この素晴らしいセシリーさんにも貢物を!   作:ツーと言えばカーな私

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悪魔退治と洒落込む

 翌日になってみれば、もう昼近くだった。隣にセシリーは居なく、大分自分は熟睡していたらしい。

 それにしても、昨日は流石にハッスルし過ぎた。…なんとも言えない雄と雌の匂いが今でも鼻にこびりついている。昨日は…本当にいつまでシていたんだ?と自分自身とセシリーに疑問を持つ。

 

 だが、その中に性欲ではなく、食欲を誘う様な匂いが鼻腔を刺激し始める。リビングへ向かうとセシリーが朝ごはん(という名の昼ごはん)を作って待っていた。

 

 そのまま席に着き、嫁と一緒に和やかな食事でもしようかと思ったが、食事中に昨日の営みについて感想を述べられた。これには流石に失笑した。

 なんでも年下からリードされるのは新感覚で前回とは全く違った快感で気持ち良かったのだとか……朝からする会話ではないのだが、自分の欲求に正直なアクシズ教では普通の会話なんじゃないか?と思えるようになっていることに気付き、人としてなんだか何かを失った気がする…。まあ、今日もそんな会話から一日が始まっていく。

 

 次はどんなシチュでやりましょうか!と笑顔で聞いてくるセシリーにまた失笑し、少し考えてから返す。

 

「私が赤ちゃんの役に徹すれば面白いとは思わないか?所謂赤ちゃんプレイだ。昨日は私が攻めだったし今度は受けでいいよ」

「いいですね!今日やってみましょう!」

 

 私たちは聖職者ではなく生殖者ではないだろうか。それとも性職者?

 まあ、朝からする会話ではないのは確かだ。だが、明らかにおかしいと自覚していても『楽しければよかろうなのだぁ!!』の精神でやっていけばいいと思う。

 

「あ、そうだ。聞いてくださいよカズトさん。私がまだこの街に来てすぐだった時に面白い子が居たんですよ」

「へぇ…どんな子がいたの?」

「私が買い出しのついでに冒険者ギルドになんとな〜く立ち寄ったら、ギルドの隅に困っていそうな可愛い美少女が居たんですよ。これは毎日エリス教徒に嫌がらせしていた私へのご褒美だ!って思ってその子の悩みを聞いてあげたんですよね。勿論、アクシズ教への勧誘も含めて」

「そしたらどうなったの?」

「そしたらその子『アクシズ教に入信したら…私にも友人や仲間が出来ますよね!?』って言ったんですよね……いやー、アレはマジの方だったので関わるのをやめましたね。でもその後美少女を勧誘できるチャンスを逃しちゃった!ってすっごい後悔したんですよね。あー、また出会えないかなぁ」

「それだったら私が探そうか?多分その子ギルドにいたって事は冒険者だろうし」

「本当ですか?ありがとうございます!」

(ギルドでそんな願望抱く美少女って多分いつも隅でトランプしている子だよなぁ…)

 

 ピロートークを続けて朝ごはんを食べ終えた後は教会の掃除を行った。

 

 なにせこの教会を運営しているのはセシリー…そしてこの街ではアクシズ教徒が非常に少なくぶっちゃけ掃除している者なんて居ない。私が来てから祭壇があったあのでかい会場と私たちの寝室は掃除し終えたが、それ以外はまだ埃を被っている物置状態だ。

 前任の責任者はこの事態に手をこまねいて居たが、セシリーが新任されたので全部押し付けたのだ。流石アクシズ教。例え同教だろうが潔く面倒ごとを押し付ける姿勢に思わず笑ったよ。まあ、その後その前任者の身元を割り出して家に乗り込んで少し抱きしめて(色々と折って)やったが。

 

 セシリーは献身的な姿勢でアクア様の為なら!と言って箒を両手に普通に掃除をしている。その姿は正しく聖女に見えた。

 …前任者はこの精神を無くしたんだろうか。

 まあ、私もその前任者の事を強く言える訳ではないが…(ただし、強く暴力は振るえる)。

 私は日本では無宗教だった。精々が仏教の慣わしとして死者を弔ったり、一周忌を迎えるごとにお墓参りをしていただけだった。神も居たら嬉しい程度にしか思っていない。そんな普通の人だ。

 アクア様と言って自分たちの御神体を敬愛しているアクシズ教だが、私はその中でも異端だろう。アクア様といういるかどうかすらも分からない神に未だ半信半疑で信仰出来ていない…なんちゃってアクシズ教徒なのだ。

 

 そんな精神でアクシズ教徒をやっている自分に嫁への罪悪感が酷い。

 なんとかして自分の命さえも捧げられる程アクア様を信仰出来ないものかな…それぐらいでやらないと嫁に合わせる顔がなさそうだ…。まあ見ちゃうんだけど。

 

 そんな気持ちで使える聖水と腐ってる聖水とただの水を分別して収納または処分している自分に呼び声が掛かった。

 

「カズトさん!カズトさんはいらっしゃいますか!?」

 

 多分この声はスズさんだろう。

 こんな昼近くにどうしたんだろうか?そもそもギルドの職員が教会…というより冒険者の元に直々に来るという事自体珍しい気がする。

 

「なんなんですかあなたは!私のカズトさんを気安く名前で呼ぶなんて!は!?まさか不倫相手!?」

「んな訳ないでしょう!?私は不倫相手じゃないです!私はギルドの職員のスズという者でして、今日は冒険者であるカズトさんに用があって来たんです!断じて不倫相手なんかではありません!!」

「そんなこと言って私からカズトさんを奪うんでしょう!?騙されないわよ私は!さあ!さっさと帰ってところてんスライムでも食べて喉を詰まらせて苦しめばいいわ!それかアクシズ教に入信しなさいよ!そしたら一夫多妻だって認めてやらない事もないわ!勿論本妻は私!」

「結構です!なんで私があの人と結婚する事前提なんですか!?」

 

 ギャーギャーと朝っぱらから騒いでいる二人に近寄ると、スズさんが私の存在に気付いたのか顔を明るくした。

 というか、本当にどうしたんだろう。こんな朝に。

 

「あ!カズトさん、いいところに…貴方の妻が私を不倫相手だとか言うんですけど違いますよね!?」

「うん、違うね。私はセシリー一筋だからスズさんとは飲み仲間になっても恋人はないな」

「…女性の前で随分と失礼な事言いますね。私もそこそこ傷つきますよ?」

「なんだ、面白くないの」

「話を盛り上がらせた方が良かったかな?実は不倫してました、的なの」

「やめてください。……ハァー…なんで呼びにきただけなのにこんなに疲れるんですかね…」

 

 スズさんが少し項垂れる。

 まあ、一般人からしたら私たちアクシズ教徒の相手をするのは相当体力を使うんだろう。

 私は楽しいと感じるので余り苦にはならないのだが。

 

「そういえば、スズさんがここに来るなんて珍しいね。どうしたの?」

「やっとですか。やっと説明できますよ!全く……実はですね。貴方は最近王都から帰ってきたので知らないでしょうが、今この街の近辺の森で上位の悪魔がいる事が確認されているんですよ。そこで討伐隊を結成したいのですが何しろ駆け出し冒険者しか居ないこの街では多勢に無勢です。そこで悪魔に対して絶大な力を誇るアークプリーストである貴方の参加が必要不可欠なんです。この街で貴方並みのアークプリーストはもう一人居るはずなんですが…未だ見つかっておりません。そこで最近王都から帰ってきたという貴方の元へ伺ったというわけです」

「あー…そう言えば昨日冒険者達が悪魔の所為で稼ぎ場を失っちまった、とかなんとか言ってましたね。構わずに白狼の群れ討伐に行っちゃいましたけど」

「……貴方だけですよ。駆け出しの街で高難易度クエストをそう易々と受けられるのは…」

 

 アレで高難易度だったのかぁ…ちょっと拍子抜けだったなぁ。いや、駆け出しの高難易度なんだから順当というなら順当か、王都の高難易度と難易度を比べるのは酷だ。あそこは魔王と戦う最前線の国家だから仕方のない。

 と、そこまで考えたところでセシリーに肩を叩かれた。

 

「カズトさん!今こそアクセルの街を脅かしているクソ悪魔を倒す時ですよ!まだ教えていませんでした(るのを忘れていました)がアクシズ教の教義の中に『悪魔殺すべし』という鉄の掟があります!私は簡単な回復魔法しか使えませんので今回は討伐隊には入れませんが、これで貴方が街の人を困らせているというクソ悪魔を討伐すればアクシズ教のイメージがアップして絶対に入信者が増えます!アクア様の教えに従いかつ、入信者が増えるとなるんじゃ一石二鳥ですよ!頑張ってください!」

 

 セシリーが自分に期待を込めた目で見てくる。

 嫁から期待されてるというのは私からしたら最高のモチベーションだ。それに頑張ってくださいなんて言われたら、やるしかないだろう。

 

「ちょっと世界中の悪魔を殺してくる」

 

「話が飛躍し過ぎてません!?それは後でいくらでもしていいので今は街の森にいる悪魔をお願いします!」

 

 ここでスズは思った。

 あぁ、この人相当な嫁バカなんだなっと。

 

 

 その後、嫁からのエールでやる気という殺る気が満ちた私はスズさんに連れられるがままギルドに向かい無駄にでかい扉を開け____

 

 バンッ!!

 

 ──また、壊してしまった。…力の制御を怠っていたらしい。

 ギリギリと首を動かすとニッコリ笑顔のスズさんが居て……

 

「スズさんも結構可愛い…というか美人の部類に入ると思うんだ…ホラ、そのショートヘアめっちゃ似合ってるし、目もかなりキツイですけどそれがなんか仕事できる女みたいな…」

「お世辞はいいです。弁償してください。そしてこれを修繕するのにどれだけ手続きが大変だかわかりますか?1発殴らせなさい」

「……イエスマム」

 

 まあ、金には余裕があるから良いんだけどさ!

 

 パンッ!

 

 ……痛い…セシリーのビンタ食らった並みに痛い…。

 

 

 ここでカズトがギルドに来るまでに起こったギルドでの出来事を記そう。

 

 まず、最初に抗議の声を上げたのは血の気の多い冒険者からだった。

 このままでは俺たちの生活は苦しくなるだけだぞ!あっちが来ないんだったら俺たちの方から仕掛けるべきだ!相手が悪魔だかなんだかしらねぇがガンガンいこうぜ!

 

 と…その声は波紋の様に広がり、冒険者達は次々に悪魔の討伐をギルドへと要請した。

 ギルドの職員はその勢いを止められず討伐隊を結成することを決定してしまった。

 

 そして、討伐隊を組む際の隊列をどうするか…と話を振り始めた所、真っ先に手を上げた者がいた。

 

「僕が最前列の隊に行こう」

 

 一番早く名乗りを上げたのは巷で噂の神すら滅ぼす魔剣を持つ勇者だった。

 一部はしゃしゃり出てくんなと反発した者達もいたが、見事にボコボコにされて皆はその青年の力を認めざるをえなかった。

 

 そのままアクセルの街でも有数な力を持つパーティの多くが最前列へ並べられ、一部の有力パーティは不意打ちに備えて力のもとない者たちと共に最後尾へと回された。魔法職の者や支援職の者は中央に配属され、青年を筆頭に大方の陣形は整ってきた

 

 

 しかし、ここで問題がある。

 いくら神殺しの魔剣を持っているからといってここは駆け出しの街…本当に悪魔を滅する力はあるのか?と。

 要は火力不足だ。今回は紅魔族の二人の魔法使いがいると言ってもどちらも悪評と年齢が原因であまり戦力には考えられていない。

 それでいざこざがあったりしたがここでは割愛しよう。

 

 そして、対悪魔のエキスパートであるプリーストにその不足している火力を補おうとしたが、相手は上級悪魔。並みのプリーストでは歯が立たずアークプリーストレベルでないと張り合えないだろう。

 

「この街にアークプリーストなんて居たか?」

「そもそもプリースト職自体なり手がすくねぇんだろ?」

「この街にそんな奴いるわけねぇだろ」

 

 冒険者たちは早速困ったことになった。が、ここで一部の冒険者達とその相手をいつもしていた受付嬢は思い出す。

 あのやべーやつがいるじゃないかと。

 

「あ、いるじゃないですか!私たちの街についこないだアークプリーストになった2人が!」

『あ』

 

 いつもあのやべーやつの対応している受付嬢が言ったことにより、忘れていた冒険者達も思い出した様だ。一部はあのやべーやつを、また一部の冒険者は水色の髪をした発言が残念な少女を。

 しかし、本当に何も知らない者達はまだそれが一体誰なのか分からずに疑問符を浮かべている。

 そこで知らない者の一人、レックスが声を上げる。

 

「つったって『ついこないだ』なんだろ?本当に使えんのか?」

 

 当然の意見だろう。

 ここは駆け出し、駆け出しだからといってレベルが上がりやすいと言ってもプリースト職はアンデッドや悪魔などの特異なモンスターを倒すのがレベル上げのメインな為一番レベル上げにくい。『ついこないだ』が、どれ程前の事なのかは分からないが、アークプリーストになれる程の素質があるものがそんな短期間でレベルが上がっているとは思えない。スキルもステータスも見劣りするだろう。

 

「大丈夫です!片方の方は一部のステータスは低いですが、どちらもずば抜けて高いステータスを持っています!しかも、既にどちらも全てのスキルを取っている超優秀なアークプリーストなんです!更に一人は既に王都で活躍している方です!」

 

 受付嬢の声を聞いて冒険者達の空気が変わった。全員が希望を見出したかの様に目が明るくなる。

 

「マジかよ!そんな人達がいるんだったらいけるんじゃないか!?」

「一体どんな人たちなんだよ!?」

「それが…お二人ともアクシズ教徒なんです」

 

 また受付嬢の声を聞いて冒険者の空気が変わった。

 さっきとは違って目に曇りができ、皆眉を顰める。

 

「え…」

「…よりによってなんでアクシズ教徒なんだ……」

 

 あの自由奔放で宗教勧誘に詐欺紛いな事をしょっちゅうして、実際に警察のお世話になっている者もしばしばいるあのアクシズ教…。力になるのは確かなのは分かったが…組むかどうかは別になってしまう。

 

「一人の方は女性で、もう一人は男性です。女性の方の行方は現在分かっておりませんが、男性の方なら分かっています。少し前までは王都に居ましたが今は帰省しているので、恐らくアクシズ教会の方に居られるんじゃないかと…」

 

 居る場所を聞いたって誰が喜んで行くものか…皆に反応は無く、誰が行くのかと視線を飛ばし合っている。

 あの男と女性を知っている者達もあまり関わり合いを持ちたくない様で無視を決め込んでしまっていた。これではいつになっても討伐隊が結成されないのではないかと徐々に不安が高まっていた…その時。

 

「ねぇ、貴方が行ったら?」

「え、私?」

 

 他の受付嬢がスズが行けばいいのでは?と提案してきた。

 すっかりと静まり返っていたギルドにその小声は響くもので、皆がスズを見てきた。

 

「えぇ……」

 

 誰か救いはないものかと仕事仲間を見れば全員顔を背けている。

 おい待て、私があんた達の仕事を受け持ったこともあっただろう。その恩は返さなくていいのか!?と視線を送れば、冷や汗をかいたものが数名、顔を更に背けたのが数名いた。

 

 ……この世界って本当に腐ればいいと思う。

 と半ばヤケクソで訪れたのが今朝のスズであった。

 

 

 カズトが来たからといってギルド内は歓声に包まれるでもなく、静かな状態を保っていた。

 苦い顔をしている者達がちらほらといる。それもこれもカズトがアクシズ教だという事実もそうだが、扉を壊したことで受付嬢に殴られた光景を見れば本当に頼りになるのか不安になってしまう。

 

 そう思いを寄せている冒険者達を他所に問題のカズトは殴られた頰をさすりながら冒険者達のグループに近づき、挨拶を始めていた。

 

「やあやあ皆さん。揃いも揃って元気かな?私はカズトという冒険者になってからという意味でも、アクシズ教徒になってからという意味でも日が浅い半端者だよ。まあ、王都で色々とやっちゃって今は出禁にされてるけど、よろしくね」

 

 

 おい待て今なんつった?

 

 そう問いかけようとする者が何人か居たが、誰も問いかけることがなかったので質問するのをやめた。同調意識とは怖いものである。

 

「君が噂のアークプリーストだね。今回はこの悪魔討伐に参加してくれてありがとう。僕は御剣響夜、気軽にキョウヤと言ってくれて構わない。クラスはソードマスターをやっている。よろしく」

「ああキョウヤくん、よろしく」

 

 期待の魔剣の勇者と今回の最重要人物が挨拶を交わすと、ギルド職員から今回の悪魔討伐の詳細が語られ、遂に冒険者達は悪魔討伐へ向かった。

 

 

 

 

 

 今までの特異な戦績と、そのずば抜けたステータスから、当たり前の様に最前列へと並べられているカズトは、悪魔という存在はどういう生態をしているのだろうか?と少し興味を抱いていた。

 前世の世界では絶対に居ないと決められたという訳ではないが、それでも居ないという認識が世間一般であり、そんな空想上の生物が当たり前のように屯しているこの世界で出会えることが確定し、子供のようにワクワクしているのだ。

 

 セシリーが…というよりは私が今信仰している女神アクアは悪魔ガチアンチの様だが、正直悪魔相手に話してみたい欲求があった。

 

 

 春になってもまだ地味に寒さが残る森の中で、誰ともグループを組むこともなく、ただ一人だけポツンと最前線グループの中央に配属されたカズトは、一人でそんな思考を抱いていた。緊張感のないその様子に周りの冒険者は注意しようとするもまだアクシズ教徒という事で関わりたくないのか距離を置いている。

 

 

「モンスターが出たぞー!」

 

 すると、突然後ろから声がした。

 振り返ればどこからともなく現れたモンスター達、しかしどれもこの街で初心者が相手をする様な雑魚ばかりである。魔剣の勇者を筆頭に前衛職の冒険者や魔法使い達が一斉にモンスター達を屠っていく…が、しかし…

 

 

「クソっ!なんなんだよこの大量の雑魚はよぉ!」

「斬っても斬ってもキリがねぇぞ!」

 

 いかんせん数が多かった。

 次第に木からスライムが落ちてきて窒息死しかけている冒険者も出る始末。

 

「『ライトニング』!『ブレードオブウィンド』!」

 

 魔法職の中でも一際目立つ中級魔法を放っているのは誰だろうか。目を向けて見ればそこには小さな女の子が2人…しかも瞳が赤い……ああ、あれが世に言う魔法のエキスパートの紅魔族か。だとすると…彼女達がウチのギルドで有名な紅魔族達か。

 

 その子も必死に魔法を撃ってモンスター達を減らしていくが本当にキリがない。

 

「おい!そこのプリースト!早くこっちを回復してくれ!敵の数が多すぎる!それか強化魔法をかけてくれよ!」

 

 周りばかり見ていて何も行動していないカズトを一人の冒険者が叱責してきた。これは失敬とカズトは急いで魔法を詠唱する。

 

「『ヒール』!『パワード』!『プロテクション』!『スピーダー』!…どうかな?」

「うぉおっ!?これがアークプリーストの力ってやつか?信じられねぇぐらい力が湧いてきやがる!」

「おい!それこっちにも掛けてくれ!」

「オーケー。『ヒール』!『パワード』!『プロテクション』!『スピーダー』!」

 

 一部の冒険者達の力が大幅に上がり大量にいたモンスター達が駆逐されていく。

 実際この世界でまともに人に魔法を使うのは初だったりして、あ、成功した!とカズトは心の中で喜んでたりする。

 

 支援職の名の通り味方を一通り強化し終えて、傷をある程度負った味方に回復を施す。

 あぁ、今なんかパーティらしい事してるなぁ…とカズトが仲間がいる時の楽しさを感じていると…。

 

「グゥッ!?」

「キョウヤ!?」

 

 突然魔剣の勇者がぶっ飛ばされてきた。

 その方向に目を向ければ黒い巨大な怪物…漆黒の毛皮というべきかやけに光沢のあるボディをしている見た目が完全に生物と似通ったナニカにしか見えない悪魔がいた。

 

「よお。駆け出しの冒険者ども。俺様の名はホースト。邪神ウォルバク様の片腕、上位悪魔のホーストだ。早速ですまねえが、その魔剣の勇者と…そこのアークプリーストは死んでもらうぜ」

 

 随分とカッコいい名乗りをあげるじゃないか…と心の中で思ってると、何故か私とキョウヤが死刑宣告をされた。本当にどうしてだ。

 

「悪魔か!?」

「遂に正体を現しやがったな!上級悪魔だかなんだか知らねえが、今の俺たちにはアークプリースト様の加護がついてる!野郎どもいくぞー!!」

『ぉおおおお!!』

 

 勇気か蛮勇かは分からないが冒険者達はそのまま悪魔に向かって駆け出していった。

 …というかいつから君たちは私を様付けしたんだ?

 

「ハァ…みすみすチャンスを逃すような真似しやがってよぉ」

 

 それを悪魔は駆け出していった冒険者達を憐れの意味を持ってか見つめていた。相当力に自信があるようだ。まあ、私も相当力には自信があるのだが…この世界の悪魔がどんなものなのかは知らない。ひょっとしたら私よりも圧倒的に強い可能性だってあるのだ…まあ、その場合相手は悪魔ではなく神に近い邪神だと私は思っているのだが…だってあの方(純狐さん)を越える実力って早々にないぞ?

 

「うぉらっ!!」

「ッ!?…アークプリーストの強化魔法のせいか?俺様の身体に傷を負わせやがった…!」

 

 大剣を持った冒険者が悪魔に一太刀入れた。傲慢さ故かその攻撃を受け入れた悪魔に傷が付く。だが、二撃目を食らう傲慢さは無かったのか悪魔は一度飛び退き、空で魔法の詠唱を始めた。どうやら今の一撃で大体の強化具合を察した様である…普通に考えたらこの街の冒険者が相手するようなやつじゃないな。

 

「チッ!あまり魔力は使いたくねぇが仕方ねぇ!『インフェルノ』!」

「やべぇ!離れろ!」

 

 冒険者達が一度引こうとするが少し遅かった何人かの冒険者達が巻き込まれて火だるまになっていく。

 

「熱い熱い熱い!助けてくれぇ!!」

「ぁぁあああああ!!」

「おい!まずいぞ!早く誰か回復魔法を掛けてくれ!?それかポーションでもいい!持ってきてくれ!」

 

「『クリエイトウォーター』!『ヒール』!…大丈夫かい?」

「クッ…すまねぇ!助かった!」

「こっちにも頼む!」

「了解!『クリエイトウォーター』!『ヒール』!」

 

 火傷を負った冒険者達が雪崩のようにこっちに駆け寄ってくる。範囲回復でもしたいが、この世界にはそういう味方全員にバフ掛けするような魔法はないらしい。ドラクエを見習えと言いたい。

 また果敢に突っ込んでいく冒険者達だがそろそろ強化魔法が切れてきたのか、先ほどよりも動きのキレが悪い気がする。いや、回ってきている火も問題なんだろう。今は魔法職の人たちが必死に消火活動を行なっている。

 対照的に悪魔は無尽蔵な魔力でも持ってるのか上級魔法を行使し続けて先ほどよりもアグレッシブに動いている気がする…。それに、冒険者達を殴り飛ばしたり翼でぶっ飛ばしたりと隙もない。

 魔法使いの人たちが連続して魔法を詠唱するが、悪魔に大してダメージを負わせていないようだ。しかも悪魔は出の早い『ライトニング』という魔法をも見切ってるのか躱している事が多い。……ほぼ光速に動いている雷を躱すとか凄いな…私もいえた事では無いけど。

 このままのペースではこちらが魔力切れや体力切れで悪魔の方が有利になっていく一方で、私の魔力は問題ないとしてもいつか私の回復が間に合わなくなってしまうだろう。滑舌的な意味で。

 

 正に乱戦と言われる状況の中で、遂に冒険者達の中で気絶するものが出始めた。

 傷を回復しているとはいえ残った痛みは消えない。

 その痛みに耐え切れなくなったのか頭がショートしたんだろう。

 ……ていうか未だにあの魔剣の勇者が目覚めないのは何故だ…私が既に回復してあるはずだが……。

 

 …ちょっとまずいな。

 未だに私の回復で死者は出ていないが、重傷者は多い。…精神的な方で。

 さっきまでの獰猛さを失ったのか冒険者達の勢いが弱くなっている。

 痛みによる恐怖からだろう…。

 私もその恐怖は分かる。痛みのベクトルは違うがドラゴンのブレスの中をヒールを何回もかけながら無理やり突っ切るという生き地獄を体験した事があるからな…あんなものは二度と味わいたくない。

 

「ああくそ!次から次へと復活しやがって!あのアークプリーストか!」

「まずいぞ!今あの人がやられたら戦線を維持できなくなる!なんとしてでも守るんだ!」

 

 他のプリーストも必死に回復している筈なんだが何故だか私に目処が立つ。まあ、いい、本来なら私は魔剣の勇者と同じで攻撃役のはずだったのだ。ずっと支援役に徹していたが、死者が出ることはまずい。いや死んだとしても必ず蘇らせてみせるが…そういう問題でもない。ここは早めに決着をつけるために1発キツイやつを……。

 

「『セイクリッド・エクソシ……」

 

「真打ち登場!」

「えっ!?ちょっとめぐみん!?今出るタイミングだった!?明らかにあの人が何かしようとしてたけど!?」

「なんですかゆんゆん!人のカッコいい登場シーンを邪魔しないで貰いたいのですが!」

「いや完全にタイミング間違ってたからね!?」

「……ああ、君たちは後ろの方でなんかやってた紅魔族の子か」

「なんだぁ?次は紅魔族か?」

 

 突如として現れ急に姉妹漫才でも始めたのかイチャコラとしている二人に私と悪魔の視線がそちらへ行く。

 その隙を見てか冒険者達も後退して回復し始めた。

 

「おい馬鹿野郎!?なんで突っ走っていったんだよ口だけ魔導師!?」

「いい加減あなたにも分からせてあげますよ…!最強の攻撃魔法!爆裂魔法の威力を!」

 

 それを追ってきてか、一つの冒険者パーティが来た。

 全員息遣いが荒い。多分モンスターを倒しながらここに来た最後尾に配属されたパーティだろう。

 というかいい加減に…とはどういう事だろうか?二人の間に一体何があったんだ?

 いや、明らかに少女が口だけ魔導師と呼ばれているのが理由なんだろうが、一体なぜ口だけ魔導師という称号を彼女は貰ったのだろうか?

 

「そこのアークプリーストの方!私が魔法の詠唱を完了するまでその悪魔を抑えつけておいてください!」

「なんて事頼んでるのめぐみん!?いくらなんでもそれは無茶よ!?めぐみんだって遠くから見たでしょう!?あの人が色んな人に回復魔法や強化魔法をかけてるところ!さらに無茶させようっていうの!?」

「あの人ならきっとやれます!ゆんゆんも見たでしょう!?昨日、あの人が一人で白狼の群れを相手にしていたところを!」

「やめて!!アレを思い出させないで!」

 

 見られていたのか…アレを。一体何処から……。

 この子の怖がりようから後半戦の時(能力を使って一瞬で死なせた時)ではない事は分かる、ある意味不気味な光景ではあるが、あの狼達の身体を千切るか捻るか握りつぶすしかやってなかった前半戦の時の方がヤバかったからな…絵面的に。

 

 周りの冒険者達がギョッとした目で私を見てくる。

 あの白狼の群れを一人で相手にするなんて…とか思ってるのだろうか。

 まあ、その視線には王都で慣れてる。今更気にはしないが、今はその視線の方向を悪魔に向けてほしいと私は思うよ。

 

「まあ、了解したよ」

「お前馬鹿か!?悪魔とタイマン張るプリーストが何処にいるんだよ!?」

「ここにいるよ。まあ……手助けはしなくて大丈夫だと思うよ。私、結構強い(人の能力や身体貰ってる)から」

 

 そう言い終わると同時に悪魔に向かって疾走する。握りこぶしを作って聖なる力…みたいなのを腕に溜めてそれをホーストに叩き込んだ。名付けるとしたら『正義の鉄拳』…これ本当は受け止める技なんだけどさ。

 

 全員があっけらかんとした表情で目の前を見やる。

 何か秘策を使おうとしたのか魔法を詠唱し始めていた紅魔の子も含めて。

 

「…ゴバッァ!?」

「私はアクシズ教のアークプリーストだよ。本来ならもっと早めに君と闘いたかったんだけど、せっかく私の仲間が私に施しを求めてきたからそっちを優先してたんだ。ごめんね」

 

 ホーストが血に似た何かを吐き出した。

 私が拳を振り切ると悪魔は近くの木へとと吹っ飛んでいく。

 激突した木をへし折ってもなお止まらずに何本かの木を木片と変えながら吹っ飛んでいったが、やがて減速し止まると次はその地点から大きな音と土煙、そしてそこから発せられた地面の振動と共にこちらに急接近してきた。

 

「ってんめぇ!?やっぱり『バーサーカープリースト』か!!早めに殺しとくべきだった!」

「ねぇ、気になってたんだけど私って他の人からなんて言われてるの?そして君たち悪魔からはどんな風に思われてるの?」

 

 ガシィッ!と私と悪魔は掴み合いを始める。相手の極太の腕と細い人間の腕が掴み合いを行うという光景は圧倒的に悪魔側の方が有利に見えるが力の差は無いように均衡を保っていた。

 

「し、信じらんねぇ…あの悪魔と力の張り合いしてやがる…」

「なあ最初からアイツ一人でやれば良かったんじゃ……」

『おいやめろ』

 

 他の冒険者達の存在意義が問われたが、そんなのさも知らんとばかりにカズトとホーストの戦闘は行われる。

 ジリジリと力がせめぎ合う中、先に均衡を破ったのはホーストだった。ホーストがカズトを持ち上げたのだ。力の踏ん張りどころが無くなったカズトは何の抵抗もなく地面に叩き込まれる。

 

ドゴォン!!

 

「イッッ……!!ア"ッ''ッ''!!!」

 

 背中を思いっきり叩きつけられて空気が一気に抜ける。

 

 痛みによって横隔膜が痙攣したのか息が上手くできない…!

 ヤバイな…生命力はともかく防御力は通常の人間だから凄い痛い!

 痛みに顔を歪ませてると急に目の前が暗くなっ……

 

ドゴォ!!!

 

 悪魔は両手を組んでさらなる追撃を加えてきた。

 その威力はとんでもないものでよりクレーターがより深いものになる程であり、恐らく私の体は手と腕が完全に伸びきり、あのアメリカ最強に全身全霊の力で殴られた某大統領の様になっている事だろう…。何故こうも他人目線なんだろうな自分は。あぁ……とんでもなく痛い。骨格がいかれたかと思うぐらい痛い。というかイカレただろうな。

 

「てめぇ人間か?」

「に…ッ!あぁあ''っ!!…ん…ゲホッ…げんだよ!」

「嘘言えよ」

 

 正直舐めてた。…やはり何処の世界にも最強なんて無かったらしい。

 私は今まで身体能力という馬鹿でかいステータスと純化という能力に頼りすぎていた。

 今私にはコイツに対抗できるほどの戦闘経験が無さすぎる。

 

 だが、勝てない相手じゃない。力は私の方が圧倒的に上だ。あの掴み合いで分かった。やはりステータスチートというものは偉大だ。経験なんてものを容易く覆すのだから…まあ、油断したらあっさり死ぬと思うけど。

 

 

 そのまま仰向けになってるわけにもいかず更なる追撃が加えられる前に激しい痛みで動くことを拒否している身体の言う事を無視して飛び退いた。勿論自分にヒールを掛けながら。

 もう一度悪魔を見やると悪魔には小さな傷みたいなものが結構あった。冒険者たちが頑張ったんだろう。でもどれも致命傷にはなってないのが惜しいところだ。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「うおっと。あぶねぇなぁ」

 

 スペシウム光線のポーズをして対魔特攻魔法を放つ。初めて使ったけどビーム系の技で合ってたらしい。撃った本人が言うのも何だけどなぜ私はスペシウム光線のポーズをしたんだろう。というかせっかくなんだから避けないでよ。まあ亜光速の雷魔法避けたんだから、これくらい避けるか。

 空に飛び上がったホーストは魔法の詠唱を始めた。

 

「お返しだぜ。『カースド・ライトニング』!」

「危なっ」

 

 黒い稲妻が迫って来たのでそれを避ける。これも自分の身体能力頼りになってしまうが、稲妻を見てから避けるなんて芸当が出来るの、この世界に何人いるんだろう。目の前のホーストという悪魔もその一人だが。

 

「……もう一度聞くが、お前本当に人間か?」

「私は少し強い身体を持った人間だよ…ていうか、君に言われたくはない…ねぇっっ!!」

「普通の人間がここまで飛んでくるかよ!!」

 

 そのまま空中戦にでも行こうと思ったが、相手は翼のある上位悪魔、空中戦はどちらが有利なのか明白だ。1発だけ殴ったが、その腕は捕まれてまた地面に落とされる。

 

ドゴォ!!

 

 本当に容赦ない…また空気が体全体から抜けたのか音にも聞けない振動が喉を過ぎる。息ができほどの痛みが背中を中心に体を伝い、思う…ドラゴンボールのキャラはいつもこんな思いをしていたのだろうか…頭おかしいんじゃないの…私だったらもう痛みに絶叫を上げて泣き出したい。

 だが、そうはいってはいけない。私には大事な妻がいる。彼女とは約束…と呼べるものでもないが、悪魔を倒してくると言ったのだ。立ち上がらなければいけない。

 また、立ち上がり両足に力を込める。そして溜めた力を一気に解放して…跳ぶっ!

 

「オラァ!!」

「懲りねぇっなぁっ!!」

 

 今度は完全に見切られたのか避けられて同じように地面に叩きつけられる。

 ……どうしようか、ッッ……痛みも酷い。……一瞬だけこれが嫌になった。駄目だ。嫌とは思ってはいけない。思っちゃいけない。彼女に頼まれたんだから。

 

 

「『クリムゾン・レーザー』!」

 

 痛みの硬直で動けない私に容赦なく追撃の魔力のこもった赤い熱戦が放たれた。

 

「あぁあ''!!…アッツ!」

「やっともろに入ったぜ」

「『ヒー……ぅぐっ!?」

「回復させる暇を与える馬鹿がどこにいると思う?」

 

 今度は私が腹パンされた。

 地面に対して仰向けになっていた状態なので更に地面のクレーターは轟音と共に広がる。

 コイツ本当に見た目通りの筋肉マンだな……。

 私もおんなじことは出来るんだけどさ…今はそれすらも出来ないほど痛みが私を蝕む。ドラゴンの時で痛みに慣れた筈なんだけどな…そうではなかった様だ。

 

 本当ならコイツも死穢があるから純化すれば死ぬはずなんだけどな…今回はあの紅魔の子が面白いことをしてくれるらしいので、お預けにしてたけど、もうやっちゃっていいかな…正直…そろそろ私の精神が肉体より先に崩壊しかけてる。

 

「アークプリーストの方!聞こえてますか!準備が整いましたよ!後はその悪魔をなんとかしてその場から動けなくさせてください!」

「えっ!?あの人今かなり不味い状況だけど!?」

 

 っと…どうやら準備が終わったらしい。気が変わらないウチでよかった。

 というか、待った甲斐がありそうだ。何故なら……

 

「ッ!?マジかよ…!」

 

 ホーストが向いた方向に目を動かせばそこには荒れ狂うような魔力の奔流と、漏れ出た力の残穢がスパークしている。まるで主人公が覚醒する直前のような雰囲気を持った紅魔の子であった。…何アレすごっ。

 

「ありゃ不味いな…!」

 

 悪魔は攻撃の矛先を紅魔の子に決めたらしい。

 翼をはためかせて紅魔の子に急接近をする。

 

「行かせるかよ!!」

「俺たちのことを忘れんなよ!」

 

 その道中に冒険者が立ちはだかった。

 回復をし終えたらしく、正に今が正念場というところだろう。

 

「あの人が稼いでくれた時間を無駄にすんじゃねえぞ!」

『おう!!』

 

 冒険者達が自分たちを鼓舞して悪魔に向かって突っ走っていく。魔法職の人たちも魔法の詠唱を始める。地面には大量の飲みきったポーションがあり、おそらく魔力を回復したり魔法攻撃力アップのポーションでも飲んだんだろう。

 そういえば、先ほどの悪魔の上級魔法で燃え広がっていた火は完全に消化できたらしい。あたりには煤だらけで黒くなった木ばかりだ。

 …よくあの戦闘で私の服に引火しなかったな。

 

「邪魔だどけぇ!!」

 

 しかし……憐れかな冒険者達、手負いだとしても手負いのモンスターというのが一番危険だった。しかも、さっきまでの冒険者達vsホーストの戦闘は私の強化魔法がかかっていたからこそギリギリ張り合えていたが、正直言って駆け出しの冒険者達では挑戦権すら得られていなかったんだろう。悪魔はただ高速で移動して体当たりしているだけなのに面白いくらい冒険者達が吹っ飛ぶ。さっき紅魔の子の後ろにいたレックスというパーティが少し粘ったがやはり火力が足らない。その火力を補うように魔剣の勇者がやっと復活したが、その勇者も慢心を無くした悪魔には厳しかったらしい。また簡単に吹っ飛ばされてしまった……といっても今度は置き土産をしてった様で、ホーストの両翼は完全に根元から切られていた。

 

 しかも、体当たりというだけでも冒険者達の鎧や骨は折れたらしい。冒険者達は全員というわけではないが痛みで蹲ってしまっている。というか中にはたったの1発でノックダウンしている者達が居る。

 もし、私が最初に強化魔法をかけていなかったらすぐにこうなっていたんだろうか。

 

「…ッッ……ハァ…!…『ヒール』!『ヒール』!『ヒール』!あぁ!全体回復魔法とかないのかなこの世界!」

 

 やっと痛みの麻痺から解放された私は自分と冒険者達に回復魔法を掛けながら、全速力でホーストを追いかける。

 

「ちょちょちょ!?やばいです!さっきまで最高に良いシチュエーションだったのに一気にピンチですよ!?」

「めぐみんには手を出させないからね!!…ていうかめぐみんはこんな時くらいちゃんとしてよ!?」

「ここまで来りゃお前だってその魔法撃てねぇだろ?……ん?お前のその匂い…ウォルバク様の匂いだ…なんでお前から…「『ライトニング』!」……ッテェなぁ…」

 

 ワンドを握りしめた紅魔の子2が、悪魔が話していた途中に雷魔法を展開させた。中々度胸あるなあの子。

 あれ?というか今日の朝セシリーが話していた面白い子ってこの子じゃないか?この子って確かいつもギルドの隅でトランプをやっている魔法使いの子じゃ……。

 

「ったく、小娘共がよぉ…」

「まだよっ!『ファイヤー…「君たちのその勇気ってすごい大事だと思うよ」

 

 なんだか臭いセリフを吐いて少女たちを守るようにして前に立つ。

 

「バーサーカープリースト!?まだ死んでねぇのか!」

「紅魔の子!準備はいいんだね!」

「はい!ですが、そろそろ発動しないと暴発しちゃいそうなんですが…というか今かなりやばいです!ここまで長く溜めたことなんてありません!早く悪魔を私が見える範囲で遠い所へ!」

「オーケー…」

 

 ガシッ

 

「クソッ!何する気だ!」

「ちょっとランデブーに行こうじゃないか。二人きりで」

「うおっ!?」

 

 自分が出来る最高速度で悪魔を抱きしめて、走り出す、一瞬のうちに紅魔の子達が遠くなった。そこで私は今まで出してきた中で一番大きな声で叫んだ。

 

「今だ!!」

「道連れにする気か!!」

「だから言ったじゃないかランデブーに行こうってッッ!!」

「ッッ!!?ってんめぇ……!……ハッ!!だが、残念だったな!俺たち悪魔には残機がある!例えお前が死のうが俺はまだ生きてるんだよ!」

 

 ホーストを締め上げると悪魔の体にヒビが入る。やはりこの体の真骨頂は抱擁力にあると思う。…抱かれてみたいとは私自身思わないが。

 ホーストは最後の最後に驚くべき悪魔の特性を言ってくれたが、別にいいだろう。

 何も私もここで死ぬつもりは一切無いし、セシリーいるし。

 

「いいんですか!!?」

「構わない!!」

「そんな!?他に方法はな……「あ、ちょっ…もうやばいです!そこまで来てます!ああああああ!!!『エクスプロージョン』!!!」

「ぁぁぁああああああ!!!?何してんのよぉぉぉお!!?」

 

ドゴォォォォォォォォォォオン!!!

 

 瞬間、私と悪魔はとんでもない魔力の爆発と熱に包まれた。

 ドラゴンのブレスよりもやばくないかなコレ……ってかヤバイな痛すぎるってレベルじゃないぞ…自分の有り余る生命力でいけるかなって思ってたけど…予想以上にコレやばい奴だった!!

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 

 アッッッッッッッ……!!!!!

 

 

 暴力的な魔力がとてつもない爆発を轟音と風圧と共に引き起こした。

 その威力は人類最大の威力に相応しい程で、ここからでも爆発の全貌は見えないほどだった。

 

 

 その爆発の煙もやがて消える。

 

「ねえ、めぐみん…あの人…大丈夫かな…」

 

 ゆんゆんからあの人の安否を聞かれた。

 だけど、それは分からない。

 爆裂魔法を放った時に着弾地点からの感触が伝わってくる。…今の爆裂魔法では2つの大きな感触があった。あの人は上位悪魔とも渡りあえた──味方で言うのも失礼だが──化け物だと私は思っている。生きているんじゃないかと期待を持ちたいが、あの人もかなり悪魔に痛めつけられて疲労していたように見えた。大丈夫だと断定は出来ない。

 

 ……最初にあの人を見たのは本当に偶然だった。

 その当時、遂にお金を使い切ってしまった私は昼に私の宿に勝手に上がり込んでくるあのお姉さんにお金を恵んでもらおうとも考えたが、まだやれると信じきっていたので、ギルドで簡単な依頼はないかと職員の人に聞いてみた。

 そして紹介されたのは採取クエスト…ポーション作成に必要な植物の採取だった。近くには白狼の群れがいるが、襲っても特にメリットのない者は襲わない賢い知恵を持っているらしく、なるべく荷物を少なくすれば襲われる事はないと伝えられた。

 それでも不安だったには不安だったので、癪だが…色々とこじつけてゆんゆんにもクエストの同行を願ってしまった…。

 

 そこで、依頼された植物の群生地に行ったところ。あの人を見た。

 最初は目を疑った。明らかに聖職者の格好をした人が一人で白狼の群れと対峙しているのだから。

 そして次に起こったことも劇的だった……アレは二度と思い出したくない。

 

 聖職者とは思えないほど残酷な殺し方をするあの人に…ただただ恐怖した。

 その後はゆんゆんと一緒に情けなくも叫びながら逃げてしまったのを覚えている……。もう街にいる飼い犬や野良犬の事をまともに見れない…見てしまうとあの光景がフラッシュバックしてくるのだ。

 

 あの後、夕食を食べるお金もない私はあのお姉さんに頼み込んで夕食を作ってもらった…途中…買ってきてくれた豚肉が爆発して真っ黒焦げになってしまったが…唐揚げで手を打ってくれた。

 

 少し話が逸れてしまった。

 

 

 

 私たちは急いであの人の安否と悪魔の討伐を確認しに行った。魔法を撃った私も当然向かった。…歩くことすらままならないのでゆんゆんにおんぶされるという少し恥ずかしい状況だが、そうも言ってられない。

 

「お前、口だけ魔道士じゃなかったんだな…」

 

 途中レックスが私にそんな事を言ってくる。

 

「ふふん!そうでしょう?今度からは私のことを大魔導士めぐみん様と言ってもいいんですよ?」

「誰が言うか!…って言いたいとこだが流石にアレを見せられちゃあなぁ…」

 

 あのムカつくレックスが私の事を多少なりとも褒めようとしてくる事に若干頰が吊り上がった。

 

「レックスさん。そんな事言わないでいいですよ。今はそれよりもあの人の安否を…ってちょ、何するのよめぐみん!?やめて!髪引っ張らないで!?」

 

 折角いい気分になるチャンスだったのに、ゆんゆんに潰されたので腹いせに髪を引っ張ってやった。

 自分でもこんなおふざけをしている場合じゃないと分かっているが、どうしても暗い気分になってしまうのだ。

 私は爆裂魔法をこよなく愛する紅魔族、その事について誇りをありありと持っているが、撃った人物が一時間も共に過ごした仲でもない相手とはいえ人間。今回は仕方ない事とはいえ、私の愛する爆裂魔法であまり人を殺したくはない。それに今回の悪魔討伐では間違いなく彼が一番貢献しただろう。今回の討伐作戦で彼に救われた冒険者がどれほどいるかは私は知らないが、彼に救われた人たちは多くいる事は確かだ。

 そんな彼を殺していたら…私はどんな非難を浴びることになるだろう。

 

 やはり暗い気持ちになっていき少しだけゆんゆんの肩に力がこもってしまった。

 

「大丈夫よ。めぐみん…きっとあの人だって何か生き残る手段があったからあんな事を言ったんだと思うわ」

 

 そんな私を安心させるためかゆんゆんは励ましの言葉をくれた…。

 なんだか今のゆんゆんの背中は同じくらいの筈なのに…大きく見えた。

 

「! 居たぞぉー!」

 

 突然一番前にいた冒険者が叫んだ。

 

「アークプリーストの兄ちゃんは生きてる!悪魔はもういねぇ!」

 

 続けて言われたその言葉に冒険者達は歓喜の声を上げた。

 私もゆんゆんもあの人が無事だと分かって緊張の糸を解いた。

 

「良かったぁ……ねえ、めぐみん聞いた?あの人生きてるって!」

「貴方が聴こえてるんですから私も聴こえてます。一々言わなくてもいいですよ」

「こんな時ぐらい可愛くなれないの!?」

「私には可愛さよりもカッコよさが合っていますからね!可愛さなんて必要ないんです!」

「貴方ねぇ……」

 

 

 

 あの人が生きていると分かっても重傷なのは確かだった。

 なんせ片腕が消し飛んでいたからである。

 それに、パッと見ただけでも体のあちこちの骨が折れているのが分かった。

 それでも生きているこの人の生命力はやはり化け物だと思う。

 傷が出来たのもまだ早いという事もあり、急いでポーションやプリーストを集めて治療が行われた。

 

 しかし、骨折などの多少大きな傷は治っても片腕が再生する見込みは無かった。

 この人がソロで高難易度をやっている頭のおかしいアークプリーストというのはかなり知られていた。

 そんな人が片腕を失うとなれば今後の冒険者生活に大きな支障をきたす事になるのは確実で、最悪、冒険者生命を絶たれるかもしれないのだ。

 

 しかもこの人はアクシズ教徒でありながら既婚者だ。

 残っている方の腕で指輪をしていたので分かった。

 ……この人の伴侶にどう謝ればいいんだろうか。

 生きていると分かっても2人の人生を狂わせてしまった事は事実だ……。私はこの人に謝礼金を送る程お金もないし、この人の片腕と代わりになるような物なんて………。

 

「『ヒール』」

「うおっ生えた!?」

「流石王都で活躍してるアークプリーストだなぁ…」

「いやーまさかドラゴンと戦った時と同じ状況になるなんて…油断しちゃってたね」

 

 ………おい待て、私の謝罪の気持ちと今から本気で体を売りに行こうとした私の覚悟を返せ。

 

 




Q.ホーストってこんな身体能力高かった?
A.……いやだってホーストってスピンオフではいつのまにか傷ついててあんまり戦闘描写なかったし……上位悪魔はこれくらい出来るかなって…それにあの見た目ですし…。完全に捏造設定ですね。お許しください。

Q.ミツルギさん起きるの遅くない?
A.ごめんなさい。書いてる途中に存在一回忘れてました。そしたらなんか出すタイミング見失って…ちょっと後半の方に……ミツルギさんのファンの皆様、申し訳ありません。

Q.オリ主なんで『純化』使わなかったの?
A.主人公は変人の部類に入らせているつもりです。面白いものが見れそうだから…っていうしょうもない理由でめぐみんの爆裂魔法の詠唱を待ってました。その間の時間稼ぎだったので割と手抜いて戦闘やってた節あります。それに、戦闘描写書かないと盛り上がらないよなぁって……(メタ)

Q.めぐみんがやけに情に熱い気がする。
A.余り知らないとはいえ自分のせいで人の片腕消しとばしちゃったら14歳には結構辛いから…というか大人でもこの状況精神的にきついと思う。

Q.なんでこんな投稿遅れたの?(約1ヶ月)
A.いや、ほら、プロットなんて立てて無かったからどこらへんから原作導入しようかなぁ…って悩んでいるうちにスピンオフ一回読み終えたので、『あっ、ホースト辺りから入れよ』と思いまして……因みにこの回でカズマ達と合わせる予定ではありました。冬将軍に襲われてるところをカズトが偶然見つけて…みたいな感じで。それにその時すでに8000文字書き上げていたのでなんか捨てるに捨てなく、それで時間を食って…結局新しい話としてこの話書いたんですが…まさかの2倍ちょい上の文量を書く羽目になるとは思わなかった…(約17000文字)

投稿遅れてすいません!
……次回はただただイチャイチャする回が書けたらいいな…けどセシリーさんのキャラ的に少しむずいんだわ……描くんだけどね。
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