pixivにも投稿したものです。
エリカとみほが全国大会後に会う話。

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みほさんが過去を振り返る話

 黒森峰時代、友達と呼べるような人はいなかった。もともと臆病な性格で友達を作るのは下手だったことと、もう一つの理由があった。その理由は、周りには西住の名前に媚びて来る人と西住を恐れて近寄らない人しかいなかったからだ。

 

 でも彼女だけは違った。西住の名前に媚びることも恐れることもせず、真正面からありのままの私を接してくれた。それなのに私は、唯一友達と呼べた彼女を裏切った。

 

 ここは黒森峰学園艦内の学生向けショッピングモール。学生向けであることから、他のショッピングモールよりも開店時間が早めに設定されている。それでも開店までは時間があります。まだ待ち合わせ時刻までは1時間近くもあり、こんなに早く来る必要はないけど、家にいても落ち着かないので来てしまいました。もし船の時刻を間違えたらとか何かトラブルに巻き込まれたらどうしようとか、いろんな不安がないと言えば嘘になりますが、一番の不安は別のところにあります。これから私はどんな顔をして彼女に会えばいいのでしょうか。

 

 彼女と初めて会ったのは、私たち新入生の歓迎試合のときでした。黒森峰女学園戦車道では、入部して早々に新入生と2年生で歓迎試合が行われる決まりがありました。そこで、西住の名前の為に新入生チームの隊長にされ、作戦会議の主導を行ってたときです。誰もが沈黙を貫いていたなかで、真っ向から反対意見を出してきたのが彼女でした。

 

 その時の気持ちを表すとすると、驚きとうれしさをごちゃまぜにした感じです。いつも周りの人は直接言わないで陰でひそひそと言うばかり。まして、真っ向から反対されるのなんて、家族以外ではほとんど初めてでした。なにより、彼女は西住の名を気にしなかったのです。それをきっかけに、2人で意見を出し合いながら作戦をまとめていった結果、歓迎試合は私たちの勝利に終わることができました。

 

 それから私たちはさまざまなところで交流を深めていきました。戦車道や授業、はてはプライベートなときにも一緒に行動するようになりました。彼女は少しきつい口調や態度ではあるけど、なんだかんだ言いつつも面倒見がよく、何度も困っているところを助けてもらうことなんてしょっちゅうでした。

 

 しかし、たった一人の友達との日々も長くは続きませんでした。それは第62回戦車道大会決勝、黒森峰の10連覇がかかった大事な試合でのことでした。崖沿いを進んでいた車両が、豪雨により地面がぬかるみのために、濁流へと落車してしまったのです。その瞬間思考がすべて停止し、ただ助けるために体が動いてました。そして、落車したメンバーを助けに向かうため、フラッグ車を放棄してしまいました。濁流へと飛び込もうとするのを必死で止めようとする彼女の制止も耳に入らず、濁流にわが身を投げうっていました。なぜそんなことをしたのかと言われてもはっきりと説明はできないです。ただ気づいたら体が勝手に動いてたとしか。

 

 その後のことはぼんやりとしか覚えてません。ただプラウダの優勝を知らせるアナウンスと、彼女に本気で怒られたことだけは確かに覚えてます。

 

 落車したメンバーをなんとか助け、ふらついた体でフラッグ車の元に戻ってきたときでした。彼女にいままで見たことがない形相でつかみかかられたのは。もともと感情が顔に出やすく、怒った顔もたびたび見かけることはありましたけど、あのときの表情と比べれば優しいものでしょう。それほどに彼女の表情には鬼気せまるものでした。私はというと、ただうつむいてぬかるんだ地面を見つめることしかできませんでした。だってどんな形であれ、10連覇への夢を潰してしまったのだから。

 

 その後、敗戦の責任をとって黒森峰を去り、戦車道のない大洗に転校することになりました。そこでなら戦車道から離れた生活が出来ると信じてました。でも転校した先でも学園の存亡のために戦車道を再び始めることに。そして彼女と再会しました。戦車道を再び始めることになったときから、彼女との再会は避けられないのはわかっていましたが、まさかこんなに早いなんて。

 

 第63回戦車道大会決勝、私たち大洗と王者黒森峰の戦いは熾烈な戦いとなりました。それでもさまざまなものに助けられ、最後にはなんとか勝利をつかむことができました。学園を守り、自分の戦車道を見つける。大洗の私としては最高の結果とも言えるでしょうだけど、元黒森峰の私としてはどうでしょうか。10連覇を台無しにしたあげく、無名校を牽引して立ちはだかり、結果的に2度も黒森峰から優勝を奪う。これじゃ黒森峰の人たちに合わせる顔がありません。

 

 そう思っていたけど、お姉ちゃんは自分の戦車道を見つけられたことを喜んでくれました。赤星さんも戦車道を続けていてくれました。いつでも帰ってくるのを待っていると。誰もあの時の行動を間違っていたとは思っていないと言ってくれました。ただ彼女とは会うことが出来ませんでした。

 

 それでも周りから見れば、これが黒森峰の私も喜べる結果だと思います。

でもほんとはそんなことない。だって、どうやっても私が犯した罪も彼女を裏切ったことはなくならないから。

 

 あれからも会う機会がなく会って謝ることは出来ていません。そんなとき彼女から今日のお誘いの連絡が来たのです。だから今日の待ち合わせは、彼女に謝る最初で最後の機会なんです。それで許されようとは思いません。彼女はこれからも私のことを恨み続けるでしょう。それを考えると怖くて怖くて仕方がないです。体が震えだして、逃げ出したくもなります。でも逃げるわけにはいきません。どんなことがあっても彼女を傷つけてしまったことを謝らないと。だいたい待ち合わせ時間の15分前になった頃でした。彼女がやってきたのは。

 

 「はあ…あんた久しぶりに会うっていうのになんて顔しているのよ。見てるこっちまで気分悪くなりそうだから、もっといつもみたいにしてなさいよ。」

彼女はやってくるなり、そう言うと私の頭を強めにごしごしとし始めました。

 「わっ、あ…やめて…ください」

 「どうせ、いつもみたいにくだらないことで悩んでたんでしょ。」

 「ち、違います。あのときのことを、謝りたくて…」

 「はあ、全部終わったことなんだからいいじゃないのよ。そもそもあんたが謝ることなんて1つもないのよ。あのときだって自分が正しいと思ったから助けに行った。それでいいじゃない。もっと胸はってなさいよ。ほらさっさと行くわよ」

 そういうとさっさと手を引っ張って歩き出してしまいました。突然のことになすすべなく引っ張られていると、急に立ち止まり、

 「あ…あと、あのとき怒ったのは、助けたことじゃなくて自分の危険を顧みないで、あんなことをするからよ。少しは友達の心配も考えなさいよ。」

とまくしたて、また引っ張るように歩き出しました。

 

 その言葉は体に電流が走ったような衝撃をもたらしました。なんでいままで気づかなかったのでしょうか。とても簡単なことでした。今まで彼女は助けに行ったことを責めたことは一度もありませんでした。あのときだって、彼女は怒ってはいましたが、助けに行ったことを否定はしませんでした。彼女はずっと私のことを心配してくれてたのです。それなのに私は、周りを信じられなくなり、責任から逃げだし、そして裏切ったのです。でもほんとは、自分をあの選択は間違ってはいなかったと信じ、彼女の言葉をしっかり聞いていなければならなかったのです。

だからこそ、こんどこそは間違えません。

「あの、待ってください。」

 「なによ。」

 「…あのときは、ごめんなさい。」

 「あんた、人の話…」

 「違うんです。あのとき心配させてしまったこと、なにより、あのとき、いつ…エリカさんの言葉を信じられなかったことにです。」

 

 やっと言えました。ずいぶんと時間がかかってしまい、あげくエリカさんの手助けを借りる形になりましたが、ついに言うことが出来ました。

「まったく、言うのが遅すぎるわよ、ばか。」

エリカさんはまた前を向くと、ひとりで足早に歩きだしてしまいました。

そして、私もようやく前を向いて歩きだせそうです。

 「…あっ、待ってくださいよー、エリカさん!」

 


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