深夜廻戦   作:フールル

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そんなわけで、4話目です。
お待たせしました。


四夜目

 交流会に向けてハルが高専に携帯所持の届け出を出した呪具は二つある。

 一つは木刀。

 非殺傷かつ軽量であり、隻腕であるハルでも携帯し易い。

 もう一つは数珠。

 役割としてはモバイルバッテリーに近い。

 ただし、同じく呪力を持たない真希が申請しない辺りを見ても分かる通り、その容量は頼りないモノ。

 ないよりかはマシ。程度の認識が他生徒達の認識である。

 

 結の縁

 

 自販機近くの屋外で東堂が伏黒をその剛腕で殴ろうとしている光景を目にしたハルは、片腕で藁人形を投げ込み、術式を起動した。

 伏黒へ向けられた敵意が藁人形へ、振りかぶった拳は伏黒から逸れて藁人形へと吸い込まれる。

 

「結の縁か……その状態で術式を扱えるまでに成長したな、(マイフレンド)よ」

 

 何が起きたのか呆然とする伏黒には目もくれず、今しがた自身の拳で粉砕した藁人形の感触を確かめながら、東堂は視線をハルへと向けた。

 悪意でも敵意にも染まっていない縁の色を見ながら、ハルは安堵の溜息を吐くと共にどーしてこんな事をしたのと目を吊り上げて見返す。

 ハルの意図に反してその姿は、コアリクイの威嚇の様に微笑ましいモノになってしまっているがそれは当人には分らない事だ。

 

「東堂くんはどうして暴力に走るの? 言葉のコミュニケーション大事にしないと友達増えないってこの前注意したよね。」

此奴(伏黒)が俺の期待に反して、ツマラナイ男だからだ。それに弱い。」

「女の子の趣味が合わないからって見切りを付けるのはどうかと思うよ……。」

 

 やれやれと呆れながらハルは二人に歩み寄る。

 東堂の戦意が失せたのを確認してか、やや距離を取りながら事の成り行きを見守る伏黒と目を合わせてハルは頭を下げた。

 

「ごめんね、伏黒くん。東堂くん、女性の趣味を拗らせちゃってて……本当は話せれば割と良い人なんだよ、ちょっとだけ血の気が多い感じとか手が早い感じとか戦闘狂(バトルジャンキー)なところとか、あるけど……大丈夫? 怪我とかしてない?」

「いえ、ご心配をおかけするまでもないです。」

 

 ハル先輩、フォローになっていないです。とは、言えない伏黒。

 無理していない? と心配げなハルの視線に嘘をついていないとアピールをする。

 本当かな? と、ハルは伏黒の周りをグルグルと歩き回りながら入念に確認を怠らない。

 「自分の友達が迷惑を掛けたから代わりに謝らないと」と、謝らない東堂の代わりに伏黒のケアをするハルの動きは、東堂が一言呼び掛けるまで続いた。

 

「友よ、今度の交流会、を抜いてくれないか?」

 

 それは口調はお願いという形であれど、有無を言わせずに鋏を抜けと、言わんばかりの強い力が込められている言葉であった。

 何を言っているんだ、こいつは。と、東堂を見上げるハル。

 合わさる視線。東堂の瞳からは冗談(ジョーク)の欠片も見えない。

 

「乙骨もいない、三年もいない、残ったそちらの二年と伏黒、後輩の女じゃ、歯ごたえが無い。最後の交流会だというのに、全力をぶつけることも出来ず退屈に終わる。それは酷な話だろ? (マイフレンド)

「東堂くんには悪いと思うけど、それでも理様は……東堂くん達には使いたくない。」

「……残念だ、(マイフレンド)。」

 

 頑なに意思を曲げないハルの様子に東堂はため息を吐いた。

 同時に東堂が結ぶ縁、人との繋がりに悪意が混ざる。

 ただの縁は悪縁へと変じた。

 

「交流会、楽しみにしているぞ」

「……」

 

 ハル達に背を向け、立ち去る東堂。

 その背中をハルは俯いていた為に見送ることは出来なかった。

 

 

 京都高専の生徒が立ち去り、台風一過、心を入れ替えて鍛錬に打ち込もうとした釘崎と伏黒は空き教室の椅子に腰を下ろしていた。

 元々生徒数が少ない呪術高専の教室は、これまでの学校とは違い机の配置もまばらで、ちょっと寄せれば三人が互いに向き合い三角形に座ることは容易な事だ。

 三人。

 伏黒、釘崎。では残り一人は誰か。

 それは鍛錬を中断してミーティングを開きたいとこの場を設けたハルである。

 残りの先輩方は壁により掛かって授業参観の如く、ことの成り行きを見守っている。

 

「えっと……ごめんね、二人とも。鍛錬中断させちゃって」

「いえ、その件については気にしなくていいです、先輩。どの道、先輩方がそう決めたのであれば俺の方から文句はありません」

 

 申し訳なさそうにモジモジして謝るハルに不満はありませんと返す伏黒。

 このやり取りは校庭でも一度行われたモノだ。

 ハルのお願いに理解をいち早く示したのはハル以外の先輩勢であって、後輩勢はそれに合わせたに過ぎない。

 伏黒自身、東堂とのやり取りに原因がありそうだなと納得した。

 釘崎からしたらその場にいなかったので突如開かれるミーティングに疑問はあるが、二年の先輩達に加えて同級生(タメ)の伏黒がそうならと反対する理由もなかった。

 

「鍛錬の時間割いてるんだから、さっさと始めろよハル。」

「あ、う、うん! え、えーと……」

 

 外野(真希)の一言に頷いたが、言いずらそうに口をもご付かせるハルの様子に分かりやすいなぁなんて、釘崎は暢気な考えを抱いた。

 裏が無い。年齢不相応に無垢で素直だ。

 後ろめたそうな表情から罪悪感を抱いているのが窺い知れる。

 

「伏黒くん、釘崎さん! ごめんなさい! 私、二人には隠していたことがあるの!」

 

 椅子から飛び上がる様に勢いよく立ち上がり、綺麗なお辞儀と共にハルが頭を下げる。

 ミーティングを開くまでのハルの隠し事とはいったい……。

 ただ、その事を真剣に思い悩んでいるのはハルだけのようで、先輩方は変わらず緩い態度のまま、伏黒は何処か納得した表情だ。

「お前、知ってるんなら教えろや。」と険のある視線を釘崎は彼へ向ける。

 

「えっとね……本当は交流会後でも良かったんだけど二人とも私の所為で巻き込まれちゃってるから、秘密にしておくのは不誠実かなって」

「巻き込まれてるって、何にですか?」

 

 生憎、釘崎自身に思い当たる節はない。

 真希の妹である真依には噛みついた態度を取ったので個人的に恨まれてもおかしくないとは思ってはいるが。

 

「鋏のことですか?」

「鋏?」

「うん、正確には東堂君が関与するからそこから説明するね。」

 

 そう言ってポケットの中から一枚のCDアルバムを取り出すハル。

 高田ちゃん、そう奴が愛してやまないアイドルのカバーシングルCDだ。

 東堂の手から真希へ手渡しているのを見ていたが、それはどうやらハルの手元へ渡ったらしい。

 

「東堂君はね……本当は紳士的で良い人なんだけど、アイドル愛を拗らせちゃってて……人を0か1で判断するちょっとだけ問題児なの。」

「先輩は1なんですね……」

 

 思い返しても横柄で暴力的な紳士とはかけ離れた筋肉ダルマな問題児でしかなかった気がする。と、口を挟むのは憚れた。

 それにしてもあの横柄な筋肉に一目置かれているのかハル先輩は。そちらの方が釘崎としては衝撃である。

 

「私は……0.5(見込み有)って感じかなぁ。詳しくは省くけど、高田ちゃんを好むかそうでないか。そこに強いか弱いか。が東堂君の人に対する判断基準になってるの。」

 

 此処での強いは、彼と近接戦でタメを張れるかどうかって話だよ。と、ハルは付け加える。

 

「それでね、東堂君は今回の交流会で()()()を再起不能にするつもりみたいなの」

 

 ハルの目には見えている。

 東堂とハル以外の同級生と後輩達を結ぶ()、それが悪意によって繋がる因果で結びついてしまっていた。




赤頭巾さん、前話の誤字報告ありがとうございます。

誤字脱字報告ありがとうございます。以下敬称略。
Nekuron。

東堂が出るんだから書く前はギャグテイストにするプロットでした。
東堂が勝手に動いてサツバツに!
本当はCDを直接ハルに手渡したり、その格好で握手会に行くのか。とかハルに突っ込ませるプロットだったんです。はい。

ちなみに東堂の人への解釈は個人的解釈が入ってます。
まず、高田ちゃん関連。次にフィジカル面、近接戦闘で対等か否か。
これに関しては、ミス冥こと冥姐さんとギター爺さんで好悪の感情がくっきりと分かれていたからですね。
冥姐さんの手札に関しては単行本としては割と最新巻に近い部分で割れたところですけど。

術式紹介

 結の縁

 理様の縁結びの力を使ったモノ。
 条件として頭と四肢が付いているモノと限定されている。
 効果を分かり易く説明するとターゲッティングの強制。
 結んだ縁が無意識化に干渉し、標的を誘導するというもの。
 ハルが隻腕でなければ、片手で人形を投げつけてもう片方で武器を持って叩くなんて合理的な立ち回りが出来た。が、現実は非常である。
 
 ちなみに余談だが、術式でもなんでもなく、ハルは結ばれた縁を見てタゲを把握することが出来る。
 こいつ一人だけ、RPG界に居ない? 
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