狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
裁「ホント早く寝たらどうなの…?」
寝れない……
「……私って医者じゃないんだけど……いていいものなのかな……」
『いいんじゃない?…でも、ここの宗教の教え……それに染まるのはやめてよね。キミ達は何にも染まっていないからこそ大きな価値があるんだ。…別にボクはそれだけが目的というわけじゃないけど、キミ達の魅力が半減…どころか7割減はする気がする。』
え、えぇ……
『フォウさんの意見に同意かな。宗教の教えって大体がロクなものじゃないし。』
その同意を示した
『あれ、意外だね。月神の神官にあたるルナが宗教の教えを否定するなんて。てっきりボクの言葉を否定すると思ってたんだけど。』
『神や霊魂、妖怪や魔物は信じても宗教に関しては信じませんから。大体が人が創り、人の都合や人の罪状で成立しているようなものですから。“神代に存在したか”すら不明瞭な……そうでなくとも、一部でしか存在が明かされていない神になんの意味があるのか。』
『……へぇ』
『日本に存在するは
そんな話をしていると、背後から木の擦れる音がした。
「あの……」
「…体調はよくなりましたか?」
振り向きながら聞くと、そこには祈荒さんが立っていた。…5時間、経っていたようだ。
「はい、薬師様のお陰で……本当に、ありがとうございます。」
その言葉に私は首を横に振る。
「人類の軌跡が貴女を救っただけで、私は何も…私はただ、それを示しただけに過ぎません。」
『人類の軌跡って言っても異世界のだけど…』
人の軌跡であることには変わり無い、と私は思うのだけど。
「それでも……それでも、薬師様がその道を示し、私を救う選択をしてくださったのは事実です。私は、貴女という薬師様に。確かに、救われたのです。」
「……」
力説されてしまったものの、どう返したものか分からない。ひとまず私が座っている隣を示すと、祈荒さんは私の隣に座った。
「…薬師様。お話を、聞かせてくださいませんか?」
「私の話……ですか?」
「はい。実は、私は一度も下界に降りたことがありません。下界より来たりし薬師様のお話を、是非とも聞かせていただきたいと。」
「……」
何を話せばいいのか分からない。ひとまず、私の記憶を話すことにした。…未完成ではあるものの、今までの旅の話を。
「多くの人を救う……それはまさしく、菩薩のようです。薬師様はこの先もその御力できっと多くの人を救うのでしょう…」
「そんな……私に、力なんて。私の仲間さん達が力を貸してくれているからこそ、人を救えているだけで。…私自身が、誰かを救えているなんて…とても。」
「何をおっしゃいますか。…私は、貴女に救われたのですよ。」
「…そう、でしたね。」
そうだった、と私が呟くと同時に祈荒さんが小さく息を吐いた。
「それにしても、薬師様のお話はまるで物語のよう……どこか人を惹き付ける、そんな気がいたします。」
「……どう、なのでしょうね。きっと今も誰かが私達を観ている……それでも私は、誰かを惹き付けるような旅路を、誰かを惹き付けるような軌跡を辿れているか分からないのです。」
“お母さんは昔から自信がない”、と
「…気分を悪くしたのならごめんなさい。私、以前から自分自身に自信を持てないんです。」
「い、いえ…!未完成のお話でも、私にとっては新鮮ですので!…私、物語というものは大好きなのです。薬師様が来る前、私の心の拠り所といえば物語でしたので。」
「物語……」
すこしお待ちください、と言って布団の方に行ったかと思うと、数冊の本を持って戻ってきた。
『ブッ!?』
『……フォウ、失礼だよ?』
と、私は言うものの……1番上にあった本の名は“マッチ売りの少女”。作者は、“ハンス・クリスチャン・アンデルセン”───なんというか、その……暗い話を選ぶなぁ、と。
「私、アンデルセン様の書き上げた物語が大変に好ましいのです。理想像の幸福だけでなく現実像の不幸までも描かれ、単純な外皮と成った幸福だけでは終わらないところがもう……寝たきりであった私の現状を、思い起こさせるようで。」
「……」
暗い話だろうと、明るい話だろうと、物語は物語。どんな話が好きかは人による。個人の趣味を否定する権利は、他人にはないと思う。それに…今の話。
「もし…」
「薬師様?」
「もし、あなたが最初から幸福であったのなら。あなたはどう考えていたのだろう。」
「………????」
…ふと、そんなことを考えてしまった。…関係ないか。今ここにいる祈荒さんはここにいるのが総て。予測で現実を否定するのも、好ましいとは思えない。
「…なんでもないです。それよりその童話、私が読み聞かせてあげましょうか?1人で読む時とは別の視点で物事を捉えられるかもしれませんよ。」
「まぁ、よろしいのですか!?御迷惑でなければお願いさせていただこうかと思っていたところなのです!」
祈荒さんが複数の本の中から選び始めたのを見ると同時に、私はフォウとミラさんの方を見る。
『ヤバい、笑い死にそう…!知識としては知ってたけど、実際に目の当たりにするとさ…!!』
『笑いすぎじゃない?流石に失礼だと思うけど…』
『コイツの本性を見たらミラでも同じこと言うと思うよ…!記録もしたし、英雄王へのお土産もばっちりさぁ…!くくく……!!』
『……はぁ。』
…これ、ミラさんは呆れてるのか困惑してるのか…多分困惑してるんだと思うけど。
「それではこの“人魚姫”を……薬師様?」
「ん…あぁ、ごめんなさい。」
そうだった、フォウとミラさんの姿…あと
『………あれ?
『うん?』
『……私の外に出れたんですか?』
『………あ、忘れてた。』
え?…と、困惑しているときに祈荒さんが笑う。
「…ふふ、薬師様には私達には見えないものが見えているのですね。」
「私達…?」
「えぇ、私達…悩みに惑う衆生には見えぬ仏を。その眼に垣間見ているのでしょう。真に、頭が下がるばかり…」
……うーん。仏……仏……確かに、
『ヤッベェお腹痛い!ナナコ、絶対に帰るよ!あの童話作家に見てもらわなくちゃ、ヒィー!』
『…誰か助けて』
『激しく同意します…』
───馬鹿みたいに笑い転げている動物と思考放棄した妖精さんと超絶ほんわりしている神様の巫女しかいないんだけど…
「薬師様?…もしや、私が何か…?」
「……いえ、少し考えていただけですよ。…さ、読みましょうか。」
薄く周囲に結界を張り、静かに物語を読む。祈荒さんはそれを静かに聞いていた。