狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い   作:Luly

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正弓「何か記念で作れたりしませんかねぇ…」

裁「こっちから何かできるの?」

正弓「できなくはないですよ。」


第180話 姫と獣───獣が抱く疑念

「……」

 

早朝4時30分。私は英雄王の部屋で英雄王のバイクを弄っていた。

 

「…ほんと、人使いが荒いんだから。」

 

そう呟きながらも術式を展開する。魔力循環効率強化の術式。

 

「…あ、ここ壊れてる」

 

そこまで詳しくはないけど英雄王と六花さんのせいで分かるようになったバイクの構造。修復箇所を判断し、修復事項を特定し、修理を行う。それが、いつものパターン。まぁ、私がやってるのってほとんど改造の域だけど。

 

「…これは手作業かな。」

 

細かいところは手作業で。魔法は意外と細かい作業苦手だから…ん。

 

「……何か用?フォウ。」

 

背後にフォウの気配を感じ、声をかける。

 

『…気づいていたのかい?』

 

「魔力反応が残ってる。少ないとはいえど魔力が残っているなら私は一応気づくよ。」

 

『やれやれ……キミへの不意打ち(アンブッシュ)にはまだまだ修練が必要かな。』

 

「……そこにいるならレンチ取ってくれる?」

 

『はいはいっと…』

 

投げ渡されるレンチをそのまま受け取り、作業を続ける。

 

『…あぁ、そうだ。キミのファンレターはちゃんと届けておいたよ。』

 

「ん。どうだった?」

 

『キミ以外にも何人かファンレターを送ったのがいたみたいでさ。キミのファンレターを届けたときには悶絶していたよ?』

 

「そう…」

 

私だけじゃなかったんだ。ありえそうなのはマシュさんとジュリィさんくらいかな?

 

『……ねぇ、ミラ?』

 

「何?」

 

『1つ、聞いていいかい?』

 

一度視線を向けてから再度バイクに目を向ける。

 

『沈黙は肯定と受けとるよ?』

 

「どうぞ」

 

『…じゃあ聞くけど。キミ、その1つの身体の中にキミを含まずに2つ───計3つの魂が入っていないかい?』

 

その言葉に私の手が止まる。止めたままフォウを見つめた。

 

「…どうして?」

 

『キミがカルデアに召喚されたあと。ボクがキミの魂について何と言ったか、覚えているかい?』

 

確か……

 

「“明らかに人間のものではない。どちらかというと、ボクらに近い。”…だっけ。」

 

『そう。正直な話、ボクらは“無垢”、“純粋”などとは程遠いような存在だ。それでいてキミを見ていると、嫌でもキミが無垢だと認識させられる。何故かは分からなかったけどね。だけど、ここまでで色々調べて分かったことがある。』

 

「調べる、ね…」

 

『正直無垢な存在は危険だからね。ボクの同類から見えないように保護はしていたけど、ボクもキミの事はよく分かっていなかった。霊長類最強の力を駆使してやっとキミの断片に辿り着いたくらいだからね。』

 

「……プライミッツ・マーダー」

 

私がそう呟くと、フォウはピクリと耳を震わせた。

 

『……知っていたのかい?』

 

「…別に。」

 

『…ふむ。まぁいい。それによってボクが見つけたのが、キミの内に存在する1つの無垢の魂だ。』

 

「そう。」

 

『…1つ、キミに警告しておこう。』

 

「警告?」

 

『あぁ。無銘にはもうしたのだけどね。キミにはしていなかったからさ。……あの童話作家も言ったように、無垢っていうものは簡単に染まる。つまりは脆いのさ、色々と。だから───龍姫ミラ。キミがキミの内にいるその無垢の魂を護るというのなら。悪い方向に染まらないように十分に気を付けることだ。』

 

悪い方向に染まらないように、か。

 

「覚えておくよ。」

 

『そうしてほしい。』

 

私は魔力の巡りや機械の故障箇所を一通り確認してからキーを捻る。英雄王のキーシリンダは少し特殊で、Lock、Acc、System、On、Lower、Upper、Testの7段階がある。Testの位置にして、キーを下に下げる───この下に下げる動作がIgnition。

 

 

ドッドッドッド……

 

 

「…うん。」

 

静かな駆動。それでいて力強い響き。平均魔力循環速度40ms───第一段階突破。

 

 

ドドドドドドドドドッ

 

 

第二段階。駆動は荒々しくなっていき、エンジンが熱を帯びて速度が上がる。平均魔力循環速度20ms───第二段階突破。

 

 

フィィィィ……

 

 

第三段階。変形機構稼働開始、基礎術式砲門領域展開。魔力循環、及び魔力接続───正常。平均魔力循環速度は10msに到達。第三段階突破。

 

 

ガシャッ、ガシャン!

 

 

第四段階。メインシステム起動開始、追加機構展開。非固定式浮遊砲門(オブジェクトビット)、正常起動。同時複数標的指定機構(マルチロックオンシステム)、稼働状態良好───第四段階突破。

 

 

カラカラカラカラ……

 

 

第五段階。空間投射型拡張機能管制端末(システムホロコンソール)展開。管制端末より各機能、及び各機能より管制端末の応答───正常。

 

 

ギュルルルルッッ!!!

 

 

第六段階。サブシステム起動開始、加減速制御開始───

 

『ちょっ、ミラ!今早朝!』

 

「大丈夫、消音結界張ってるから。」

 

『え───あ、ほんとだ。』

 

気がつかなかったみたい。…と。第六段階突破。

 

 

サァァァァ……

 

 

第七段階。魔力操作機構稼働。静音処理有効。平均魔力循環速度7ms。全システムオールクリア───第七段階終了。

 

「…これでよし。」

 

『終わったのかい?それにしてはやけに動くのが遅かったみたいだけど。』

 

「試運転だからね。」

 

そう言いながらキーを上に上げてエンジンを止める。キーを捻ってUpperに合わせ、下げる。すぐにシステムは起動し、エンジンがかかって0.5秒で第七段階が終了する。

 

『ヒュウ。こんなのコイツに扱えるのかい?』

 

「大丈夫でしょ。」

 

そう言いながらエンジンを止め、Lockまで戻してから英雄王の蔵を開け、バイクを格納する。

 

「……さ。フォウ、何か食べる?軽いものなら作れるけど。面倒だし英雄王のもついでに作るけどさ。」

 

『ん~…なら、キミのお弁当が食べたいね。』

 

「お弁当?別にいいけど。」

 

『……キミ、実はコイツの事好きだったりしないかい?』

 

「ないない。」

 

フォウの言葉に否定を返し、立ち上がる───

 

「ギル!ミラちゃん!起きてる!?」

 

「っ!フォウ、耳を塞いで!」

 

リッカさんの声が聞こえた直後、フォウに指示してとある玉を英雄王に向かって投げる。フォウが耳を塞いだのを確認し、指を鳴らす───

 

「ゴアァァァァァ!!」

 

「ぬぁぁぁぁぁっ!?」

 

炸裂するは()()()()()()()。大咆哮が終わったのを確認して消音結界を解除する。そういえば私の妹……エスナより年下の妹はギルドに影・黒轟竜捕獲依頼を出したみたいなんだよね。私も一度そのクエスト見たことあるけど……うん……目覚ましにしたいから捕獲って…どうしてそうなったのか…

 

『なんっ…だ、今の。耳塞いでたのに凄い衝撃だった……!?ていうか、耳、聞こえ……!?』

 

鼓膜の部位破壊達成?とりあえず、耳の治癒はしておく。

 

「………」

 

「ギル!ミラちゃん!?」

 

「……はっ。何用だ、マスター!」

 

意識飛んでたみたい。まぁ、あれを目覚ましにしたらこうなる可能性が高いっていういい例じゃないかな。

 

「あぁ、よかった……!あれ、ミラちゃんは…」

 

「ここにいる。どうしたの、そんなに慌てて?」

 

「あぁ、いた……じゃないっ、朝早くからでごめんなんだけど下に降りてこれる!?」

 

その言葉に思わず英雄王と顔を見合わせる。

 

「何を慌てている、敵襲か!?」

 

「えっと……そう、なのかな?えっと……サーヴァントと大きな来訪者だったんだけど。一緒に来てた。」

 

「……サーヴァントと…大きな来訪者?」

 

「ルーパスちゃんが大きな来訪者を見て警戒してたんだけど。なんて言ったかな…しとうりゅう?とかって。」

 

「……“しとうりゅう”?」

 

まさか───

 

「リッカさん!その大きな来訪者の特徴を教えて!!」

 

「えっ!?え、えっと…全体的に赤黒い色っぽくて、なんかボロボロの翼があって……でも、なんか……纏っている何かの下は銀色だった気がする。」

 

確信。その、特徴は───

 

「───間違いない。その来訪者の真名は屍套龍“ヴァルハザク”───新大陸にある瘴気の谷の主。古代竜人の言う、“生態系を廻す竜”───!!」

 

「屍套龍…ヴァルハザク。」

 

「マスター。サーヴァントの方はなんと言った?」

 

屍套龍と思われる存在はサーヴァントと共に来訪したと言っていた。

 

「ええっと……医者みたいな感じの人で……パラケルスス、って名乗ったんだけど。」

 

「……ほう。パラケルスス……“ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス”か。」

 

「知ってるの?」

 

「軽くではあるがな。…さて。我らが軍門に下りに来たわけでもあるまい。どのような腹積もりで姿を現したのか問うとしようか……!」

 

対瘴気の結界用意しておかなきゃ…そう思って室外に出ると───

 

「……あぁ。どうも…」

 

「……えぇ…?」

 

結構珍しいんだけど……ヴァルハザクが口で何かを咥えているっていう場面に遭遇した。具体的に言うと、白い服の人を服の襟の部分を器用に咥えて吊ってるような状態。

 

「……あの……どうか……降ろしてくれませんか……」

 

「え、えっと……」

 

とりあえずヴァルハザクに話して白い服の人を降ろしてもらった。




正弓「ということで“生態系を廻す竜”は屍套龍“ヴァルハザク”のことでした。…気がついていた方もいるでしょうけども。」

裁「でもなんで“生態系を廻す竜”=屍套龍“ヴァルハザク”なの?」

正弓「屍套龍と出会っている方ならご存知でしょうが、屍套龍は瘴気の谷の環境ギミックである“瘴気”と共生関係にあります。そして……えっと。ご本人がどこかで見た記憶のある解説等を元に話しますと、この瘴気は古龍含めモンスター達の死体を分解して発せられ、さらに分解された各エネルギーは瘴気の谷から龍脈を通り、新大陸各地へと送られます。」

裁「新大陸各地───古代樹の森、大蟻塚の荒地、陸珊瑚の台地、龍結晶の地?」

正弓「えぇ。特にそれが色濃く出ているのが陸珊瑚の台地ですが、新大陸の生命はどこかで生まれ、瘴気の谷で死を迎え、瘴気が死体を分解し、エネルギーとなって生態系に還元される───これの繰り返しなわけです。そして瘴気はヴァルハザクと共生関係にあり、ヴァルハザクは谷の瘴気の量を調整しています。多すぎないように、少なすぎないように。瘴気の管理者───そう言ってもよいでしょうね。ヴァルハザクがいなくなれば当然谷は無法地帯のような状態と化し、瘴気の調整などなく増殖、もしくは減少を続けるでしょう。それは、保たれていた生態系を破壊する可能性が高い。その生態系の循環を正常に保つ───つまり“正常に廻す”ことがヴァルハザクの役割。…これが、“生態系を廻す竜”の由来です。」

裁「……」

正弓「正直、古代竜人達が各古龍のことをなんと呼んでいるか分かりませんからね。この作品ではヴァルハザク=生態系を廻す竜としたということで。」

裁「そっか。」

正弓「…あ、ちなみにご本人含め私もヴァルハザクは好きですよ。」

裁「え?」

正弓「え?…って。確かに見た目結構恐ろしいですけど、戦うの楽しいじゃないですか。防具の見た目もいいですし。」

裁「あぁ……」

ロンドン修正後に召喚するサーヴァントは?

  • 魔術師、弓兵、暗殺者
  • 魔術師、魔術師、魔術師
  • 剣士、弓兵、狂戦士

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