なぜ存在しているのか分からない、海のない鎮守府。
そこで過ごす川内型姉妹の日常。

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海無し鎮守府の川内型

那珂「ねえ、神通ちゃん…。」

 

神通「どうしたの?那珂ちゃん。」

 

那珂「あのさ、『鎮守府』ってどういう意味?」

 

神通「えーっと、軍港の防備を司る高等司令部。つまり、海を守るための施設ですね。」

 

那珂「ふーん…。じゃあさ、この辺りって、海、ある?」

 

神通「んー、無いですね。日本に八つある海なし県の一つです。」

 

那珂「じゃあさ、なんでわざわざここに鎮守府があって、なんで那珂ちゃん達が配属されてるの?」

 

神通「…」

 

那珂「もう一度聞くよ。本当に、『鎮守府』って、どういう意味?」

 

神通「…」

 

那珂「…」

 

神通「…」

 

────────────

 

ここは、S市。周辺に適度な施設があって、近くに山が見えるが、海は一切見えない。市街地から、少し離れた場所。そこに存在する、こんな土地には似合わない、異質な施設。それが『S鎮守府』である。

 

出撃は、合同作戦のときぐらい。

遠征は、ちょっと遠くの大きめのスーパーの買い出し。

演習は、わざわざ電車に揺られて近くの海まで行く。

主な仕事は、作戦資料などをまとめたり等。

 

はじめてここに配属された艦娘は、もれなく困惑するが、一ヶ月もすれば順応する。

 

何故この鎮守府が存在するのかは、USBが一発で挿せないのと同じで、謎らしい。

 

────────────

 

川内「それじゃ、夜も来たことだし、夜戦!行ってくるねー!」

 

浜風「え、もしかして川内さん、今から海まで行くんですか?」

 

那珂「ううん、浜風ちゃん。川内ちゃんの言う夜戦は、夜中の散歩のことだから。たぶん外出許可もらって、コンビニでアイス買ってきたりするんだと思う。」

 

浜風「なるほどです。」

 

神通「夜中ですから、気をつけてくださいね。あと、お財布とハンカチとちり紙と防犯ブザーとスタンガンは持ってますか?」

 

川内「神通、そんなに心配しなくても大丈夫だから、ね?」

 

那珂「ちなみに、川内ちゃん、調子に乗って、給料を無駄に使っちゃうから、給料日前は川沿いを歩いたりするだけになる。ああはならないようにね。」

 

浜風「な…なるほどです…。」

 

 

夜が好き。巷では最近、夜関連の歌が流行ってるらしいが、それとは関係なしに夜が好きだ。

海上での夜戦は、常に周りの音に耳を澄ませる。一瞬の判断ですべてが決まっていた。

それに対し、この陸上での夜は、街灯で照らされる舗装された道。耳を澄ませると、遠くで聞こえる電車の音。まるで正反対だ。

 

平和、といっては可笑しいのかもしれないが、少しばかり心が安らぐ。流れる川、普段とは違う水の音。

 

コンビニで、お菓子を買って帰る。

 

 

川内「さあ、こんな夜中まで起きてる良い子は誰かな!」

 

江風「はーい!!!」

 

川内「よーし!そんな良い子にはお菓子をあげよう!」

 

江風「やったー!!ナニコレー!!!」

 

川内「にんじん!!」

 

江風「…にんじん?」

 

川内「にんじん。」

 

江風「…」

 

実践も強く、立派な軽巡として駆逐艦に憧れの対象にされている川内だが、お菓子のセンスがない。

 

────────────

 

神通「それではさっそく、山で訓練をしましょうか。」

 

不知火「…」

 

陽炎「あのー…神通さん?いったいそれはどういう…」

 

神通「出撃も演習もなく、暇であるならば訓練をする。当然でしょう。」

 

不知火「いえ…その理論も納得はしませんが、我々って艦娘ですよね?」

 

神通「デスクワークが主だからといっても、いつ、どのような場所で、戦うことになるかはわかりません。それならば、陸上での戦いにも備えておいて損はないでしょう。」

 

陽炎「う〜ん…分かるよ〜な分からないような…。」

 

神通「それでは参りましょう。荷物は要りません。勿論、歩いて行きますよ。」

 

 

『厳しいというか、心配性なだけなんじゃない?』

 

神通さんの訓練ついて話していた川内さんの言葉。

確かに神通さんの訓練は厳しすぎると思う。

ただ、川内さんや那珂さんが出掛けるとき、持ち物を確認したり、スーパーに買い物に行くときに、毎回メモをとっていくのをよく見る。

それを見ると、神通さんの厳しさは、心配性の裏返しである、というのもよく分かる。

だからといって、山で匍匐前進をしている、今のこの状況に納得しているわけではない。

 

「しかしいつまで続くのでしょうね。」

 

ため息交じりに不知火が言う。先程から匍匐前進をはじめて数十分、下手すれば一時間ほど経過しているように感じる。

今だからこそ、那珂さんの言っていた言葉がよく分かる。

 

『神通ちゃんの愛情のムチには、スタッツがついてる。』

 

────────────

 

那珂「アイドルといえばやっぱりお歌!舞風ちゃん!野分ちゃん!カラオケ行くよ!」

 

野分「すみません、カラオケ…?とはなんですか?そういうのには疎くて…」

 

舞風「空桶…。あっ、空の桶を頭に被ってやる発声トレーニングのことですか?」

 

那珂「もー、ちがうよー!カラオケっていうのは、好きに歌ったりできるお店のこと!」

 

野分「ああ、鈴谷さんとかが話していたアレのことですか。」

 

舞風「へー、面白そう!」

 

那珂「それじゃ、準備して行こっか!」

 

時津風「ねー、なんの話してるの?」

 

舞風「あ、とっきー。」

 

野分「今からカラオケに行くんです。」

 

時津風「楽しそう!時津風も行きたいー!」

 

那珂「オッケーオッケー!やっぱ人数は多ければ多いほどいいもんね!他にも誘っていこっか!」

 

 

雪風は全力でタンバリンを叩く。

時津風はドリンクバーのメロンソーダを飲む。

せっかくだからと嵐に男性5人組グループの曲を勧める。

萩風はフードメニューを眺めている。

気分転換になるからと連れてきた秋雲は結局何かを描いていた。

やっぱり那珂ちゃんは全力で歌う。カラオケ、盛り上がってなんぼだ。

 

「みんな、盛り上がってますね。」

 

横で、マラカスを振りながら野分が言う。

 

「まあ、なんだかんだ言ってみんな、騒がしくするの好きだからね。舞風も踊っちゃおっかな?」

 

「流石に個室でそれは無理があると…」

 

「も〜、冗談だってば〜のわっち〜。…でもまた来たときはもっと大人数で盛り上がって、歌って踊りたいな。」

 

「それなら…………

 

 

こちら、S鎮守府忘年会。余興では、那珂ちゃんが歌い、舞風、野分がバックダンサーを担当し、大いに盛り上がった。

 

────────────

 

海の無い鎮守府。なぜそんな不便な鎮守府が存在するのかは、謎と言われている。ただ、他の鎮守府と変わらないぐらい艦娘は生き生きとしている。

 

 

S鎮守府。それは、この戦いが終わったあと、艦娘が現代社会にどれだけ馴染めるかを確かめるための鎮守府。


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