狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い   作:Luly

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憤怒、か…

正狂(真名:美雪)「……強い怒りの感情。自らの怒りに身を任せ、狂い、周囲へ被害を及ぼす…」


第226話 第肆ノ罪科、其憤怒罪也

「………ん。」

 

目を覚ます。目の前にナーちゃんの寝顔があった。

 

「すー…すー…」

 

「…」

 

規則正しい寝息。ふと私が手を伸ばしてナーちゃんの顔に触れると、ちょうどナーちゃんが目を覚ました。

 

「……おはよう、マスター。」

 

「…うん。おはよう、ナーちゃん。」

 

「おはようございます。狩人様。」

 

「おはようございます、リッカさん。」

 

膝枕された状態で声のする方向を向くと、メルセデスさんと人形ちゃんがいた。

 

「おはよう、メルセデスさん、人形ちゃん。」

 

「……」

 

……?メルセデスさんが何か考えてる…?

 

「……あの、リッカさん。今日のアヴェンジャーさんなのですが…」

 

「アヴェンジャーさんが、どうかしたの?」

 

「……人間性、でしたか。それのせいで表情は見えませんでしたが、かなり機嫌が悪いようで…」

 

機嫌が悪い……?

 

「ナーちゃん、本当?」

 

「えぇ…横から見ていただけだけれど、なんだか凄く腹を立てているような感じだったわ。」

 

ナーちゃんもそう感じた…

 

「……それにしても、いつになったら篝火は本来の機能を取り戻すのかしら。」

 

ナーちゃんがそう言った。…確かに、それは思う。少なくとも昨日までは人間性を使うことができないのが分かっている。

 

「…あの。狩人様。」

 

「…狩人ではないんだけど…どうしたの、人形ちゃん。」

 

「これを…いつの間にか、持っていたものです。」

 

そう言って渡されたのは…紙切れ?……ええと。

 

「“憤怒を滅せよ。呪われた証を探せ。赤き鐘を鳴らせ。死の花を燃やせ。さすれば闇炎の力は拓かれん”……」

 

……これ…

 

「……篝火の直し方、かしら…?」

 

私の読み上げた言葉を聞いてナーちゃんがそう呟く。

 

「……なの、かな。」

 

闇炎…

 

「……目覚めているか。ならばいい。第四の裁きが待っている。」

 

アヴェンジャーさんはそれだけ告げると、部屋を出ていった。

 

「……確かに機嫌悪そう…」

 

「……お気をつけて、リッカさん。」

 

「うん。…行こ、ナーちゃん。」

 

「ええ、マスター。」

 

……うーん

 

「…?どうかしたの?」

 

「…あのね、ナーちゃん。“マスター”、じゃなくてもいいよ?」

 

「え?」

 

「なんか…ちょっと、遠い気がするから。」

 

「……呼び方…考えておくわ。」

 

うーん…困らせちゃったかな?でも、なんか気になったのは確かなんだよね……

 

 

side 無銘

 

 

『お母さん、司る七曜を教えて?』

 

『分かった。』

 

引き続き、私はお母さんに司るものを訪ねていた。

 

『まず、七曜って何か分かるよね?』

 

『五行…それに太陽と月…つまりは陰と陽を足したもの…だっけ』

 

『ん。月火水木金土日…日本では“曜日”と知られているこれが七曜。本来の意味で言えば“肉眼で見える惑星を五行と対応させた火星・水星・木星・金星・土星と、(太陽)(太陰)を合わせた7つの天体のこと”なんだけど…曜日って言った方が伝わりやすいのかな?ていうか現在の一週間を表す曜日は七曜を元にして作られたものだし、ほぼほぼ関係ないんだけど…』

 

あ、そうなのか…

 

『で、私達にはこれがそれぞれ割り当てられてる。まず私は“水”。これは名前からかな。“海”、でしょ?』

 

お母さんの名前は“星海”。そして確か…水の神器の扱い手。それから…世界の繋がりを作る…“流れ”を作ることができる人。

 

『当然だけど月は“月”を司る。陽詩は“日”を司る。2人はもうそれそのものとして定義されているようなものだから…うん。』

 

月の巫女と太陽の巫女…神に仕える立場でありながら、人であり、その天体そのものである。太陽は“(とき)”を変化させ、月は“(はざま)”を変化させる───

 

『星乃が司るのは“木”。これは命の移り変わりだね。生命は生まれ、育ち、老いて消える───それが反映されてるのかな。で、美雪さんが司るのは“火”。多分気がついてると思うけど、“憎悪の炎”。』

 

いつも静かではあるけど、過去の美雪さんらしい、とも思う。…もっとも、過去の美雪さんを私は知らないけれど。

 

『璃々が司るのは“金”。これは璃々の性質。“形を自由自在に変える”っていうことだね。』

 

『自由自在に…?』

 

『璃々に固定された形はないから。というか、私達が“璃々”って呼び続けてないと璃々自身が“自分を見失いそう”って言ってたから…』

 

…どういう、ことだろう?

 

『で、最後の“土”はまだ目覚めていない人格が司るもの。…七曜はこのあたりかな。』

 

…私は一体…何を司るのだろう。

 

 

side リッカ

 

 

「…第四の裁きだが。憤怒の具現が相手になるだろう。」

 

「憤怒……」

 

憤怒。その言葉を聞いたとたん、視界が歪む。

 

 

───リッカ!こっちこっち、ってあぁ!?やっちゃったぁ…

 

───ふふ、星羅。あまり慌てなくてもいいんじゃない?

 

───そうは言うけど…うー…

 

───私にはよく分からないけれど、星羅にとって、リッカにとっても重要なのは分かるわ。焦りたいのも分かる。けれど、それで失敗したらもっと遅くなるだけよ?

 

───…うん、そうだね。ごめん、ニキ、リッカ。私、焦りすぎてたみたい。

 

 

…けれど、思い起こされたのは憤怒も何も関係ない、ニキと星羅がまだいた頃の記憶。星羅がレアアイテムを取りに行くのに必死で、失敗して…ニキが星羅を宥めていたときの記憶。…あのときは確かニキも一緒にやってくれて、なんとかレアアイテムを取りに行けたんだっけ。

 

 

───きゃぁぁぁぁぁ!毛虫、毛虫!私毛虫だけはホント駄目ぁぁぁぁぁぁ!!

 

───きゃぁぁぁぁぁ!来ないでぇぇぇぇ!!

 

───いやぁぁぁぁぁ!!

 

 

家に毛虫が現れて逃げ惑っていた記憶。私も、星羅も、ニキも───陽菜ちゃんも全員苦手だった。その日は知り合いのシスターさんがなんとかしてくれたけど…かなり煽られた。助けてもらったし何も言えなかったけど。

 

「……マスター?」

 

「……大丈夫。昨日みたいなことじゃないから。」

 

「…考え込んでいるだけだったみたいね。」

 

…なんで、あの記憶が思い起こされたんだろう。あれは憤怒とは一切関係がない。いや、そもそも───私は、怒ったことがあるのかな?

 

「憤怒。怒り、憤り───それこそオレが一番重視している人間の感情。もっとも強き感情であるとオレが定義するモノ。それが自らに起因する怒りたる私憤でも、世界に対しての怒りたる公憤でも構わん。等しく、正当な憤怒こそが最もヒトを惹き付ける。時に、怒りが導く悲劇さえもヒトは讃えるだろう。」

 

「……無銘さんの第六人格、美雪さんは自分の怒りをこう言ってたわ。“ただの子供の癇癪、自分の愚かさを棚に上げた八つ当たり。それが、私を構成する復讐者の一面なんです”…って。」

 

「ふん。だが、ヒトとは古来よりその復讐譚を好み、愛おしむのだ───それを。」

 

「…!」

 

突如湧く“獣”。ナーちゃんがそれに気づいて杖を土の剣にする───

 

「それをそれをそれを!!ヤツは認めようとしない!怒りを、最も純粋なる想いを否定する!憤怒の具現として第四の支配者に配置されておきながら、さも当然とばかりに救いと赦しを口にし続けるのだ!!」

 

アヴェンジャーさんがそう言い、黒い雷が、黒い炎が獣を焼き尽くす。

 

「許されぬ、許されぬ。偽りの救い手なぞ反吐が出ようというもの。人が赦し、神が赦そうともオレは赦さぬ!あぁ、この裁きにおいてはオレを存分に使うがいいさ!喜んで力となろう、ヤツを引き裂けるのは僥倖としか言えぬわ!」

 

「……」

 

「そして、お前もだ童話よ!」

 

「えっ…?」

 

ナーちゃん?

 

「お前は本来カタチ無きモノ!お前も本来“憤怒”など抱かぬであろう!あぁ、お前という例外を潰しに来るモノがいるぞ!!」

 

「……!」

 

ナーちゃんを…潰しに来る?

 

「……マスター」

 

「…?」

 

「お願い。どうか…あたしを見捨てないで。」

 

……

 

「…大丈夫。ナーちゃんにずっと一緒にいてほしいって言ったのに、私が離れるのはおかしいでしょ?」

 

「……」

 

「“あたしの想いを突き通す”…でしょ?私を助けに来てくれたナーちゃんのこと、信じてる。それが我が儘だったとしても、私を助けに来てくれたナーちゃんは今ここにいる魔法少女のようなナーサリー・ライムただ一人だよ。」

 

「……ありがとう。ねぇ、マスター。」

 

「…?」

 

「あたしに、名前をくれる?“誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)”じゃなくて、あたしだけの名前を。…あたしは、あなただけの本になる。」

 

私だけの…?

 

「……いいの?」

 

「ええ。お願い。時間がかかってもいいから。」

 

「……」

 

急に言われても、名前ってパッと思い付くものじゃない。

 

「…あとで、いいかな。ごめん、すぐに思い付かないの。」

 

「ええ。…さぁ、行きましょう。」

 

ナーちゃんの名前に悩みながら、扉を開ける───その瞬間。

 

「あっ…!」

 

ナーちゃんが光を放ったかと思うと、そこには懐かしいような、ごく最近見たような…“ALICE IN WONDERLAND”と書かれた絵本があった。…最初は、この姿だった。今となっては、懐かしく思える。

 

「……」

 

本になってしまっているけれど、ナーちゃんの意志ははっきりと感じられる。つまり、ナーちゃんの意識は消えておらず、ナーちゃんの戦意は全く衰えていない。それを感じて、扉を開ききる。

 

「…来ましたな。迷える魂を淀みに引き込む者、正義の敵よ。もう一人の私は狂気と共にあったようですがこの私はジル・ド・レェ、聖なる旗に集いし騎士!正義の刃にてあなたたちを断罪しよう!」

 

…滅茶苦茶だ。言っていることが、滅茶苦茶だ…!もう一人の自分が狂気と共にあり、自分は聖なる旗に集う騎士?正義の刃で断罪する?顕現で参照された時期が違うだけで同じ結末を辿っているはずなのに…!

 

「前回とは些か雰囲気が異なるな。…ほう、ヤツに引きずられて現界したと見える。…そして」

 

「……」

 

「───こんにちは、もうひとりのわたし。…いいえ、わたしであることをやめようとしているわたし。だけど───あなたがあなたである間に会いたかった!ページとページの間に折り込まれた想いのかたち、ぺーじをめくる指がなければなにもできないわたし!」

 

「───ナーサリー、ライム…」

 

ナーちゃんと対峙する、絵本を持った───ナーサリー・ライム。いつものナーちゃんと同じ姿の。

 

「今となっては、わたしはありす(わたし)であなたは物語(わたし)。…いいえ、わたしはわたし。ありすではない。あなたの近くにいるありすも、またありすではない夢の偶像。だからあなたも、その姿のままでいなさいな?」

 

「───違う。違うわ。」

 

ナーちゃんが言葉を紡ぐ。

 

「───あたしはあたし。あなたではない。ありすもありすで、ありすであって偽物じゃない。たとえそれが、夢幻だったとしても、あたしはそれを信じてる。…最初は、ありすはいなかったけれど。何故あたしがアリスになったのかは彼女(ありす)との絆の強さと…そして、あたしの中に彼女(ありす)がいたから。」

 

「それは、ダメよ。いけないことよ。わたしは物語(わたし)でしょう?ここに読み手(ありす)がいないのに、ここには物語(わたし)しかいないのに!わたしはありす(アリス)の姿をとってはいけないわ!」

 

…もしかしたら。ナーちゃんの中で、ずっと燻ぶっていたのかもしれない。アンデルセンさんは言っていた。“名の無き絵本をあそこまで愛し、本自体もマスターを愛した。それ故にあのナーサリー・ライムはあの姿をとったのだろうよ”、と。…本来カタチがないというナーちゃん───誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)という存在。その存在が、自分の中にありすさんがいたといっても固定されたカタチを持ったことに自己矛盾を抱えていたのかもしれない。

 

「───ナーちゃん!答えは貴女の中に───貴女自身が持ってる!貴女の言葉で、答えてあげて!」

 

私の令呪が一画浮き上がる。

 

「私は───貴女を、信じてるから!」

 

「───分かっているわ。」

 

ナーちゃんの魔力が練り上がる。

 

「あぁ、わたしは決めてしまったのね。でもわたしは許さない!わたしが確かなカタチを得ることも、ありすがマスターでもないのにわたしがアリスでいることも!ハッピーエンドみたいな顔はさせないわ!!」

 

「ごめんなさい、アヴェンジャーさん。そちらは任せてもいいかしら?あたしは、アレと決着をつけるわ。」

 

「あぁ、構わんさ!この俺がヤツを引き裂けるのはまさに僥倖といっただろう!マスター、お前も遠慮せずにオレを使え!俺は怒りのままにお前を引き裂こう───」

 

その怒りを向けている矛先は───

 

「サーヴァント・ルーラー、ジャンヌ・ダルク!忌まわしき我が道を阻まんとする女!!」

 

「…かつての昔、導くものとして立った私があなたを阻む。…えぇ、アヴェンジャー。あなたを救うために。聖なる旗がこのシャトー・ディフでも輝くように。」

 

「黙れ!!この場で救いなど口にするな!!憤怒の具現でありながらその憤怒を否定するな!!」

 

「ジャンヌよ、お下がりください!」

 

「ジル…!いけません、彼等は私が───」

 

「あの黒き気配、邪悪の怨念!この監獄塔に至ってはもはや主の救いすらあの魂に及ばず!聖女よ、アレは貴女の思う魂とは違う!断罪の刃を以て当たるほかない!」

 

「ハハハ!!そうだ、このオレは恩讐の彼方より来たる復讐者!そう在れかしと誰しもが言う!憎め、殺せ、敵の悉くを屠り尽くせと期待し続ける!ならばそう在ろう、人間がそう望むままに、世界に復讐する!!」

 

黒い炎がアヴェンジャーさんの周囲に吹き荒れる。

 

「ここに愛しきエデはなく、尊きファリア神父もなく、神も我が魂を救えはしない!さぁ、開戦と行こうか!第四の支配者よ!」

 

そう言ってアヴェンジャーさんとジャンヌさんは激突する。ナーちゃんは既にナーサリー・ライムさんと戦闘を開始していた。

 

「ハハハ!希望の旗を鮮やかに引き裂こう!輝きも聖なるモノも、オレには何の意味も持たぬ!尊く、聖なるモノ!全て等しく無価値に過ぎぬわ!!」

 

憤怒…それは、アヴェンジャーさんの方が合っているように見えるけれど。…それでも、この場所の支配者はジャンヌさんで間違いない…らしい。

 

「マスターよ!お前も何をいつまで寝惚けているのだ!!」

 

「え…?」

 

「怒りがない、憤怒を抱いたことがないなどオレの前では言わせん!たとえお前の周りがお前が怒ったことがないと認識していても、お前が怒ったことがないと思っていても言わせんぞ!!」

 

怒った…こと?

 

「認識しろ!意識しろ!分析しろ!理解しろ!!!お前の心を融かし、お前が自分自身を制御するための鍵がそれだ!!さぁ、覚醒の時だ!!軛を取り払い、今こそお前は咆哮を放つのだ!」

 

 

視界が歪む。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い───視界に映ったは、蝙蝠の羽を持つ禍々しい姿と───

 

 

思い出せ!!お前が喪った鍵を!!お前が喪ったものを!!お前の人生が、お前が歩んできた道が───それが無価値であるわけがないだろうが───!!

 

 

 

───大切な人がいた。

 

───大切な世界があった。

 

───友達、先生、師父、シスター、神父。

 

───ニキ、星羅、陽菜ちゃん、■■■■。

 

───地球、歴史、太陽、月、世界の理。

 

───誰だって、未来を見つめていた。

 

───誰だって、未来を望んでいた。

 

───誰だって、夢を持っていた。

 

───それは、叶わなかった。

 

───何故なら…炎で焼かれたから。

 

───自らの意志と関係なく、預言書が滅びの炎を放つ前にも。

 

 

「───ぁ」

 

 

風景が、変わる───それと同時に、意識が一瞬落ちる。

 

 

「…ぅ」

 

目覚めると、私は花に囲まれていた。寝そべっていたみたいで、体を起こす。

 

「…あれ。ここ…」

 

見渡す限り花畑。蝶が飛んでいるのは分かる。

 

「……どこ?ここは…私は…監獄塔に…」

 

ガサリ、という音がした。驚いてその方を見ると───人の姿があった。薄紅色、の───

 

「───ニキ?」

 

「…リッカ!見つけた!」

 

華紬 ニキ。カルデアに来る前、いなくなってしまった友達。

 

「星羅!こっちにいたわ!」

 

「ホント!?もう、本当にリッカは隠れるのが上手なんだから!」

 

「え…?」

 

今のは星羅の声だ。そして───ガサガサという音とともに現れたのは、星羅と───

 

「ヌルフフフ、見つかってしまいましたな、リッカ様。…さて、後はお嬢様だけですが…」

 

「…え」

 

アリウム、だった。しかも、今の口振り───

 

「リナリアもいるの?」

 

「?何をおっしゃいます、今日はみんなで遊びに来たのでございましょう?」

 

「…みんな?」

 

「忘れちゃったの?私とリッカ、星羅と…あと、リナリアにアリウム。陽菜さんに六花さんも一緒にフラワーパークへ来たのでしょう?」

 

フラワーパーク。茨城の方にある花の楽園…だったはず。…それにしても…中学生の頃のフルメンバー…?…これは、一体…

 

「…とりあえず、ここを動きましょうぞ。珍しく園内に誰もいないとはいえ、誰か来たときは邪魔になりますからな。」

 

…それは、確かに珍しい気もするけど。ふと、私の服装を見ると、ニキがコーディネートしてくれるような服装になっていた。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

星羅が聞いてくる。何でもない、と返して星羅達についていく。

 

 

そうして花畑を抜けると、リナリアが仁王立ちしていた。

 

「遅いですわっ!!」

 

「お嬢様、一体どこに…」

 

「この近くにいましたわよ!特に貴方は何故私を見つけないのです!?」

 

そう言うリナリアの隣には花の看板。…あぁ

 

「…お嬢様、お嬢様が隠蔽グッズを使いますと拙者でも見つけられませんぞ。」

 

「リナリア、ニンジャみたい~」

 

星羅がそう言った。…そうだった。リナリアは本気で隠れると誰も見つけられないんだよね…

 

「さ、時間も時間だし昼にするか。ほい、弁当」

 

お兄ちゃんがお弁当を出してくれる。…どうやら、お兄ちゃんが作ってくれたみたいだ。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

全員が手を合わせてご飯を食べる。…ふと変な感じがして背中に手を伸ばす───けど、そこには何もない。

 

「…リッカ?」

 

「───あ。」

 

やってしまった。不思議そうな目でニキに見られている。

 

「…ごめん、何でもない。」

 

「…なんか、少し体調悪かったりする?」

 

「大丈夫。…多分。」

 

変な違和感がする。それを感じながらも、お弁当を食べ進める。

 

「…ごちそうさまでした」

 

そう告げて、立ち上がる。

 

「…お兄ちゃん、ちょっと近くを見てきてもいい?」

 

「おう、いいぞ。気をつけてな。」

 

その言葉を聞いて走り出す。フラワーパークは花の楽園。ほぼ天然と言っていいレベルの花畑を囲って1つの施設としたもの。冬に来るのもまたいい。

 

「……ほんと、広いな」

 

広い広いとは聞いていたけれど。結構走って、まだ端が見えない。こんな日常、あればよかった。…一緒に、来ればよかった。…そう思うほど、この夢の中でいるのは勿体ないと思う。

 

「…夢、なんだよね」

 

これは、夢だ。…多分。抜け出さないといけない。だけど───あぁ。居心地がいい、と感じてしまう。

 

「…っ」

 

不意に、周囲が暗くなった。空を見上げると───あれは

 

「魔神柱…!?」

 

蠢く魔神柱。直感した、あれは───不味い。即座にもと来た道を走る。

 

「……はぁっ、っ!」

 

遅い。遅い。遅い!!加速しろ、さらに速く、あの“凝視”が到達する前に!!そう思っていると、やがて星羅の姿が見えてきた。

 

「あ、リッカおかえり───ッ!?え、何アレ!?」

 

「どうしたの───え?」

 

星羅とニキが驚きの表情を浮かべる。当然だ、()()()()()()()()()()()()()()()()のだから…!!

 

「間に合え…っ!!」

 

限界。そんなの関係ない、今は皆を守れれば───

 

「「リ───!!」」

 

けれど。それは、叶わずに。星羅とニキの姿が、燃えた。

 

「───」

 

私は燃えず、星羅とニキと───そして、リナリア、アリウム、陽菜ちゃんの姿。お兄ちゃんの姿は───いつの間にか、どこにもない。死体すらも燃え尽きてしまったのか。

 

「───あ…あぁ…あぁぁ───」

 

総て、燃えた。私以外、すべて。“花の楽園”の象徴たる満開の花畑も、夢の中だとしてもお弁当を一緒に食べた東屋も。ニキ達の存在すらも。

 

「───ガ」

 

建物は全て溶け落ち、今この場所には私しかいない。人もいない、死体もない、何もない───在るのはただ、私と───空を埋め尽くす魔神だけ。

 

「───■■■■」

 

ダレダ───

 

「■■■■■───」

 

ダレダ、ダレダ───ワタシノタイセツナモノタチヲウバッタノハダレダ

 

 

「■■■■■■■■■■───!!!!」

 

 

ホウコウ?シラナイ。イカリ?シラナイ。タダ───ツブス。ワタシハキズツケタヤツヲケスダケダ───!!!

 

『落ち着いて、リッカ』

 

ソノ、コエ。ふいに、トマル。

 

『止まって。…大丈夫、私は大丈夫だから。』

 

『私も大丈夫だよ。…だからお願い、止まって。』

 

2人の、コエ。意識が、モドリ始める。

 

『…少しだけ、お話ししましょう?暴走しきったら、私達の声も届かないから…』

 

背後と前方に温かさを感じた。暴走が───止まっていく?

 

『…落ち着いた?じゃあ、離れるね。』

 

「…ニキ?星羅?」

 

声のした方を見ると、半透明な身体になったニキと星羅がいた。

 

『うん。…と言っても…多分、気がついてると思うけど。』

 

「…ここは、私の夢の中…なんだよね。」

 

その答えにニキと星羅が頷く。

 

『…本当なら、引き留めるべきなんだろうけれど。…こんな風に、なっちゃったから…引き留めたくても、引き留められないかな。』

 

花畑のあった方を見ると───なるほど、酷い荒れ様だ。

 

『…ねぇ、リッカ?貴女の憤怒───貴女の怒り。分かった?』

 

「…うん、ニキ。なんとなく、分かった。暴走って…憤怒の発露だったんだね。」

 

『…怒っているようにも見えないけど、それは多分貴女が憤怒を理解できていなかったから。怒りとして制御するのではなく、謎の感情として制御を手放していたから。だから、こうなっていたのだと思うわ。』

 

「…そう、だったんだ…」

 

『…だから。これは、私から!』

 

星羅が近づいてきて、手を差し出す。そこに乗っていたのは───鍵?

 

『…これだけだと、まだ足りないけど…それでも、意識を失うことはなくなると思う。』

 

「これ…もしかして」

 

『暴走を制御するための鍵。…なんで、私が持ってるかっていうのは言わないでね。私もよく分かってないから。』

 

あ、そうなんだ……そうだ!

 

「ねぇ、ニキ!星羅!2人ってあの後どこに行ったの!?」

 

たとえ私の夢の中でも、知っているかもしれない。

 

『…ごめんなさい、それを今話すことはできないわ。』

 

『私も…ごめんね、リッカ。』

 

「…そっか…」

 

『…でもね、リッカ。これだけは言える。』

 

星羅?

 

『私もニキも、絶対にもう一度リッカと出会う。それがどんな形だとしても、絶対に生きて出逢えるんだよ。』

 

「…どんな形だとしても…?」

 

『うん!だから安心して、リッカ!まずはこの夢から抜けて───それから、この惨状を作り出した奴をぶっ飛ばさなきゃ!』

 

その言葉に、私とニキは一緒に笑った。…星羅らしい。

 

『話はそれから!ね、ニキ!』

 

『私に同意を求められても困るわ。…でも、信じてる。リッカとまた会えること。』

 

「ニキ…星羅…」

 

そこまで言われたら…

 

「うん。私も、信じてる。生きてまた、絶対に会おうね。」

 

そう告げると同時に、私の装備が監獄塔にいた時のものに変化する。

 

『…じゃあ、これは私から。』

 

ニキが私に一輪の青色の彼岸花を差し出してきた。

 

「これは?」

 

『今から出るのに、彼岸花もおかしいかもとは思ったけれど…一輪だけ、あったの。近くにあったメモには───“闇炎を活性化せし鍵、死の花”とあったわ。』

 

「死の…花?」

 

それは確か、人形ちゃんが持っていたメモにも書かれていた…

 

『…私はリッカほど直感が良くないけれど…周りに一切彼岸花がないのに一輪だけあるのは明らかにおかしいわ。…だから、渡すべきだと思ったの。』

 

「…ありがとう。多分、必要になる。」

 

『…なら、いいのだけど。』

 

私はニキから彼岸花を受け取って、アイテムポーチにしまった。星羅からの鍵も、ちゃんとある。

 

「…じゃあ、行ってきます。」

 

『『いってらっしゃい。』』

 

そう言って、星羅とニキは消えた。向かう必要があるのは───あれだ。

 

「───っ」

 

先程と比べると重い───けれど、身体が軽い。恐らくあの時見えたのは、憤怒(ラース)を司る悪魔、“サタン”だろう。

 

「…あった。要石───」

 

デモンズソウルシリーズの要石。ここまでフロム色強いのにデモンズソウル要素が少ないのは気になっていた。だから、出てもおかしくはない。

 

「…」

 

要石に触れる。直後、引っ張られる感覚と───思い浮かぶ、名前。

 

「…うん」

 

これがいい、と決めた途端───私は現実に戻っていた。

 

「人類最後のマスター、その業を開放する!!」

 

襲い掛かってくるジル・ド・レェさんの姿。

 

「───シッ!」

「がっ!?」

 

即座に童子切を抜刀、成功したことのなかった“鏡花の構え”を行う───結果は、成功。ジル・ド・レェさんの剣を叩き折り、ジル・ド・レェさんを吹き飛ばした。

 

「ジル!」

 

「───怒りは在る。だが、その怒りは心の底で燃やす。それが私の憤怒の使い方。」

 

「───ほう!激情に囚われず、その激情を制御したか!!クハハハ、その憤怒のままに蹂躙すればいいものを!!だが、理解できただけでも上々だ!」

 

「許さないよ、絶対に。私の友達を奪った奴らを、私は許さない。生きようとしていた未来を奪い、この世界を焼いたのを───そんな理不尽を私は許さない!!」

 

一気にジルさんに距離を詰め、その霊核を貫く。

 

「ぐ───ジャン、ヌ───」

 

「ジル───」

 

「よそ見している場合か!?」

 

「く───」

 

そのジャンヌさんもまた、霊核を砕かれて消滅する。

 

「クハハハハハハ!そら、消えたぞ!魂の欠片ごときが我が恩讐の果てで滾る炎を!消すことができるものか!!」

 

…こっちは、終わった。あとは───

 

「…!」

 

「結構…しぶといわね…!」

 

ナーちゃんとナーサリー・ライムさん。…うん

 

「ナーちゃん!」

 

「…っ!?」

 

「今こそ貴女に捧げる!貴女の新しき名を───今ここに私が授ける!!」

 

それは、夢の中で思いついた名前。…だけど、これしかないと思ったから。

 

「貴女の名前は───“有栖ヶ藤(ありすがふじ) 七海(ななみ)”!!英名、“ナナミ・ロスタイム・ウィスタリア・リームカント・アリス”!!」

 

そう宣言した、瞬間───ナーちゃんが光を放った。

 

「───ありがとう。あたしの願いに答えてくれて。…ええ、その名前を受けましょう。」

 

光が消えると、そこには───魔法少女みたいな姿のナーちゃんがいた。

 

「あたしはアリス。有栖ヶ藤 七海。今こそ、貴女の声に応えましょう!」

 

「わたし…!」

 

「行くわよ───なくなっちゃうなんて、思わない!」

 

ナーちゃんがナーサリー・ライムさんを杖で突く。

 

「きゃっ!」

 

「───“時刻み忘る恋の花”!!」

 

そう宣言した瞬間───風に斬られ、氷に閉じられ、火で燃やされたナーサリー・ライムの姿があった。

 

「───そう。」

 

ナーサリー・ライムさんはそこに立っていた。

 

「あなたは、それを選んだのね。…結末なんて、分かっていたわ。本当は。だけど、試したかったのよ。」

 

その表情は、少し悲しそうだった。

 

「…いいこと、わたし?あなたがその、わたしではないわたし…あなただけのその姿を選ぶのなら。…絶対に、バッドエンドになんか……しちゃ、ダメよ…?」

 

「…ええ」

 

ナーちゃんが頷く。

 

「わかっているわ。あたしはあたしのために…マスターの…ううん、リッカさんの為に頑張る。…今はまだ、力が及ばなくても。絶対、ハッピーエンドにするわ。」

 

「…それで、いいの。」

 

ナーサリー・ライムさんは消えかけながら私の方を向いた。

 

「…このわたしのマスターはあなたよね?」

 

「…はい」

 

「…このわたしの事を、お願いね。あなただけの、物語(わたし)を。」

 

それに頷くと、ナーサリー・ライムさんは満足したように消滅した。

 

「…お疲れさま、ナーちゃん。」

 

「…ありがとう、リッカさん。正直危なかったわ。」

 

「…そっか。」

 

私がナーちゃんの手を取って、外に出る扉を見た瞬間───

 

「っ!?」

 

殺気。いや、殺気というか───怖気?

 

「マスター、こちらを向け。構えろ。そうしなければ死ぬぞ。」

 

アヴェンジャーさんの余裕のなさそうな声。その声に私とナーちゃんは振り向く。

 

「第四の裁きは終わり、だったはずだ。だが───これは、なんだ。」

 

アヴェンジャーさんの視線が向かっているであろう場所。そこに───赤い、何かが染み出してきていた。

 

「…あれは───」

 

その赤い何かが形を作る。人の形───いや、アレは、まさか───

 

「───“闇霊”?」

 

闇霊。そして、それ以上にあの姿は───

 

「…美雪、さん?」




あ、ちなみにフラワーパークは実在の施設とは関係ありません。

月「あ、ないんだっけ」

美雪「…我が主」

月「どうかした?」

美雪「…闇霊として、喚ばれたみたいです」

月「…それ、大丈夫なのかな」
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