その責任を負うことになったみほとエリカの話。
「ねえ、エリカさん。この電車どこに向かってるか知ってます?」
「知らないわよ。っていうかそんなことも知らないで乗ったの? 自信満々に乗るから付いてきたのよ。じゃあどこ行くつもりなの?」
「うーん。とりあえず海以外? いつも海ばっかりで、たまには緑を堪能したいじゃないですか。それに、エリカさんだって行き先もろくに見ないで乗っているじゃないですか。人のこと言えないんじゃないですかー。」
「あんたねぇ……。」
「まあ、どこだっていいんですけどね……。私たちを知らない場所へ連れてってくれるのなら……。」
「みほ、あんた……。」
私たちは旅をした。私とエリカさんの二人だけで。行く宛もなにもない自由な旅へ。昨日までにさよならを告げるために。
黒森峰女学園機甲科の隊長室。限りなく無駄が省かれ、管理者の精神がよく反映された部屋。居るだけで背筋がピンと伸びるような雰囲気も、その日ばかりは、気が滅入ってしまいそうな空気に包まれていた。その中でも、もっとも暗く重い空気を纏っていた西住まほが、ゆっくりと口を開く。
「みほ、エリカ……。考え直さないか? 二人が責任を負うなんておかしい話だ。ましてや退学なんて……。これは隊長である私が責任を取るべき問題だ。。」
第62回戦車道全国高校生大会決勝。黒森峰と強豪プラウダ高校との一騎打ちの最中に、それは起きた。天候や地形などがいくつも重なった偶然の落車事故。不幸な事故ではあったが、ある少女たちの命懸けの行動により、幸いにも全員軽い怪我程度で済んだ。大事に至らなくて本当に良かった。そうなるはずだった。そうやって終わるはずだった。だが、世界は彼女たちにやさしくなかった。
「ごめんね、お姉ちゃん。辛いこと押し付けちゃって。でも、私がここにいてもね。みんな納得してくれないよ。」
「それにね。戦車道がわからなくなっちゃった。どんな気持ちで戦車に向き合えばいいのか。だから、ごめんね。私、戦車のないところへ行きたいの。」
まほと向かいあう形で座っていたみほは、終始つらそうな顔をしていた。
「この度はご迷惑をおかけしまして大変申し訳ございません。隊長の申し出は嬉しいのですが、どんな理由であれ10連覇を逃した責任は私にあります。その責任を果たすには、黒森峰を去ることでしか償えません。」
みほの隣に座っていたエリカも終始つらそうな顔をしていたが、視線だけは目の前を向いていた。
「もう気持ちは変わらないんだな……。」
「……わかった。だが、退学ではなく、休学だ。学校にはそう手続きをさせてもらう。これが私のできる限りの譲歩だ。」
「私はいつでも二人の帰りを待っている。それだけは忘れないでくれ。」
「「ありがとうございます。隊長。」」
「ほらっ。エリカさん見てください。いい景色ですよ。町を一望できるし、遠くにはきれいな山々がたくさん。海に近くないから、空気もからっとしてるのもいいですねー。」
「はあ、はしゃぎすぎよ、みほ。そんなに柵から乗り出してたら危ないでしょ。」
田舎町の高台のある公園。二人は一通り景色を堪能した後、近くのベンチで沈みゆく夕日を眺めていた。聞こえるのは風の音だけ。しばらくは心地よい静寂が続いていた。しれも、先ほどまでの明るさは姿を隠し、どこか影の見られるみほに破られた。
「……エリカさん。ほんとによかったんですか? 私なんかと一緒にきちゃって。エリカさんまで休学しなくても……。」
「はっ。何言ってんのよ。隊長にも言ったけど、責任をとるのは当然のことでしょ。だけど、自分のしたことに後悔なんて、これっぽっちもないわ。」
「でも、だからって……。」
「それにね、心配だったのよ。あなたのことが。」
「え……。」
「大切な友達が道に迷ってるのよ。傍に寄り添っていたいって。一緒に悩んで苦しんで、迷いを振り切る手助けをしたいって。そう思うのはいけないことかしら?」
「それは……。だめじゃないですけど……。」
「ならそれでいいじゃない。それよりも。これからどうするつもりなの? まあ、何を選択してもついていくけどね。」
「ふふっ。ありがとうございます。でも、まだわかんないです。ただ戦車を思い出したくはないかなって。嫌いになったわけじゃないと思う。きっといつかは戦車を駆けることになるかもしれないけど。今はだめ。一度きっぱりと別れを告げないと、いけない気がするんです。」
「そう。まだまだ時間はゆっくりと気持ちと向き合っていけばいいわ。ただし、なんかあったら周りを、特に私を頼るのよ絶対に。ただでさえ、あんたは一人で抱え込みやすいんだから。」
「はいっ。気を付けます。」
「それじゃ、今日の宿を探しに行きましょ。初めての町だから、さっさと行動しないと危ないし。」
「あっ、待ってくださいよ。エリカさーん。」
新しい世界へ踏み出すこととなった、二人の逃避行。この先に何が待ち受けているのか。何を失い、得ることになるのか、誰も知る由もない。だが、二人の旅路に幸あれ。彼女たちの道と再び交わるときまでしばしの別れを。また逢う日までさよなら。