狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い 作:Luly
裁「リコレクションシステムの限定起動…そんなこともできたんだ。」
リッカさんの時は長期的な観測が必要だと思ったし、観測そのものが危険な記憶だったからフルスペックで起動する必要があったんだけど…これくらいなら。…文字数的にはあまり変わらないのかな?
裁「さぁ…」
…それはそれとしてリカ、警戒はしておいてよね。リコレクションシステムの一部だからこそ奴らを呼びやすい。
裁「うん……今度は、絶対に護るよ。…マスターには、護らせない。」
頼りにしてるよ。…さ、起動しよう
裁「……絶対に。…
なんか言った?
裁「ううん、何も。」
「産まれました、国王様!」
「可愛らしい女の子ですよ!!」
意外かもしれないけど、産まれた直後の記憶ははっきりとある。“思い出した”の方が正確なのかもしれないけれど。
「そうか!よかった…!」
お父様が喜んでいたのもよく覚えてる。お母様が涙ぐんでいたのもよく覚えてる。私は“ミルティ・スティア・シュレイド”と名付けられて第一王位継承者として育てられた。───だけど。
「かあ、さま……」
「ミルティ…?どうしたの?」
「…あつ…い……」
「ミルティ…?っ、ミルティ!!しっかり、しっかりなさい!?ミルティ!!!誰か、お医者様を呼んで!!!」
まだ、わずか1歳の頃。突然高熱を出して私はお母様の前で倒れた。
「…我、汝と契約せし者───契約に従い、その姿をここに現せ───」
お母様の詠唱───途切れ途切れにしか聞こえなかったほど意識は朦朧としていた。
「出でよ、始まりの守護者たる青き鳥竜───」
お母様が召喚した“ドスランポス”に乗せられて、お医者様のところまで行ったのも覚えてる。そして、色々と大事になって王宮中が大騒ぎになったのもよく覚えてる。
「………これは…」
「…どう、でしょう。」
「…ただの風邪、ではありますがこれほどまでの高熱は異常としかいいようがありませぬな。……大変失礼ですが、御息女様の身体を詳しく調べさせていただきますぞ。産まれてからこれまでここに通った頻度が高すぎることに加え、症状診断がただの風邪である以上、御息女様の身体に原因があるでしょう。皇后様は御息女様を見守っていてくだされ。」
「…分かりました。娘を、よろしくお願いします。」
症状として、病状としてはただの風邪で間違いなかったらしい。それでも体温が異常───40℃を越えてたらしいから私の身体を調べることになった。そのうちお父様も私が治療を受けている部屋に来て、見守ってくれていた。
「…………皇后様。国王様。」
「なんでしょう?」
「…どうした。」
「…非常に申し上げにくいのですが……御息女様は、長く生きることが出来ないかと。」
「「───」」
苦しそうな表情でお医者様が告げた言葉にお母様とお父様は言葉を失っていた。
「…効くかどうかはともかくとして、幼子用の熱冷ましと風邪薬は投与しましたので、順を追って説明しますぞ。御息女様───ミルティお嬢様は抗体と免疫力を一切持たぬ身体でございます。」
「抗体……」
「医学、治癒魔法に深く通じておられます皇后様はご存じかと思われますが、免疫とは人間の身体に存在する防衛機能。病原体に対し抵抗する、いわば自然の治癒魔法にございます。そして、抗体とは異物を除去するためのいわば武器とも言えるもの。…その免疫と抗体が、ミルティお嬢様には一切見受けられませぬ。故に、ミルティお嬢様はこの先も悉く病魔に侵され続けるでしょう。」
「そんな……」
お母様の言葉を聞いて、お医者様が顔を伏せた。
「…そして、もう1つ。こう言ってはミルティお嬢様に大変失礼なのですが…ミルティお嬢様の身体の劣化が、異様に早いのです。」
「異様に早い…と?」
「通常の人間の約8倍から約10倍、と言ったところでしょうか。身体の劣化…細胞の変化が早いということは、それだけ生命の残りも少なくなるということでございます。」
「「………」」
お母様は泣きそうな表情で、お父様は険しい表情で。収まってない高熱のせいか声は出せなかったし、視界もすごく悪かったけどそれはなんとなく分かった。
「……何年だ」
「……」
「あと、何年……我が娘、ミルティは生きられる。」
その問いに、お医者様が苦虫を噛み潰したような表情をした。
「…私めの判断が間違っていなければ……病原体の存在しない環境であっても、もって14年。今のままでも最悪の場合…余命9年、が良いところでしょうな。」
「9年……あと、たった9年───そんなに、短いのか……」
「それこそ、お伽噺に存在する神龍の奇跡でも起こらなければ覆すことは……」
「……う………」
意識がはっきりとし始めて、声も出せるようになって。お母様達も私が起きたことに気づいた。…実際、ここに運び込まれるまでの間、数分だけ意識が完全に飛んでたからずっと寝ていると思われていたみたい。
「熱も一応引いたようですな。…どう伝えるかは、お二方にお任せいたします。…それと、皇后様。」
「…?」
お医者様が近くにあった紙にさらさらと何かを書き記してお母様に渡した。
「幼子には劇薬過ぎるものですが…“即効解除免疫剤”の調合レシピでございます。…そして、一時的な症状抑制としてこちらの治癒術式も。……申し訳ない、私めではこの程度しかお力になれませぬ。」
「即効解除免疫剤…」
「ただの免疫薬やウチケシの実では効きませぬ。上位種である免疫剤、即効免疫薬でもミルティお嬢様には効かぬでしょう───私が判断した限り、即効解除免疫剤を使うのがもっとも最善手であり、もっとも悪手でございます。…もしもミルティお嬢様が薬で亡くなられた場合は、私めをお恨みくださいませ。」
即効解除免疫剤───病を即座に治癒し、一時的に治療した病に対する強い免疫力を与える薬。それは大人が使うにしても劇薬に分類されるもの。…未成熟すぎる私の身体には劇薬も劇薬、超劇薬───そもそも12歳以下の子供に対して使うのが禁止とされているような、そんな薬。お医者様はそんな劇薬…“超毒”と呼ばれる恐ろしい症状を引き起こす“超毒薬”とも言えるようなそれを私を救うために提示した。…実際、私には
「国王様、皇后様…そしてミルティお嬢様。本日はこれにてお引き取りくださいませ。…今の私めにできることはここまでですので。」
「…分かりました。本日はありがとうございます。」
お母様が私を抱いて部屋の外へ出て。
「…どうしましょう、貴方。」
「…うむ。……少し、考えさせてほしい。」
「…はい。」
それからしばらくは普通に…とはいっても高頻度で病に罹患しては熱を出したり体調崩したり喀血したりしながらも魔法の勉強と練習は続けてた。…速攻解除免疫剤が当時の私にとって超劇薬だったとしても、お医者様がそれを提示してくれなかったら、今ですら生きていたか分からない。
「ミルティ、ちょっといい?」
「お母様?」
そんなある日───5歳の頃。龍属性魔法の勉強中に私はお母様に呼び出された。その頃にはもう“シュレイド一の天才”、“魔法の神に愛された娘”とかって呼ばれてたっけな。…そんなことはどうでもよくて、呼び出されて向かった先にはお母様の他にお父様もいた。…流石に、妹達はいなかった。
「…来たか、ミルティ」
「はい、お父様…?」
「ミルティは今年で5つになった。…私は、いや、私達はミルティに伝えなければいけないことがある。」
「……?」
「…ミルティ、お前は……」
そのときのお父様の表情はとても苦しそうで。お母様が駆け寄って心配してた。
「貴方……」
「……私が伝えるから、君は控えていてくれ。」
「…はい」
「…改めて、ミルティ・スティア・シュレイド。我が国の第一王位継承者よ。…私はお前に伝えなければならぬことがある。」
「……」
名を総て呼ぶってことは、重要なことだと思ったから。私は姿勢を正してお父様に向かい合った。
「私達にとっては辛いことだが、お前は───あと10年しか生きることができぬ。…そしてそれは長く保てた場合のことであり、実際にお前が生きていられる時間はあと5年が良いところ。……そうであったな、医者よ」
お父様が視線を向けた方向に私も視線を向けると、確かにお医者様がそこにいて頷いていた。
「その通りです。…病原体の少ないこの城の敷地であってもあの状態ですから、敷地外ではさらに酷くなりましょう。…残り5年というのですら希望的観測にすぎませぬ。」
シュレイド王家の城……病原体が少ないその理由は、お父様が私のために城の敷地全体を覆うように結界を張ったから。様々な病原体を除去し、無菌室に限りなく近い状態……あぁ、カルデアみたいな状態かな?そんな感じにしてくれたから。
「───問おう、我が娘よ。」
その声で私はお父様に視線を向けた。
「これより先、お前の部屋のみでしか生きられぬという人生を送るか、この城でしか生きられぬ人生を送るか───それとも、死を近くすることを承知で外の世界へも出る人生を送るか。……選べ、我が娘よ。私はお前の望みを尊重しよう。」
私の部屋のみで生きる、っていうのは無菌室に監禁…幽閉?するってこと。この城で生きる、っていうのは菌の少ない環境で自由に生きるってこと。外の世界へ出る、っていうのは───死を覚悟で、寿命を縮めることを覚悟で菌が大量に存在する環境に身を投じるってこと。……今思い返すと、お父様も辛い決断だったとは思う。当然ながら私に子供はいないけど、
「わたしは……」
「……」
「…わたしは、外の世界に行きます。……この世界を、この目で見て回りたい。様々な獣魔と、実際に出会ってみたいのです。…お願いします。…外の世界に、行かせてください。」
「……」
お父様はその回答を聞いて、目を瞑った。
「…やはり、か。」
……思えば、ずっと不思議だった。私は城の外に何故出てはいけないのだろうと。特に妹───第四王女はあちらこちらに行き回っては色々な人に迷惑をかけているらしいというのに。…私は何故、城の外で出てはいけないのだろうと。第二王女たるエスナも外に出ることは制限されていなかった。第一王女の私だけ…何故、と。不思議に思っていたことを覚えてる。
「───よかろう。明日より、ミルティが城の外へ出ることを許可する。だが1つ条件をつけよう。ミルティが獣魔と契約するまで、東シュレイドより出ることは禁止とする。…できるか?」
「───はい。」
当時の私は召喚魔法を勉強するのを後回しにしてたから。それを、お父様は危惧したのだと思う。私のメイン武器は超がつくほど魔法特化型な武器種の“杖”なわけだし。
「よし。…それではこの話はこれで終わりだ。今日は休みなさい。」
地味に張り詰めていた空気もお父様がそう言ったことで消える。私は私でそんな時に風邪を発症して倒れた。…いつものことだけど。そして回復したあとはエスナと城の外に出てひとまず東シュレイド各地の集落やギルドを見て回る日々が続いた。…その頃は、“聖女姉妹”なんて言われてたっけな。ずっと城の中にいた私にとって、何もかもが新鮮で、何もかもが初見で。時に病人を治癒したり、時にはシャドウを撃退したりして、過ごしてた。
「た、大変だ……!!」
───そんな、ある日。6歳になった頃。お母様とお父様とで城の庭で談笑していた私に転機が訪れた。
「き、傷だらけの……瀕死の、滅尽龍が……!門の外で倒れてる!!」
滅尽龍“ネルギガンテ”。全身から生える無数の黒い棘と、非常に太く頑強に発達した双角、そして何より極めて好戦的且つ凶暴な性格を特徴とする大型の古龍種。古龍種の存在はシャドウではなくとも十分に脅威だった。
「すぐに東シュレイド王城の施術所に運んでください!」
だけど、私としては見捨てることはできなかった。古龍種、特にネルギガンテはこっちにも被害を及ぼすことはあっても基本的に自らの意思で積極的にシャドウと戦ってくれている存在───守護神にも近い存在だったから。村人達とアイルー達はネルギガンテという強大な存在に怯えながらも、私の言葉に従って東シュレイド王城の施術所───獣魔専門の施術室にそのネルギガンテは運び込まれた。
「酷い怪我…!いいえ、それ以前に衰弱しすぎ……でも絶対に治します…!」
当時の私が持つ知識を総動員してネルギガンテを治療した。その時一緒に手伝ってくれたのはお父様とお母様、お医者様と学者さん。私が主体となって麻酔、治療、治癒───施術の総てを担当した。お母様もお医者様も驚いてたよ。“こんなに幼い子がここまで知り尽くしているものなのか”、って。召喚術師になる───使い魔達の主となり、使い魔達の生命の行方を左右する以上、使い魔達を護ることに妥協はしたくなかったから。獣魔達はどんなものが効いてどんなものが効かないのか、どこをどうすれば治療できるのか───そういった書物を片っ端から読み漁ったから。…流石に初見だからすごく荒いけど、それでもなんとかネルギガンテは一命を取り留めるほどにまで快復させた。
「……ふぅ」
施術が終わったあと、私達は疲れ果ててその場で寝ちゃって。目を醒ましたら私の目の前にネルギガンテの顔があった。
「わ、わわわ!?」
驚いて後ろに下がって。その驚いたときの声で皆が起きて。ネルギガンテは施術台から降りた。
「……凄い……流石古龍種…ですな。既に心拍は安定、血流も安定していますぞ。」
お医者様の言葉に、私は安堵した。…でも、ネルギガンテが私の方に近づいてきて私は再度緊張状態になった。知ってると思うけど、滅尽龍“ネルギガンテ”は見た目が結構怖い。敵意は感じられなかったけど、ネルギガンテという存在から自然に感じる威圧感は変わらない。…それでも、恐る恐るではあるけどネルギガンテの顔に触れた。
「…よかった。また、自由に飛べるそうで。……荒くて、ごめんなさい。」
「………ガァ」
ネルギガンテは一鳴きして、私の指を舐めた───そのとき。
「───っ?」
パチッ、と。何かが繋がったような感覚がした。
「…ガァ」
「───え、今のは…?」
ネルギガンテに聞くけど応答無し。その代わり、私にすり寄ってきた。…それと同時に地面に落ちる銀色の結晶。その結晶を見て、学者さんが愕然とした。
「…な、なんと…これは……」
「学者さん…?」
「絆……
「絆の…契約?」
学者さんはあり得ないという表情をしながらも、でもその事実は変わらない、という矛盾で───呆然としていた。学者さんの代わりにお医者様が呻くように口を開く。
「ご存知ないのですか、ミルティお嬢様…!古龍種との使役契約は種族別で見ても最高難易度とされているもの…!その中でもかなりの難易度を誇る滅尽龍“ネルギガンテ”と…!今貴女様は“絆の契約”と呼ばれる
あとで調べて分かったのだけど、絆の契約はそれそのものが難しい契約で、契約した際に“心霊契石”という結晶が現れるらしい。そしてその心霊契石と特殊な加工を用いて生産した指輪の名を“リングコネクティア”───別名を“人と獣の絆の指輪”という。絆を結んだ数が多ければ多いほど───使用された心霊契石が多ければ多いほど綺麗な指輪になっていくのだ、と。そして心霊契石のランクが高ければ高いほど───
「わたしの……使い魔に、なってくれるのですか?」
私も状況が飲み込めてなくてネルギガンテに聞いた。ネルギガンテはその問いに頷いて、私の隣で寝息をたて始めた。………もう気づいてると思うけど、このネルギガンテが…今のネルル。古龍種を使役できるようになったことでなんか色々面倒なことにはなったけど…1ヶ月後にはお父様との約束通り東シュレイドより外にも出られるようになった。
「わぁ~!ネルギガンテ、助けてください~!!」
「ガァァァ……」
獣魔に襲われる、というか獣魔に好かれ過ぎて困ったことになって。当時のネルルもどうすればいいか分からなくて困惑してたっけ。流石にシャドウには好かれなかったけどさ。…あれは獣魔というか……魔力の淀みが産み出した偽物というか。シャドウサーヴァントみたいなものだから。でも、色々と見て回ってるときもやっぱり発症は多くて。その度にネルルに東シュレイドまで送ってもらってたな…
『助けて……』
「うん……?」
そこからさらに転機が訪れたのが9歳の頃。…お医者様から言われた短い方の寿命の最後の年。…いつ、私は死んでしまうのだろう、ってずっと不安だったっけ。
『助けて……』
「誰…?」
「ミル姉様?」
初めて声が聞こえたその夏の日はエスナの魔法の勉強を見てた。その頃にはもう私は第四位“エンシェント”───複数の古龍と契約し、優秀な魔法行使能力を持つ者だったから。ふと、私達以外の声がしたのを気にした私をエスナが不思議そうに見つめてた。
「…エスナ、だれかわたし達以外の声って聞こえませんか?」
「私達以外の声…ですか?…いえ、聞こえませんが…」
「そう……?…聞き間違い…?」
その場は聞き間違いかと思ってエスナの勉強に戻った。だけど、その日から何日も頭の中に直接声が聞こえてた。お母様やお父様、執事やメイド、他のサマナー達に聞いてみても何も聞こえないって言われて、何かの病気かもしれないと思ってお医者様に聞いてみた。
「ふむ……診断結果は風邪や何らかの病ではありませんな。幻聴、と言いますと高熱によるものでしたり、精神的なものでしたりするのですが…そのいずれも反応無し。…最近、速効解除免疫剤の方は?」
「……10日前に、いつもの風邪でこの王城に帰ってきて使用したのが最後です。」
「で、あればその線は薄いでしょうな。既に薬物学にも通じていらっしゃいますミルティお嬢様であればご存知だとは思いますが、速効解除免疫剤は速効性が高い分持続力がありません。現状確認されている副作用に幻聴は存在せず、またその副作用はいずれも服用後7日で終了します。」
そこまで言ってから少し考え、思い出したように口を開く。
「そういえば、ミルティお嬢様は獣魔言語を習得しておりましたな?」
「はい、一応…」
「でしたら、何らかの獣魔の声がお嬢様の精神会話術式に引っ掛かったのかもしれませぬぞ。…様々な獣魔と触れ合うミルティお嬢様が聞いたことがない声となると、限られてくるとは思われますが…いかがでしょう。」
「禁忌種と瘴気の谷と似た環境にのみ生息する獣魔。契約はしていないものの会ったことある獣魔が多いですから。」
「むむむ……あまり詳しくはありませぬが20種ほどですかな。未だ見ぬ獣魔と出会える吉兆……であると良いのですがな。」
そう言ってお医者様が哀しそうな表情をする。…私の残り時間がもう少ないことを、私の他ではお医者様が一番分かっているから。
「……ミルティお嬢様」
「はい?」
「ミルティお嬢様は…瘴気の谷へ、行きたいですかな?」
「……まぁ。できることならこの世界の全てをこの目で見たいです。…だけど、それは叶わない。わたしの体質故に瘴気と未浄化狂竜物質は致死性の高い毒ですから。」
「…そう、ですな。そしてそれは噛生虫の毒も同じこと…どうしたものでしょうな。」
「……とりあえずわたしは生きれるだけ、後悔のないように生きるつもりです。わたしはもうすぐ命を落としますし、この国の後の事はエスナに任せるしかありませんが。…でも、できることなら。エスナの成長を、エスナの行く道を……見守っていたかった。」
「……」
「…いつまでもいてはお邪魔でしょう、わたしはこれで失礼しますね。」
「…また、いつでも来てくだされ。」
完全な解決には至ってないけど一つの方向性は示されたから、何か慌てたりしても何もないと思ってそのまま過ごすことにした。……そして、それは突然起こった。
「おやすみなさい、ネルル」
「ガァ」
雪の降った冬の日の夜。私はネルルと一緒に布団で寝た。……その、はずだった。
「───くしゅっ」
私の部屋の中は温度・湿度が保たれていたし、“寒い”なんてことはあり得ない。…そのはずなのに、寒かった。その寒さで目が覚めて、身体を起こして辺りを見渡すと───私は私の部屋にはいなくて、既に廃墟となり放棄されているような城の跡地にいた。
「ここ、は……」
その場所に足を踏み入れるのは初めてだった。だけど直感的に、知識的にその場所を私は理解した。───かつて古代文明が栄えていた頃、私達の先祖が治めていた地。憤怒の災厄により変わり果て、人の住めぬ、限られた者以外立ち入ることを禁じられた禁忌の息吹く依代───中央シュレイド、“旧シュレイド王国城跡地”だと。
「寒……」
雪も降ってたからすぐに“北風の護法”を発動させて体温を保った。中央シュレイドに立ち入ったことはなかったし、地理はほぼほぼ分からない。本来ならすぐにでも帰るべきなんだろうけど……私の目覚めた場所の近く、私の視線の先に異様に傷ついた白い龍が横たわっていたのが気になった。
『大丈夫…ですか?』
思わず竜人語で話しかけてしまって“しまった”って思ったけど、白い龍は声をかけた私を見て微かに口を開いた。その頃は、基本的に精神会話術式で獣魔に話しかけるようにしてたから口は動いてなかったはず。
『人間の…娘…?こんなところに、珍しい……』
その竜から聞こえたその言葉は確かに竜人語で。……その龍から聞こえたその声は。今まで聞こえていた謎の声と、全く同じだった。
『……あなたが、わたしを呼んでいたのですか?』
『え……?』
私がそう聞くと、白い龍は驚いたように声を上げ、その顔を持ち上げて私を直視した。
『私の声が……聞こえる、の…?』
『はい、まぁ……』
『……夢、みたい……まさか、私の声が聞こえる人間が…いる、なん…て……』
そこまで言って白い龍はまた横たわった。
『大丈夫……ですか?』
『……』
その龍は静かに首を横に降った。
『……生きたい』
『……?』
『私は…まだ、死にたくない……』
───“生きたい”。“死にたくない”。それは、私も同じことを思っていた。杖をしまって、私はその龍に近づいた。…不思議と禁忌種…それもミラボレアスと思われる龍に無防備で近づくことに、恐怖はなかった。
『……わたしもです』
『…?』
『わたしも…まだ、死にたくない。まだ……みんなと一緒にいたい……』
『………私と同じ……なんだ』
龍の言葉に頷いて、龍の身体に自分の身体を預ける。
『『まだ…生きたい───』』
そう、同時に呟いたとき。……それは、起きた。
「『……?』」
よく分からない感覚がした。普通の契約とも、絆の契約ともまた違う変な感覚。解けて、融けて、蕩けて、酔って、混ざりあって───全身が火属性やられになったかのように熱くて、水属性やられになったかのように湿って、氷属性やられになったかのように寒くて、雷属性やられになったかのようにピリピリして、龍属性やられになったかのように魔力が廻りにくくて。全部治まった頃には、白い龍の姿は忽然と消えていて───私の髪が、白くなっていた。
「え……なんで……?それより、あの龍…は………」
そこまで呟いて、気がついた。
『…う、ううん……あれ…?』
「え……!?」
私の中から声がした。精神会話であるのはそうだけど、私の“内部”から。
『どう、なって……』
「……え?え??」
その時、私は状況を理解できなくて。…そのまま、私は意識を手放した。
『ちょっ……人間!?と、ともかく人里まで送らなきゃ!え、ええと……!!』
本人…本龍?の話だとその時は予想外の自体に慌てながらもどうにか私の身体を動かして人里まで送ってくれたらしい。
───この白い龍こそ、私と融合した祖龍ミラルーツ……いいえ、彼女を真に呼ぶならばこの呼称は正しくない。
あらゆる文献に記録はなく、総ての獣魔が記録されるはずの私のグリモワールにも記録されない、ただ1つの御伽噺に名を残す幻の龍が片方。総ての龍の王とされ、総ての獣魔の母と呼ばれる純白の王妃。総ての女王、総ての礎となり総ての祖となった白き龍───
───通称“ミラロード”。“総ての起源”、“幻の神龍”とまで言われし唯一無二のミラボレアス種。空間を歪ませて場所を越える力を持つ他、自身をあらゆる獣魔の性質に変化させる、自身の性質をその環境に適応させるといった適応能力を持つという。
そんな古龍が、私と一体となった。
裁「実はマシュと同等かそれよりも酷い状態だったミラちゃん。外界だと防菌用の結界を身体に纏うように張ってても数時間行動できるのが限界だったとか。」
こんなこと言ったらどこかから怒られそうな気もするけど免疫不全症候群と早老症の併発……なのかな、これって?
裁「早老症とはまたちょっと違うんじゃないかな…ミラちゃんの場合細胞劣化が早いとはいっても見た目の変化は普通通りなわけだし。外皮…外面的な細胞分裂が早いんじゃなくて内臓…内面的な細胞分裂が早いっていう症状だったらしいよ。」
分かりにくいなぁ…
裁「…こう言ったらあれだけどマシュみたいに人工で産み出されたわけじゃなくて自然に産まれてこの状態だからミラちゃん……じゃなくてミルティちゃんが持って産まれた運命そのものはマシュよりも遥かに儚く悲しいもの…だったんじゃないかな。私だと正確に判断できてると思えないけど。…まぁ、ミラちゃんはその運命を古龍との融合という形で強制的に上書きしたわけだけどね。」
…古龍……でも普通そんなこと出来なくない?
裁「さぁ、どうだろ……元々意味不明な“古龍”だからね。それはそれとして“超毒”の件。」
ん?
裁「ミラちゃんの世界だと実際に超毒を引き起こす薬品ってあるらしくて……ほら、ローマの洞窟でルナルガと出会った時、ミラちゃんがルナルガのことを“シャドウ”って言ったでしょ?そのシャドウに対して投げつけたり吹き付けたりして使うんだって。」
それって覚えてる人いるのかなぁ…
裁「ついでに言うと“壊毒薬”もあるらしい。…私にはピンと来なかったんだけど。」
それフロンティアだっけ…その頃私モンスターハンターシリーズやってなかったから分からないのよ…
裁「私も知らない…」
お知らせ↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=289109&uid=316165
運命の選択 聖都の正門と獅子王の裁き
-
どちらも原作通りにする
-
聖都の正門への対処のみ原作通り
-
獅子王の裁きへの対処のみ原作通り
-
どちらも原作通りにしない