狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
病状を確認しながら滞在し続け、早数ヵ月が経った。悪化の兆しは見られず、完治したと考えてもいいはずだ。再発の危険性があるため、もう少し様子を見るつもりだが。…だが、璃々さんがその能力でこの時代を私達にとっての夢にしたとはいえ。夢にしては長すぎるのもあり、色々心配になってくる。
『ところで
『厳密には違うよ。今見えているのは私という
ふむ……
『どうしたの、いきなり…何か気になることでもあった?』
『……いいえ、特には…』
ただ単にどうなっているのかが気になっただけで、それ以外に深い意味はない。
「ここに居られましたか、薬師様。」
その声に振り向くと、祈荒さんがそこに立っていた。…今は真昼、この時間帯に話しかけてくるのは……酷く、珍しい。というか───
「…読経、写経はもういいのです?」
本堂の方からお経が響いているのが少し離れたここからでも聞き取れる。…聴力強化していると鮮明に。私の問いに、祈荒さんは疲れたような表情で口を開いた。
「あんなもの、ただの時間の無駄でしたので。読経も写経も戯言にすぎません。」
「よくいうなぁ…」
「事実です。小娘一人救えぬ教えの何処に悟りへ至る道がありましょう?皆、同じ言葉を気が狂ったように繰り返すばかり。私、もう疲れてしまいました。このように自らを収めるための行為に何の意味がありましょう。」
……ふーむ…
「自らを律する、という意味ではあるといえばあるのでしょうけどね。…そんな簡単なものでもないでしょう、祈荒さんが感じたものは。感じるものは人それぞれ、私の意見などただの1つの考え方だとお思いください。」
「はぁ……」
「…とはいえ、集団の中で自らの意見を貫き通すのは難しいもの。それができる祈荒さんは将来大物になるかもしれませんね。」
…私は、それができるタイプではないし。素直に尊敬する。
「……薬師様。人は、なぜ人を救わないのでしょう。何故、自らの信じたいものばかり信じ、他者を救おうとしないのでしょう…?」
………
「天幕の向こうより来たりしは貴女様ただお一人のみ。信者達も父も、誰一人として私という人を救いに来ようとはしませんでした。…何故でしょう。薬師様は、その答えをお持ちでしょうか…?」
その問いに祈荒さんの方を向くと、強い疑問と期待を感じた。…人が人を救わない答え、か。
「…弱いから、じゃないですかね。」
「弱い……?愚かなのでは、なく?」
「えぇ……“人”という生き物はあまりにも弱く、あまりにも脆い。その弱さは“無力”と言っても過言ではないでしょう。…貴女の父やここの信者はもちろん、貴女を救った、という私ですらただの無力な小娘でしかありません。」
人というのは他の生き物と比べれば比較的無力な生き物だ。道具を使う知恵がある、とは言えるが反面“人間単体”だと何もできないことの方が多い。
「弱いからこそ、架空なれども大きな存在に庇護して貰おうと縋る。幼子が親に甘えるかの如く。幼子の如く無力故に他の存在を救うだけの力がないのでしょう。しかし、それは大多数の人間の話。少数なれど、他の存在を救える力を持つものがいるでしょう。」
ただ、と一呼吸おいてからもう一度口を開く。
「残念なことかもしれませんが、その少数は本当にごく少数。絶対数がそもそも違いすぎる。故に救われる人は限りなく少ない。そして救える側も自らのことに手一杯な場合がほとんどでしょう。祈荒さんが言った“自らの信じたいものばかり信じ、他者を救おうとしない”の答えはここにあるのかと。」
「救う側が……手一杯。…では、薬師様。人というものは、救われることなく、迷い果て、やがて打ち捨てられる存在なのでしょうか。…救うことも救われることもなく、ただ滅び去るのみなのでしょうか…?」
絶望を含んだような問いに対し、首を横に振る。
「“人はいずれ、救いに至る”。今、人は救いに至るための“種”を蒔いています。それらが一斉に芽吹き、花を咲かせ、最終的に“実”を成らせた時。人は救いに至るでしょう。人類の歴史というのはその種蒔きと芽吹きの積み重ねです。種を蒔き、芽吹かせ、また種を蒔き───そうして、より良い実を結ぶために歩んでいる。私はそう思っています。」
「救いの種、ですか……」
「…酷く、抽象的でごめんなさい。」
「い、いえ……」
祈荒さんは少し考えたあと、遠慮がちに口を開いた。
「…薬師様。薬師様の御力を持ってしても、大勢の人を救うことはできないのですか…?」
「……先程、言ったでしょう。私に人を救う力なんてありません。そも、私は───」
次の言葉を口に出そうとしたところで、止めた。
「……そも?」
「…忘れてください、特に何もありませんので。」
……“どちらかといえば救う側というより堕とす側だろう”───なんて。伝えるべきではないだろう。
『七虹……大丈夫?』
『…うん』
お母さんの声で少しだけ落ち着く。…お母さんの声って、やっぱり落ち着くんだよね。
「…人とは……人とは、悪徳を為す生き物です。そのようなものが、救いに至るなど……いえ、救う側に至れるなどあり得るのでしょうか?」
「………」
この表情は……あぁ、なるほど。
「…十人十色、という言葉があります。雑にいえば、人それぞれ違う特色を持つ…ということです。悪を為す人もいれば善を為す人もいる。また、本質が善であっても悪を為す人もいれば、本質が悪であっても善を為す人もいる───個人的な感想ではありますが、人は悪を為しやすい。悪を積み上げ、その心を堕としやすい。…しかし、そんな中でも善を為すことがあるのが人という生き物です。どのような悪でも、どのように醜くとも、ふとした時に善行を為す。人の心というのは摩訶不思議───でも、だからこそ尊さがあるのでは?」
「……っ」
「人は等しく救いに至るための切符を持つ。悪を為すものも善を為すものもそれは変わらず、またその切符の形もそれぞれ唯一無二のもの。…人の“生”に意味などありませんが、人の“生きた証”には意味があります。また、言い換えればそれは人の“生命”には意味が…価値があります。悪を積み上げれば遺る証は悪の糸となり、善を積み上げれば遺る証は善の糸と成る。人類史とはこの善と悪の糸を紡ぎ、束ね、織り合わせた大きな織物のことですから、それぞれの生命の価値に優劣などなく。総ての生命は等しい尊さを持つ───」
…私が、“
「“総ての生命は等しく尊く、等しく唯一無二であるもの”。どのような生命の軌跡も、どのような生命の死も、決して無意味ではなく、どんなに小さくとも意味があるもの。」
そう話している時に視界の先で空が赤くなる。…夕焼け。ということは……
『16:54……そろそろ日の入りかな』
『さすがは時祀の巫女様ですね…』
陽詩さんが呟いた言葉に美雪さんが反応した。言われた陽詩さんは微妙な表情をしていたが。
「そうして積み上げられた小さな“意味”はやがて大きな“意味”へと変わる。“塵も積もれば山となる”───まさしくその通りで、その積み上げられた結果が貴女の病を治した薬でもあるのです。一人一人の形が異なる中で、その一人一人が人類の価値を…人類の意味を形作るもの。」
そこまで告げてから祈荒さんの目を真っ直ぐと見据える。
「たった1
…それが、“記録者”として私が辿り着いた答え。何処かの記録が欠ければそれは正確な記録ではなく、真の形には成り得ない。
「………」
「…少し、難しかったですかね。もうしばらくは居ますからゆっくり考えてください。」
私は誰かに何かを伝えるのが苦手だ。私の言葉が、ちゃんと伝わっているかも分からない。…少し時間を置いて、祈荒さんが何か答えを見出だすのを待とう。
?〈Starlight Executor〉
裁「う……ん…?」
…あ、リカ。ごめん、起こしちゃった?
裁「マスター…?何して………って、魔法?」
んーん。これはシミュレータ。私が魔法の威力をテストするために作った
裁「機械的な演算…って、デバイスみたいな……」
デバイスは魔力を使うじゃない。こっちは魔力を使わないから。…というか、デバイスみたいに外に魔法を出力できるわけじゃない。演算内でどれくらいの火力が出るか、どれくらいの破壊力があるかをテストするためのものでしかないから。
裁「……」
…ホント、現実だと才能や技術なんてないからさ。こっちじゃないとこういうのできないんだよねー。……何かする前に諦めることが多いのも問題かもだけどさ…
裁「ほとんどそれじゃないかな…」
長続きしないんだよねー…ホントに。
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