狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
いきなりどうしたの…
『あの…月さん』
『うん?』
『月さんってなんで“暴食”を司るんですか?』
『え…あぁ』
作業中に申し訳ないとも思うものの、月さんに質問していた。
『七虹は“暴食”って聞いて何を思い起こす?』
『え…大食い、ですか?』
『ん、そうだね。ある意味では私もその大食いに当てはまるんだけど…まぁ、それは一旦置いておいて。えーと……“悪食”、って分かる?』
『悪食……ですか?』
悪食……確か、普通の人から見て食べ物じゃないモノを飲食すること。
『私の“暴食”は言ってしまえば“悪食”なんだよね。食らうことができるならそれがどんなものであろうと食らう。よく言えば好き嫌いがない、悪く言えば食に対する感覚が異常…それが私。暴食の一面、悪食を司るもの。』
『……』
『だからって食人とかはしないけどさ。』
その言葉で少しほっとしたのは何故だろう。
side リッカ
疾い。一番最初に思ったことはそれだった。
「……!」
ナーちゃんが間に入って防いでくれなければ、既に私は殺されていた。その、月さんが持つ大鎌によって。
「…死神」
黒い髪に黒い大鎌。そして黒い傷んだフード付きローブ。その見た目は、まるで死神。いつも白を基調とした服装の彼女が、黒い服になるとここまで印象が変わるのか。
「……てぁっ!!」
ナーちゃんがなんとか大鎌を押し返す。それを見て、月さんが後ろに下がる。
「……あ、相変わらず…重い、わね…」
「大丈夫?」
「…平気よ。なんというか…いつもより軽いわ。重いのは変わりないけれど。」
重くてもいつもより軽い…?
「ええと…“心”が感じられない、というか。いつもの月さんに攻撃には強い“心”が籠っているわ。…だけど、この月さんからはその“心”が全く感じられないのよ。」
その言葉にアヴェンジャーさんを見る。
「そうだ、そうだろうとも!アレはおまえ達の知る“創詠 月”ではない!あれは暴食の具現たるものの片割れ、悪食の具現!」
「あ、悪食…?」
「あの娘は食らうことができるならそれがどんなものであろうと食らう!あぁそうさ、お前の魂ですら捕食対象だろうさ!」
私の…魂。
「だが───それだけだ!アレには“本来の魂”がない!いわば“創詠 月”という娘の抜け殻、その肉体と技術のみを複製しただけのマガイモノだ!あぁ、童話よ!お前が言うように心がないのも仕方のないことだろうさ!」
複製…でも、待って。
「聞いたことがある。月さん達は“
「あぁ、そうだ。それが本人に複製されたモノであればな!だが、アレは本人に複製されたモノではない!故に本来の魂がないマガイモノ!創詠 月でありながら創詠 月ではないナニかになっているのさ!」
…あぁ、なるほど。それなら納得できる。
「だからって強いのは変わらないのね……!」
そう言いつつ月さんの攻撃を捌いているナーちゃんは十分強いんだと思う。
「さて、マスターよ。お前はこの悪食を見て何を思う?」
その声で先程と同じように頭痛がし始める。
───え?何を食べてるのかって?塩だよ。
───足りなくないのかって?うーん…まぁ食べられるしさ。
星羅のクラスメイトの一人の男の子。聞けば主食は塩でたまにその辺りの野草を食べていたという。星羅、ニキ共々絶句したっけ。
───あ、じゃああと全部いいの?
───いいの、って……闇鍋よ?食べれるの?
───うん。
───やれやれ、本当に星羅は好き嫌いがないな。
───好き嫌いがないってレベルじゃないと思うわ、これ…
───そうかな?私、これでも好き嫌い多い方なんだけど…
───とてもそうは見えないわ…
───うーん…よく言われるからもう気にしない方がいいのかな…
星羅達との闇鍋の一幕。星羅は闇鍋に何が入っていようと残ったら全部食べきってた。
───ニキ、リッカ。忘れないで。
───え?
───別に私は“食べられる”っていうだけで“食べないともたない”わけじゃないよ。私にとって、食べることよりも重要なのは───
…あぁ、そうだ。星羅は言っていた。私が見つけるべき答えを、あの時に。
───みんなで一緒に食べること。七つの大罪のうちの1つ、“暴食”を具現化したような私がこうやって1度の食事量が少なくてもいられるのは、みんなと一緒に食べることで満たされているからなんだよ。
───満たされている…?
───1人で食べる、って。結構辛いよ?話し相手もいないし、どうしていいか分からなくなるし。…私の場合、食欲を抑えられなくなっちゃうし。
───…もしも、食欲を抑えられなくなっちゃったら、どうなるの?
───うーん…もしかしたら、ニキやリッカを食べちゃうかも?
───え…
───……なんて、冗談だよ。でも、忘れないでほしいな。私は誰かと一緒に食べているからこそこの食欲を抑えられている。暴食を抑えるのは、節制。その近道は、誰かと一緒に食べることなんだよ。大食に関しても悪食に関しても、ね。
「……そう、だったよね。」
星羅の言葉がそのまま今の答えだ。
「どんなに少なくとも、みんなで一緒に食べれば美味しいご飯。…それは味が分からないのにも通じる。」
「…ほう。」
突然、弾かれる音がした。ナーちゃんの剣が弾き飛ばされたようだ。
「っ!」
童子切を抜刀し、ナーちゃんに振り下ろされようとしている鎌を受ける。
「リッカさん……!?」
「……何故、邪魔をするのです。」
月さんが言葉を紡いだ。
「何故、抵抗するのです。この世界に意味はなく、全てはいずれ死に至る運命。私は生きとし生ける魂をただ喰らうのみ。…既に私に普通の味は感じられず、魂を喰らうことだけが私が味を感じる唯一の食事だというのに。」
───この人は。味覚を、おかしくしているのか。いや、そもそもこの人は……月さんなのだろうか?
「おとなしく……死に絶えろ!!人間!」
「……私の知る貴女はそんな人じゃない。」
ナーちゃんが何かをしてくれたのか、私の力が上がったのを感じた。一振りで月さんの鎌を弾く。
「貴女はそんな人じゃないはず。…私の知る貴女は、もっと優しい人だった。」
「うるさい!お前に何が分かる───私の悲しみの何が分かる!!」
「分からないよ」
天文台太刀も抜刀し、月さんの猛攻を捌く。
「分からないけど───貴女は本当の貴女を隠している。貴女は何かを諦めている。」
引き付けて───パリィ。隙を晒したその身体を、天文台太刀で貫く。
「───がふ」
「……私には、貴女がどんなことを思ってここにいるのかなんて分からない。…でも、こんなことをしていたら貴女の娘さんが泣くでしょう?」
「…娘」
「味が分からないのなら取り戻せばいい。」
私が身体をずらすと、水色の砲撃が背後から飛んできた。
「……!それ、は」
砲撃が放たれた方向を見ると、ナーちゃんが機械仕掛けのような杖を構えて立っていた。
「……いいだろう」
そう言って月さんは鎌を下ろした。
「気が変わった。私はお前達の進む道を見ておくとしよう。…行け。暴食の裁きはこれで終わりだ。」
そう言い、月さんが鎌をイビルジョーに振り下ろすと、イビルジョーも消滅した。
「…精々頑張ることだ。生半可な気持ちでは未来を変えることはできないぞ。」
その言葉を最後に、月さんは消えた。
「ふ、まさかあの魂を納得させるとはな。」
「……これで、よかったのかな。」
「構わん。お前は第五の裁きを乗り越えた。アレが納得したならばそれでいいのだ。」
それでいい、のだろうか。…ひとまず、私達は戻ることにした。
「……未知の獣」
「……え?」
「リッカさん?」
声がした、気がした。…それと同時に、強くなる腹痛。…一体…なんだったのだろう。
月「…お母さん、報告。」
ん?
月「ナーサリー・ライム…もとい有栖ヶ藤 七海、覚醒。☆5サーヴァント相当の霊基になった。」
…ん、分かった