狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
弓「そうさな。…さて、マスター達を迎える準備でもするか。」
月「そうですね。」
「───お見事。」
私から少し離れた位置にいた彼女は、私にそう告げた。
「よく私を越えた。戦いの中で私を吸収し、自らを強化した。おめでとう、藤丸リッカ。貴女はこの先の困難に立ち向かうための知識と技術を得た。」
その言葉に苦笑する。───その時。
「───リッカさん!」
「あ、ナーちゃ───んむっ!?」
抱きつかれると同時に唇を奪われる。さっきよりも、深い…っ!
「……」
「───ぷはっ!はぁ、はぁ……もう、心配したのよ!」
「はぁ……はぁ………」
彼女の前で息が続かなくなるレベルまでキスされた……もしかして、これがナーちゃんの本気……?…あ、やばい。腰が抜けてる…
「あ……っと……ちょっと、やりすぎた…かしら?」
「…懐かしいな、ナーちゃんの本気の長時間ディープキス。しばらくしたら私も慣れたけど、慣れない間は貴女みたいに腰が抜けてたな…」
彼女が懐かしそうにそう呟いた。
「じきに慣れるよ、貴女も。…貴女の未来の姿である私が言うんだから、間違いない…と思う」
「…」
最初の深いキスから、思っていたことがある。息が苦しくなるとしても、腰が抜けるとしても。…ナーちゃんとなら、嫌じゃなかった。中学生の頃とかに迫られたときは拒否反応みたいなの起こしてたけど、今、ナーちゃんとなら全く拒否反応を起こさない。…嫌だとも、思わない。…あぁ、私は…無意識にではあるだろうけれど、ナーちゃんのことが本当に好きなのかもしれない。
「あの…えっと。」
「……リカって呼んで。私も貴女も“リッカ”だと面倒だから。」
「あ、じゃあ…リカ、さん。」
「何?」
「リカさんの世界において、リカさんとリカさんにとってのナーちゃんって最終的にどんな関係だったんですか?…記憶から、死に別れたのは分かりましたけど。」
末期の記憶から伝わってきた感情は、謝罪と、後悔。それと…ナーちゃんに対する強い想いだった。
「私と、ナーちゃんか。…恋人同士だったよ。女の子同士だけど付き合ってた。他のみんなが総じて認める、百合カップル。一緒のベッドで寝て、目覚めは多種多様な起こし方で……まぁ、周囲からはたまに“バカップル”って言われたけどさ。でも、私達には関係なかったっていうか。恋は盲目っていうけど、本当にそうかもって思った。さすがに所構わず、っていうのは…ほんと序盤の頃くらいかなぁ…確かにそういう時期があったのも本当のことだし。ただ、キスしてる時に部屋に誰か入ってくるとかはあったよ。……清姫さんとか。」
清姫さん……かぁ…
「最終的にどんな関係、って言われたら……うーん…“結婚を前提にお付き合いしている恋人同士”、とか?お兄ちゃんやお母さんは私達の交際認めてくれてるから、特に問題はないし。」
「でも……女の子同士だと…」
「子供の件は大丈夫だ、って当時のお兄ちゃん言ってたよ?同性同士でも子供は作れるから、って。」
どうやって…
「……そういえば、あたしがここに来るとき、ドクターが女性になってたわね…」
ドクターが…女性に?……あ。そういえば少し前に性転換関係の魔術を開発してるとかって聞いた気もする。…まさか、ね…
「……ね、ねぇ。リッカさん。ナーサリーさん。」
「「…?」」
「ええっと…貴女達のキス、もう一度見せてもらえる?…今は少しでも、懐かしい気分に浸りたいの。」
その要望に私とナーちゃんは顔を見合わせる。
「あ、嫌だったら断ってくれていいんだよ…?」
「……リッカさん。貴女はどうしたいかしら?」
「ええと……よ、よろしくお願いします…?」
「なんで敬語なのよ……」
何故か敬語になった、としか。もう色々と不味いのかもだけど…ナーちゃんとならいつでもキスはしたいし。
「…まぁ、いいわ。あたしもリッカさんとならいつでもキスはしたいもの。ええと…リッカさん、貴女からお願いできるかしら?さっきはあたしからだったものね。」
「私、深いのできないけど…いいの?」
「いいわよ。深いキスのあたしに、浅いキスのリッカさん。ちょうど釣り合いはとれていると思うわ。…まぁ、それで決めているわけでもないし、ただの偶然だけれど。」
……深いキス、覚えよう。いつか、ナーちゃんの意識を私のキスで落としてみせる。
「……なんだか…よく分からない決意をさせてしまった気がするわ、あたし。」
「あ、あはは……」
彼女───リカさんも乾いた笑い声を上げた。私と同じ、ということは彼女も同じ決意をしたのだと思う。結果は……ううん、聞きたくない。私は私、リカさんはリカさん。この世界での私の未来は、私だけのものだから。リカさんが見せてくれたのは“道筋”と“記憶”。私がこれから先、どんな困難にぶつかるか。その結果、リカさんはどうなったのか、だから。
「……それじゃあ、お願いするわ。」
ナーちゃんが目を閉じる。私はナーちゃんの唇に自分の唇をそっと重ねる。…そして、ナーちゃんの身体を私に引き寄せる。…今の私の経験だと、これくらいが限界。
「…ふぁぁ。……勢いに任せなかったり急じゃなかったりするとこんなに恥ずかしいのね…」
「……うん、私もそう思う。」
ナーちゃんはその顔を真っ赤にしていた。…私も、顔が熱い。多分、顔が真っ赤になってるのだろう。
「……ありがとね、2人とも。無茶なお願い聞いてもらって。」
「…これで、満足だったかしら?」
「…うん。」
リカさん…表情はまだ、暗いけど。それでも少し、明るくなった気がする。
「そう。…今度は、貴女自身がするべきね。ただ見ているだけより、実際にしている方がいいわ。」
「うん。…そうする。ナーちゃんを召喚できたら、その時は……目一杯、ナーちゃんに甘えよう。」
「…そうしてくれた方が、そのあたしも嬉しいと思うわ。」
ナーちゃんがそう言った途端、周りの景色が変化した。星のある夜空じゃなくて…夜明け、みたいな。
「……世界の崩壊が近いんだね」
「え……?」
「元々ここは、シャトー・ディフにはない領域。私達が構成した、ただの戦闘フィールド。でも、その場所との接続を維持するために楔が必要だったから、シャトー・ディフの補強もしてた。」
「ふむ…それが理由か、道が現れるのが遅かったのは。」
アヴェンジャーさんがそう呟いた。
「そう。それが、予定されていた戦闘が終了した今。この世界は崩壊する。…って、壮大に言ってるけど別に世界とその世界の中にいる人が消滅するわけじゃないから安心してね。世界は消滅し、中にいた人々はそれぞれ元いた場所に帰るだけだから。ナーサリーさんは、ちゃんとカルデアに帰るよ。」
それを聞いて少しホッとした。
「……あ、そうそう。これは餞別」
リカさんがそう言って、私に何かを投げてきた。慌てて受けとる───
「ガム?」
それはガムに見えた。球体のガムを、数十個詰めたボトル。赤と青で2種類、それぞれ色分けされてボトルに詰め込まれている。
「これは…?」
「青いのは“暴走制御補助剤”。今の貴女だと、まだ暴走を完全に制御することはできないから。」
───!
「赤いのは“暴走誘発補助剤”。簡単にいえば好きなときに暴走できる。暴走のスイッチが難しいのは知ってるでしょ?そのスイッチを無視して暴走を起動させるもの。」
「……いいん、ですか…?」
「別にいいけど…ていうか、それを渡すのも目的だったから。早いうちから暴走を制御する感覚をつかんでおいた方がいいから。」
「……」
暴走の制御。それは、憤怒の制御とも言える気はするけど…
「ええとね…私達の“暴走”っていうのは簡単な話“死ぬ気モード”なんだよ。あれって自我っていうより本能で動いてるでしょ?そうじゃなくて、自我をもって動ける“
……なんとなく分かったような分からないような。ということは…憤怒の制御とは違う、っていうことか…
「まぁ、後は慣れかな…あれこれ教えられるより自分で試した方が早い気がする。…あ、そうそう注意点。暴走誘発補助剤の方は1日1回まで。まぁ、少なめにはしてあるけど…ちゃんと守ってね。」
その言葉に頷くと、リカさんも満足そうに頷いた。
「じゃあ、私はそろそろ帰るね。マスター!」
「はいはい…ゲートを開くよ。」
緑髪の女性がそう言うと同時に先程リカさん達が出てきた扉が出現した。
「じゃあね。…頑張ってね、この世界の私。」
「……あの!3つ、聞かせてください!」
「3つ…?」
リカさんが扉の奥に入る前に、声をかける。リカさんは立ち止まって私に振り向いてくれた。
「ええっと……さっき、見ました。貴女の、記憶を。貴女のいた世界は…滅亡、したんですよね?」
「……」
首肯。思い出すのは辛いだろうけど、どうしても聞きたかったことがある。
「あの世界で、貴女が謝っているとき。貴女は、凄く辛そうな表情をしていました。……貴女は一体、何を“視た”んですか?」
「…何を“視た”、か……」
そう呟き、リカさんは目を伏せた。
「世界が、みんなが燃えるところを。…ナーちゃんが、燃えて…指輪を嵌めた左手を大事そうに包み込みながら焼けていく姿を……視て、しまった。」
指輪……?
「私は…ずっと一緒にいる、って約束したのに……その約束を、果たせなかった……」
リカさんが左の手袋を外すと、人差し指に青色の指輪───服装変化用の指輪。中指に紫色の指輪───翻訳の指輪。小指に白色の指輪───通信用の指輪。そして…
「……!」
「……ねぇ、リッカさん。…どうか貴女は、私みたいな結末にしないでね。…私みたいに、死んでもずっと後悔することになるから。」
その言葉にぎこちなく頷く。
「…他の質問は?」
今の話は終わり、というように次の質問を聞いてきた。
「えっと…ここに入る前、扉を潜りました。…その扉が、どこか見覚えのある扉で。…ご存知、ですか?」
「……マスター?」
「ゲートイメージオブジェクトはランダムにしたから何が出たんだろ……ちょっと待って」
緑髪の女性がウインドウを弄ると、目の前に私が見た扉が現れた。
「これかな。……うん?あれ、これって…」
「これ、“プリズムのトビラ”…?」
プリズムのトビラ……?
「覚えてない?一番最初に3DSで出たプリパラのゲームで、こんなのあったよ。」
「……あっ!?」
そういえばそうだ…!プレイヤーが現実世界からプリズムショーの世界に転移する時に通った扉!それがこんな扉だった!!
「ええっと…マスター、本来の性質は確か……」
「“プリティーシリーズの世界に誘う”、だね。もっとも、イメージでしかないこれにそんな力ないけど…」
それを聞いて少し安心。流石に今これからあの世界に行くって考えるとちょっと。デートって考えればいいのかもしれないけど…うん、あの世界結構ドロドロしてなかったっけ?人間関係とか陰謀とかで。…で、私の勘が正しければ高確率でそれに巻き込まれるから…それと、カルデアの補助がないと色々危険、っていう警告が鳴り響いている。…おかしいな。本来平和なはずなんだけどな、あの世界。
「…扉に関してはこんな感じかな。他には?」
「あ…えっと」
少し、ナーちゃんの前で言っていいかも悩む。
「…?あぁ、リッカさん。」
「ナーちゃん?」
「別にあたしは、リッカさんが別の誰かと関わっていても気にしないわよ?これから先、多くの人達と関わるのがリッカさんなのだから、そこを縛ってしまったら何もできないわ。」
「…いい、の?」
「ええ。ただ、あたしがリッカさんの一番であればいい。流石に、リッカさんの行動すべてを縛る気なんてないわよ。」
「…わかった。」
その言葉を聞いてリカさんに向き合う。
「えっと、リカさん。」
「…?」
「───また、会えますか?」
私の言葉に、彼女は驚いたような表情をした。
「…私と、会いたいの?また?」
頷く。すると、リカさんは少し悩み始めた。
「……マスター。」
「いいんじゃない?…貴女の意思を尊重するよ、私は。貴女が思うとおりの事をすればいい。」
「……いい、んでしょうか…」
「ただの放任主義っていうだけかもだけどね~」
確かに、そうかもしれない。緑髪の女性は、ここまで特に干渉してきてないし。
「…じゃあ」
リカさんが私の方を向く。
「いつか。…時が来たら、私はもう一度あなたの前に姿を現す。…それで、いいですか、マスター。」
「はいはい…その時もゲート作るしかないね、そうなると。大丈夫、問題ない。」
うん、フラグに聞こえたのは気のせいだよね?
「…リッカさんとリカさん、同じ表情してるわ…」
ナーちゃんがそう呟く。…同じことを思ったのかな。
「さ…終わりかな?夜明け…夢の終わりももうすぐ。私達はこれで帰るし、もう少し待ってればあなた達も帰る。…それじゃ、頑張って。」
そういい、リカさんは足早に扉の奥に消えていった。
「…それでは、失礼します。」
緑髪の女性もその姿を扉の奥に消し、やがてその扉も消えた。
「…さて。これでやっと地獄も終わりか。長かったな、存外に。」
「あ…アヴェンジャーさん」
「そら、道が出来上がるぞ。」
その言葉に見ると、虹色の階段が出来上がり始めていた。
「…リッカさん?マスターとして、何か言うことがあるんじゃなくて?」
「あ、うん…そうだね」
私はメルセデスさん…じゃなくて、ナイチンゲールさんに向き合う。
「ナイチンゲールさん。…私達に、正しい治療と清潔の仕方を教えてください。…カルデアは、魔術系統での治療が主ですから、物理的な治療は…どうしても。お願い…できますか?」
「…わかりました。私に任せてください。…貴女のカルデアの話は聞いていました。私も興味がありますから。」
私のカルデア、か…私の、というかこの世界のカルデアなんだろうけど。
「ありがとうございます。」
「…手を」
「…?」
「手を、出してくださいませんか?」
言われたとおりに手を差し出すと、ナイチンゲールさんに握られる。
「…退院、おめでとうございます。私は、これを退院の証としているのです。…細やかな、楽しみです。戦時中は、あまり完治する人はいないものですから。」
「……」
フローレンス・ナイチンゲール…イギリスの看護婦であり、社会起業家であり、統計学者であり、看護教育学者。近代看護教育の母ともいわれる人。…クリミアの天使…か。本当に、その名の通りなのかもしれない。
「…さて、アヴェンジャーと人形の彼女にも何か言うのでしょう?私だけでは不公平でしょうからね。」
「あ…うん、ありがとうございます。」
ナイチンゲールさんはそう言って私の手を離した。…次は…アヴェンジャーさん、かな。
「では、オレに言葉を告げろ。…それで、縁は十分だ。」
「…うん。ええっと…」
……そういえば、私男の人にどう告げればいいかよく分かってない。
「ええっと……」
「どうした。」
「…いいや。アヴェンジャーさん。」
「む?」
「…これからの私を支えてくれますか?」
「「「───」」」
…あ、人形ちゃん以外硬直した。な、なんかまずかった…?
「狩人様。…私には、人の感情というものは分かりませんが。その言葉は、恐らく…」
「え…?」
「…リッカよ」
アヴェンジャーさん?
「その言葉、受け取ろう。…だが」
「あっ…!」
アヴェンジャーさんに身体を引き寄せられる。
「そう易々と他の奴にその言葉を言うな。…オレや、七海がそいつを殺しかねん。」
「え…あ、うん…?」
…なんか、まずいこと言った…?
「さて、最後だな。」
「うん───人形ちゃん!」
「はい。」
人形ちゃんに告げる言葉は決めていた。
「───夢と現実を繋ぐ、カルデアのアイドルになってください!」
「アイドル……ですか?」
その聞き返しに頷く。踊る、ってなると人形ちゃんだと難しいかもだけど。
「……分かりました。カルデアの夢と現実を、繋ぎましょう。アイドルは…できるか、わかりませんが。」
「お願いします!」
「はい。狩人様。」
「───さて。全て終わったな。さぁ、行こうではないか。」
アヴェンジャーさんの言葉に、ナーちゃんと手を繋ぐ。
「跳ぶわよ、リッカさん!」
「うん!」
既にフィールドは崩壊し始めており、太陽もその姿を現し始めている。真に、目覚めと言えるだろう。そして、空間を支配する重力もまた、既にほとんど消えている。
「リッカ!あの言葉を叫ぶぞ!合図を!」
「うん!せーのっ!」
「「「「「待て、しかして希望せよ!」」」」」
跳躍の勢いで進んだ階段の先、その白い光───それに触れた途端、私の意識は落ちた。
side 月
「状況終了…!リッカさんの魂とナーサリー・ライムさんが帰還してきます!!」
私の言葉に管制室が再び沸く。
「一時はどうなることかと思ったぁ…!でも、なんで……?」
そのロマンさんの言葉に、私は首を傾げることしかできない。…お母さんは、何をするかよく分からないし。
「マシュさん。迎えてあげてください、貴女の先輩を。」
〈……はい。私も、迎えます。先輩を…〉
リッカさんと同じように、カプセルの中にいるマシュさんがそう言った。
「さて、それでは覚醒を……む?」
「……?」
ギルガメッシュさんの言葉が止まったことが気になりリッカさんの入っているカプセルに目を向ける。───同時に、カプセル内の液体が黒に染まっていく。
「わわっ!?リッカちゃん!?」
〈先…輩?〉
「なんだ、この魔力…!」
「……聖杯の泥、か。」
強い魔力。属性系統は…闇?いや、違う…
〈カプセル解放〉
カプセルのシステム音声が告げると同時に、カプセルが開く。
『マス…ター…?』
七虹が不安げに呟いたのが聞こえた。幻覚…では、ない。黒い服を纏ったリッカさんが、そこに立っていた。
「……深淵を喰らい尽くしたか」
ギルガメッシュさんのその言葉の意味はよくわからなかったものの、1つ確かなことがある。…リッカさんはリッカさんだ。途轍もない悪を抱えたのだとしても、それだけは変わらない…!
「…そういえば、みんなには自己紹介らしい自己紹介ってしてなかったよね。だから、今ここで。」
目を開けたリッカさんはそう言って私達を見つめる。
「私の名前は藤丸リッカ。好きなものはサブカルチャー全般とコーディネート。嫌いなものは理不尽と根拠のない否定。座右の銘は───」
「みんな違ってみんないい、であったな。…全く、心配をかけおって。まぁ、よいか。」
「───うん。私…みんなのいる場所に、ただいま帰りました。」
そう言って、彼女は微笑んだ。
〈先輩…!ご無事で…!〉
「ただいま、マシュ。…肉体改造中、だっけ?」
〈はい…本当に、良かった…〉
「聞きたかったら聞かせてあげるね。私が何をしてきたのか。」
〈…はい!〉
マシュさんにも笑顔が戻った。…ずっと、心配そうな表情だったから、よかった。
「リ、リッカ…!?」
「ただいま、マリー。」
「おかえりなさい───っていうか、あなた大丈夫なの!?」
「え…?」
「魔力よ!何よその色、凄く禍々しいわよ!?大丈夫!?精神とかやられてない!?」
「…特に問題はないけど。」
「…魔術師何千、何万人分よ……そんなに魔力をため込んで破裂しない貴女の身体、貴女の精神と魂…どれだけ規格外なのよ…」
「……」
首を傾げて自分の服を見つめるリッカさん。
「多分ずっと一緒だったからなのかな。今までも片鱗は見せてたんだと思うよ。…ほら、魔力が多いって言ってたでしょ?」
「…そういえば、そうね…」
「驚いた…リッカちゃんの中に循環する魔力は聖杯の泥と同じだぞ!?君、こんなの使ってどうともないのかい!?」
「…?問題ないよ。…っていうか、ドクターが女の子になってるって本当の事だったんだね。」
「六花!早くボクのこと元の姿に戻してよ!?」
「無茶言うな!!時限解除式なんだよ、我慢してくれ!!」
「あはは…」
リッカさんが苦笑した。…結局、フォウさんが言ってた“あの野郎”っていうのは干渉してきてない。
「…それにしてもお疲れさま、リッカちゃん。よく、偽のソロモンの企みを阻止してくれた。…流石のボクも、君から人類悪が生まれてそれを倒すと君にそんな力が宿るなんて予想外だったけど。」
「…うん。」
こちらからも観測できていた。人類悪が生まれ、それをリッカさんが倒したのを。
「…ギル」
「…よくぞ戻った。今はよく休むがいい。」
「えっと…そうじゃなくて」
「…なんだ?」
「……月さんも、ちょっと。」
「はい?」
私も呼ばれたことで、ギルガメッシュさんに近づく。
「……あとで、話が。…人理焼却の、後について。」
「…何?」
「え…」
人理焼却の、後…?そんなことを思っていると、管制室の扉が開いた。
「ただいま帰ったわ。」
「あ…ナーちゃん。」
「ふ───苦言も何もない。マスターめの救出、ご苦労であった。」
「…お礼を言うのはこっちの方よ。」
「…何?」
「リッカさん。」
「…うん。」
リッカさんとナーサリーさんがギルガメッシュさんに向き合う。
「「このカルデアを作り上げてくれて、ありがとう。英雄王ギルガメッシュ。」」
「───」
……何か、思うことがあったのかな。
「…ふ。臣下の礼は受け取るが筋か。素直に受け取っておくとしよう。」
「ふふ。…それと、これは私から。」
「…む?」
ナーサリーさんがリッカさんの方を向いた。リッカさんは既に、マシュさんのカプセルに近づいて話しかけていた。
「マシュ。今度、盾の使い方について教えてくれる?…私じゃ、まだうまく扱えないんだよね。」
〈あ…はい!喜んで……でも、いいんですか?私で…〉
「うん。」
〈分かりました、精一杯教えますね!〉
その光景を見て、ナーサリーさんが小さく笑った。
「…あたしは、このカルデアに来て…大切な人と出会えたわ。…だから、ありがとう。」
「…ふっ。」
「…ねぇ、マシュさん?」
ナーサリーさんは私達の方を離れ、マシュさんのカプセルに近づいた。
〈ナーサリー、さん…?〉
「…負けないわよ?どっちが射止めるか、勝負はもう始まっているのだから!」
〈…!私も、負けません…!〉
…なんとなく、理解。リッカさんは既にマシュさんのカプセルから離れてるから、聞こえてなかったみたい。
「ともかく、体調は大丈夫なのかしら、リッカ。まだ特異点は見つからないとはいえど、寝たきりだった───」
「───シッ!!」
童子切を召喚し、刀を振るう───ソードスキルにも、身体が付いていっている。
「…技術に関しては、問題ないかな。」
「…ほんと、どこまで行くつもりなんだ、君は…」
「…わかんない」
最後に、リッカさんは六花さんに顔を向けた。
「…お帰り、リッカ」
「…ただいま。お兄…ちゃ…ん…」
「…!?おい、リッカ!?」
近づくと同時に六花さんに倒れこむ。
「はぁ……はぁ…」
「…!リッカの身体が熱い…!?体温簡易計測………39℃オーバー!?おい、ロマン!医務室の準備!!」
「あ、あぁ!!今準備してくる!!」
慌ただしくロマンさんが出て行った。
「え…!新しいサーヴァントの召喚が確認されたですって!?」
「あぁくそ、次から次へと…!」
「六花さん、あたしが連れて行くわ。あなたボロボロすぎてもう動くのすら辛いでしょう?」
「…!すまねぇ、頼む…!俺は…!」
「六花はしばらく休みなさい、召喚の方には私が立ち会うわ!」
少し最後は慌ただしくなったものの。…そうして、この事件は終わりを迎えた。…ちなみに、リッカさんは次の日には復活してた。
ただいまー
裁「ただいま戻りました。」
月「おかえりなさい、お母さん。それと…リッカさん。」
裁「……」
弓「どうした、ルーラー…いや、リカよ。」
裁「…いや、今思ったんだけど。…私、結構無茶な要求したな…って。」
弓「?」
裁「ほら、キスの件。…思考、おかしくなってたかな。」
…ん?ねぇ、リッカさん。
裁「マスター?」
カルデアに戻った後、貴女が倒れてるみたいだけど…あれは?
裁「…あぁ。あれね。あれはただの反動だよ。私が今まで切り捨ててきた“病”が一気に押し寄せてきただけ。全てが解放されたことで、切り捨てていた…っていうか、押し潰していた病が高熱となって発生してるだけ。確か…当時40.3℃まで上がったかな?」
うわぁ…
裁「…あの時は、ナーちゃんがずっと私の手を握ってくれてたな…」
……
裁「…ごめん、なんか変な雰囲気にして。」
ううん、大丈夫。…召喚したいね、彼女の事。
裁「…うん」