狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い   作:Luly

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……星乃、いる?

星乃「ん~?…あ、お母さん。どしたの、急に。」

令呪の復元…お願いできるかな。しばらく前にギル相手に使ったの忘れてたの。

星乃「え?…あー…そうだったっけ。分かった、手を見せて?」

ん。

星乃「……うん。ちょっと待っててね…ええと………できた。」

ありがと。

星乃「……いよいよ、なんだよね。」

……うん。あと書き起こしてるときによく思う辛いこと。

星乃「?」

作品内でキャラクターが歌ってる曲がちょうど歌詞利用許可されてない。

星乃「……あぁ。よくあるらしいね。」

別にいいんだけどね…ちょっと表現に困る。


第236話 第柒ノ罪科、其傲慢罪也・七罪

「殺菌!殺菌!殺菌!総て殺菌、それでも足りなければ摘出します!」

 

メルセデスさんがその拳でスライムを殴り付ける。スライムなため、その攻撃は恐らく通っていない───

 

「お願いします。使者たち───狩人様達の、力に。」

 

その、人形ちゃんの声に。使者───白い亡者のような存在がスライムに纏わりついた。

 

【ギャァァァァ!!なんだ、これは!離れろ!】

 

「今です。狩人様達。」

 

人形ちゃんって…もしかしてキャスター?使者の召喚が能力なのかな……?

 

「ふんっ!」

 

【ギャァァァァ!!痛い、痛い!何をする、私が何をしたというのだ!!】

 

「ハッ!我が弾劾は少女のか細き叫びから生まれ出でたもの!お前達の定義こそ俺が俺足り得る所以!“世に蔓延る理不尽”、“理由無き否定”こそ、俺が復讐すべきモノ!」

 

それは……私の…?

 

【やめろ、やめてくれ!!】

 

「───シッ!!」

 

ナーちゃんが炎の大剣を振り抜く。

 

【アァァ!!熱い、熱い……!】

 

「…やめて、って言われてアナタ達はやめたのかしら?違うでしょう?なら、あたしもやめないわよ。リッカさんが受けた仕打ちの分、きっちり請求して徴収させていただく───わっ!!」

 

【ギャァァァァ!!】

 

【熱い…!冷たい…!痛い!!!】

 

【皆がやってたからやったのよ!私は悪くないわ!】

 

「───そんなの免罪符になるわけないでしょう、馬鹿なのアナタ!?」

 

問答無用で叩き斬るナーちゃん。炎の大剣にしか見えないけれど、その実複数の属性が混ざりあってるみたい。っていうかナーちゃんの“請求して徴収”発言は多分比喩表現なんだと思う。

 

「それにしても多いわね…!ていうか無限に増え続けてるのかしら!?全く、ミザールじゃないんだからそういうのやめてちょうだいよっ!!」

 

無限増殖…か。

 

「…藤丸リッカ。…その、眼鏡は…」

 

「え?」

 

突然、月さんが私に話しかけてきた。眼鏡?

 

「…少し貸してもらってもいいか」

 

「え…あ、はい。」

 

眼鏡をはずし、月さんに預ける。…やっぱり、言葉遣いは荒くなってるけどこの人は優しい。普通だったら、強引に奪うだろうし。

 

「……やっぱり、か。かつて、私が作ったものだな。」

 

「え…?」

 

月さんが…?

 

「ということは───これでかけてみろ。」

 

何かをしたかと思うと、私に眼鏡を突き返してきた。言われるがままに眼鏡をかける。

 

「虚無の獣を見てみろ。」

 

頷いて黒いスライムを見る───

 

「…虚無の獣───“アジ・ダハーカ【不全】”?」

 

そこに、表示されていたもの。

 

 

アジ・ダハーカ【不全】

 

“虚無”と“複製”を理として持つビーストif。あらゆるものを呑み込み、あらゆるものを複製する力を持つ。しかしその力は大部分喪われており、不完全な状態で現界した。この存在が完全体である場合は、藤丸リッカの肉体を覆うように出現し、不定形の防具、不定形の武器として機能する。その瞳は光を返さぬ漆黒と深紫、この世の総てを無用とし、捨て去る非情さを持つ冷たい鉄仮面が常に在る。生まれ出でた地である子宮の上にはこの世総ての悪を呑み込む“闇”の証が刻まれている。自らが喰らい、捨て去り、拒絶した“カタチ”。カタチの無い“無形”こそがこの獣の真の姿。本来の藤丸リッカと人格は変わらず、その優しさや言葉は紛れもない本物。しかし“捨てる”ことを良しとしたそれは強大なる“拒絶”を以てあらゆる呪詛、神秘、物質、概念を呑み込み捨てる災厄。その言葉は強固な心さえ拒絶してしまい、自らの言葉で相手を侵蝕するだろう。“真似る”ことを良しとしたそれは強大なる“複製”を以てあらゆる呪詛、神秘、物質、概念を完璧に複製する災厄。例え喪われたものであろうと、真作と全く同じ複製を引き起こす。その複製は真作と贋作を見分けることが出来ない、一種の創造ともいえるほど。

 

“あらゆる総てを理解し、身に着ける”人格、あらゆる垣根を越えて呑み込む“ネガ・ヴォイド”、真と偽の境界を曖昧にする“ネガ・リプロダクション”。そして預言書───ビースト〇“ワールドクリエイト・キー”の持つ世界を創造する“ネガ・クリエイト”と世界を破壊する“ネガ・ブレイク”という4つのスキルが及ぼす絶対性。それこそが藤丸リッカに潜んでいた大きな危険性であり、柔軟な彼女が獣に堕ち果てていた時の末路。

 

あらゆるものを受け入れ、あらゆるものを拒み、あらゆるものを作り、あらゆるものを壊す。そんな矛盾を体現するようなそれ。本来の性質上ならばどのようなものも阻むことはできず、あらゆる抵抗は無意味と化す最悪の獣。このビーストに魅入られた者は例外なくカタチを喪うことになるだろう。カラダ、ココロ、タマシイ、チカラ───総てにおいて喪わせることのできないものはない。何故ならこの存在自体が光すらも呑み込む人型の“ブラックホール”なのだから。知的生命体はおろか、外宇宙の非生命体のみならず知を持たぬ無機物でさえもこの獣の餌になる。

 

総て喰らう深淵の闇(ブラックホール)”───それがこの獣が持つスキル。一度本来の意味でこの獣が在れば、その世界はこの形無き獣の欲を満たすための餌場でしかない。

 

───しかし。それらは全て剥奪されている。完全な状態ではない時に引きずり出され、現界した故に。今在る獣は、悪を吐き出す物質でしかないのだ。

 

 

「…これ…」

 

目の前の存在の、情報?

 

「…私が作ったその眼鏡には、情報を読み取り、管理する力がある。それを起動しただけだ。」

 

「…ありがとう」

 

「ふん。」

 

倒し方も、分かった。…ちょっと、意外だけど。

 

「殺菌!」

 

「焼けなさいっ!」

 

「クハハハハ!!」

 

色々爆発したり燃えたりしてるけど…まぁ。あれだと、無駄だ。

 

【無駄だ、無駄だ、無駄だ!!私達はそのまま在り続ける!核はその女にあるが故に!】

 

【いくら倒されようが無意味よ…!何故ならヤツに誇りなどないのだから!!傲慢など、七罪などなく、自らの憤怒すらも制御できないのだから!!】

 

憤怒の制御…それと、誇り…か。

 

「いいえ、あるわ。」

 

「え…」

 

「あたしには分かってる。リッカさんは、気がついていなくとも誇りを掲げているわ。」

 

私が分かっていなくとも…?

 

「分からないのなら言ってあげる。リッカさんの掲げた誇りを───」

 

【止めろ!自覚させるな!!それを───】

 

「もう───あなたたち、煩いのよ。少し黙りなさい!!」

 

ナーちゃんが剣を振るうと同時に周囲に雷が走る。

 

「リッカさん!」

 

「?」

 

「歌ってちょうだい!ストリアのその姿は、歌うために在る姿よ!!」

 

ストリアさんの姿。それは、ダイナミックマイク。カラオケとかに、よくあるやつ。

 

《Grand Master.》

 

「あたしが合わせるわ!リッカさんは、自由に歌って!」

 

「───うん」

 

歌う。…今は、それが最適解だ。

 

「お願いできる?」

 

《Yes.》

 

そう言った途端、私を中心に音楽が流れ始める。戦場には、向かないような曲だけど。…でも、私はこの曲を選んだ。

 

「この曲───“メルト”?」

 

“メルト”。supercellさんが作った、初音ミクさんの名曲。絶対戦場には向かない曲なんだけど…でも。

 

 

side 無銘

 

 

「これ…“メルト”か?」

 

六花さんがそう言ったのが聞こえた。

 

「戦場にメルトってどうなんだ?」

 

「3GSV…噓でしょう?」

 

月さんが信じられない、というような声でそう呟いたのが聞こえる。

 

『月さん?』

「月?おい、どうした?」

 

「まさか、こういう曲に適性が高いのは知ってたけどここまでなんて…!!」

 

GSV…どういうことだろう。

 

「おい、聞こえてるか?」

 

「っ、あ、はい!ええと…」

 

「GSV、って何だ?」

 

「ええっと…あぁ、GSVですか。“ギガソングボルテージ”───その名の通り歌の威力です。」

 

「はぁ?」

 

「私達の術式において、“歌”を利用する術式があります。その“歌”によって生成された威力を“歌の威力”───“歌力(かりょく)”といい、それをSVという単位で表すんです。ええと…どう説明したらいいでしょう」

 

「ええと…火力?」

 

「字は“歌”の“力”と書きます。様々な要素で強化されるんですが…曲に適性が高ければ歌力は上がります。」

 

ええと…私も理解できない

 

「すまん、うまく理解できんかった。」

 

「マクロスシリーズの歌の力とかシンフォギアシリーズのフォニックゲインだと思ってください!」

 

「お、おう。…とりあえず、リッカの適性って何なんだ?」

 

「リッカさんの適性は───“()()()()()()()()()()”!その観点で行けばメルトはほぼ最適曲です!!というか、このままいけば───」

 

 

side リッカ

 

 

「…まさか、これほど…」

 

月さんの声が聞こえる。私はしばらくの間歌い続け、同時にナーちゃんの動きが良くなった。…違う、私の歌で発生した“音弾”。それ足場にしてこの広間の中を跳び回ってる。

 

【なんだ!なんだ!!やめろ、歌うな、耳障りだ!!】

 

構わず歌い続ける。ナーちゃんも一緒に。…だけど、流石に声が枯れてくる。

 

「仕方ないな。私もさらに力を貸そう。そのまま歌い続けておけ、藤丸リッカ。…あと、これを持っていけ。」

 

スペルカードみたいなものを受け取ってから言われるがままに歌い続ける。

 

「世界は光で出来ている。血潮は風で、心は音。幾千の世界を越えて不滅。」

 

これ…固有結界の詠唱?

 

「幾千の友情を得て。永遠なる一つの愛を得る。」

 

【何をしている!やめろ、やめろ!!】

 

「担い手と創り手は確かに存在し。時の丘で間を穿つ。」

 

月さんの詠唱は止まらない。

 

「ならば、この生涯は生命に捧げる。」

 

魔力が高まる。宝具の…起動?

 

「この体は───無限の音で出来ていた。」

 

瞬間、私達は虹色の光に包まれて───花畑に、立っていた。

 

「固有結界───第三宝具“無限の音製(アンリミテッドトーンワークス)”。またの名を“歌姫の聖域”。お粗末様。」

 

いや…見事なんだけど

 

【ぐぁぁぁ!!やめろ、やめろ、このような場所を───!!】

 

「私も歌おう。…久しぶりに、起動したことだし。彼女も来たことだし。」

 

彼女達…?と思って視線の先を見る。…緑髪の、ツインテールの女の子……え゛っ!?

 

「───“初音ミク”さん!?」

 

「…こんにちは、リッカちゃん」

 

流石に抑えきれずに歌止まっちゃったけど。ナーちゃんが歌ってくれてたから続いてる。だって、私の前にいるの、間違いなく───

 

「月ちゃんの宝具…歌姫の聖域に惹かれて来ちゃった。私も、歌うよ?大丈夫、私も、この魔法なら、戦えるから。」

 

「歌唱魔法領域全開───跳べ、藤丸リッカ!初音ミク!有栖ヶ藤七海!!」

 

眼鏡がミクさんのプロフィールを読み取った。サーヴァント・シンガー。“歌い手(シンガー)”のサーヴァントだと。

 

「ナーちゃん!」

 

「ええっ!!」

 

「音楽、変えよっか。」

 

《OK, diva.》

 

音楽を切り替えている最中に私はスライムめがけて刀を振りかぶる。

 

「───せぇっ!!」

 

【ぎゃぁぁぁぁ!!なにをする、なにをする!!】

 

ダメージは入ってる。当然だ、ここまで歌っていたことでこのスライムは弱体化してる。書いてあったんだ───“どれだけ捨てようとも、本体である藤丸リッカがいなければ()()()()()()()()()()”って。すなわち───それが、最大の弱点!!

 

「───誇りがない、って言ったね。なら告げよう。」

 

歌なんて、本来なら攻撃力も何もない。…だけど、月さんが使う“歌唱魔法”なら。歌に攻撃を乗せることが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、私の誇りは───

 

「私はリッカ。藤丸リッカ!元マスター番号48番、現登録コード“stf-00000001_mas”!好きなものはサブカルチャー全般とコーディネート!嫌いなものは理不尽と根拠のない否定!座右の銘は“みんな違ってみんないい”!私の、誇りは───」

 

触手のようなものを伸ばしてきたスライムを刀で薙ぐ。

 

───あらゆる在り方を認めること!!根拠がなければ否定しない!その在り方が、私の生きる道が───人類最後のマスターであり、当代の預言書の主であり!“人類世界の未来と存続”を望むことこそが!!私の総てだ!!

 

音楽が流れそうなのを感じる。

 

「あぁ、それでこそ───人間の姿だろうさ。藤丸リッカ。」

 

アヴェンジャーさんのそんな呟きが聞こえた。

 

【【【…!?グァァァァァァア!?】】】

 

突如悶え始める黒いスライム。その瞬間、天井に亀裂のようなものが入る。

 

「接続成功!歌は世界を越える、実証したよ!!」

 

「その声…アル!?」

 

「って、姿見えないと分かりませんよね、月です!」

 

月さん!?

 

「リッカさんが歌い始めたのを観測してからこちらでも複数で歌ってたんです!その歌の力を空間と空間の狭間、この地獄とカルデアを繋ぐ境目に全力でぶつけたんです!!結果、地獄からの歌力とカルデアからの歌力に壁が耐えられず、文字通り“歌が世界を越えてる”んです!!」

 

うわぁ…!?

 

「無茶苦茶やるわね…!?」

 

「それでも長くはもたないので…!星乃!!」

 

『はいはい───その虚無の概念、我らが拒絶を以て断ち切る!!』

 

その声が聞こえたと思うと───強い、圧迫感。

 

『絶技“あらゆる生命を司る瞳”───お粗末様です♪』

 

【ぐぁぁぁぁぁぁ!!!】

 

断末魔に近い叫び声。瞬間、理解した。不死性が、消えてる。増殖性は残っていても、無限に近い耐久力が消えてる。改めて、ぞっとした。星乃さんは今、その力で“虚無”の概念を“抹消”したんだ。

 

「…は、はは…」

 

「ほんと…敵じゃなくてよかったわ。」

 

冷や汗が凄い。それはナーちゃんも同じみたいで、顔が引き攣っていた。…私は、やることが残っている。

 

「…ナーちゃん。」

 

「…?」

 

「ありがと、気がつかせてくれて。」

 

「…別に、あたしはリッカさんが知っていることを言葉にしただけよ。あたしは最初、リッカさんを読んだのだから。」

 

「…うん」

 

私はカードを構える。

 

「スペルカード」

 

決着をつけるためのカード。さっき、月さんに渡されたもの。

 

「───希望」

 

そのスペルの名は───

 

「───“パンドラの箱”!!」

 

希望“パンドラの箱”。パンドラの箱とはギリシャ神話において世界に災いをもたらしたという箱。なら、このスペルに付けるべき符名は“絶望”なのだろう。…でも。パンドラの箱は───

 

【へいへい───呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん…ってねぇ。】

 

「…あなたが、希望?」

 

【へへっ、私を見て希望とはねぇ。…ま。あんなんと比べたら希望でしょうなぁ。】

 

スペルを起動して出てきたのは、私。赤い布を纏った、私。

 

【ったく、あの月の嬢ちゃんも素直じゃねぇよなぁ。少し反転してるとはいえ、根源的な優しさが隠しきれてねぇ。私が出るのにてこずっているっていうのに気づいてスペカを作成し、マスターに託すなんてよ。】

 

え…

 

【ま、任せとけや!スペカに与えられた“希望”の名の通り、アンタに絶望は降り注がせないからよ!この世総ての悪だぁ?はっ、この私を差し置いて何言ってんだか!】

 

「…あなたも、この世総ての悪なんだね。」

 

【───あぁ。アンタに背負ってもらうのは、獣じみた観念と預言書の宿命だけで構わねぇ。】

 

彼女(?)は私に背を向けた。

 

【光はあっち、深淵はこっちだ。選びたい方を選びやがれよ。ま、光を勧めるがな。】

 

そう言って彼女(?)は飛び込んでいった。

 

「…ナーちゃん」

 

「ええ。」

 

「「一緒に帰ろう」」

 

そう言って私とナーちゃんは勢いよく飛び出す。流れる曲は───“廃墟の国のアリス”!未来の曲だなんて関係ない、私達が知っていれば歌える!!っていうかこの場所(監獄塔)ナーちゃん(アリス)がいるってこの曲ピッタリ過ぎない!?

 

【ア、ガァァアァxxあxxっぁっぁぁああ】

 

【おーおー、辛そうだねぇ。ま、そんなもんか。そういやよ、お前さんら───“呪い返し”って知ってっかい?】

 

【■■■■■■!!!?】

 

【他人を呪う代償、本当に理解できてたか?ん?理解できねぇうちから呪うとか馬鹿だろ。死んでも治らねぇかもな?】

 

クックックと笑いながらその形を変えていく。

 

【覚悟しろよな?呪う代償、その身に───そのオリジナルの魂まできっちり返してやるよ!!】

 

その姿は───まるで、龍だ。…気に食わないのかどんどん形を変えてるけど。

 

龍?ガーゴイル?騎士……いや───あれは、アルバトリオン。モンスターサマナーシリーズにおけるシリーズ通しての最終ボス。

 

【この姿の方がいいかねぇ。何せ顕現してまで不定形の身体なんて初めてなもんでよ!どうせやられるなら強そうな姿がいいだろ?そしてこの場は地獄の底。私の独壇場だ!魂に呪いかけるなんざ造作もねぇ!おまけに私を育んだアイツは飛びきり、上物も上物、極上のゆりかごだったもんでよ!私、堪忍袋の緒が切れました!な~んてな!そんじゃま、呪った奴の末路ってもんを味合わせてやろうかぁ!呪い返し───つまりは“呪詛返し”!全員纏めて呪いに堕ちろ!!】

 

【いやだ!いやだ!死にたくない死にたくない死にたくない───!!!】

 

【ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!全部が全部てめぇらの自業自得だろうが!!───逆しまに死ね!!】

 

口調がお兄ちゃんみたいだなぁ、とか思ったけど。呪詛返し───倍以上に呪詛を返すってことだから…うん。合掌。

 

【“偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)”!!】

 

放たれたそれは、アルバトリオンの形を持った彼女───もう彼女でいいや───からどす黒いものが流れ込む。…アレ、呪詛だ。墓王ニトの死の瘴気みたいに放出するんじゃなくて、そのまま流し込んでる。

 

【【【【【ギャァァァァァァァァァァァァ!!!】】】】】

 

【ヒャハハハハハ!!どうよ、呪詛返しのお味はよ!これぞアヴェンジャー究極奥義、運命の中で最初の復讐者として顕れた私の宝具よ!あぁ、心配しなくともてめぇらの末代まで呪ってやるから安心しろよ!精々その代に解呪師が現れるのを祈るんだな!“待て、しかして希望せよ!”ってな!もっとも、てめぇらの呪詛はどうやっても外れねぇくらい強力にかけたがな!人理が戻った時をお楽しみに!きっちりかっちり返された呪詛をデリバリー致します!いやぁ、私ってば優し~!ヒャッハハハハハハ!!】

 

ひとしきり笑ってから私の方を見た。

 

【行けよ、人間サマよぉ!人類最後のマスターサマよ!もう、私に関わるなんて考えるなよ!!まぁ、アンタが望めば力を貸してやらんこともねぇがな!んじゃ、あばよ!!】

 

そう言い残して彼女は消えた。

 

『───ナーちゃん!』

 

『えぇ!』

 

Maximum output.(最大出力)

 

ストリアさんの言葉と共に周囲の歌の力───歌力が上がる。現周囲歌力4TSV(テラソングボルテージ)…思いを込めれば込めるほど、歌が上手ければ上手いほど、歌っている人数が多ければ多いほど歌力は上がるっていう話だけど…いやこれは計算式ぶっ壊れてない?テラって10の12乗…1兆なんだけど。…ともかく

 

『みんな!私に力を貸して!!』

 

その呼びかけに、お母さんの童子切、お兄ちゃん達の天文台太刀、アルテミスさんの弓矢、ニキのペンダント、星羅のヘアアクセの5つが強く輝いた。

 

『ええ、リッカ。』

『行くぞ、リッカ!』

『行くよ~、リッカ!』

『呼吸を合わせて───』

『───全力全開!!』

 

皆の声が、聞こえた。

 

『───うんっ!!』

 

歌いながら手で五芒星紋を切る。

 

どんな夢も壊れて くずかごに集めた

 

最底辺の惨状がこの世界の心臓だ

最底辺の惨状がこの世界の心臓だ

最底辺の惨状がこの世界の心臓だ

 

ノスタルジア環状線 雲の上を半回転

 

格子状に咲く天井を今日も見ている

格子状に咲く天井を今日も見ている

格子状に咲く天井を今日も見ている

 

最後のあたりのフレーズを歌う。どこを歌ってどこを歌わないのか、感覚で全員分かる。

 

疑うことなく箱庭で踊るアリス

 

天空に広がる鳥籠のアリス

 

数えきれぬ感傷と忘却の夜に 澄みきった瞳でボクを見ないでくれ

 

歌っている間にナーちゃんも準備は完了したみたい。

 

カラスが手招く

 

際限ないデフォルメと廃棄のリリック

 

君を飼い殺す鉄格子

 

ここに来ちゃいけない

ここに来ちゃいけない

ここに来ちゃいけない

 

これで、後残るは後奏。だったら、宝具を開放するときだろう。

 

「『『『『『“五星招鳴───』』』』』」

 

幻影、だけど。私の身体を支える、5つの影が現れる。

 

「『『『『『覆地翻天”!!!』』』』』」

 

五星招鳴・覆地翻天(ごせいしょうめい・ふくちほんてん)”。お母さんの()、お兄ちゃんの金、アルテミスさんの水、ニキの()、星羅の火───つまり五行を組み合わせ、一気に放つことでその場を荒らす技。その技がさく裂し、黒いスライムを抉る。

 

【【【【【ァァァァァァ!!!】】】】】

 

「ふふ。あまり、私は争いは好きじゃないし…」

 

ミクさんが言葉を紡ぐ。機械音による、言葉の抑揚の不安定さなんかは、いつも通りだ。

 

「私には、歌うことしかできないけれど。でもね、私の宝具は、“歌”が正体だから。」

 

歌が正体───なら、今のこの状態の場所だと、最高レベルの力を発揮するのかな。

 

「…宝具“セカイとミライを架ける歌と歌い手(プロジェクト・シンガーズ)”───ライブ、スタート!」

 

ミクさんを中心に展開されるスピーカー。あれって…小型の固有結界だ。

 

【【【【【ウァァァァァァァ!!!】】】】】

 

そして、この存在は歌が弱点だから───これはかなり辛いだろう。

 

「クハハハハ!!既に存在を保つことすら危うくなっているな!───我が行くは恩讐の彼方!“虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)”!!」

 

高速移動によって形作られた分身達がスライムを焼き尽くす。

 

「お願いします。ゲールマン様。」

 

「良いだろう。…少ししかできんが、加減はせんぞ?」

 

声の直後、鎌を持った男性がその刃を黒いスライムに突き立てていた。

 

「あとは君たちが頑張るといい。あの人形の事、頼んだぞ。若き狩人よ。」

 

その声と姿は───紛れもなく、“最初の狩人、ゲールマン”。

 

「長い夜は───まだ続くのだろう。終わるときこそ、終わらせたいときこそ。介錯を私に任せるといい。」

 

そう呟いて消えていった。

 

「爆音注意───“オール・トーン・バースト”」

 

月さんのその言葉がと指を鳴らすのがキーになって、周囲にあった音弾が総て爆発する。

 

【【【【【aaaaaaaaaa!!!!】】】】】

 

「すべての毒あるもの、害あるものを絶ち!我が力の限り、人々の幸福を導かん───!!」

 

メルセデスさんの宝具が起動する。それは───メルセデスさん、ううん、あの人の宝具。“傷病者を助ける白衣の天使”という概念が結びついたモノ───

 

「“我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)”!!」

 

“フローレンス・ナイチンゲール”…!それが、あの人の真名!

 

「ナーちゃんっ!!」

 

「ええ───」

 

 

side 七海

 

 

《Noble Phantasm.》

 

ノウブル・ファンタズム。宝具。あたしは今、その宝具を起動する。

 

「…ありがとう、リッカさん。」

 

本当に、あたしは幸せ者だ。こんな読み手(マスター)に恵まれたのだから。本として、それ以上の幸福はあるのだろうか。

 

「越えて越えて虹色草原───白黒マス目の王様ゲーム。走って走って鏡の迷宮───」

 

詠唱を開始する。あの宝具と、詠唱は一緒。

 

「───みじめなウサギはさよならね。物語は永遠に続く。か細い指を一頁目に戻すように───あるいは二巻目を手に取るように。その読み手が、現実を拒み続ける限り───」

 

ここから。

 

「───けれど。読み手が現実を受け入れ、書き手が消失してしまったのならば。その物語の時間は止まる。」

 

「詠唱が…違う?」

 

リッカさんが気がついたみたい。

 

「物語の時間は止まり、物語に生きる者達の時間は止まり───世界は時を忘れ、色を忘れる。」

 

あたしの詠唱が紡がれるごとに世界が変化していくのが感じられる。

 

「物語は永遠の箱庭。さぁ、永遠に踊り続けましょう。永遠に遊び続けましょう?何もかもが止まった空想の世界(ワンダーランド)の中で。永遠に、永遠に───」

 

瞬間。あたしの周囲から、色が消える。

 

「───“時喪いし白と黒の物語(ロスタイム・モノクロストーリア)”」

 

これこそあたしの宝具。白と黒で構成された世界───“時間”が停止した世界。“永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)”みたいに“時を戻す”のではなく、“時を止める”。全力じゃないから完全に止めるまでは至ってないけれど。全力だと“喪失機関・無彩廃墟(ルインズ・ロストワールド)”という名になるのだけど。…それはいいか。

 

「でも、これで十分よ。」

 

あたしは静かにリッカさんから生まれたという獣に近づく。今この世界で普通に動けるのは、あたしだけ。

 

「さようなら。アナタを必要ない、とは言わないけれど。でも、あたしはバッドエンドよりもハッピーエンドの方がいいわ。今は静かに眠りなさいな?」

 

そう告げてから、五行で構成した剣を振るう。

 

「……ざっとこんなものかしら」

 

合計、3,000。それくらいの斬撃を入れて剣を消す───

 

「───アリス!!」

 

その、言葉がこの世界に響いた途端。世界に急に色が戻った。それと同時に抱きついてくるリッカさんの姿───って、ちょっと!?

 

「きゃっ!」

 

驚いて尻餅をついてしまった。

 

「大丈夫だった!?」

 

「…ええ、大丈夫よ。ありがとう、リッカさん。」

 

時喪いし白と黒の物語(ロスタイム・モノクロストーリア)”。あたしの手では解除できない固有結界。それは、マスターの“解除ワード”だけでしか解除することができない。

 

「よかった…!」

 

物語の世界をもう一度動かすのなら。もう一度、物語を手に取ればいい。それだけで、いいの。

 

 

side リッカ

 

 

【【【【【アァァァァァァァァァァァ、ギィィィィィ……】】】】】

 

ナーちゃんの攻撃によるものだろう、黒いスライムには無数の傷跡がついていた。

 

「さぁ、あとはリッカさんの仕事よ。」

 

「…うん!」

 

「───行きなさい!!」

 

ナーちゃんの言葉に押され、私は黒いスライムに駆ける。

 

【た、助けてくれ!!やめてくれ!お父さんを───】

 

「───ふんっ!!」

 

問答無用でお父さんの顔を拳で潰し、ドロドロになったその場所に左手を突っ込み、引きちぎる───Bloodborneの内臓攻撃。素手だけど。

 

【私は助けてくれるでしょう、お母さんだ───】

 

「───はぁっ!!」

 

今度は右手で伸ばしてきた手を弾き、体勢を崩したところに左手で殴りかかり、引きちぎる。───致命の一撃。

 

「───せぇぇぇぇい!!」

 

拾っておいた“仕掛け武器”───ノコギリ鉈で袈裟斬り。

 

【【【【【ギャァァァァァァァァァァァァ!!!】】】】】

 

【…どうでも、いいけれど。…あぁ。歌は、温かい…】

 

 

───VICTORY ACHIEVED

 

 

または、YOU HUNTED

 

 

その、獣と言われた存在は───確かに、そのすべてを断ち切った。

 

 

【…終わり、なんだね?】

 

「…うん。」

 

【…そう。】

 

崩壊が始まる。

 

【…世界。私には、もう関係ないだろうけれど。…頑張って】

 

そう言って、その私の可能性であろう存在は消滅した。

 

「…忘れないよ。」

 

聞こえていたか分からないけれど。その言葉が、周囲に響いた。




今回の歌声一覧

藤丸 リッカの歌声
有栖ヶ藤 七海の歌声
初音ミクの歌声



裁「マスター」

ん。準備は出来てる?

裁「できてる…」

了解、月!

月「開いたよ───どうか、無事で。」
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