狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い   作:Luly

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眠い……

香月〈大丈夫ー?〉

いきなり意識飛ぶかも…

香月〈それって危険じゃないのかなぁ…〉


第305話 夢に見たモノ

「………」

 

拳がブウン、と空を切る。そんな私の拳をじっと見つめる───夢に見たことがある。

 

「…せぃっ!」

 

アメリカの特異点にいたときの夢。あの夢で、私は誰かと対峙していた。黒い服の男の人…だったと思う。霧がかったような姿だったけど、刃物みたいなものを持っていたのは覚えてる。

 

「……」

 

不思議とその人への恐怖はなくて、なんというか……“対戦”みたいな感覚だったのも覚えてる。

 

「……だめだ」

 

それでも、分かってしまう。…今の私じゃ、その人には勝てない。夢の中の私で、五分……もしくは不利。

 

「……」

 

いつかきっと、私の夢は現実になるんだと思う。…あのマシュがいない夢も、きっと。でも、護るべき後輩がいなくなって、取り戻すべき人理もなくなって……どうして私は戦い続けているのだろう。

 

「フォーウ」

 

「?フォウ君?」

 

思考の海からフォウ君の声で現実に引き戻される。フォウ君はシミュレーションルームの扉のところに座っていた。

 

「フォウ」

 

「……?」

 

小さく鳴き、姿を消す。私がそれを見て首を傾げていると、再度姿を現した。

 

「フォーウ」

 

「…ついてこい、ってこと?」

 

再度姿を消すフォウ君にそんな意思を感じた。

 

「…フォウ」

 

「…みたいだね……ごめん、先にシャワー浴びさせてもらってもいい?」

 

フォウ君が頷くのを確認して、私は併設されているシャワー室に入った。

 

 

「ここ?」

 

「フォウ」

 

髪の毛を乾かしてからフォウ君に着いていって───私は1つの扉の前にたどり着いた。…なんだっけ、ここ。カルデア内ってもう迷宮っぽくなってるような感じもあるから全部は記憶できてなかったりする。……行く場所間違えるとアステリオスさんが作り出した迷宮(ラビリンス)にも繋がるし。お兄ちゃんも言ってたけどカルデアって無限迷宮化してるんだよね。一応出る方法はあるらしいけど。

 

「…失礼しまーす…」

 

一応声をかけてから部屋の中に入る。…実験室というかなんというか……色々機材がある。

 

「フォーウフォウ」

 

「こっちなんだね?…あまり先には行かないでね?私が迷っちゃう…」

 

「フォーウ…」

 

機材が多くてまるで迷宮。…アステリオスさんの迷宮(ラビリンス)とまたちょっと違うけど。

 

「フー……フォウッ!」

 

「あ、ちょっと!?……行っちゃった。」

 

少し進んだところでフォウ君がどこかに走って行っちゃった。……うーん

 

「……あっちかな」

 

直感に従って進む。…しかないと思うけど……あ。

 

「あ、マリー!」

 

「………」

 

「……マリー?」

 

なんか…怖い表情してる…?

 

「…あぁ、ごめんなさい。少し、考え事していたわ。」

 

「…考え込みすぎて思い詰めすぎるのもダメだよ?」

 

「リッカもよ、それは…あなたも最近よく考え込んでるじゃない。」

 

「あはは……バレた?」

 

「分かりやすいもの。」

 

そうかなぁ……っと

 

「あ……マシュ寝てるんだ。」

 

…そっか、今思い出したけどここ集中治療室だ。

 

「えぇ、今寝たところよ。…」

 

「……また怖い顔になってるよ。もしかして怒ってる?それとも何か心配事?」

 

「そんな、怒ってないわ。…あぁ、そういえばジュリィさんに助けられてから怒ってないかしら。叫ぶことがそもそも少なくなったというか。」

 

「初めて会った時とはまるで違う印象を受けるからね。」

 

「それはあなたもよ。…お互い、いい変化をしたのかしらね。」

 

「そう?…私自身、自覚はないけど。」

 

そう言うと、マリーが笑った。

 

「表情に色が出てるのよ。…凄く抽象的で、分からないかもだけれど。喜怒哀楽がはっきりと表現されてる…って言えばいいのかしら?」

 

「言われてみれば……」

 

特に“怒”に関してはあの時まで理解してなかっ(忘却しきって)たから抜け落ちてたと思うし……

 

「変化に気がつけるほど一緒にいたんだね……友達だし、当然といえば当然かな。」

 

「友達……ね。そうね、私とリッカとマシュは友達…だものね。」

 

「あれ、そういえばお兄ちゃんは友達じゃないの?」

 

「六花は友達というかライバルというか……嫌いではないし、信頼している部分は確かにあるのよ?…でも、友達とは何か違う気がするのよね……」

 

お兄ちゃんってよく分からないもんね……

 

「……まぁ、いっか。5つも一緒に死線潜り抜けてきて、友達と言えない訳じゃないと思うけど……それが戦友という形でも、ね。」

 

「そうね……でも六花を友達と認めるのは本能的に拒否してるのよね……」

 

「うーん…なんでだろうね。」

 

分からない、と思いながらマシュの方を見る。

 

「…マシュも一生懸命前線に立ってくれてるし。怖いはずなのに…自分を奮い立たせて、私を護ってくれてる。」

 

「…気づいていたのね。マシュの心に。」

 

「…まぁ。マシュはただ1人の後輩だから。観察する時間はたっぷりあったからね。…可愛いのもあるけど。」

 

「そう…って、中学校で後輩はいなかったの?」

 

「残念ながら呼ばれなかったね。高校一年生だったから後輩はいないし。」

 

「……そ、そう……リッカ」

 

「ん?」

 

声の調子が落ちた気がして、マリーの方を見る。

 

「…貴女に知っておいて欲しいことがあります。…マシュの出生と、生い立ちについて。私は貴女に伝えなくてはなりません。」

 

「……」

 

「本当は…伝えるのが怖くて。今になっても、それを伝えるのを躊躇っているけれど……それでも、話さないといけない。私にはそれを伝える義務があって、貴女はそれを知る義務があるのだから。」

 

「…うん」

 

……なんとなく、夢で見た気がする。…いつ見た夢だったか忘れたけど。何を言ってるか聞こえない夢が多いから、この話を聞くのは初めてかな。

 

「どんな所感を抱くかは貴女の自由です。…軽蔑、侮蔑されても文句は言えない事柄。絶交されることも覚悟で、何故ここまでの処置をマシュに施さなければいけないのかを伝えます。」

 

「…わかった。静かに聞くよ。」

 

「ありがとう。…マシュはこのカルデア……“アニムスフィア”の元研究所───今はもう、ギルや六花に総ての権限を譲渡するつもりだけれど。その研究所にて行われた非人道的実験において生み出された子供達の一人。“英霊融合実験”の唯一の成功例なのよ。」

 

 

side out

 

 

………亜英霊(デミ・サーヴァント)。貴女も知っているでしょうけれど、人間と英霊が融合した存在。見方を変えれば、貴女はもこのデミ・サーヴァントに該当するのかしら?

 

カルデアは恒久的な戦力として、サーヴァントを宿した人間───言い方を変えれば“サーヴァントを人間にする”ことを考え付いたの。

 

そうして行われたのが“英霊融合実験”───“デミサーヴァント計画”。魔術回路の優秀な人間の遺伝子を人工授精で交配させ、優秀な苗床を人為的に生み出し、彼らに核となる英霊の遺品を移植するという非人道的なものよ。

 

ホムンクルス、といっても構わないかしら。…でも、ホムンクルスとは違う。彼女達はれっきとした人間なのよ。

 

…少し脱線しかけたわね。…1999年、マシュはデザインベビーとして生み出され、14年という時間を無菌室の中で過ごしてきた。そして、その無菌室以外では生きられない程……カルデアの中以外では生きられない程、彼女の身体は脆かった。今でこそ、彼女の内に居た英霊の力もあって特異点内で活動できてはいるけれど。…それと、このカプセルの影響もあるわね。

 

───2009年、マシュが10歳の頃。融合術式が行われたわ。当然だけど、そんな無茶が易々と通るはずもないわ。唯一の成功例であるマシュでさえ、失敗だと思われていたの。

 

 

…“どうして今になって成功したの”、って冬木の時に言ってたもんね。

 

 

覚えてたのね……そう、総て失敗だと記録はされていた…だけど、ジュリィさんのおかげで冬木から帰れた後、ロマニに聞いたりマリスビリー…私の父の書斎なんかを調べていたりしたら、マシュだけは成功していたのが判明したの。マシュの内にいる英霊()が目覚めなかっただけで、成功はしていた。

 

調べていく内に彼がどんな英霊かも判明しているわ。…その彼の性格から考えても、こんな悪魔の所業を許すはずがないわ。基盤となる人間の人格を塗り潰して顕現しろ、だなんて。

 

───その身をもってマシュは証明した。英霊融合実験のおぞましさ、その過ちを。

 

彼らは英霊ではない…らしいけれど。ハンターのみんなにも聞いたわ。“この世界で生きるのなら世界をどう変えたいか”、と。“帰れない可能性があるとしてもこの世界は今ここに生きている人たちのもので今の私達が染めていいものじゃない”、という答えが帰ってきたわ。他の英霊達にも、無銘さんにも聞いたけど同じような返答だったの。…別世界の人間は、別時代の人間は“この世界は今を生きる人間のもの”という共通認識があるみたい。

 

預言書の精霊達曰く、この世界は近いうちに滅びる運命だそうだけれど…それでも、認識は変わらないのだと思うわ。だからこそ、人間との融合は拒む。

 

…そんなこんなで、実験が頓挫した1年後───父、マリスビリーが所長室で亡くなった。死因は自殺らしいけれど。それを引き継いで私が所長となった。

 

何もかもが嫌だったわね……父、マリスビリーが外道と知って、何も分からずに実験を引き継いで……あの頃はマシュに殺されるという予測が強すぎてヒステリーを起こしていたかしら。

 

“所長”という圧に耐えるのが辛いのもあったし、非人道的な実験を行った人物の娘だもの、親の罪は子の罪…みたいなものでそんな悪夢に取り憑かれていたのね。

 

“トイレでマシュに惨たらしく殺されるの!当然だわ!”が口癖だったかしら。…でも、私は彼女を完全に無視することは出来なかった。“居なかった”ことにすることはどうしても出来なかったのよ。

 

 

それは……マリーが元々……生来の性質というか。根本的な部分から世話焼きさんみたいなところがあるとかじゃないのかな?

 

 

褒めてるのかしら、それ?…まぁ、悪い気分はしないけれど。…ともかく、どんな形であれ生み出された命ならそれ相応の扱いをしてあげないといけない。…それだけは本能的に理解できたみたいね。人間として生み出されたのだから、人間として。

 

ともかく、マシュには自由を与えたの。とはいってもカルデア内のみだけだし、ロマニに説得されての事だったけれど。

 

正直怖かったし、殺されると思ったのは本当よ。それでも目を背けることは出来なかった。

 

……先にも言った通り、マシュの身体は脆かった。外の環境に適応できないのよ。…色々と手を打って今はもう違うけれど。

 

活動限界……寿命も18年と短命で、今のグランドオーダーにも耐えられたかどうかだった。

 

今は……71年、って言ってたわね。細胞劣化の改善、肉体強化……その他諸々。まだまだ短い寿命ではあるけれど、唐突にマシュが寿命で死に至ることはないわ。

 

そのマスター適性からもAチームの首席として配属し、カルデアスの火が消えた事から国連にかけあってマスター達の特異点攻略の許可を得て。…レフによって管制室が爆破され、私が死んでレイシフトしたりリッカ以外の47人が冷凍睡眠したり…マシュはデミ・サーヴァントとなったり。

 

色々あったけれど……とりあえず、これが貴女の後輩、マシュ・キリエライトの真実。貴女の最初のサーヴァントの始まりよ。

 

 

 

side リッカ

 

 

「批判、罵倒は覚悟しているわ。父の所業だという言い訳は許されない。…ロマニは、父から言われるまでこの事を知らなかったみたいだからほぼ無実よ。だからこそ、責任は私に。」

 

………

 

「絶交も、するというのなら…受け入れます。それだけのことを、私の一族はしてしまったのだから。それでも……1つだけ。1つだけ、お願いがあります。…どうかマシュのことを、お願いします。彼女は貴女を何よりも大切に思っています。…それだけは紛れもなく確かなことで、覆すことの出来ない事実だから。…この先も、彼女にとって良きマスターでいてください。」

 

……そこで、マリーの言葉は途切れた。

 

「………はぁ」

 

「っ…」

 

私のため息に身体を震わせるマリーの顔に手で触れる。

 

「…頑張ったね、って年下が言うことじゃないと思うけど。…泣いてることに、気づいてないでしょ?」

 

「…え……?」

 

制服のポケットから取り出したハンカチでマリーの顔を伝う涙を拭う。

 

「わ、私………いつから?」

 

「融合実験が失敗したとされていた、っていう話くらいから、ずっと。…本当に、頑張ったね……“理解しきれない”、“怖い”という重圧に押し潰されそうになりながら、よくここまで。…偉いよ、マリーは。」

 

「……で、でも、私はマシュの……いいえ、マシュを含めたマシュの兄弟姉妹の命を弄んだ一族なのよ!?」

 

「それはマリーがしたかったことじゃないでしょ?」

 

「でも、マシュを真っ当な父母の営みから産まれさせなかった元凶の娘な───」

 

「───それを、私に言う?私やお兄ちゃんみたいに真っ当な営みから真っ当な場所で産まれたとしても、幸せだとは限らないよ。」

 

「───っ」

 

言葉に詰まったマリーに小さく笑う。

 

「私ね、思うんだ。生き物にとって大切なのは“どう産まれたか”じゃない。“どう育つか”……産まれ落ちたあとにどんな道を辿ったか、だと思うんだ。マリーはさ、“聖徳太子”って知ってる?」

 

「聖徳太子……確か、日本の歴史上に存在する重要人物よね?ええと……記憶が確かなら10人の言っていることを同時に聞き分けるとか…」

 

「うん、その人。古事記に記される名前は“上宮之厩戸豊聡耳命(かみつみやのうまやとのとよとみみのみこと)”…あの人って、伝承上では厩舎前で産まれたんだよ?それ故に名付けられたのが“厩戸皇子(うまやどのおうじ)”。…彼は今、私が一瞬で思い浮かんだ例だけど、どんな場所で産まれたが真っ当じゃない人は英霊にもいくらでもいると思うし……神と人、人と動物……そんな勾配の英霊だっているはず。」

 

「……」

 

「エルキドゥさんとか土人形だし。…だから、出生の方法も全く関係ないと思うんだ。生き物の生き方、その生き物が英雄とされるような道かどうか……そんなのは、出生とはまるで無関係。真っ当に生きるには関係ないと思う。…まぁ、その辺りでいちゃもんみたいなの付けられるのがこの世界だっていうのはありそうだけど。」

 

その辺り面倒くさそうだもんねー、って苦笑いしながらぼやく。

 

「…でも、そんないちゃもんも気にしないならどんな産まれ方でも真っ当に生きられると思うんだ。マシュが特殊な生まれでも今を生きているように、マリーが責任に押し潰されそうになりながらも今を生きているように。この世界は、“生きる”ことに対して平等に権利を与えている。いつ死に至るかは運命次第、って感じではあるけど。“生きる”ことに悪いことなんて無いでしょ?」

 

「で、でも……!私は“無能な所長”だって!“人でなし”だって…!皆がそう責めた!みんな、みんな…!だから、私は嫌われる前に嫌われようって!マシュを貴女に任せようって…!」

 

「はは……甘く見ないでよね、マリー。」

 

マリーの目を真っ直ぐ見つめて言葉を繋ぐ。

 

「私、嫌ってほしいなんて言われても嫌うつもり無いから。仕草で嫌われたいって思ってるのなんて、明確に分かる。…マリーを嫌って、マシュを任されるなんてごめんだよ。マリーを好いてマシュを任されたいね。そもそも…マリーが頑張ってきたのなんてみんな分かってる。責めるつもりなんてないよ───その当時は多分、間が悪かったんだ。」

 

「間が…悪い。」

 

「うん───よく頑張ったね。辛かったね。これからは私もマシュも、お兄ちゃんもルナセリアさんも……他の職員の皆も、マリーを支えるから。支え、支えられての関係で未来を進んでいこう。…辛いことを、1人で抱え込まないで。」

 

ハンカチを下ろしてそのまま抱きつく。

 

「───ありがとう。ここまで生きてくれて。産まれてきて、私達と出会ってくれてありがとう。」

 

「───っ…わ、わた、しは……」

 

「ん?」

 

「わたしは……産まれて良かったの…?この世界にいて、良かったの……!?」

 

「……」

 

「あなたの友達で……よかったの……!?貴女と出会って…!」

 

「うん、よかったんだよ。…総ては運命で、偶然で……必然だった奇跡に幸せを感じながら未来を生きよう。」

 

「ふ、ふぁぁぁぁ!!」

 

号泣に変わったマリーを、静かに撫でながらその場に留まっていた。




大晦日ですので結構急ピッチで書き起こし仕上げました。いつもの時間外なのはそのせいです。

裁「よいお年を~。」


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