オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 竜王国・女王宮殿 /*/
竜王国は、戦火を脱し、新しい時代へ歩み出していた。
外敵ビーストマンの影はもはやなく、風脈ガレオン船による輸送網が空を縦横に走る。
その恩恵を最も活かしている国のひとつが、この竜王国だった。
白銀の冠を戴く幼き姿の君主――ドラウディロン女王。
外見こそ十にも満たぬ少女に見えるが、実際は百年を越える統治の才を持つ老王に等しい。
その瞳の奥に宿る威厳を、誰もが一目で理解する。
そして、そんな女王に寄り添い仕えるのが、
“竜王国の剣”から“竜王国の商神”へと変わった男、英雄セラブレイドである。
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「陛下、今期のワイン輸送は予定通り完了しました。
王国、聖王国、魔導国への販路も維持されています。
風脈ガレオンの航路が安定したおかげで、腐敗率も大幅に減少しました」
玉座の少女は頷き、透き通る声で答える。
「そなたのおかげじゃ、セラブレイド。
この身の小ささでは、重い杯も持てぬが……
おぬしが国の器を持ってくれておる」
セラブレイドは軽く笑い、胸に手を当てた。
「陛下をお守りするのは、私の剣でした。
陛下をお支えするのは、今のこの両手で。
――どちらも、誇りでございます」
女王は小さく微笑む。
彼にとって、その笑顔は何よりの報酬だった。
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セラブレイドは今、戦場を離れ、
竜王国の特産品である“竜鱗ワイン”を売り込むため、
風脈ガレオン船で各国を飛び回っていた。
剣をそろばんに持ち替えた英雄――
その働きぶりは、まさしく“経済の勇者”と呼ぶにふさわしい。
彼の商談はいつも迅速で、どこか劇的だった。
「剣で道を切り開くのは古いやり方です。
今は、言葉と信用で国を守る時代ですよ」
そう言って笑う彼の姿を、同行する魔導国の商人たちは尊敬のまなざしで見つめる。
風脈ガレオンの航路を使った輸出システムは、
竜王国の経済を戦後の混乱から一気に押し上げた。
ワインだけでなく、蜂蜜、薬草、絹なども安定的に取引できるようになり、
港町の人々の顔にも、ようやく笑顔が戻ってきた。
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同時に、魔導国の冒険者ギルドも竜王国復興の一助を担っていた。
農村再生の依頼を受け、ドルイドや地属性の冒険者が派遣され、
土壌改良、気候調整、作物の病害対策を行う。
彼らの尽力で、荒地は一季で緑に変わり、
収穫の祭りが再び行われるようになった。
村の老人たちは、笑ってこう言う。
「この国の風は、もう死んでおらん。
風脈とともに“希望”が吹いておる」
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夜、宮殿のバルコニー。
セラブレイドは、灯火の下で文書を閉じ、
小さな玉座に座る女王を見上げた。
「……陛下。竜王国は、もう立ち上がれます」
ドラウディロンは静かに頷く。
「そなたが支えてくれたからじゃ。
おぬしは剣を置いても、なお我が国を護る勇者ぞ」
「そのお言葉を頂けるなら、命を賭けた戦と同じ価値があります」
風が吹き抜け、二人のマントを揺らす。
夜空には風脈ガレオン船の灯が流れ、
竜王国の上空に、細い金色の筋を描いていった。
――かつて戦場で国を救った勇者は、
今は女王とともに、空を駆ける商の風となった。
彼の剣は今も抜かれている。
ただ、その刃は数字と信用の形に変わっただけだった。