狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
裁「私の時も同じタイミングだったな…」
「お呼び出しします。指定するサーヴァント、及びカルデア全職員、全直通契約サーヴァントは、至急第一会議室にお集まりください。繰り返します…」
第一会議室の放送設備を使って放送をかける。かけ終わったあと、受話器を元の位置に置いてドクターの方を向く。
「これでいいの?ドクター。」
「あぁ、ありがとう。……」
「…?」
何かを言いたげに私の事を見つめてる。
「……リッカちゃん。君に、聞きたいことがある。」
「え…何…?」
「……君は、人理修復という大役を担っている。ボク達は、君を…君とそのサーヴァント達を補助することしかできない。…その……怖く、ないのかい?」
「え…?」
「前線に立つことさ。前線に立つということは、常に傷つく可能性があるということ。そして、誰かを傷つける可能性があるということだ。それは言い換えれば、自分が死ぬ可能性もあるし、相手を殺す可能性だってあるということ。…君は、それが怖くないのかい?」
「ちょっとロマ…」
マリーの言葉を手で制す。私の言いたいことが分かったのか、マリーが口を噤んだ。それを確認してから、ドクターの目を直視する。…真剣な目。ドクターは遊び半分ではなく、本気で私に問いかけている。
「……君に、君一人に人理修復の実地行動のマスターという重要な役割を背負わせているボク達が言うことでもないだろうけど。……君の言葉で、君の答えを。聞かせてほしいんだ、ラストマスター・藤丸リッカ。」
……私の答え…か。
「……怖いよ」
「……!」
「自分が死ぬかもしれないのも、誰かを殺してしまうかもしれないのも…それに、誰かが死んだのを見るのだって怖い。…だって、私は元々ただの女子高生だったんだもの。」
「あ……」
「普通の、っていうと語弊がありそうだけどね。今までが今までだし。」
魔術師のお兄ちゃんがいて、ホムンクルスの友達がいて、中国拳法に詳しい神父さんやシスターさん達がいて。これだけでも、十分普通じゃないと思う。
「なら───」
「確かに、前線に出るのは怖い。……だけどね、ドクター。私は私の知らないところで、親しい誰かがこの世からいなくなっちゃうことの方がもっと怖いの。」
「───!」
「寿命とかでどうしようもなかったのかもしれない。それがその人の天命だったのかもしれない。でも、できることなら。私はその人の最後に、その人の傍で寄り添ってあげたい。…もしくは…今はまだ、力不足だと思うけど。私と親しい人を、傍で護りたいの。」
「リッカちゃん……」
「……どうか、恐怖を少しでも和らげることができるように。それが、私が前線に立つ理由。」
「…そう、なのか……」
「……ドクター。」
私はさっきから思ってたことを告げる。
「どうして、こんな質問を?」
「…はは……いや、恐怖を乗り越えるヒントにでもなれば、と思ったんだけど……そっか……心の強さ、か……」
そう言ってドクターは力なく笑った。
「……ドクター。」
「なんだい?」
「……私ね、思うんだ。」
「?」
「“恐怖”を乗り越える第一段階って、“一歩踏み出すこと”なんじゃないかな。」
「一歩……踏み出す?」
「うん。……こう例えちゃ、多分ダメなんだろうけど。綺麗に分かりやすい例だからこれで紹介するね?」
「うん?うん。」
「えっと……投身自殺、ってあるでしょ?あの……高いところから飛び降りるとかする自殺。」
「……なんか、話が一気に重くなったね?」
「う……ほんとごめん、それは私も分かってるの……!」
でも、今の状態じゃこれくらいしか思い付かない…!
「と、ともかく!自殺するにしても、やっぱり躊躇うこととかあると思うの!」
「う、うん…」
「崖っぷちで、一歩踏み出したら───どうなるか、分かるよね?」
「「「「「……」」」」」
全員が想像したのか、微妙な表情になった。
「例えがすっごい最悪の部類だと思うけどそれと同じなの!“一歩踏み出す”ことをしなければ“結果が起こらない”!」
「……あぁ、なるほど……」
「勇気よりも、まず第一に“一歩踏み出すこと”!それが“恐怖”を乗り越える第一歩なんだと私は思う!」
息切れしながら言い終える。…なんで、私こんなに疲れてるんだろ…
「……恐怖を乗り越えるためにまず必要なのは“一歩踏み出すこと”、か…」
ドクターが少し悩んでから顔を上げた。
「分かった。ありがとう、リッカちゃん。…ボクも、一歩…踏み出してみるよ。」
ドクターがそう言ったと同時に、第一会議室の扉が開いた。全員が揃うのは時間がかかると思うし、もう少し待とうかな。
side ミラ
扉が閉まったあと、何人いるかを確認する。……うん。
「全員揃ったよ、リッカさん。」
「ん、ありがとう、ミラちゃん。」
私が人間ではないと明かした今でも、リッカさんは今までと同じように接してくれている。…私の周りは、優しい人たちばかり。本当に、そう思う。
「───はい。ミドラーシュのキャスター、私の能力にてこの場は公平となりました。」
「ありがとう、ミドラーシュのキャスターさん。」
「いえいえ~♪」
確かに何かの結界が張られている感覚はあった。カルデア内ではあまりそういうの気にしすぎるのもあれだろうから、あまり気にしないようにしてる。正直カルデアって色々な結界が張られてるから気にしてても、っていうのもある。
「ええと……今回みんなを呼んだのは、実際のところ私じゃないの。私じゃなくて、ドクター。」
ロマンさん…?
「ほら、ドクター。」
「あ、あぁ……こほん。…ええと…今回みんなを呼んだのは他でもない。魔術王───ソロモンについてだ。」
その言葉に私達の間に緊張が走る。
「グランドキャスター・ソロモン。それがロンドンで君達の前に最後に立ち塞がった存在が名乗った名称───間違いないね?」
その言葉に頷く。存在そのものは違っても、あの時に…ルーツが動きだすより前に名乗られた名はそれだ。
「そもそも“ソロモン”とは何者か。紀元前における古代イスラエルの王にして、魔術の始まりとなった人物であり、彼の死と同時に神秘の衰退が加速したとされている。…ミラちゃん、一応聞くけど君のいた世界にソロモンという人物は…」
「いないよ。別世界には伝わってるらしいけど、私達の世界じゃまだ文献も発見されてない。」
「…そ、そっか……なんか、ちょっと…悲しい……かな?」
「…?」
「いや、こっちの世界だとソロモンといえば有名で、色々な創作作品にも使われてるからさ。ゲームの世界出身かもしれない君達でも知ってるかと思ったんだけど…」
あぁ……なるほど
「“モンスターサマナー”…だったか。僕達ハンターではなく、ミラ殿のようなサマナーを中心としたゲームシリーズだな。ミラ殿の使う技とも酷似している。しかし、モンスターサマナーにソロモンがいるならば、ミラ殿の世界にソロモンに伝承があってもおかしくはないはずだが…」
リューネさんがそう言ってリッカさんを見る。
「……いないよ。現シリーズ最新作、“モンスターサマナー4G”ですら、ソロモンの伝承は出てきてない。」
「そっかぁ……」
あ、目に見えて落ち込んでる…
「……って、そんなことはいいんだ。ギルからもう話されている通り、あのロンドンに顕現したソロモンは本物のソロモンじゃない。ただし、ある意味においては本物のソロモンと言える。」
「ええと……」
「どういう、ことですにゃ……?」
ルーパスさんとスピリスさんがよく分からないというように声をあげる。
「その身体…肉体は本物のソロモンのものなんだ。中にいる魂は別物でね。“ソロモン”は既に死んでいて、英霊にもなっている。」
「……?」
「あーっと……どう説明したらいいものか。ソロモンは既に死に至り、英霊となっている。でも、あれは英霊ソロモンではない……繰り返しみたいになってるけど、本当にそうなんだよなぁ……ええと…魔神柱、っていただろう?あれは以前ミラちゃんが見抜いたように“術式”で、本来の魔神というのはボクらよりも高次元な存在…寿命なんてないんだ。それが───」
「……意志持つ術式がソロモンの死体を乗っ取り、動き始めた?」
私の言葉にロマンさんが静かに頷く。
「……あぁ、ミラちゃんの言う通りだ。……少し長くなるけど聞いてほしい。ソロモンのことについて。」
そこからロマンさんは話し始めた。
まず、ソロモンという男は“人でなし”であったこと。
ソロモンは神に捧げられた子であること。
喜怒哀楽を持たず、全てのことを“だから?”で終わらせる。
神の代行者に心など必要ないと、そういうように作られた存在。
ある時、枕元に神が現れる。
神は告げた。“望むものを与える”と。
ソロモンは答えた。“知恵を望む”と。
神は与えた。“天使と悪魔を使役する10の指輪”を。
神は告げた。“使命を果たせ”と。
こうして、心なき代行者が生まれた───
「……同じだ」
「…ミラちゃん?」
リッカさんが不思議そうに私を見つめる。ロマンさんにも聞こえていたのだろう、ロマンさんもこちらを見つめていた。
「……同じだ。“古龍の巫女”と。」
「……ミラちゃん、と?」
その問いに私は首を横に振る。
「……正確に言えば初代“古龍の巫女”に限定される。今は面倒だから、また後で話すよ。」
「……分かった。ドクター、続けてほしい。」
「あ、あぁ…」
魔神達はソロモンに意見した。“人間は不完全だ”と。“この世界に悲しみが満ちている”と。“貴女は何も思わないのか”と。
ソロモンは答えた。“それがどうした”と。
ソロモンに自由意思はなかった。
ただ与えられたことをこなす、機械のようなものだった。
最低限の精神であったが故に。最低限の人格であったが故に。
ソロモンが指輪を使用したのはたった一度。自らの意志で何かをしたのは、指輪を返しただけ。
それだけで、ソロモンは眠りについた。
しかし、魔神達は眠らなかった。
「はは…使い魔とのコミュニケーション不足がこうなるとはね……」
そう言ってロマンさんはため息をついた。
「自由意思がもう少し許されてれば、なぁ…こんなことにもならなかったんだろうけど。」
「ロマン。そのソロモンと魔神の話、ぴったり当てはまる言葉があるぞ。」
「うん?」
「“間が悪かった”。ただそれだけだ。ソロモンは自由意思を持たず、心を持たない。魔神は自由意思を持ち、心を持つ。そら、そんなもの、通じ合えるわけがあるまい?」
「───あぁ。なるほど。」
「……聞いていいかい、ドクター・ロマン。何故、君はそんなにソロモンと魔神柱に詳しい?」
リューネさんがそう聞いた。
「あぁ……それか。」
「確かに……どうして、ロマン?」
「…簡単な話さ。実際に体験してきたことなんだし。」
「「「「「……え?」」」」」
ほとんどの人が驚いた後、今度は私の方を向いた。
「ねぇ、ミラちゃん。君はあのソロモンを見て、何か変だとは思わなかったかい?」
私がどう思ったか、か……
「……あぁ、そういえば。右手中指の指輪だけ違った気がする。」
そういえば、なんかおかしかった。色が変、というか…
「……あれってもしかして偽物?」
そう問うと、ロマンさんは深く頷いた。
「そう、あのグランドキャスターの指輪は不完全だ。たった1つ、本物の指輪を見失っている。そして───」
ロマンさんが手袋を外す───そこにあった、指輪。ソロモンが持っていたものと同じもの。
「───その最後の1つは、ここにある。」
「「「「「……」」」」」
「……改めて名乗ろう、偽のソロモンに立ち向かう者達よ。英雄王に“財”と呼ばれ、龍の王妃に守護の対象とされ───また、祖なるものにも認められている者達に、その報奨として。」
「……っ」
光を放つ。眩しさで目を覆う。光が収まった頃には───
「我が名は───ううん、こんな名乗り方は似合わないね。ボクの名は“ソロモン”───魔術王ソロモン。臆病者でどうしようもない、ただ恐怖に怯えているだけの名前負け野郎さ。」
そう、告げきった。
「……ドクターが……ソロモン……」
「……まさか。私でも知らない、カルデア召喚例第一号とは───」
「あぁ。マリスビリーが召喚し、冬木の聖杯戦争で共に戦ったサーヴァント。それがボク、ソロモンなんだ。」
「「「「「───」」」」」
驚愕、なんだろうけど。全員が止まっていた。
「はは。…聞こえてる、かな?」
「え、えぇ……」
「…ちょっと疲れたし、少し休憩にしようか。数人整理しきれてないみたいだし。」
それがいいかもしれない。
裁「……マスター、“一歩踏み出す”の例が“投身自殺”はないでしょ、さすがに…いや私も過去に同じ説明したけどマスターなら改変できたでしょ?」
私もそれしか浮かばなかったんだよ……!ほんっっとごめん!!
弓「しかし一歩踏み出した結果が明確に現れる、とするとぴったりではあるな……話題が重すぎるが。」
だぁぁぁぁ!!悪かったって!!
殺「話題が重い。せめてもう少し軽いものにするがいい…」
……