深夜廻戦   作:フールル

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一年ぶりの更新ってマ?(残酷な事実)
 エタッた訳←本編の展開。
 筆が進んだ訳←ファンパレのストーリーを動画で後追い。

 ぶっちゃけると、永遠とファンパレみたいなストーリーを漫画で続けてて欲しかったなぁ。
 少年誌に掲載される怪異譚としては良い質なのにぃ。


四夜目

 東京の端、綿津岬は異質な地である。

 その特異な空気を三人が感じ取ったのは二丁目と一丁目の境界に跨る橋を渡ってすぐのこと。

 

「なんか……ほんとうに此処に人住んでるんすか? ヒト、一人も出歩いてもいないし」

「どうだろう……だいぶ怪しいかも」

 

 まだ日が昇っている時間であるにも関わらず、表を歩いている人は一人もいない。

 それにも関わらずねっとりした視線だけが至るところから自分たちに注がれているのを野薔薇は感じ取っていた。

 

 この感じは――あぁ……そうか。

 この排他的な陰湿さを匂わせる空気。

 ”なんで……東京に上京してきたのに、こんなくそったれな空気を吸わないといけないのよ”

 彼女が生まれ育ってきた地元を想起させるような状況にムカムカとしてきた野薔薇の問いかけに、呪いの集積地――呪霊が巣くった廃ビルや廃村などで向けられる有象無象の悪意を感じ取ったハルは、用心深く周囲を見渡す。

 ”なんだろう……なにか変”

 悪因悪果。

 起こるべくして結び付く因果の芽が自分たちに結び付いてもおかしくない空気なのにも関わらず、なにか有耶無耶にされたようになっている。

 首を傾げるハル。

 前を歩くユズは軽く振り返りながら自身の所感をそんな二人に語った。

 

「呪いとの向き合い方は地域それぞれ――排他、我慢、適応などなど、たくさんあるよ」

 

 負の感情の集積地に寄らず触らず口にも出さず、そのように慣習化させて時間を掛けて人々の記憶と記録から遠ざけ、呪いを薄れさせていく気の遠くなるほど時間を掛ける方法。

 地脈の都合で悪い気が集まり易くなってしまった為におばけや呪霊が活発化し易い夜はそもそも出歩かないようにする付き合い方が根付いてしまった土地。

 指を立てながらユズは首を傾げる野薔薇の様子を見つつ説明を続けるユズは三本目の指を立てる。

 

「此処は三つ目、適応のパターン。呪いに適応する。呪霊の眷属に身をやつし、生きる。当たり前だけどこのパターンはこの地域自体が排他され人々が寄り付かない地になることが多いんだけど……稀に立地に恵まれて上手いこと現代まで存続することがあるのよね」

 

 ”特に此処、綿津岬は腐っても東京の端くれだからね。二丁目を見てきたから分かるよね?”

 ユズの言葉に野薔薇は頷く。

 綿津岬二丁目の建物はどれも目新しく、新興住宅地の色が強く表れていた。土地の新陳代謝がしっかりと機能している状態だ。

 それが行われない地は風通しが悪い上に古い慣習が歪み、負の連鎖を起こし易くなる。

 こうなったらよっぽどの事が無い限り時の流れと共に廃れて消える。

 

「見ての通りだけど一丁目はそんな地だね」

「……どうして此処の呪霊は祓呪されないんすか?」

「いまのところ、大きな危害が出てないからだよ。こういう土地は社会から爪弾きにされた人たちの集まるところだからね」

 

 ハルは難しい顔しながら目の前の光景を俯瞰する。

 必要悪。

 そんな考えはあまり肯定出来ないのだが……掃き溜めを求める社会の性質をまだ子供であるハルは変えることも出来ない。

 

「加えて水場の埋め立て地という役柄はちょっとめんどくさい性質を持っていてね」

 

 暗い顔を浮かべるハルを横目にユズは講義を続ける。

 

「人身御供――要するに人柱を使った呪いと水棲の呪霊にありがちな不死性が混ざりやすいの」

 

 ”人魚の身を食べた人間はとんでもなく長生きするってありがちな話は野薔薇ちゃんでも聞いたことあるでしょ”

 ユズの言葉に野薔薇は頷く――と、そこで一つ疑問が生じた。

 

「あれ? さっきハル先輩はこの地に起きている呪いがどのような影響を及ぼしているのか調査するって言ってましたよね」

 

 問題が起きているのは既に織り込み済み。

 ソレを排除しないのも社会の機能としての役割があるから。

 なら、改めてハルに向けて百足会が依頼を出す理由は何処にあるのだろうか。

 そんな野薔薇の疑問をハルは言い難そうに眼を伏せながら答える。

 

「野薔薇ちゃんの同期、虎杖君が宿儺の封印解いちゃったから……今、確認されている古い埋め立て地の影響を総洗いしなくちゃいけなくなったの」

「……」

 

 呪いの王――両面宿儺。

 その復活によって引き起こされた悲劇。

 英集少年院に派遣された苦い記憶に野薔薇は唇を結んだ。

 それを慮ったハルもまた表情を暗くする。

 通夜のような重苦しい空気にやれやれとユズはため息を吐く。残念なことに空気を一新するような話題は持ち合わせていない。

 話を引き継いで綿津岬の説明を彼女は続ける。

 

「此処、綿津岬の埋め立てが始まった時期と宿儺が没した時期が近くてね……宿儺の指は使われてないことまでは分っているんだけど、人身御供の性質を考えるとどっかに影響を及んでる可能性が捨てきれないからね」

 

 ”ってことでまずは本丸を覗いておきますかってこと”

 着いたよ。そう言って先導したユズが指を先へと向ける。

 そこには鬱蒼とした木々に紛れる様に鳥居が立っていた。

 海神神社。

 その建立は先に説明しているようにだいぶ古い。

 ハルと野薔薇は予め調べておいた情報をなぞらえながら、人の姿が見えない静寂の空間を先導していくユズの後ろに続く。

 ふと、ハルの目にひっそりと佇む祠が映る。

 小さな賽銭箱。祀られているのはえびす神のようだ。

 港町ならば、釣り竿と鯛を携えた七福神の一柱であるえびす神が祀られていてもなんら普通の事。

 ”信仰がない?”

 だが、目を凝らし祠見つめるハルの視界に縁の糸は結ばれていない。

 神は降りて来るモノ。故に管理を怠り、その上信仰が寄せられなければ席としての役割を神社は果たせなくなる。

 港町であり、漁が盛んである筈の綿津岬でえびす神への信仰が絶たれている現状が異常なのだ。

 何かがおかしい。

 だが、それを解き明かすにはなにもかも情報が足りていない。

 忘れないように頭の片隅に留めて、彼女は足を止めたユズの隣に立つ。

 堂々と鎮座する本殿。目の前に置かれた大きな賽銭箱と鈴。

 社殿のぴっだりと閉じられた扉の奥は真っ暗で中が外からは伺い知れないモノになっていた。

 

「お参りでもしとく?」

「……やめておきましょう。よからぬ縁が結ばれるかもしれないです」

 

 冗談めかしてとぼけるユズの言葉にハルは首を振って答える。

 ”分かってるよー”

 ハルの回答に微笑みを浮かべながらユズ。

 彼女はそのまま賽銭箱の横を通り過ぎ、社殿の扉へと手を掛けた。

 まるで我が家に帰宅でもしたかのような気軽さで扉を引こうとして――扉は開かない。

 

「……ん?」

 

 首を捻りながらもう一度――当然、開かない。

 ”あれー? おかしいなぁ?”

 腕組みしてフリーズしたユズをハルと野薔薇は不安そうに見つめる。

 トラブルらしいトラブルがないまま、順調そうに段取りを組んでいたのだからである。

 

「ユズさん、鍵掛かってるんじゃないですか。ほら」

 

 後ろから覗き込んだ野薔薇が扉に付いている南京錠を指さす。

 施錠がしっかりとされている状況になんらおかしな点はない。見れば分かる状態に何故、ユズが此処まで挙動不審になる理由が分からない。

 実際、ユズが首を傾げた理由は南京錠が扉の開閉を邪魔しているからではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを知る筈もなく声を掛けた野薔薇にうんうんと頷きながら、ユズはすぐ隣にいる野薔薇に手を差し出した。

 

「野薔薇ちゃん、()()()()()()()()()()? ちょっと貸して」

「え!? はい、良いっすけど……」

 

 初対面のユズが何故、自身の商売道具の所在を知っているのか。

 些細な疑問は沸き立つものの、状況判断としてユズがやろうとしていることが読めた野薔薇は素直に出された手にハンマを渡した。

 

「いやー助かるよ。私って非戦闘員だからさ。この手の道具って必要に駆られないと常備してなくてね……」

 

 非戦闘員を自称する割にはユズの手つきは酷く手慣れたモノであった。

 軽い拍子で振りかぶったハンマーが南京錠を叩き、一撃を持って破壊される。

 ”絶対嘘だろ……”

 返されたハンマーを懐にしまいながら野薔薇が半眼してユズを見つめる。

 ”ほんと、ほんと”

 手を振りながら笑うユズが今度こそ、社殿の扉を開ける。

 懐から取り出した懐中電灯を点けて先導するユズに続いて二人は真っ暗な社殿の中へと足を踏み入れた。

 

「……コレが海神神社の祭神」

「気持ちわるっ!!」

 

 懐中電灯に照らされる古びた祭壇に祀られた一つの絵画。

 眠る様に背中を丸めた、ぶよぶよした肌の物体。

 それは巨大な胎児を描いたモノであった。

 首には深海魚の鰓のようなモノが付いている。

 得体の知れない気色悪さを素直に吐き出す野薔薇に倣うように肌を舐められたような気味悪さをハルは感じ取った。

 ”……水子? 人柱に赤子を?”

 結ばれている縁の糸。この祭神が綿津岬で信仰されているのは間違いない。

 

「ハルさん、なにか分かるかい?」

「いえ……これだけではなんとも」

 

 ユズの問いかけにハルは首を振る。

 まだだ。

 これだけの判断材料では事態を究明するには事足りない。

 だが、間違いなく綿津岬の異常を紐解く鍵になるのはこの祭神であることは明らかだ。

 

「この祭神を探しましょう。この神が大本の原因なのかはこの絵から分かりませんが、綿津岬に大きな影響を及ぼしかねない存在であるのは間違いないです」

「オッケー、じゃあ帳を――うん、()()()()()より早かったね」

「――っ!!」

 

 祭神の位置を割り出すなら帳を下ろした方がより効率が良くなる。

 その準備をしようとしたユズが手を止めた。

 呪力を持った存在が自身の存在を隠すことなく堂々と探知内へと踏み込んで来たからだ。

 会話を挟む余地もなく、三人は動いた。

 呪力探知に秀でたハルは後方にこの三人の中で実質的な戦闘要員である野薔薇が前に出る。

 

「……誘われてるね」

「向こうも出方を伺っているみたい」

「どっちみち向こうから来ないならこっちから行くしかないわ」

 

 相手側もハル達同様に待ちの姿勢を取った為に起きた数分間の沈黙。

 この状況に業を煮やした野薔薇の提案にハルとユズは頷いた。

 どの道、袋小路となっている本殿内から取れる選択は少ない。

 本殿を吹っ飛ばして道を作るような虚を突く火力を三人は持ち合わせてないからだ。

 

「いち、にの――さん!!」

 

 呼吸を合わせ本殿の戸を蹴破りながら飛び出した野薔薇に合わせてハルも飛び出した。

 危ぶんでいた先んじた迎撃するような術式は飛んでは来ない。

 そのことにホッと息を漏らしつつ、離れた位置に立つ彼女をハルは注視する。

 凡そハル達と同年代程の黒いロングヘアの女性。

 若い。それだけで判断するのは早計か。

 真希を例にするように年齢と実力が比例するとは限らない。

 携えている人形と縄。これは彼女の持つ術式に関係するのだろうか。

 視覚から得る情報を冷静に分析する。

 その中でなによりも()()的な事実が突き付けられていた。

 

「やぁ、ミミちゃん。()()()()、元気にしてた?」

「ずっと……探してた。ずっと……ずっと――」

 

 禍々しいまでの赤い因縁。

 その糸が太く結びついている。

 一瞬目を丸くした後に腹の底から湧き上がるおどろおどろしいまでの呪詛を吐き出しながらミミちゃんと呼ばれた彼女は、ハルと野薔薇など眼中に無いように表情を歪めてユズを睨む。

 対するユズはどこ吹く風の佇まい。

 交渉の余地などない敵対関係の縁。呪い合い殺し合うしか選択の余地がない関係の破綻。

 

「あんたのせいだ。あんたのせいで! 私たちは!!」

「ミミちゃん、私達には戦う理由なんて無いと思うんだけどなー?」

 

「黙れっ!!」

 

 ”何をしたんだろう……”

 第三者であるハルと野薔薇がそんな疑問を抱くまでの強烈な殺意。

 この戦いは避けられない。それだけは明白であった。

 





 キャラの尊厳破壊的な事実

 非術師である人に対する思い出(憎しみ)を奪われてしまった菜々子は、現在呪祖師としの活動を辞めて、一般的なヒトとして綿津岬在住で普通の学校に通っています。
 (戸籍などの諸々の処理は綿津岬の薄暗い経歴を持つ人たちがなんとかしました)
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