あけましておめでとうございます。
今年も本作のご愛玩をどうか、よろしくお願います。
そんなわけで正月タイムを利用して6話目出来上がりました。
交流会を目前に控えたある日のこと、食堂にて思わず見えたソレにハルは目を瞬かせた。
「どうしました? ハル先輩」
食事の手が止まったハルに対面に座る釘崎が尋ねる。
「う、ううん、なんでもないの。気にしないで」
取り繕うようにサバの味噌煮を箸で切り分け、口に頬張るハル。
いや、気にするなって言われてもなぁ。と釘崎は怪訝な面持ちでみそ汁を啜る。
ハルの視線は自分と伏黒の方に向けられていた。いや、自分たちに焦点が当たっていたというよりは何処かズレた場所を見ていた気がする。
「ハルは成長期だからな、野薔薇の生姜焼き欲しくなったんだろ」
「んっぶ、っぅ!? む゛ー!」
隣に座ったカツカレーを食べていたパンダが切れ端をハルの空いたスペースに置く。
置かれたカツの切れ端に目を丸くするハルだが、鯖が邪魔して言葉が出せない。
「シャケ」
「むぅー!!」
パンダに悪ノリしてラーメンを啜る狗巻からは叉焼が。
「あぁ、やるよ。大きくなれよ」
「む゛ぅぃー!?」
弁当を突いていた真希からはミニトマトを。
「ハル先輩、こちらを献上しますねー」
「んー……」
先輩達の働きかけに乗じて、釘崎はキャベツの千切りを生姜焼きで包んで皿に乗せる。
あとはお前だ。そんなハル以外全員の目が寡黙として親子丼を食べていた伏黒へ向けられた。
「ん、あーそうですね、ハル先輩食いかけですが此方をどうぞ」
少しだけ量が減った漬物の小鉢が皿の横に置かれる。
なんということでしょう、快い匠達の手によってサバの味噌煮定食の皿は色とりどりな食材で埋め尽くされたではありませんか。
「私の成長期はもう終わってるんだよぅ……」
口の中身をようやく呑みこんだハルの悲しみ溢れる言葉は仲間たちには届かない。
身長140と少し。この場に共感してくれる者は居なかった。
せっせ、せっせと小さい口を開いて頬を膨らませるハルが食べ終わるまで皆、愛でるような気持ちで眺めていた。
伏黒は読書に勤しんでいた。
『もしもし五条先生、いまお時間大丈夫ですか?』
『大丈夫だよーハルちゃん、どうしたの?』
一人仲間たちの輪を抜け、便座に腰を下ろしたハルはポケットから携帯を取り出した。
何故、今になって気付いてしまったのか。今まで気づいていなかっただけで、見落としていたのか。
『
伏黒と釘崎を結ぶ絆の縁。
同じ太さの縁が二人からそれぞれ何処かへ伸びていた。
死者との縁は押し並べて悪縁だ。
だが、そうではなかった。
耳にした情報とは違う。三人目の後輩、虎杖悠仁は生きている。
五条なら何か知っているだろうと確信がハルにはあった。
『まいったなー、秘密にしていたのに。流石失せモノ探しなら右に出る者がいない名探偵ハルちゃん』
『もー、揶揄わないでください、二人とも落ち込んでいたんですよ』
後輩達との初顔合わせを思い返して、普段とは違い五条の軽いノリを咎める。
仏の様なハルが珍しくご立腹なのが声色から通じたのだろうか。詫びはすぐに返ってきた。
五条には五条なりのそれなりにふかーい事情がある。
ハルが計画を破綻させかねないと仕掛け人五条は危ぶむ。
だから、他人の幸福を尊ぶハルの性質を知る五条は、共謀者に仕立て上げることにした。
『ビックリでハッピーなサプライズをする予定だからさ、この事は内密にね。ハルちゃんも楽しみにしていてよ』
『伊地知さんの胃がすり減るからほどほどににしておいた方が……』
『分かったよー』
本当かなー。
通話を終えた携帯見つめてハルは首を傾げた。
交流会当日、五条のビックリでハッピーなサプライズを前にハルは目をパチクリさせた。
我関せずな京都高専のメンバー、空気が凍った都高専の面子、戸惑う虎杖。
これは……事前情報を得ていた身としてフォローに回るべきか。ハルは迷う。
チラリとこの混沌とした空気を作り出した五条の方に視線を移すと京都校の学長と火花を散らしている。
以前五条が憎悪の想を抱いて繋がっていた悪縁がより深刻なモノに変じていたこと。
虎杖の生存を秘密にしていたこと。
そして今回のサプライズ。火花を散らす五条と京都校の学長。
五条と学長の様子を切欠にハルの中で断片化していた情報が一つに繋がった。
これは私たちに向けたサプライズではない。五条が呪術界の上層部へ向けた意趣返しなのだ。
悪ガキ成分たっぷりに茶目っ気もふんだんに盛り込んで。
伊地知さん、胃が痛いだろうなぁ。
ゲッソリとした
顔を青くしたハルが一杯食わせたぞと意地悪く笑う五条の側に駆け寄ると袖を引っ張る。
「ん? どうしたんだいハルちゃん」
「五条先生……
「……うん、そうだねー」
遠路遥々、交流会の為に京都より訪れた生徒は六人。
秘密にしていた虎杖をこの場で暴露したということは、五条は虎杖を交流会に参戦させる心づもりなのだろう。
しかし、そうなると都高専側の人数が七人になる。
公平な試合をする為に人数を合わせるなら一人を補欠にしなければならない。
誰が適正なのかとは考えなくても分かるだろう。
だからハルは焦っている。
そんな事態になれば、事前に練っていた作戦の破綻であり、東堂の暴走に繋がりかねないからだ。
五条悟、ハルの泣きそうな顔に考えていた予定とズレが生じていることに気づく。
交流会において、発破をかけたとはいえ積極性に欠け、自ら後輩に参戦の席を譲るまでの優しさを見せるのが五条の知っているハルである。
さて、どうするか。健気なお気に入りの生徒が割りを食うのは構わないが、目の前の
「構わんぞ。主が居ようと居まいと戦力の足しにはならんじゃろ」
「だってさ、よかったね、ハルちゃん」
「……はい、ありがとうございます。失礼します」
どうするかな。と五条が交渉案を練る前に京都校の学長――楽巌寺が快く虎杖の参戦を認めた。
ラッキー、手間が省けた。と笑う五条。
対して、望み通りの展開を迎えたというのに素直に喜べなくなったハルは頭を下げて真希達のところへ戻った。
ハルには見える。
人と人とを繋ぐ縁が。目は口ほど物を言うように思惑、策謀は因果の縁によって繋がれる。
虎杖悠仁、ハルの後輩達と確かな絆を育んだ彼に敵意と殺意の悪縁が強く結ばれてしまった。
場所を変えて、ミーティングルーム。
釘崎から愛のあるお仕置きを受け、その最中に伏黒から先輩方の紹介を受けた虎杖は残る最後の一人に視線を移した。
「ハル先輩、高専のマスコットキャラ」
「よろしくね、虎杖君」
「はい、よろしくお願いします。先輩」
普通だ。
何処にでも居そうな中学生程の少女だ。一個上という事に衝撃を覚えるほど幼く見える。
左腕がなく、肩口で縫い止められた改造学生服を着ていることが少しだけ浮世離れしているが、それを除けば草臥れたサラリーマンの風体をしていたななみんよりもこの界隈に似つかわしくないのではと思うほどだ。
だからこそ、虎杖は油断をしていた。
紹介が終わり、集団戦で急遽参戦が決まった虎杖の扱いをどうするかという話になった途端にハルが挙手をして、言い放った言葉に。
ただの街を歩けば見当たるような少女という認識を覆された。
「先輩、それって京都校は集団戦よりも虎杖を殺しに来るってことですか?」
「うん、間違いなくそうなると思う。虎杖君と結ばれた悪縁の本数が今増えたから」
え? 悪縁?
言葉を処理できず、固まる虎杖を他所にいち早く反応したのは釘崎だった。
真希、狗巻、パンダは納得した表情を見せている。
「で。どうするんだ? 人数差があるとはいえ悠仁防衛戦線でも開くのか?」
「おかか」
ただでさえ、東堂の蹂躙というワンサイドゲームになりかねない要素が盛り込まれている集団戦なのだ。
勝てる試合も勝てないぞ。とミーティングの雲行きが怪しくなっていく。
事情が呑み込まない虎杖は伏黒の下でハルの縁に纏わる能力の説明を聞きに行った。
誰もが頭を捻る中、またしてもハルが手を挙げた。
全員の視線がハルに集まる。
「虎杖君! 好みの女性のタイプを教えてください!」
「え? なんで俺、このタイミングで口説かれてるの?」
困惑の表情を浮かべる悠仁にハルはポケットから先ほど手渡されたあるアイドルのCDを取り出す。
東堂君、お友達大作戦、始動である。
誤字脱字報告ありがとうございます。以下敬称略。
赤頭巾、りゅうだろう。
天丼!
いや、作者もまさか同じオチを持ってくるとは書き始めた時は思ってもいませんでした。
あー、もし前半のパートで気分を害された方がいましたらこの場を借りて謝ります。すみません。
いや、嫌いなものを食べろと嬌声したわけではありませんし、小食なキャラクターにもっと食べろとハラスメント染みた行動をしたわけではないので……愛のある弄りですよ?
後輩にも弄られてハルちゃん、先輩の威厳は何処に……?
これだけでも1500文字くらいのネタになりそうな気配がしますね。
小さいは可愛い。この世の真理です。
先輩の威厳を持とうと頑張っても微笑ましいだけってね。