狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い   作:Luly

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月「お母さん!」

何か分かった?

月「これ…!」

……そう。分かった。


第225話 第弎ノ罪科、其怠惰罪也

意識が覚醒する。目を開けると、ナーちゃんの可愛い寝顔が目の前にあった。

 

「……ん…マスター?目覚めたのね?」

 

「……うん。おはよう、ナーちゃん。」

 

「ふふ、おはよう。よく眠れたかしら…」

 

その問いに頷く。いつもより思考がスッキリしてる気がする。

 

「おはようございます、狩人様。」

 

「…人形ちゃんもおはよ。」

 

挨拶してきた人形ちゃんにも答える。ずっと人形ちゃんって呼んでたから、その呼び方が染み付いてるんだよね。

 

「…じゃあ、あたしはちょっと周りをみてくるわ。早く術を馴らさないといけないもの。」

 

「あ、うん…ごめんね、ナーちゃん。」

 

「あたしはサーヴァントだもの、マスターを守るのが普通なのよ?…まぁ、今のあたしはそんなの関係なく、あたしが思うままに行動してるけれど。」

 

そう言って外に出ていった。ここにいるのは、私とメルセデスさん、そして人形ちゃんだけ。

 

「…人形ちゃん、あなたは何ができる?」

 

「…はい。私は、あなた様の持つ“血の遺志”を、力へと変えることが。」

 

…血の遺志。あぁ、それは───うん。

 

「分かった。ちょっと、調べてもらえる?」

 

「わかりました。では、遺志をあなたの力としましょう。少し近づきます。目を閉じていてくださいね。」

 

言われた通りに目を閉じる。人形ちゃんが近づいた気配がする。…思考内に、色々な数値が示される。

 

「……ありがとう、もう大丈夫。」

 

「おやめになるのですね。分かりました。」

 

人形ちゃんが離れたのを感じる。それと同時に、示されていた数値も消える。…本当に、Bloodborneみたいだった。血の遺志。灯り。人形ちゃん。遺志を用いて能力を上げる。上げるごとに要求される遺志は多くなり、能力を上げるのが辛くなってくる。…遺志を使えば、私は今よりも強くなれたはず。でも、それを使わなかったのは…使ってはいけない、と思ったから。…獣に成り果てる、とかじゃなくて…単純に、“今使うべきものではない”と思ったから。

 

「……」

 

ところで。先ほどからずっと、継続的にソウルと遺志を得ている気がする。恐らくはナーちゃんが戦ってるからだと思うけれど。サーヴァントならまだしも、怨霊だけなら、“血の遺志”が得られるのはおかしい気がする。

 

「ナーちゃん……」

 

「…呼んだ、かしら?」

 

その声のした方を向くと、少し、だけどはっきりと見えるほどに傷を負ったナーちゃんがいた。

 

「……ナーちゃん!?大丈夫!?」

 

「…平気。少しだけ、油断してしまっただけよ。…マスター、これから先は気を付けた方がいいわ。…獣が、いるの。」

 

「獣……?」

 

「獣の病…それに感染した怨霊達、というところかしら…血の遺志を得ていたのは気がついているわね?」

 

その問いに頷く。

 

「ただの怨霊なら、ソウルだけのはずよ。なのに、血の遺志を落とすものもいた……これ」

 

ナーちゃんが出したのは───血。魂だけならば存在するはずのないであろう、“血液”の溜まり。私はこれを、知っている───

 

「“死血の雫”───そんなもの、普通の怨霊が落とすとは思えないわ。気を付けて、マスター…あたしは少しだけ治癒に専念するわ。」

 

そう言うとナーちゃんはそこで座り込み、アイテムポーチから緑色の液体が入った瓶を取り出した。ルーパスちゃん達が使う回復薬だ。その色で、ふと思い出す。

 

「……ね、ナーちゃん」

 

「…?」

 

「エスト瓶って…あった?」

 

エスト瓶。ダークソウルシリーズにおける回復アイテム。ここまでフロム系列要素出てて、エスト瓶がないのは少し違和感があるような…

 

「……いいえ、無かったわ。人間性はたくさんあったけれど。」

 

「……逆になんで」

 

「分からないわ…」

 

「ふむ、その疑問に答えてやろう。」

 

突然、声。その方向を向くと、人間性───じゃなくて、アヴェンジャーさんがそこに立っていた。

 

「人間性、とやらは言葉からして人間から得られるものなのだろう?ならば簡単だ、ここに渦巻くは人間の悪性の性。悪性が形を得て、お前達に襲いかかる。その悪性はまさしく人間の成れの果てとも言え、ならば人間性を持ち得ていてもおかしくはないであろう?」

 

「……」

 

確かに、辻褄は合う気がする。

 

「…さて。第三の裁きが待っている。準備ができているのなら向かうぞ、マスター。」

 

「……ナーちゃん、大丈夫?」

 

「ええ。もう大丈夫よ。元々、傷は浅かったもの。」

 

そう言ってナーちゃんが立ち上がる。既に傷は塞がり、恐らくは返り血だと思われる染みを除けばこの場所に来てくれたときのナーちゃんだ。

 

「…」

 

「わぷっ…何するの、マスター!」

 

「だって…ナーちゃんの可愛い顔に返り血がついてるのが気になったんだもの…」

 

「返り血……あぁ、さっきの獣のせいね…忘れてたわ、少し返り血被ってたわね。…ありがとう、マスター。」

 

「ううん。…行こっか、ナーちゃん。」

 

「…ええ。」

 

「…行ってきます」

 

私はナーちゃんと手を繋いで、メルセデスさんと人形ちゃんの方を向いてそう告げた。

 

「はい、行ってらっしゃいませ、リッカさん、ナーサリーさん。」

 

「いってらっしゃい。狩人様。あなたの目覚めが、有意なものでありますように」

 

その人形ちゃんが放ったゲームと全く同じ台詞に、ナーちゃんと顔を見合わせて小さく笑った。

 

 

side 無銘

 

 

『…お母さん』

 

『うん?どうしたの、七虹。』

 

『ごめん、作業中に…』

 

『ううん、別にいいよ。それで、どうしたの?』

 

私は月さんと一緒にマスターの観測をしているお母さんに話しかけていた。

 

『えっと…お母さん、前に言ってたよね。“(七虹)を除いた七人格はそれぞれ様々なものを司る。その中には当然七曜や七大罪も含まれる”…って。その司るものを全て重ねて出来上がるのが“本来の(七虹)”だって。』

 

『…あぁ、それね。別に今の七虹が偽物って訳じゃないよ。今の七虹も紛れの無い本物だよ。』

 

『…えと、そういうことじゃなくて…』

 

『…?』

 

『…その司るものって何なんだろうって…』

 

『……あぁ、なるほどね』

 

お母さんは納得したようにため息をついた。

 

『そういえば説明してなかったっけ。とりあえず、何から聞きたい?』

 

『じゃあ…大罪から教えて。』

 

『大罪…分かった。七つの大罪───其は私達の司るものの一部。傲慢(プライド)憤怒(ラース)嫉妬(エンヴィー)怠惰(スロウス)強欲(グリード)暴食(グラトニー)───そして色欲(ラスト)。この中で一番分かりやすいのがあるんだけど…分かる、七虹?』

 

『…憤怒は…美雪さん?』

 

彼女の過去は聞いている。可能性は、限りなく高いと思うけれど。

 

『ん、正解。美雪さんは憤怒を司る。…多分、簡単だったよね』

 

肯定を返す。

 

『で…多分この先は分からないから先に言っちゃうね。まず、私は嫉妬。』

 

『…お母さんが…嫉妬?』

 

『ん。月は暴食、陽詩は色欲…』

 

『え、待って!月さんが、暴食……?』

 

暴食。それは大量に食べること…と、簡単に言えばそうである。だが、彼女は───

 

『短い間でも見てきた限り、全く食べない気がするんだけど……』

 

『……あー…そっか、今って月は虚食期か。』

 

虚食期…?

 

『あ、ごめんね。ええと…私達ってよく食べる時と食べない時の差があるの。私達は過食期と虚食期って呼んでるんだけど。で、月はそれが特に顕著で…虚食期の反動かのように数回に分けて大量に食らう。それでもまぁ…3合くらいか』

 

……それって普通に多いような

 

『そんなわけで、暴食に割り当てられてるみたい。』

 

『……他の人達は…?』

 

『星乃は傲慢…って言っても、そこまで傲慢に当てはまる気質かなとは思うけど。璃々は強欲で、まだ目覚めていない人格は怠惰。』

 

……

 

『まぁ、割り当てられてるからってあまり気にしないでいいことだと思う。全員が全員その通りに動くわけじゃないし。』

 

『…そっか』

 

『……ん、動くね』

 

星の娘…私達は、自らが母と呼ぶ存在に創られたという。私は───一体誰が、本当の母なのだろう。

 

 

side リッカ

 

 

「さて、第三の間だ。問おう。怠惰を貪ったコトはあるか?」

 

問いかけ。その問いに、少しビクッとする。

 

「成し遂げるべき事の数々を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は?社会を構成する歯車の個ではなく、ただ己が快楽を求める個として振る舞った経験は?」

 

「……あたしは、それに誘う側よね…」

 

「……怠惰の罪?」

 

「そうだ。此度お前が立ち向かうは怠惰の具現。第三の裁き───怠惰の間だ。」

 

はっきりと示されて、また視界が歪む。視界に映るは…美女?…あぁ、恐らくは“ベルフェゴール”。怠惰(スロウス)を司る悪魔。

 

 

───小学生の頃の、記憶。

 

色々なものを読んだ。

 

色々なものを覚えた。

 

参考書、世界各国の歴史、楽譜、棋譜、指南書、法律関連。

 

各国の会話、機械寄りの計算術、人間寄りの計算術、楽器の弾き方、自分の身体の動かし方、相手の身体の壊し方。

 

読むだけでなく、実践も行った。…といいつつ、実際に他人に全力を振るったことはなかったけれど。

 

剣道、柔道、ピアノ、琴、囲碁、空手、合気道、弓道、卓球───

 

いつもの日常。…正確には、“だった”がつくけれど。

 

武道や楽器の先生からはよく心配されたのを覚えている。“大丈夫か”、と。

 

私が意味が分からなくて、その度に“何がですか?”と聞いたのを覚えている。

 

お母さん達の望むままに、私の身体が動く限り。私は様々なものを学んだ。そこに、休息の概念はなかった。

 

そうして、何度も体調を崩して───

 

 

「…マスター?大丈夫?」

 

「…ふぇ」

 

ナーちゃんの声で気がつく。…長い間、考え込んでいたみたいだ。

 

「…うん、大丈夫。」

 

「……嘘よ」

 

「え?」

 

「清姫さんじゃないけれど分かるわ。というか、あたしは大丈夫そうに見えないから聞いてるのよ。…ねぇ、マスター。」

 

ナーちゃんが私の事をじっと見つめる。

 

「マスターは人間よ?あたしやありす、ジャンヌみたいに英霊じゃないわ。…以前のありすみたいに、サイバーゴーストと呼ばれる存在でもない。…人間というのは脆いわ。サイバーゴーストも、また。それをあたしは、月で…ムーンセルで知ったわ。」

 

「ナーちゃん…」

 

「…ねぇ、マスター?…あたしが、貴女の心の拠り所になってもいいかしら?」

 

「…」

 

あの、それは。

 

「ナーちゃん。発想が男の子のそれだと思うんだけど…」

 

「あら!あたしはそもそも“カタチのない英雄”よ?今は女の子だけれど、男の子にもなれるのよ?」

 

そう言っておかしそうに笑った。…でも

 

「…私は、ナーちゃんは女の子の姿の方がいいかな…」

 

「…そう。あたしも。」

 

…うん

 

「ナーちゃん。私の心の拠り所になってくれる?…少しずつ、だとは思うけれど…」

 

「えぇ、喜んで!」

 

ナーちゃんが笑顔になった。…うん。やっぱり、ナーちゃんには笑顔が似合う。

 

「───主よ。このような場に我を降ろしたもうたは貴方か。」

 

いつの間にかその人が現れていた。あれは、確か───

 

「ジャンヌを作り出した男…だったわよね。」

 

ナーちゃんの言葉に頷く。“ジル・ド・レェ”───聖女を喪い、狂った者。

 

「ここに在るは聖女にあらず。2人の年若き娘。だが───我が身狂いて尚、こう告げよう───」

 

「「…?」」

 

尊いと。

 

…えっと?

 

「少女と少女が絡み、愛を告げる一幕をこの目で見るとは。不覚ではありますがこのジル・ド・レェ、少々浄化されそうになりましたぞ!しかし!しかしだ輝かしきものよ!我が冒涜を前に震え上がるがいい!神聖なるものよ、我が嘲りを以て地に落ち、穢されるがいい!」

 

「…あれって、怠惰なの?」

 

「怠惰だとも。騎士たる己が身の高潔を忘れ果て、旗の聖女とやらの掲げたものが何であったかを忘れたもの。ただ堕落するがままに魂を腐敗させたモノ!人間のなれの果てこそ奴だとも!」

 

…あぁ、なるほど。怠惰とは放棄することだ。拒絶することだ。…逃避することだ。もっとも、それらが悪いこととは言い切れない…とは思う。逃げるのだって1つの手。それが罪であったとしても、どう責めることができるか。

 

「せっかくだから───新しい魔術でお相手するわ!加減を間違ったらごめんなさい!」

 

そう言ってナーちゃんは木の剣を出現させた。

 

「ははは、来るがいい童話の娘よ!そこに立つ輝きと共に地獄に堕ちよ!」

 

「ここは既に地獄だというのに───おかしなことを言うのね!」

 

そう言ってナーちゃんが剣を振るう。

 

「さぁ───認識、分析、学習の時間だマスター。お前はこの怠惰の罪をどう見る?」

 

…怠惰は罪?楽になりたい、休みたいというのは罪なのだろうか。

 

…違う、はず。だって、それは───私が先生に言っていたことでもあったし。お兄ちゃんにも結構最近言ったし。

 

休んでほしい、って。

 

…お兄ちゃんから、聞いたことがある。“怠惰とは、大罪でありながら美徳である”、と。

 

…あぁ、そうか。

 

「怠惰それ単体を罪とは言わない。…怠惰とは大罪でありながらも美徳である。安らぎを得る時間であり、自らの成果を示す場である。」

 

「…ほう」

 

「怠惰によって自らの成果が示されるならば───それは必要なものである。」

 

プログラマの考え方。自分が作ったプログラムが有能で、それによってそれだけの怠惰を───否。“空いた時間”を得られるのなら、その得られた分だけそのプログラムは有能なものである。

 

「…理解した。魂を飲み込み、理性を喪い───あらゆることを放棄するのが“大罪”。成果により、魂を癒す時間を作り出せるのが“美徳”。同じ“怠惰”であろうと、その方向性は別物───!!」

 

私の声に呼応して、アルテミスさんの弓矢が独りでに展開する。

 

「ハハハハハ!!最高なCOOLをお見せしましょうぞ!!」

 

そう言った途端、ジル・ド・レェさんが肥大化するのが見えた。

 

「追い詰められて巨大化とか、オーンスタインじゃないんだから!ていうか、本当にそれやめなさいよ!!」

 

「ハハハハハハハハハハ!!!さぁ、己が限界を知るがいい、童話よ!貴様一人ではこの裁きは乗り越えられないと知れ!」

 

「同じキャスターでここまで差があるなんて───いいえ、気にしてはいけないわ!」

 

「そうだ、その意気だ!主賓が現れるぞ!」

 

「え?」

 

矢を番える───必要ない。弦を引く。

 

「───お願いします」

 

どうか、月の神たちよ。あなた方に届きますように───

 

 

side 月

 

 

「…今の」

 

感じた。間違いではない、はず。事実、バタバタと走るような音がする。

 

「───月ちゃん!」

 

「…アルテミス様」

 

「ねぇ、今!気付いた!?」

 

管制していても気がついた。今───祈られた、と思う。リッカさんに。

 

「…月女神の弓矢、ですね」

 

「ねぇねぇ、全力撃っちゃっていいかな??」

 

「流石にやめてあげてください。…まぁ、私も協力しますよ。」

 

宝具、励起。第二宝具“月よ、その神威ここに表せ(神月の力)”───起動開始。

 

「アルテミス様、この矢に乗せてください」

 

「はーい!…って、別に様付けじゃなくて、敬語じゃなくてもいいのに。」

 

「…癖ですから」

 

そう、これは癖だ。…癖を治せないのも、私の悪いところなのだろうけど。

 

「ん、終わったよ!」

 

その言葉に矢を受け取り、弓を生成し、亜空間を開く。

 

「───放たん、月の矢を。間続く限り届かぬ場所はない。月の光ある限り、見えぬ場所はない───“見透かす月矢(プルヴィデーレ・スキーギャ)”」

 

矢が離れたことを確認し、空間を閉じる。

 

 

side リッカ

 

 

「ハハハ、その月の弓で一体───!?」

 

轟音。それと同時に、強い光が部屋の中を覆った。

 

「ぬぐぅっ…!」

 

「…うわぁ、しぶとい…」

 

空間が歪んで炸裂したはずなのに、まだ生きている。

 

「ジャンヌ…ジャンヌゥゥゥゥ…」

 

「…ここまでくると普通に恐怖よね…」

 

「…うん」

 

「…仕留めちゃって、いいわよね?」

 

私が頷くと、ナーちゃんが剣を杖に戻し、跳躍してから床に降りるまでの間でジル・ド・レェさんの額に杖の先を叩きつけ、ジル・ド・レェさんの背後に着地する。

 

「───“恋する乙女のカウントダウン”!」

 

その宣言があって───

 

 

ボンッ

 

 

爆発した。

 

「ふぅ、これでおわりかしらね。」

 

「クハハハ、爆発オチとはな!」

 

とりあえず、今回はこれで終わり。…また人間性落ちてたけど…

 

「…ぷしゅ~…」

 

「マスター!?」

 

「…疲れた」

 

「あぁ…じゃあ、戻りましょう…」

 

「ん…」

 

人間性を拾ってから元の部屋に戻る。…明日は、なんだろ…




大変遅くなりました…

裁「…マスター」

…準備、出来た?

裁「…もう少し」

分かった
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