狩人達と魔術師達の運命、それからあらゆる奇跡の出会い   作:Luly

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長くなりそうで前後編に分けたのですよ

裁「それでも前話は1万字越えたっぽいけど…」

うっ…


第327話 龍令嬢の記憶語り・後編

意識が戻った時、私はベッドの上で寝かされていた。

 

「……知ってる天井……ということは」

 

「目覚めましたかな、ミルティお嬢様」

 

声に身体を起こすとお医者様が私の方に歩いてきていた。

 

「お医者様……」

 

「昨夜、唐突にお嬢様がいなくなった事に気がついたネルル様が私共に報せてからというもの、王城内は大騒ぎだったのですぞ。…姿を消した数時間で、かなりお変わりになられたようで。」

 

その言葉ではっとして鏡を出して自分の姿を見る。…私の黒髪は既に跡形もなく白髪となり、眼も緑の双眸ではなく赤と緑の虹彩異色になっていた。

 

「……よく、わたしだと分かりましたね…」

 

「ネルル様が寄り添いましたのでな。そして魔力もミルティお嬢様のものでしたので、ミルティお嬢様で間違いないと。…少々、不可解な点はありますが。」

 

「不可解な点…?」

 

「少々お待ちくだされ、今国王様と皇后様を呼んでいますのでな…」

 

お医者様の言葉の後、数分するとお父様とお母様が医務室に入ってきた。

 

「…揃いましたな。」

 

「大事ないか、ミルティ。」

 

「はい、お父様……恐らくは。」

 

「……ならば、いい。ミルティが無事ならば、それで…私は構わん。」

 

そう言って、お父様はお医者様の方を向いた。

 

「話とはなんだ?」

 

「……ミルティお嬢様の身体のことです」

 

「わたしの身体の…?」

 

「大変失礼ではありますが、ミルティお嬢様が意識を失っている間に身体を色々と調べさせていただきました。…許しも得ず申し訳ありません、お嬢様。」

 

「いえ、それはいいのですけど……一体、何故?」

 

「たった数時間のうちに姿を変えたミルティお嬢様の身に何が起こったのかを知るため…ですな。…その結果、なのですが。……まずは、これをお伝えすべきでしょう。」

 

お医者様が机の上にあった紙を手に取った。

 

「お嬢様の身体から、強(・)力(・)な(・)抗(・)体(・)と(・)免(・)疫(・)能(・)力(・)が(・)検(・)出(・)さ(・)れ(・)ま(・)し(・)た(・)。」

 

「……何?」

「え……?」

 

強力な抗体と免疫能力。それそのもの自体は問題ない。…問題は、それが私(・)の(・)身(・)体(・)に(・)ということ。最初に話した通り、私は生まれつき抗体と免疫能力を持たない身体。先天性全免疫欠損症…とでも言おうかな。そして、それへの治療はできないというのはお医者様から聞かされていた話。

 

「昨日の検査の際、お嬢様の身体に抗体と免疫能力がないことはお嬢様の合意のもと確認済みでございます。それが、昨夜を経て存在するようになっている……というよりは…」

 

少し悩んでから口を開く。

 

「……そうですな。記憶や魔力、意識などはそのままに…まるで身(・)体(・)の(・)み(・)を(・)丸(・)ご(・)と(・)、作(・)り(・)替(・)え(・)た(・)かのような。そう思う程まで奇妙な存在方法になっております。」

 

「…ふむ。」

 

「…次にミルティお嬢様の余命の事なのですが。…こちらも奇妙なことに、身体の劣化が遅延…どころか、身(・)体(・)の(・)劣(・)化(・)が(・)巻(・)き(・)戻(・)り(・)、か(・)つ(・)劣(・)化(・)が(・)著(・)し(・)く(・)遅(・)く(・)なっております。」

 

「…どういうことだ」

 

「簡単に言えば余命が延びております。……恐らく、人間が真っ当に産まれ真っ当に死に至るまで…最低でも、残り95年。次の年を迎えられるかどうかであったはずですが、95年まで延びているのです。……喜ばしいことでは、あるのですが…」

 

言い辛そうに表情を強ばらせるお医者様。

 

「どうした。遠慮なく告げよ。」

 

「……お嬢様の身体に流れる血液から、“古龍の血”───いいえ、祖(・)龍(・)の(・)血(・)液(・)と(・)よ(・)く(・)似(・)た(・)成(・)分(・)が(・)検(・)出(・)さ(・)れ(・)ま(・)し(・)た(・)。」

 

「え…?」

「……何?」

 

古龍の血。それも、“祖龍”の血。古龍種の獣魔が持つ特殊な成分の血で、それぞれ成分構成が微妙に…本当に微妙に違う。中でもミラボレアス種の血は特殊で、一般の古龍の血と同じ成分は検出されないとか。そんなミラボレアス種の血が、人間であるはずの私から検出された。

 

「お嬢様はご存知ですかな。───融合、というものを。」

 

「確か……憑依召喚術式の不備、もしくは憑依元との異常な共鳴によって発生する異常現象。または融合召喚術式によって一時的に獣魔の力を人間の身体で引き出す方法…ですよね?そして前者のそれを“融合事故”と呼び、後者のそれを“魔化身(まかしん)”と呼ぶ……」

 

「素晴らしい、流石は神童と呼ばれるだけの事はある御方です。…そして融合事故、魔化身問わず融合をした者は人龍“ヒューレア”、もしくは人竜“ヒューメア”と呼ばれます。…古龍との融合である人龍“ヒューレア”はともかく、“竜”に分類される獣魔以外との融合症例は比較的少ないため全てまとめて人竜“ヒューメア”になっているのは周知の事実ですな。」

 

魚類、草食種、獣人種、甲虫種、甲殻種、牙獣種、両生種、鋏角種はほとんど憑依術式を使う人も融合術式を使う人もいないから“人竜”で呼ばれてる。…あくまで“ほとんど”だから、人によっては融合とか憑依とか使って同じ種族の獣魔と交わる人もいる……らしい。

 

「お嬢様の身体はその融合を起こした状態と酷似しているのです。…というよりは、むしろ融合そのもの。そして祖龍の血の成分が検出されるということは人龍“ヒューレア”になるのです、が……」

 

「…ですが?」

 

「……ミラボレアス種との融合など聞いたことがありませぬ。ここ数百年…いえ数千年規模でしょうか。記録をどれだけ遡っても1度もありませんでしたぞ。…新大陸の古代竜人の方々であればご存知かもしれませぬが。」

 

「古代竜人……か。」

 

逆にそこまでの知識・観察眼を持つ者でなければ分からない可能性の方が高い、ということ。

 

「ですがお医者様。融合術式を用いたのだとしても、術式を解除すれば元に戻れるはず。それはいかに禁忌の獣魔であっても例外ではない…ミルティの判断には任せますが、それを提案しないのは何故でしょう?」

 

「……無理なのですよ」

 

お母様の問いに微妙な表情でお医者様が告げる。

 

「…融合事例の中でも希少中の希少、自らの魂と相手の魂を完全に同質化させる“魂同化融合”をされてしまっては如何なる術者でも解除することはできませぬ。人間の姿であったのがまだ幸い、ですかな。」

 

そこまで言ってから小さくため息をつく。

 

「……融合されてからまだ日は浅いでしょう。であれば、双方の魂の完全同化はまだしていないはず。ミルティお嬢様は相手と話し合い、今後をどうするのか決めるのが最優先でしょうな。…それと、ミラボレアスとしての呼び名も決めてくだされ。」

 

「ミラボレアスとしての呼び名…ですか?」

 

「ミルティお嬢様にはミラボレアスの血が流れているわけですからミラボレアスであるのは偽りようのない事実。そして、ミラボレアスとして存在する以上呼び名が必要ですぞ。…現在確認されているミラボレアス、ミラバルカン、ミララース、ミラルーツ……この4種のどの姿にも当てはまらないのですからな。」

 

「…なるほど」

 

お医者様の言いたいことは何となく分かった。完全新種だからこそ名を付けなければならない。そして私に知性…というか常人にも理解できる言語はあるのだから私が決めろ…ということだった。獣魔言語は誰でも分かるわけじゃないし。

 

「…さて、本日はこれでお引き取りくださいませ。色々と整理する時間も必要でしょう。」

 

…その言葉は、私達だけではなくお医者様自身にも言っているように聞こえた。

 

「……昔から、本当に世話をかけます。お医者様。」

 

「やめてくだされ、国王様。私はただの一介の医者、貴方様は今や国王ですぞ。…礼の言葉など要りませぬ、お気持ちのみで結構。…いえ、そのお気持ちですら私には重くのし掛かる。」

 

「……そ、そうか」

 

お医者様はお父様が子供の頃から……というか、お祖父様が子供の頃から皇族付き医師である竜人族の方という話だからお父様も稀に敬語に戻る。…その度にお医者様は困惑してるけど、お父様は気を抜くと敬語に戻るほどお医者様に迷惑をかけた覚えがあるみたい。

 

「ならば、これで失礼する。…ミルティ」

 

「はい」

 

「“答え”が出たならば私達に告げに来ることだ。…たとえどんな答えでも、ミルティが選んだのならば否定はせん。」

 

そう言ってお父様とお母様は医務室を出ていった。いま思えば、このときのお父様は凄く辛そうな表情をしていた。…私がするであろう“選択”を、私が導き出す“答え”を…お父様は直感的に分かっていたのかもしれない。私はというとお医者様にお礼を言ってから医務室を出て、自分の部屋に戻ってきた。

 

「……」

 

集中───自分の身体の奥底に意識を集中させる。自分の内部にいる魂との対話なんてしたことがなかったから、集中しすぎたのは内緒。

 

『すみません───聞こえますか?』

 

『……その声……人間の、娘?』

 

融合した龍───ミラロードも私の奥底で眠っているときに私側から話しかけられるとは思っていなかったみたいで、驚きの声を漏らしていた。

 

『意識は…無事?』

 

『…はい。あの……つかぬことをお聞きしますが、あの後一体何がありましたか…?』

 

私が聞くとミラロードはあの時気絶した私を私の身体を動かすことでどうにか人里前まで移動させ、人里の人間が見つけられるようにしたと答えた。そして、それをした後は私に強く干渉して人格や魔力等に被害を与えないように私の奥底で静かに眠っていたのだと。

 

『……ありがとう、ございます』

 

『私が勝手にやったこと……感謝されるようなことをした覚えはない。…ところで。人間の娘……貴女の名前は?』

 

そう言われたことでようやく気がついた。私はまだ、ミラロードに名乗っていなかった。

 

『名も名乗らず大変失礼致しました。わたしは……ミルティ。“ミルティ・スティア・シュレイド”と言います。』

 

『シュレイド……』

 

『……どうか、なさいましたか?』

 

『……いいえ。なんでもないわ。次は、私ね。』

 

そう言ったあと、ミラロードは首を傾げた。

 

『……私の名前、なんだったかしら……』

 

『え……』

 

『……永く生きたものだから、忘れてしまったわ。ひとまず……“ミラルーツ”、でいいわ。私の姿はその龍と似ているでしょう。』

 

ミラロードの言う通りで、ミラルーツとミラロードはほぼほぼ同一の姿を持つ。それでも、見る人が見れば“これは違う”と強い違和感を感じる程度には違いがある。

 

『ミラルーツ……分かりました。…あなたは、これからどうしますか?』

 

『どう、と言われても……』

 

困ったような声を出す彼女。

 

『……なんとなくだけれど、私は貴女と離れてはいけない気がするの。…私が離れると、私も貴女もすぐに同じ道をたどる。永い年月を生きて自分の名前すらも忘れているとはいえ、目的を達することができずに死ぬのは避けたいわ。』

 

『目的……ですか?』

 

『……忘れてしまったけれど、絶対にやらなくてはいけない……絶対に達さなくてはいけないという感覚だけは覚えているわ。』

 

その頃のミラロードは何もかも忘れていて───言葉と、私が人間の娘であること、自分が永く生きる龍であることしか覚えていなかった。…全部を思い出したのはあの死霊魔術師との戦闘の時。ロンドンから帰ってきたときの清姫さんの嘘探知に引っ掛からなかったのは恐らくそれが理由だね。

 

『貴女は…わたしを消しますか?』

 

『……できれば、それはしたくないわ。この身体は本来貴女のもの。…乗っ取るなんて、本来したくないの。』

 

『……でしたら。一緒に、生きませんか?』

 

『…一緒に、生きる?』

 

私の言葉に疑問の声を上げる彼女。…その言葉が予想外だったらしい。

 

『完全には混ざりあわず、完全には離れず───どちらにも振れていない中立の状態を基本的に維持する。主導権はわたしになるかもしれ───』

 

『いいわよ』

 

『…えっ?』

 

即決具合に驚愕していると、ミラロードは小さくため息をついた。

 

『私も死にたくないもの。私が貴女から離れたら私は死ぬ。同時に貴女から私が離れたら貴女が死ぬ。…共生、するしかないでしょう?利害は一致していると思うの。』

 

『……いいの、ですか?こんな、わたしで……』

 

『…いいのよ。それに……貴女と一緒にいると、いずれ目的も思い出せる気がするわ。』

 

融合した人と融合した龍の共生。それはどちらか一方の意識を消さずに共に生きることを指す。1つの身体に2つの魂を常に置くわけだから難しいけれど、一応方法がないわけではない。

 

『…今のやり方は、どうなっているの?私が知っているのは大昔のやり方だから貴女には合わないと思うわ。』

 

『……“新たな名”を依代に、“共生の楔”を生成。その楔に双方の魔力を乗せて“契約”と成す。』

 

融合、命名、共生、召喚の四重契約(クアッド・エンゲージ)───正直難しいし、双方の真の合意がなければ完成しない契約。でも、私はそれが必要だと思った。何故だかは、分からないけど。

 

『新たな名を依代に……分かったわ。』

 

『……新たな名と言っても…どうしましょう。』

 

『…そうね。姿は人間なのだから、貴女の名前から付ける?私も人間の姿にはなれるけれど…』

 

その言葉を聞いて、少し疑問を感じた。

 

『人間の姿に…なれるんですか?』

 

『えぇ。…思えば、貴女の今の姿はそれに似ているかしら。』

 

私の姿がミラロードの人間の姿に似ている、と言われた。…ならば。

 

『あの……ミラルーツさん。』

 

『何かしら?』

 

『わたしに…名前を付けてくれますか?』

 

『……ええ?』

 

『わたしの今の姿があなたに似ているのなら……多分、同じミラボレアスとなったわたしには……』

 

『……そう。…貴女の名前は?』

 

『…ミルティ……ミルティ・スティア・シュレイドです。』

 

『ミルティ・スティア…ね。今から考えるから時間は貰うけれど……その名前、捨てちゃダメよ。完全な人間には戻れないとしても、絶対に捨てちゃいけないわ。』

 

そう声を発したあと、何かに気が付いたように声を漏らす。

 

『忘れていたわ。…ねぇ、ミルティ』

 

『はい…』

 

『私に名前をくれないかしら?』

 

『え……?』

 

私が疑問気な声を出すとミラロードは苦笑いするかのような声を出した。

 

『人間の姿としての名前はもっていないの。…持っていたとしても忘れているのかもしれないけれど…私が貴女に名前をあげる代わりに……というわけでもないかもしれないけれど、貴女が私に名前をくれないかしら?』

 

『わたしが…人としての名前を……』

 

『私が考える名前とミルティが考える名前で引き換え。…どうかしら?』

 

少し考えてから頷く。

 

『分かりました。…考えて、みます。』

 

そこから少し、名前を決めるための素材集めみたいな会話が続いた。私の元々の姿だったり、私の家系の話だったり…ミラロードの辿ってきた道だったり、ミラロードの姿の話だったり。ミラロードが何故傷だらけだったのかとか、私がなんで弱っていたのかとか。そんな話を…1時間くらいかな。そのくらいしてて、ようやく決まった。この時はミラロードには伝えなかったけど、私のミラボレアスとしての名も。

 

『決まったかしら?』

 

『…はい。』

 

『そう……私から、いいかしら。』

 

『はい。』

 

私が答えるとミラロードが苦笑した。

 

『告げるわね。貴女の新しい名前は───“ミラ・ルーティア・シュレイド”。私がミラルーツ、貴女がミルティ・スティアだから───ミラ・ルーティア。シュレイドは私にとっても貴女にとっても関係が深い言葉よ。』

 

『…ミラ・ルーティア…』

 

その名の由来に私は苦笑した。…似たようなことを、考えていたなんて。

 

『次は貴女の番よ。』

 

『はい。あなたの人としての名前は───“ミラルーナ・ミィテル・シュレイド”。あの時……あなたの姿はフォンロンの塔より見える月にも見えたので、ミラルーナ。ミィテルは…わたしの名前とあなたのミラルーツから部分的に取り出して付けさせていただきました。……あなたが人であるときは……私に“ミラティ”、と呼ばせてください。』

 

『ミラルーナ……そして、ミラティ。えぇ、分かったわ。』

 

『それと……わたしの事も、その……』

 

『…?』

 

『……いえ、やめましょう。…契約が完成したら、お話しします。』

 

『……わかったわ。』

 

ミラロードが同意したのを確認して、複合型魔法陣を足元に展開する。

 

「二紋陣から五紋陣を開門───二紋陣に融合術。三紋陣に命名式。四紋陣に共生楔。五紋陣に契約署名。」

 

説明していなかったけど、複合魔法陣の各魔法陣はどの魔法をどの順番で行うか…また、どの魔法にどれだけの魔力を割り当てるかなんかを示してる。この頃は竜門は使えなかったし五紋陣───五芒星だっけ。それまでしか使えなかったけど。

 

「二紋陣に魂同化融合として正式認証。三紋陣に命名する名を“ミラ・ルーティア・シュレイド”として設定……」

 

一瞬融けそうになるのを、続く高速詠唱で復帰させる。魂同化融合はその名の通り魂を融け合わせるものだから、ミラロードと会ったときと同じ現象が起こる…みたい。

 

「四紋陣に新たなる名“ミラ・ルーティア・シュレイド”を依り代に共生楔を生成。五紋陣にて新たなる契り、誓約を結ぶ。」

 

複合型魔法陣は魔力の消費が多くて元々魔力が多い私でも少しだけふらふらしてきていた。だけど、意識を絶やさずに次の言葉を告げる。

 

「稼働───誓いの言葉を告げる」

 

みんなに言うのは……ちょっと、恥ずかしいんだけど。

 

「───わたし、ミルティ・スティア・シュレイドはミラルーツと魂と身体を同じくする者として、永遠に共に生きることを誓います。」

 

『……』

 

『貴女も……同じように』

 

『え、えぇ……私、ミラルーツはミルティ・スティア・シュレイドと魂を同じくする者として、永遠に共に生きることを誓います。』

 

「『───新たなる名、“ミラ・ルーティア・シュレイド”と共に。永遠に、その生涯を終えるその時まで。』」

 

そうして、正式な契約は成った。……婚姻の儀式、みたいでしょ。実際“魂同化融合契約”は使う人がいなさすぎて喪失術式(ロストスペル)の一種とされているし。術式種別は一応連言術式(スロースペル)かな。ともかく、契約が正式に結ばれてその契約の証───冬木の時にリッカさんに渡した指輪の真作“リングルーティ”が生成された。その指輪を指に嵌めて、息を吐く。

 

『…これで、契約は成りました。』

 

『……結婚、するみたいだったわね。』

 

『言わないでくださいっ!…わたしだって、恥ずかしいんです』

 

『…ごめんなさい。それで…言いかけていたことは何かしら?』

 

『……ええと…その』

 

少し、言い淀んでしまった。契約が正式にされたこともあってか、彼女の人間としての姿が見えていたのもある。…私から見ても美しい女性で、神秘的な雰囲気を持つ白いドレスの少女だったから。こんな人にこんな願いをしてもいいのかと。

 

『早く言いなさいな?』

 

『その……これからも、ミルティと呼んでくれますか?ミラ・ルーティアという名前を貰ったあとですが…その。』

 

『そんなことね……いいわよ。…私も貴女もミラボレアスだから呼び分けで困るもの。』

 

その言葉に心底ほっとして。…それからしばらく、色々と話をしてた。

 

 

それからしばらく時間が経って、私の10回目の誕生日。私はお父様とお母様のいる謁見の間に向かった。…私の出した答えを告げるために。

 

「来たか、ミルティ」

 

「はい、お父様。」

 

「…“答え”を、出したようだな。」

 

無言で頷く。ミラロード……面倒だから彼女の人としての愛称にした“ミラティ”で呼ぶけど、ミラティと話を終えてから誕生日までの時間で色々と考えた。

 

「告げよ。」

 

「はい。…まず。わたしは、融合したミラボレアスと“ミラ・ルーティア・シュレイド”という新たなる名を楔に共生する道を選びました。」

 

「…共生、とな。」

 

「……はい。この王家の血に龍の血を混ぜる無礼、お許しください。」

 

「構わん。……汝が思うままに生きよ」

 

そうは言ってるけど、やっぱり辛そうな表情をしていた。

 

「…次に、私の獣魔としての呼び名ですが…」

 

「決まったか。」

 

「はい。人龍……いえ、“人忌龍(じんきりゅう)”。禁忌の龍と交わりし人……のようなものでどうでしょう。名の本体は、“ミラヒューティア”と。もしもよろしければミラボレアスと融合した者にのみ、この名をお使いください。」

 

「禁忌の龍(ミラボレアス)と交わりし人……か。人忌龍“ミラヒューティア”……そう、か。」

 

以前言ったと思うけど、“人忌龍”の由来は“ミラボレアスにして、人間と混ざりし忌まわしき獣魔”。でも、それは言わなかった。お父様達を困らせたくなかったから。だけど…多分、気づいていたんだと思う。人忌龍の由来にも、ミラヒューティアの由来にも。

 

「……最後に。」

 

「……」

 

「お父様に、お願いがあります」

 

「…なんだ」

 

そこで深呼吸して、精神を整える。…そうでもしないと、折れそうだったから。…私の次の言葉は、お父様達を悲しませるって、わかっていたから。

 

「……わたしを」

 

「………」

 

「わたしを───このシュレイド王家の継承者より、外してください。」

 

「……それは」

 

「獣魔となった───古龍となったわたしに、人間の王家を継ぐ資格はありません。……わ(・)た(・)し(・)を(・)、こ(・)の(・)王(・)家(・)か(・)ら(・)追(・)放(・)し(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)。」

 

ガタン、という音がした。…お母様が手元から杖を落とした音。お父様が杯を手元から落とした音。

 

「……やはり、か。」

 

「……」

 

「お前ならば───その選択をすると思っていた。……国を愛し、民を愛し、この地を愛するお前ならば。自らが害になり得ると考えるのならば……」

 

お前は自らが不幸になるどころか自らの命を自らで絶つことですら厭わぬであろう───そんな言葉が、音にならなかったとしても聞こえてくるようだった。

 

「………」

 

「…よかろう。ミルティ・スティア・シュレイド……いや、ミラ・ルーティア・シュレイド。お前をこの王家より追放する。」

 

「…はい」

 

新たな名を呼ばれたことで私はこの王家の一員ではなくなった…とは、思った。

 

「ただし、条件がある。」

 

「……?」

 

でも、その条件で首を傾げる。

 

「追放するには手続きが面倒だ。総ての準備が揃うまで───そうさな、3年程待たれよ。」

 

「3年……?」

 

妙だと思った。私はすぐにでも出ていくつもりだったし。

 

「第二王女エスティナが王女としての務めを為せるようになるまで、お前が王女としての務めを為せ。」

 

「あ……」

 

そうだった。エスナはまだ何も王女の務めを知らない。お父様やお母様でも務めを為せるとはいえ、それは大変な仕事になる。

 

「よいな?」

 

「……わかり、ました。」

 

「よし。…では下がれ。」

 

お父様の言葉に従って謁見の間を出る。扉が閉まる直前、倒れるような音を聴いた。耳を澄ませてみると、お父様が倒れたみたいだった。…私のせいだとは、わかりきっていた。

 

「……」

 

『ミルティ……』

 

「…大丈夫、です。」

 

ミラティに答えたあと自分の部屋に戻り、そのまま倒れこんで眠った。

 

 

それから、3年。13歳の誕生日───私が王家から追放される日が来た。

 

「それでは、先の契約の通り。ミラ・ルーティア・シュレイド、お前をこの王家より追放する。」

 

「───はい」

 

ギルドの登録名はミラ・ルーティア・シュレイドに変えてあったし、エスナは王女としての務めを果たせるようになった。婚約も破棄したし部屋も全部片付けて、これで思い残すことはなかった。…でも、謁見の間から出ようと動く直前にお父様に声をかけられた。

 

「───して、ミラ・ルーティア・シュレイド。お前に告げることがある。」

 

「?」

 

「ミラ・ルーティア・シュレイド───お前を、“古龍の巫女”に任命する。」

 

「───え?」

 

予想外だった。冬木の時に話したけれど、古龍の巫女というのは古龍達に“誓約の泉巡り”が行われることを伝え、それが見定めてもらうことを依頼する者のこと。必然的に王家に関わる役職だったから。

 

「どう、して……」

 

王家に関わらないために追放されることを望んだのに。人に危害を加えないために追放されることを望んだのに。どうしてこの人は人に関わらせようとしたのか、と。その疑問を感じたのか、お父様は表情を和らげて口を開いた。

 

「……ミルド。いつでも、帰ってきていいんだよ。形式上は追放したが、お前はいつまでも私の娘でこの城はお前の家だ。」

 

「国王、様……」

 

「…国王様、などと。お前の口から聴きたくはないよ。いつものようにお父様と呼んでくれ。」

 

「……っ…!」

 

限界だった。お父様もお母様も、お医者様に弟妹達、果ては民達までいたその謁見の間で。私は号泣してしまった。

 

 

……これが、始まり。私(ミラ・ルーティア・シュレイド)という存在の、始まりのお話。

 

 

 

 

 

…ちょっと、後日の話なんだけど。私はお医者様の元を訪ねた。

 

「こうやってこの場でお話しするのもお久しぶりでございますな、ミルティお嬢様。」

 

「…そうだね。」

 

「……本日はどういったご用件です?」

 

「……お医者様。貴方に、お礼を。」

 

私がそう言うと、お医者様は首を傾げた。

 

「お母様から、私への処方として速攻解除免疫剤を提示してくれたと聞いています。」

 

「……」

 

「───ありがとう、お医者様。貴方がその時私への処方として速攻解除免疫剤を提示してくれなければ、私は今ここにいなかったかもしれない。……例え昔の私にとって超毒を引き起こすかもしれないような劇薬でも、お医者様が提示してくれなければ……」

 

私は今、ここにいないだろう。…本当に、そう思っていた。そのお医者様の表情は少し暗かった。

 

「……あの時の私めの判断が正しかったとは、今でも思っておりませぬ。あの薬は下手すれば当時のミルティお嬢様のお命を奪いかねぬ薬。…償いにもなりませぬが、ミルティお嬢様があの薬で亡くなったならば、私も後を追おうと思っておりました。」

 

ですが、と言葉を続けるお医者様。

 

「ミルティお嬢様は生きてくださいました。産まれながら病に弱い身体に加え、あの劇薬によって命の危機に幾度も曝されながらも、なお。…恨まれ呪われこそすれ、感謝される道理はありませぬ。」

 

「お医者様……」

 

「……そのような目で見ないでくだされ。」

 

「……それでも告げさせて、お医者様。…私を助けてくれて、ありがとう。私に生きる道をくれて、私に生きるための灯りをくれてありがとう。今はルーツの力で普通に生きられるようになったけれど、ルーツと出会うまでに命の火を繋げたのは間違いなくお医者様の力が大きいから。」

 

「…………素直に、受け取っておきましょう。こういうとき、ミルティお嬢様は引きませんからな。」

 

その呆れたような声に私は苦笑いした。




結局1万行った…

裁「記憶抽出でも結構長くなるんだねー」

前編と合わせたかったから書き終わるまでに1週間は溜めたよあっち……さらに竜人語表記化に1週間かけました

運命の選択 聖都の正門と獅子王の裁き

  • どちらも原作通りにする
  • 聖都の正門への対処のみ原作通り
  • 獅子王の裁きへの対処のみ原作通り
  • どちらも原作通りにしない
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