この素晴らしいセシリーさんにも貢物を! 作:ツーと言えばカーな私
…自身を包んでいた光が止んで、目を開ける。
新しく入ってきた日の光に眉を寄せながらも周りの状況を確認した。
今更見ないようなレンガ状の家が数々と並ぶ街路、飛び跳ねてる野菜を逃さぬように必死で網を巻きつけてる八百屋の店主らしき男性、畑から秋刀魚を掘り出している農夫、コスプレ染みたダッサイ装備を身にまとった冒険者らしきおっさん達が街に出ようと門に向かっていくのを見てると……異世界だなぁ…と第三者の様な視点で感想を述べてしまった。
私の名前は
先程天使さんから魔王討伐を任された
とまあ、キメはいいが私なんてこの世界の転生者の一人にすぎないだろう。
そりゃ自分が死んだって言われたら驚いたし、異世界があるんだって知ったらワクワクした。
転生特典も選べるってなったら更に興奮したし、今も興奮してる。
異世界に来る前に私が死んだ事を告げた天使さんからは『あなたって特殊な人ですね』なんて言われてしまった。
まあ確かに普通の人だったら今まで転生していった日本人の生存率や末路、異世界での世知辛さ、貴族たちの聞いただけでも胸糞悪くなる様な裏話、そもそもの言語理解もデメリット有りと聞いた時には異世界転生なんてしないだろう。
まあ、私はしてしまったんだが。正直、今の日本にいる方が嫌だと私は思うね。世知辛い世の中、他人から拘束を嫌う節のある私は今の社会に溶け込めていない実感があった。学校に秘密にやっていたバイトだって『あんた変わってんね』なんてパートのおばちゃんから言われてしまった。仕事じゃ何故だか毛嫌いされてたし。ここだけが世界じゃないんだとは理解はしているが苦しいものは苦しい。それにそんな余裕もなかったし。一般に私は社会不適合者と言われる人種だったんだろう。
手段の1つに、天国に行って平穏に暮らすというものがあったが、人生を17年ほどしか愉しんでいない私からすれば、達観もしていない人生観からお爺ちゃんお婆ちゃんと一緒に日向ぼっこをするなんて生き地獄みたいなものだ。
なにより、最近ハマっていたジャンルが異世界転生なんだ。これに飛びつかない高校生も早々にいやしないと思う。私は突発的に物事を決めてしまったという訳だが…今のところ後悔はない。
話を戻そうか。
私は魔王討伐を目指してこの世界に来た訳ではあるが、別に自由に行動してもらっても構わないと言われた。だが、それでも最初に取っておいた方がいい行動、もといチャートが存在する。それは『冒険者登録』である。
なんでも、この世界での身分を確立でき、今後の生活の役に立つから…らしい。
まあ、天の声とは聞くものだ。望んで聴けるものでもないし素直に従おう。
この街の中心部にギルドがあると最後にご教授を受けていたので天の声響くままに足を運ばせることにした。
ちなみに、冒険者登録をする際はお金がかかるらしく、一文無しなのも流石にサービスが悪いのでと天使さんから登録分+一泊の宿分のお金もといエリスは貰っている。
今から胸高鳴る冒険の日々や大魔法の数々を拝見することになるワクワク感からかスキップ染みた走り方で街中を走ってしまう。
そんな奇行をして景色を楽しんでいるうちに一風変わった建築物が見えた。
掲げられた大きな旗や木製の巨大な扉を見るに、自分がよく知っているファンタジー世界によくある冒険者ギルドの外装に酷似していた。
まあ十中八九これがギルドなんだろうけど。というかそうでなかったら恥ずかしい。
それが見えた所で一旦スキップを止め、普通に歩くことにした。
扉の前まで歩き、手を添える。
ギィ…と扉を開け、コッソリと冒険者登録をし早速クエストでも受けようとする…つもり…だったんだけど……。
ドンッ!
力を少し込めたつもりだったのにまさかこんなに力が強くなってるとは思わなんだ。
先程まで外に漏れていた喧騒が鳴りを潜め、冒険者達一人一人が私を見てきた。
なんだか生徒会長を決める演説の手前みたいな雰囲気だなぁ…と頭の中を茶化して歩を進める。
通常の高校生だったら自分よりも圧倒的に体格が大きく、年齢だって2倍以上は確実にある厳ついおっさんから視線を向けられるのは耐え難いものだろう。
しかし、この時の私はのぼせ上がっていたんだろう。能力を貰い、漲るような力を感じていたせいか、それとも異世界に行った高揚感が残ってでもいたのか厳つい男や勇ましそうな女性の視線をものともしないで通り過ぎていった。
そして、カウンターへと着く。
冒険者達は少し喋るようになっていて、小声で何かを話していた。
新人である私への評価だろうか?
「冒険者登録をしに来たんですが」
「は、はい!で、ではまず登録料として千エリス頂くのですがよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
「はい、確かに。最初に確認しておくのですが、冒険者とは何かお分かりですか?」
「ええ。祖父から教えてもらっていましたから。大体のことは…」
とんだ嘘っぱちだ。よくこの状況でコレ言えたと思う。いやまあ、一応知っているには知っているので半分は嘘じゃないけど、よく祖父から教えてもらったなんて清々しく言えたな私。
というか、なんで他ギルド職員の人たちも固唾を呑んで私の事を見てるんだろうか?
もしかしてさっきの衝撃で扉が壊れたんだろうか?え、じゃあ弁償しなくてはいけないんだろうか…。どうしよう、金なんて今出した千エリスと安い宿一泊分の六千エリスしか無いのだが……。
「それではこの書類にご自身の名前、身長と体重、身体的な特徴などがあれば御記載ください」
「あ、はい」
特に嘘を書く必要もないので事実のみを書くつもりだが、体重と身長は一年前のやつでいいだろうか…測ってないから分からないな…。
書いたものを渡すと次は水晶玉に似た何かが出てきた。なんかフェアリーテイルのラクリマに似ている気がする…気のせいか?
「それでは、この装置に触れて下さい。貴方の筋力値、敏捷性、魔力量などが数値化され冒険者カードが作られます」
「へぇ」
装置に手をかざすと指紋を読み取られるかの様に光が照射され、同時にカードにステータスが映し出されていく。
光が止まると、係員の人がそれを確認した。
「は?」
「え」
なんだ、どうした。
なんか不具合でもあったんだろうか?
「貴方の体の中には何か宿ってるんですか?」
「え?何がです?」
真顔で怖いというかおかしい事を聞いてきた係員の人に私も真顔で視線を返す。
アレかな。今頃厨二病が舞い降りたのかなこの人に、だとしたらこれから人間関係というか周りの人達が大変そうだな…。この人も厨二病が終わった後に黒歴史になってしまった数々の事で思い出して悶えてそう…。真顔から段々と可哀想な人でも見るかの様な視線に変わっていくのが自分でもわかった。人にこんな視線を送る側になるなんて…死んで転生してみるもんだね。
やがて、カウンターの人が吹っ切ったようにため息を吐くと突然大声をあげた。
「何なんですかこの筋力値と魔力値は!!?他のステータスもずば抜けてますし!!?貴方の体に一体何が詰まってるんですか!?怖いんですが!?」
いや、怖いと言われても…というか人に怖いなんて言われたの初めてですよ。
でもおかしいな。私は彼女に純孤さんの能力のみを貰った筈なんだけどな…。身体能力もそのまま貰ってしまったんだろうか。まあ、そうだとしてもこちらにメリットしかないから良いんだけど。というか後ろのギャラリーが少し騒がしい…。
「ンンッ!失礼しました…。正直に言いますと、アークウィザード以外でなら貴方は全ての職に就けます。私のおすすめとしてはソードマスターあたりが良いのですが…どうでしょう?」
「一応、他の職業も聞かせて貰えないでしょうか?」
「はい。貴方のステータスでは【アークウィザード】以外でなら本当に何にでもなれるので全てご紹介させていただます。まず、パーティの盾役と言われる【クルセイダー】パーティを回復し強化する【アークプリースト】ダンジョンなどで活躍する場の多い【盗賊】その上級職である【
……聞いていて思ったんだけど、よくここまでの職業を分かりやすく纏めて丸々全て私に説明したね……優秀すぎないかな?君、違う職業に就いた方がいいんじゃないんかなぁ…。
それと、さっき心の中で厨二病患者だと思って憐れみの視線を送っていたのはすまない。
それにしてもどうしようか。ソードマスターがおすすめと言われているけど、ぶっちゃけどれでもいいんだよなぁ…。純孤さんの身体能力まで私に移されたとしたら…本当に勝てる存在なんて早々に居ないだろうし。人間じゃ絶対…いや人間以外の怪物たちと戦うんだけど。
「アークプリーストでお願いします」
「前衛職ではなくてよろしいのですか?」
「ええ、まあ」
「それでは、カズト様!ギルド職員一同、貴方の今後の活躍にご期待しております!」
そう言われると同時に、後ろにいる冒険者達の歓声に近い称賛の声が次々と挙げられた。
すげぇやつが来たもんだぜ…とか、新人には俺たちの流儀ってもんを教えてやらねぇとなぁ…とか、案外、アンタみたいな奴が世界を救っちまうのかもな…とか。
…アレだね、やっぱりこの感じっていいね。
異世界に来たって感じがあるわ……。
それにしても冒険者達の豹変ぶりが凄いな。さっきの重苦しい雰囲気はどこに行ったんだろう。
ちなみに、この後壊したあの扉を弁償するよう言い渡されて、早速借金に追われる羽目になりました。(残り二十九万四千エリス)
…世知辛さってのはこれかな…天使さん。
♢
……自分の冒険者カードを見て唖然としている。
早速この世界のスキルでも覚えようとしたが、覚える方法が分からず、先程自分を相手にしていたスズさんに聞いてみれば冒険者カードから取得できると聞いた。
そして、それらしき欄があったので見てみれば《ヒール》に《ターンアンデッド》、《パワード》などなどこの世界のスキルが記載されていて、横には必要なスキルポイントが書かれていた。
《ヒール》5ポイント、《セイクリッド・ヒール》15ポイント、《セイクリッド・ハイネス・ヒール》25ポイントと言った感じだ。まあ妥当なポイント量だと思う。
このスキルポイントはモンスターを倒し、モンスター達が持つ魂の経験を自分の魂に吸収させレベルアップする事で手に入るのだが…元々の潜在能力次第で最初から持ってる者もいるにはいるらしい。しかし、そんな存在は稀であり、持っていたとしてもポイントは少ない場合が多いらしい。
では、今自分の目の前に表記されているポイントは何だろうか?
《スキルポイント 500000000》
五億。それが私のポイント欄に書かれてある。
私は転生特典を3つも頼んだのだろうか?
純孤さんの能力は自ら望んで手に入れたものだから当然として、身体能力までも受け継いだのは嬉しい誤算だったが…この大量のスキルポイントは何だろう。
もしかして、これも付属として貰い受けたのか?だとしたら天使さん。極端に与え過ぎやしないですかね。
いや……もしかしたら、これも純孤さんの能力の影響なのかもしれない…断定するのには早いが純孤さんはそういう規格外な存在だからあり得るにはあり得る…。
まあ、これも今後が楽になると考えれば嬉しい事だが…仲間が出来た時に一緒に高みへ行くという楽しみが一切失われてしまった。
少し残念に思いながらも、表記されている全てのスキルを覚えた。
勿体ぶってる必要もないからね。
でも、どうしようか。
スキルポイントが1000近くしか使われていないのだが…。
これを誰かにあげることって出来ないのかな。
♢
スキルも覚えたところで、クエストを受けようとしたところ。
「流石に前衛もこなせるとはいえ、支援職のみでのクエストは厳しいですよ?いくら貴方の馬鹿げたステータスとはいえ」
至極真っ当な答えが返ってきた。というか若干失礼になってませんかね、スズさん。
「せめて1人や2人パーティ組んできてからにして下さい。それでも行くというのなら止めませんが……」
「大丈夫ですよ、軽い様子見程度で終わらせるつもりです」
「そうですか?…それなら……」
受けたクエストはゴブリンの討伐、まあ初心者からしたら十分なクエストだろう。
「このクエストの近辺では初心者殺しが確認されています。十分気をつけて来てください」
「え?あ、はい」
初心者殺しと言われても何のモンスターだかは分からなかった。
取り敢えず名前から、私の様な新人の冒険者をハントする様な存在だろうという予想はつく。
ちゃんと調べてから行くのが定石だが、純孤さんの身体能力がある時点で有象無象の生物に負けるとは到底思えなかった。いい加減、授かった力を過信するのもよくないと思うのだがいかんせんその考え方は治らない。
目的の湖畔に着き、木陰からゴブリンたちの集落を見つめる。
ゴブリンたちは一体感のない錆びれた鎧や片手剣に盾と装備していて、追い剥ぎなどしてかき集めた感が半端なかった。小柄な体と錆びれた一体感のない装備を見てるとより貧相に見えてくる。
身の丈にあっていない装備を着るとあそこまでダサくなるんだなぁ…と場の雰囲気に合わない思考を抱いてしまった。
さて、ここからどうしたものか。スズさんには軽い様子見程度っと言ったが、全くそんなつもりはない。
きっちり全員あの世に送ってあげるつもりで来た。思考が穢れに穢れているが、純孤さんも嫦娥嫦娥言って思いっきり復讐を企んでるから穢れとか関係ないだろう。
純孤さんの身体能力を受け継いでいるので軽くゴブリンの首でも捩じ切ってやってもいいが…能力を試したい気持ちもある。
まあ、結局はどっちも試す羽目になるんだけどさ。
「ギィ?ギッ!ギィィィィィ!!」
見張り台のゴブリンからこちらに向けて雄叫びが挙げられる。
それに呼応して集落のゴブリン達はこちらを見てきた。
「かわいそうな子たち…」
静かに話しかける様にねっとりと言葉を使う。
「私が救ってあげるわ」
誰もが聞いたら臆するような声でゴブリンに処刑を宣言した。
……決まった!
ちょっとカッコつけたくて言いたかったセリフが言えた!
もしここに人がいたら墓場まで持ってく黒歴史だけど……いないからセーフだよね。
戦い慣れも喧嘩慣れもしていない自分に刃を立ててきたゴブリン達は、純化した死の概念を与える事で死んでしまった。
純孤さんの身体能力も試そうとゴブリンの頭を掴み回してみた。気持ち悪い音を出しながらゴブリンの頭は千切れ死んでいく。
抱きしめてみようとしたら鎧や骨ごと壊れ、血の雨を降らせながら内部から爆発してしまった。これには流石にグロ過ぎたので吐きそうになった……自分でやったこととはいえ、やる事がえげつないと思う…でも何でだろう…気分が良いな。
突然こんな事を言いたくなった。
「不倶戴天の敵、嫦娥よ!見ているか!!?お前が私の前に現れるまでコイツらをいたぶり続けよう!!」
キャラになりきりたいという思いからこんなセリフを吐いたが、男の声になので何かしっくりこない。ただ、叫びながらモンスターを殺していくというのは、側から見れば頭おかしいやつだが…結構無双ゲーム感があって気持ちが良いものだ。
もう一度抱き上げ、締めて、ゴブリンの肉体が爆発四散する。血と臓物に塗りたくれながらも大分気分が良い。また新しいゴブリンを締め上げてる最中にゴブリンが私に刃を突き刺してきた。鋭い痛みと肉が裂けるような生々しい音を聞いて現実に戻されるような感覚に落ちる…刃を引き抜きゴブリンの目に思い切り突き刺すとそのまま地面にクレーターが出来るほどの拳骨を喰らわしてしまった。当然のようにゴブリンは圧殺されまた血と内臓が床に飛び散る。軽く『ヒール』と答えると簡単に怪我が塞がり逆にイイ気分になってきた。自然と頰が釣り上がって中々味わえない気分になってきた。
その笑みを見てか、それとも仲間の死骸を見てか生存本能が働いたのか生き残ったゴブリンたちが逃げていく。
追いかけようとしたが、そんな面倒な事しなくても能力使えばすぐ済む話じゃないか。と思いついたので逃げ惑うゴブリン達全員に向けて純化した死を与える。すると全員パタリと倒れて死んでしまった。
「やっぱりゴブリンじゃこんなものか…」
序盤に出てくる雑魚に最強ムーブをかますのは弱く見えるだけだな…と自分の行動に反省する。 一度落ち着いた所為かゴブリン達を殺す度に吹き出た血が体に伝っていく感覚が気持ち悪く感じてくる。
そういえば、水質を改善する魔法があったような気がする。
「たしか……『ピュリフィケーション』」
自分の体が仄かに光ったかと思うと血が全て水になっていた……!?
いやでも艶かしい感じが無くなっただけで血生臭さはすぐには消えなくてより一層気持ち悪くなってくる…。
というかなんだこのめっちゃ噛みそうな名前をしてるスキル。効果は地味…と言っても元の世界じゃ世界救う可能性すらあるな…私の戦闘スタイルの場合だともっと必要になるけど。
今更だけど、服どうしようか…この一張羅しかないぞ……
ハァ……とため息をついた瞬間___
「ギャ!!?」
陰から飛び出してきた相手の爪をひっ摑んだ。
…自分でも驚いている。
なぜ反応出来たのか…明らかに鋭利な爪を素手で掴んでいる。明らかに自分よりも体格が大きいモノを素手で押さえつけている。先程のゴブリンよりも違和感は大きくなった。急に純孤さんの身体能力を写されたせいか、いつものような感覚で力を入れるとまだ大きな力の差が生まれる様である。
相手は虎…というよりかはサーベルタイガー…いやモンハンのベリオロス……いやでも翼脚だった部分は完全にネコ科の足になってるし…まあいい、おそらくクエストに行く前にスズさんが言っていた初心者殺しとはこいつの事だろう。
先程のゴブリン達とはワンランクもツーランクも上の存在に見えるが…
相手との力は均衡しているかの様に見えるが、実際のところ自分はそこまで力を加えていない。相手の必死な様を見るにコレがコイツの限界だろう。
「お前もここで新人の冒険者は狩ってきたんだろ?今みたいに、なら狩られる覚悟はあるよな?」
よくアニメとか漫画で使われるようなセリフを自分なりに言い換えて、私は初心者殺し?の頭を握りつぶした。
♢
あまりの呆気なさにコレがチート転生って奴か…と変な違和感を持ってしまう。
この世界に来てからどうもおかしい。まあゴブリン達に喧嘩…というより処刑宣言をした時は完全にカッコつけたいが為に言ったが、殺すのを楽しがっていたのは完全に異常だ。紛れもなく本心で楽しんでいたのだ。ていうか最初からゴブリンの首を捩じ切ろうとした発想自体とんでもない。普通に考えて怪力ステータスあるのだとしたらそこらの石を投げるのが定石だろうに。…違和感が酷い。身体と精神が付いていけてないキャラクターみたいだな。
まあ、天使さんがこの世界に慣れるよう精神を弄っただけかもしれないし、言語理解のデメリットで文字通り頭がいけない方向でパーになったのかもしれない。……原因は分からないが現状、思考と精神の齟齬ぐらいしか特に困ったこともないのでしばらくはこのままでいいだろう。
にしても、この気色悪いビショビショ状態をどう乗り切ろうかなぁ…。
……解決策がない。いやあるにはあるが、方法が自分がこのだだっ広い野原の上に裸になって服が乾くのを待つことだけで、滅多に人が通らないといっても近場でクエストをこなしている冒険者もいるわけで素っ裸の状態でいるというのも流石に頷けない。かと言ってビショビショのままで行くのも……。
能力でなんとか……いやそもそもベクトル違うし。
色々考えたが結局解決策は思いつかなかった。
はぁ……諦めて街に戻るか。
♢
グジョグジョと靴を鳴らしながら歩いている様は完全に変な人である。雨も降っていないのに靴を濡らすとかどんな状況に遭ったんだって、普通の人なら思うよね?思わない?そう……。
服と髪は歩いているうちに乾いたが靴はそうもいかなかった。
もう街中で裸足になって歩いてみたいもんだが、そうなったらなんか警察の人とか呼ばれそうなのでやめておく、もうこれからは肉体に頼らずに能力だけでクエストやっていこうかなぁ……なーんて思っている時。
「アクシズ教をお願いしまぁーす!ほら!そこの幸薄そうな貴方!アクシズ教に入れば宝くじが当たるとか急に彼女が出来たりとか色々といい事が起こるとかなんとかあるそうですよ!ここは入るしかないですよね?そうですよね!さあさあさあ!アクシズ教に入りましょう!!」
「いや、は!?アクシズ教!?何デタラメ言ってるんだ!ウチは代々敬虔なエリス教徒なんだ!関わらないでくれ!」
「なら!絶対にアクシズ教の方がいいですよ!アクシズ教に改宗しましょう!エリス教団になんて入ってると尚更不幸になってしまいますよ!今なら100%アルカンレティア産の新鮮な聖水を二つ!更にはアクシズ教の美人プリーストとのお食事が出来る権利がついてきますよ!!」
「結構だ!!」
街中で随分と騒がしく宗教を呼びかけてる人がいるもんだ。
なんとなくそっちに近づいてみる。
やけに人が密集していたので前に出るよう『すいません…』と言いながら搔きわけるように入っていく。
やがて最前列に辿り着き騒がしい状況を作り出している本人達が見えた。
そこには、この街の男性と思われる普通の住人と、やけにハイテンションでアクシズ教という宗教を勧めてくるシスターの風貌の女性がいた。
あ、男性が逃げた。女性は逃げる男性を追うこともなく辺りを見渡す、どうやら相手にそこまで固執はしないようだ。まあ、厄介ごとは自分の好物なのでしばらくの間女性の動きでも観察しようか、靴が乾くまで時間もかかるし…というか気を紛らわしたいだけだけど。
あ、シスターの人が動き出した。どうやら次のターゲットを発見したようである。
どうやら此方の方面にいるようだ。凄い勢いでこっちに走ってくる。後ろを振り返ってみれば先程まで掻き分けて入った筈のギャラリーが居なかった。……ん?
「イケメンみっけぇぇぇぇぇえ!!!」
「もしかして私?」
目の前にはいつのまにか息を荒げた金髪のプリーストが………………
……………女神さまですか?
待って、どうしよう。女神がいる。全てにおいて完璧に可愛い女神が目の前にいる。
女神さまは私の事など気にせずに腕を絡めてきて言う。
待って、やめて、その恍惚とした表情で見ないで…本当に貴女が好きになるから…ちょ、待って。本当に、心臓痛い。
「ここで会ったのはきっとアクア様の思し召し!貴方と出会ったのは運命なのです!さあ!この婚姻届と入信書に早くサインを!!」
「え、あ、いや…その、む、胸当たってるんですが…」
「恥ずかしがらなくていいんですよ?さあ!今こそ入籍を!そして入信を!!」
「え、あ…うー…はい」
「え……!?ヨッシャァァァァァァァァァァァァ!!!」
腕だけではなく首元に抱きついてきた女神に私は抗う術を知らなかった…そのまま彼女の抱きついてきた勢いに負けて街中の街路のど真ん中でぶっ倒れた。
主人公は不意打ちに弱い(精神的に)(物理は強い)
Q.突然主人公パニクッたけどどうしたの?
A.自分の性癖と好みのドストライクど真ん中に入ったからです。気づく前までは普通に顔がよく見えていなかったからです。
Q.マジで結婚したの?
A.しました。ついでにアクシズ教徒にもなりました。
セシリーさん結婚おめでとう!