狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
月「無知とは罪───よくある言葉ではありますが、少し毛色が違うかも…」
扉を抜けた先は、闇だった。…いや、完全な闇ではなく、発光する透明な足場だけが見える通路。この世のものではない───そんな感覚を覚える。
「……月想海……アリーナ…いいえ、予選会場から本戦会場に至るまでの道に、似てるわ…」
ナーちゃんが呟いた。…アリーナ?
「あぁ、ごめんなさい。分からないわよね。月想海…アリーナとはムーンセル内部に構築された仮想空間内のダンジョンのことよ。月の聖杯戦争において、各マスター達は
「…“までは”、っていうことは…」
「……ええ。あたしは3回戦で負けた。マスターが持つサーヴァントが敗北したのなら、マスターはサーヴァント諸とも
ということは…ありすさんは、その時に完全に“死”を向かえた、ということ。
「…ごめんなさいね、今のマスターの前で過去のマスターの話をするのはいい気分ではないわよね?」
「……ううん、大丈夫。別のマスターさんの話を聞けるの、結構楽しいから。」
「そうかしら?なら、いいのだけど。」
歩き続けていると景色が変わる。足場は変わらず、だけど周囲は虹色に変わっていて───レインボートンネル。そう、言ってもいいようなもの。
「月の聖杯戦争もこんな感じだったの?」
「……分からないわ。あたしは結局、始まりの時しかここに似たような道を見ていないもの。あのときはこんなに綺麗な配色じゃなくて、青を基調とした配色がほとんどだったもの。…エミヤさんなら、分かるかしら。あたし達を倒したのは、エミヤさんだったもの。もちろん、アーチャーの方のよ。」
アーチャーのエミヤさん…カルデアに帰ったら、聞いてみよう。
「それにしても……結構遠くまで来たかしらね。たった7日間、だけど…リッカさんの側にずっといられたのはあたしにとっても貴重な経験だったわ。」
ナーちゃん…
「もちろん、これで終わりなんて言わないわ。あたしはリッカさんにずっと一緒にいることを望まれて、何よりあたし自身がリッカさんと一緒にいたい。これでお別れなんて、そんなこと言わないわよ。あたしはリッカさんのことが好き。さっき言った言葉に、嘘偽りはないわ。重い、と言われるかもしれないけれど…自分の気持ちに、嘘は吐きたくない。」
そう言ってナーちゃんが苦笑いしたと同時に、景色が変わる。透明なのは変わらないものの、壁がある。
「……どんどん月のアリーナに姿形が似ていくわね。あぁ、それと…ごめんなさい。不安にさせたわよね?…大丈夫よ、何も言わずに座に帰るなんてしないわ。」
「……うん。」
「…困ったわ。リッカさんの顔色が暗いの。どうにか元気付け───っ!?」
顔を近づけてきたナーちゃんの唇を奪う。…ナーちゃんみたいに深いのはできないけど。唇を離して、困惑してるナーちゃんに一言。
「…仕返し。」
「っ……やったわね、リッカさん!さてはずっと狙っていたのね!?」
その問いに軽く笑って返す。
「その顔はそうなのね……!もうっ!カルデアに帰ったら覚えていなさい!」
「……うん。」
全てはカルデアに帰ってから。ナーちゃんの想いに本格的に応えるのも、カルデアに帰ってからになるだろう。歩き続けていた私達の前には、ここまでの起伏がない平面ではなく、坂があった。その坂の前で立ち止まる。
「覚悟はいいかしら、リッカさん。この坂を上れば、リッカさんが囚われた監獄塔での最後の戦いが待っているはずよ。」
そう言ってナーちゃんは小さく笑った。
「リッカさんの直感があたしにも引き継がれたのかしら。あたしに直感スキルはないはずなのに、強くそう感じるの。」
私も同じことを思った。そして、私の直感は“死ぬ危険性はない”と告げている。…戦いが待っているというのにおかしい話だと思う。単に相手が弱いのだろうか、私の命を狙っていないのか───いいや、違うだろう。この監獄塔で対峙した支配者達はどれも強敵で、私の命を狙ってきた。例外はないと思う……多分。
「……行こう」
私はそのまま歩を進める。ナーちゃんと手は繋いだままで。
「……どうしたらいいのでしょう。介入するのは野暮、というものですよね…アヴェンジャー。」
「だろうな…こいつらの間にオレ達の介入する余地はないだろうさ。」
そのまま上がっていくと、少し開けた場所に辿り着いた。目の前には───どこかで、見覚えのある扉。どこで、見たのだろう。
「別に、いっか。」
ここまで来たのなら、進まないといけない。そのまま扉を押し開ける。
「───」
その先は───巨大な、海。…ううん、満天の夜空の中に浮かんだ巨大な戦闘フィールド。壁はないように見え、星々が輝き、床は半透明の円板。恐らく、壁はあるけれど無色透明。天井はないように見えるが、恐らくはかなりの高さの壁なため、見えないだけなのだろう。
「相手はどこにいる?姿が見えないが。」
アヴェンジャーさんの言葉に周囲を見渡す。…確かに、私たち以外の姿はない───
「…あれは、何かしら」
ナーちゃんが示した方向。…扉。見つめていると、緩やかに開き始めた。
「
足音。それと共に、扉の先から声がする。
「
落ち着いた声、というべきだろう。…ボイスチェンジャーのようなものを使っているのか、声に少し違和感がある。そして、やっと───その存在は私達の前に姿を現した。
「そして、
赤いフーテッドケープを羽織った…女性?ボイスチェンジャーか何かのせいか、性別が読み取れない。月さんの眼鏡も情報を読み取ることができないみたい。もう1人、緑髪の女性もいるけど…ダメ、こっちも読み取れない。
「おめでとう、人類最後のマスター…藤丸 リッカ。貴女は七つの地獄を巡り、うち砕き、先を生きる資格を得た。これより先、この監獄塔からカルデアに帰るまでの間に貴女が死ぬことはないと断言しましょう。」
静か。とても、静か。これから戦闘が始まるかもしれない、というのに静かすぎる。その静かさが、余計に恐怖を煽る。
「あなたは…」
「…その疑問に答える前に一つだけ問う」
問い?
「自らの命と世界以外で、汝にとって今一番大切なものは何か。」
私の…一番大切なもの?
「…問いを変えよう。汝にとって、今一番大切な人物は誰か。」
それは───
「ナーちゃん。」
「あ…」
「未来はどうか分からないけど、今の私にとって一番大切な人はここにいる有栖ヶ藤 七海ちゃんだよ。」
「…そうか。」
…この人は、一体何をしたいのだろう。
「なら、もう一つ問う。───大切なものを守るために、力を欲するか?」
「ちか…ら?」
それは…
「力は欲する。…だけど、それは与えられるものじゃない。」
「…」
「与えられるものではなく、身につけるもの。与えられたのだとしても、それの使い方を理解して更なる使い方を模索する。…それが、私の“力”に対する考え方。」
「……そうか。それでこそ、だ。」
そう言ってその人は口元に手をかけた。
「…マスター。許可を。」
その、声は。酷く、聞き覚えのある女性の声だった。それと───
「マス…ター?」
背後にいる緑髪の女性に目を向ける。
「うん。分かったよ。…令呪を以て命じます。」
その女性が私達に向けて見せた左手の甲。そこに、赤い文様があった。───令呪。サーヴァントのマスターである証。形は…三日月、円、五芒星を組み合わせた形。
「“真名の解放を許可します”。」
一画。円が、消える。その言葉に、赤いフーテッドケープを羽織っていた女性が手に力を入れたのが分かった。
「続けて令呪によって命じます。」
“あのマスターを殺せ”。かつて、フランスでジャルタさんが指示した言葉。それが来ると、思っていた。
「───“後悔の無いように戦ってください”。」
二画目。三日月が、消えた。それを最後に、緑髪の女性は左手を下した。
「…了解、マスター。」
そう言い、フーテッドケープを羽織っていた女性は───そのフーテッドケープを、脱いだ。
「───」
「え───」
「何…!?」
「これは…」
全員が全員、別の反応をする。だって、その、女性の素顔は───
「───わた、し…?」
私そのものだったのだから。
「…そう。貴女は私。私は貴女。私は貴女にあり得る可能性。」
彼女は私と同じ声でそう告げた。
「初めまして、藤丸 リッカ。私は───藤丸 リッカ。此処までの貴女の旅路、ずっと見てきた。マスターと一緒に、この世界の外側から。」
この世界の…外側!?
「マスターから月さんが現れたということは聞いてる。…恐らく、その月さんは私と一緒に旅をした月さんだと思う。」
「え…」
「私と一緒に旅をしたことで、訪れた結末に絶望し、反転した。…多分。私自身も、深いところまでは分からないから。」
そう言う彼女の表情は、凄く…辛そう、だった。後悔している、というか。なんというか。
「…ナーサリー・ライム。私もかつて、この監獄塔を貴女と一緒に廻った。…貴女は、知らないだろうけれど。…私にとって、この場所の観測は懐かしい記憶を思い起こさせた。その時の感情は…今、藤丸 リッカが感じている感情と同じ。」
「…あなたも、リッカさんなのね。」
「そうであってそうではない。私は確かに藤丸 リッカ。けれど、そこにいる藤丸 リッカではない。辿る道筋は同じだとしても。…ナーサリー・ライム…いいや、有栖ヶ藤 七海。貴女の愛する人はそこにいる藤丸 リッカただ一人だ。」
…第三者から愛する人、って言われるのもなんだか恥ずかしい。…けど、その表情はやっぱり辛そうだった。
「…ねぇ、聞かせてくれる?あなたは、どうしてそんなに辛そうなの?どうしてそんなに───苦しそうなのかしら?」
それは、ナーちゃんも思ったみたいで。彼女に対して質問を投げていた。
「…私には、貴女を“ナーちゃん”と呼ぶ資格はないから。…貴女は、そこにいる藤丸 リッカだけの存在だから。」
「……そう。貴女にとってのあたしは、一体どうなったの?」
「………」
彼女は目を伏せた。…まさか。
「……死んだの?」
「……」
答えない。しばらく経って、微かに口を開いた。
「マスターが…召喚を試してくれてはいるけれど。…召喚、出来てない。私にとってのナーちゃんは、もしかしたら…」
「……そう、なのね。」
「…私の目的はただ一つ。」
殺気。
「私と同じ未来を起こさせないこと。私と同じ未来にさせないこと。…そのために、私はここに来た。」
彼女が手に取ったのは───預言書。ゲームと同じように、本の中から剣を抜き出した。
「武器を執れ、藤丸 リッカ。」
「…」
「…させないわよ。リッカさんはあたしが守る。リッカさんは殺させないわ!」
ナーちゃんがそう言って私の前に出る。…そういえば、エミヤさんは別世界の聖杯戦争において過去の自分を殺そうとしていたという。…それと、重ねたのだと思う。そのナーちゃんの行動に、何かに気がついたのか納得したような素振りを見せた。
「心配しなくても大丈夫。…既に、この場において藤丸 リッカが死ぬ可能性はない。」
「え…?」
「藤丸 リッカは既に規定された七つの試練を突破している。つまりは紛れもない勝者。勝者が消えるというのもおかしな話だ。」
そう言って剣先を床に叩きつける。
「故に。既に、この戦闘において藤丸 リッカが私に敗北したとしても、魂の死などはなく、肉体の死などもなく、カルデアに帰還するように設定されている。少しではあるが、理を弄ることはできるのでね。」
「死なない…?そう、なの?」
「こういうことについて私は嘘は言わない。…そう、決めている。」
嘘はなさそう。
「…ナーちゃん。此処は、私に任せてくれる?」
「え…」
「戦わないといけない気がするの。…他ならぬ、私が。」
どうしてかは分からない。…だけど、戦わなくちゃいけない。…そんな気がする。
「…お願い。」
「……わかったわ。約束、守ってよね。」
「ん。」
ナーちゃんが後ろに下がると同時に私の前に表示されるものがあった。
| System Message デュエル申請が行われました。 受諾しますか? 対戦者名:鍵のルーラー ok cancel |
|---|
システムウインドウ。
「…」
相手は預言書。なら───
「預言書、お願い」
こちらも預言書を用いるべきだろう。
「起動せよ、預言書。その力、ただの人間を英霊に変える神秘を与えたまえ───宝具“
私が告げた途端、預言書が光を放つ。私の身体が、変質していく気がする。
「…“
彼女がそう言ったのが聞こえた。ふと見渡すと、ナーちゃんたちの姿がなくなっていた。
「あぁ、他の人員は隔離しておいたよ。…戦闘に巻き込まれるのも面倒だし」
「…それがいいかもしれない。」
どこかで見てくれているのだろう。なら、いい。私は預言書を開いて───“あの武器”をタップする。
「…!」
預言書に手を入れ、武器を引き抜く。数日前、やっと修復が終わったみたいでこれもできるようになったみたい。…ただ、出力不足なのか私を疑似的にとはいえサーヴァントにしないと動かせないみたいだけど。
「…」
引き抜き終わり、その剣を高々と掲げる。
「“ジェネシス”」
彼女の言葉に頷く。アヴァロンコード、チュートリアル戦闘の武器───“ジェネシス”。今の私には、これしか扱えないみたいだ。
「…それの扱い方、少しではあるものの教えよう。…そのためにも、私はここにいるのだから。」
「…お願い、します。」
『頑張って、リッカさん!』
ナーちゃんの念話に、頷きで返す。いつの間にかあったカウントダウンらしきものは12まで下がっている。
私が好きなBGMが流れ始めたのと、視界上にHPバーが伸びたのを見て彼女と同時にクスリと笑い。
「「…勝負」」
同時に同じ言葉を言って───
START!!!
視界上に火花が散ったのと、音楽の“ドンッ”と一気に質が変化する場所と同時。私達は地を蹴り、激突した。
月「夢の泉…それも夢の泉デラックス版ってことはデデデ戦の…」
弓「何故これを選んだのやら…」
月「お母さんが好きだからだと思いますよ、この曲。」