誰かを慮った感情を悟られるのは嫌なのかそれを隠す。

 真希の友達の輪をなんとか広げられないかと頑張っているハルの意図は知っている筈なのに当人はズレている部分を直そうともしていない。

 

「さて、後輩ども話聞いているな。そんなわけでわたしが戦術のイロハも知らないお前らの為に時間を割いて鍛えてやる」

 

 傲岸不遜。

 あんまりな言い様にハルは頭を抱えた。

 それは真希以外の同輩も同じようであった。

 あからさまに不機嫌な様子を見せる両名を鼻で笑った真希は嬉しそうに言葉を繋げる。

 

「交流会だ、なんだ言う前にお前らを強くしてやる。彼岸に旅立ったお友達を忍んで布団の中で泣きたいって思ってるなら帰ってもいい……。やる気は?」

 

「ある」

 

 言葉を揃えたやる気に満ち溢れた返答を真希は深く頷く。

 活きの良い。それも鍛えがいのありそうだ。と。

 とはいっても、二人は既にボロボロである。

 やり過ぎた。これはハルに文句を言われても仕方ないと真希は内心反省するしかない。

 だが、身体を鍛えられないなら感覚(センス)を鍛えればいい。

 練習メニューを一瞬でまとめた真希は側に置いた丸太から木片を毟り取り、練習場の砂に図を描き始める。

 

「この練習場の後ろには鬱蒼とした森がある。その中でお前らは棘、パンダに見つからないようにしながらハルを捕まえろ」

「?」

「よく分かってないな野薔薇。まぁ……要するに隠れ鬼の亜種だな」

 

 首を傾げる野薔薇に真希はざっくりと要約しながら説明する。

 半径1キロの範囲内で森の中に隠れたハルをパンダ、棘の監視網を潜り抜けながら捜索し捕獲する。

 子供がやる遊びの規格を大きくしただけの練習。呪術とはなにも結びつきの無さそうな内容である。

 ”これに一体のなんの意味が……?”

 恵がそう思うのも無理はない。

 

「なにか言いたそうだな、恵」

「いいんだよ、これくらいの分からないことだったら聞いとけ」

 

 隣に座るパンダに諭された恵は胸中に抱いた疑問を口に出した。

 野薔薇も同じように頷く。

 

「まぁ……一見ただの遊びに見えるかもしれないな。だが、これはとっても大事なことだ。まあ、ある意味お前らのやった依頼の再現。あの時に必要な判断、必要な能力はなんだったのか。それを振り返ることの出来るメニューでもある」

 

 英集少年院で行われた生存者の確認と救出。

 誰一人救うことも出来ず、同輩すらも死んでしまった悔やみきれない結果を残すだけの苦い記憶。

 この隠れ鬼がそれの再現である。

 ”まったく理解出来ない”何言ってるんだ、この先輩。

 野薔薇のそんな不満が表に出ていたのかパンダはカワイイ生き物を愛でるように諭す。

 

「はっきり言うが一日や二日でハルを捕まえれるだなんて思わない事だな」

 

 それは確信であり、一種の信頼でもあった。

 一見幼い子供にしか見えない。纏っている空気も特別感なんて微塵もない。

 どこにでもいる普通の女子中学生にしか見えない少女。

 後輩達は彼女を見つけることはこの交流会までの期間では絶対にないとパンダは考えている。

 というよりも、自身や棘であったとしてもハルを見つけ、捕まえるという目標は至難の域を超えた不可能に近いモノであったと理解しているから。

 

「時間だ、行ってこい後輩ども」

 

 ハルが森の中に五分後、真希の合図にしたがって恵と野薔薇が森の中へと入っていく。

 その後姿を眺めながらパンダは真希へと質問した。

 

「真希はなにをするんだ?」

「しゃけ」

「ん? あー、あいつらの後ろでも気づかれないようにストーキングでもするかな」

 

 ナニがダメだったのか見とかないと説明出来ないから。

 そう返した真希にその面倒見の良さをどうしてもっと表に出して見せないんだ。とパンダはため息が漏れた。

 

「パンダ、棘、捕まえれるならハルを見つけろよ。出来たらなんか奢るわ」

「無茶言うよ……ほんと」

「しゃけ」

 

 砂漠から一粒の砂金を探り当てよう。そんな内容を知っているのに吹っ掛けてくる友人に呆れが出てしまう。

 だが、同時にソレはまだ自身が持っている技術に伸びしろがあるということの証左に違いないことである。

 生まれ持った才能なんてモノではない。

 自覚し、伸ばそうと磨こうと考えたヒトにしか身に付かない技術。

 一般人から見れば第六感を所持し、使い熟す術師に五感を鍛え、研ぎ澄ませろといった練習なのだ、この隠れ鬼は。

 真希はまだまだパンダも棘も磨けば光ると信じている。

 自身がそうだったからだ。

 

「ほんと、遠いなあの背中は」

 

 半端に見えてしまったからこそ、分かる隔絶した差。

 だがそれは三人の足を止める理由にはならない。

 二度と取り零さない。その誓いが胸にあるのだ。

 





 この時期の話を読み返しているともっと深堀したり設定作れたり、盛れたよなーと思う次第です。有体言えばこの時期が割と面白かった。

 話的には虎杖のトレーニングとは対比をいく内容になってます。
 術師としての伸びしろを伸ばす前にヒトとしての五感を伸ばして基礎をしっかりと築こうというモノ。
 ぶっちゃけると少年院の選択肢を見れば、夜廻的にはNGしかしてないんですよ、彼ら。空き缶コロコロしながら鼻歌奏でている様なモノ。
 スニーキングミッションならちゃんとしないと、ね。ちなみに少年院のミッションですが戦闘をしてはいけないという縛りを設けた場合、無事にクリアできる面子はこの中だとハルと乙骨、真希だけになります。

 プレイヤー視点から見れば分かると思いますが、森の中に隠れた夜廻少女を見つけてくださいなんて言われたら……どうしたらいいんでしょうね。
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