〈艦これ×FGO〉神機残響海戦 七大洋 ~天地人の狭間~ 作:やみなべ
エイプリルフールでちょこっと触れましたが、元々は「ブラック鎮守府に着任したぐだ子提督が人間に不信感を持つ艦娘たちをほだしてイチャコラする話」を書こうとしていたものの、結果的に「第二世代の話」になってしまったのが「Back to the……」だったわけですが、こちらはその後に思い付いた本来書きたかったものに近いお話。
本編のぐだ男提督よりはだいぶ状況はマシ。
あちらがハードモードなのに対し、こちらはノーマルモード? しかし、だとしたら通常の艦これは何になるのだろうか?
私がその人と出会ったのは、大学二年の秋のことだった。
「すみませ~ん。教授に言われてきました、藤丸で~す」
呼び出されたのは大学の応接室。普段関わりのない場所だけに、私も緊張…ちょっとなに、その「ないわ~」って目は。私だって偉い人と会うってなったら緊張くらいするし。ま、まぁ、偉過ぎるくらいになると一周回って砕けるのは否定しないけど……コホン。とにかく、仕立ての良いソファから立ち上がったその人は見上げるほどに高くてね、スーツがはち切れそうなくらい肩幅も胸板も立派だったのが印象的…え、「見慣れてるだろ」って? ひ、久しぶりだったし、あの頃はあんまりそういう人と会う機会なかったんだから仕方ないでしょ。
でもまぁ、怖いとは思わなかったかな。いや、私だからじゃなくて、髪に白いものが混じったその人は穏やかな笑顔で親子ほどに年の離れた私にも礼を尽くしてくれたからね?
「ああ、忙しい中時間を割いてくれてありがとう。はじめまして、藤丸立香さん。お会いできて光栄だ」
「あ、はい……」
握った手は外観を裏切らず力強くて、でも痛くないように加減されててさ…ん、“
とにかく、勧められるまま向かいのソファに座って名刺をもらったんだけど……
「早速だが、私はこういう者だ」
「えっと、“
「うむ。一般の女性には馴染みがないからピンと来ないだろうが、まぁ海上自衛隊ではそれなりの地位と思ってくれればいい」
いやぁ、あとから調べてびっくりしたっけ。それなりっていうけど制服組で上から三番目、いまで言えば“少将”でしょ? 驚いたのなんのって……まぁ、その時は「ほへ~」って感心しただけだったわけだけど。
「あの、そんな人が私みたいな学生になんの御用で……」
「ああ。不躾ながら、今日はあなたに一つ頼みたいことがあって来たんだ」
「頼み、ですか? 私、これといった取り柄もないただの女子大生なんですけど」
「クッ……」
「? えっと、私何か変なこと言いました?」
「……いや、失礼。分かっていて言っているのか、あるいは本気で言っているのか…どちらにせよ、あなたの経歴を考えれば間違っても“取り柄のないただの女性大生”とは言えないよ。その評価は実に不適切極まる、そうではないかな“人類最後のマスター”殿」
流石にね、その言葉を使われたら私も警戒するよ。高校卒業してからはずっとそっち側とは無縁だったから気も緩んでたし、その分ね。
「目つきが変わったね…察しの通り、私は君のキャリアを知っている。なにしろ、末席とはいえこれでも“飛騨家”の者…と言っても君にはわからないか」
「魔術師、ですか」
「私自身は三男坊だがね。家督は兄が継いだから、私自身は魔術師ではないよ」
「……普通、魔術のことを知るのは後継者だけで、そうじゃない人は伏せて育てられるって聞きましたけど、あなたは違うんですね」
「ああ、少し立ち位置が特殊でね。次兄は何も知らないが、私は少しばかりの知識がある。ついでに、取引次第で長兄からいくらかの情報を得ることもできる。まぁ、家業に対する反発もあってこの職を選んだ身だ、あまり近寄りたくはないというのが本音だが」
「取引? 兄弟とはいえ、魔術師が一般人と取引なんてするんですか?」
そう、普通ならそれはあり得ない。なのに取引が成立するって言うことは、それなりの理由がある。
正直、もしかしたら私を実験材料にでもするために、兄である魔術師に指示されたんじゃないかとも思ったんだけど……
「ところで、藤丸さん。今朝は餅を食べたようだね、しかも火鉢とは…この時期には珍しい気もするが、中々に風情がある。機会があれば、私も相伴にあずかりたいものだ」
(この人、なんで……!)
「私の能力…と言うよりは体質かな。ちょっとした過去視の魔眼持ちなのさ。と言っても、家伝の魔術とは相性も良くないし、才覚でも兄を追い落とすほどではなかった。だから、“万が一の時の予備”としてさわりだけ魔術を教わっただけに過ぎないがね。なにより、性に合わなかったというのが大きいか。
そもそもその過去視にしたところで見たいものが見えるわけでもなし、実に使い難い。精々、稀に競争相手の失点を見るのと、兄との取引に使えることがあるくらいさ。ただまぁ、おかげで君という存在を知ることができたわけだから、無用の長物と言うわけでもないがね」
「取引で私のことを知ったんですか?」
「いや、君の存在自体は私の眼が断片的に教えてくれた。その上で、兄と取引したのさ。君という存在が何者なのかを教えて欲しい、とね。女性の身辺を無断で調べるような真似をした非礼については、謝罪するより他にない。申し訳なかった」
そう言って深々と頭を下げたあと、あの人は私の目をまっすぐに見てきた。
「藤丸立香さん、どうかあなたの力を貸してもらえまいか」
「……私のことを知ってるみたいですけど、今の私にできることなんてほとんどありませんよ。基礎魔術だって使えないし、サーヴァントとの契約だって、もう……」
「ああ、すべて承知している。君がかつて“
「いや、その……別に、大層なことを考えてたわけじゃありませんから」
「そうなのかい? いや、それでも受けた恩は恩だ。私が垣間見たあなたの旅路は極めて断片的かつ僅かなものに過ぎないが……藤丸立香さん、私はあなたを尊敬する。人知を超えた困難を前に諦めずに立ち向かい、歩み切ったその精神は得難いものだ。あなたは自分を“ただの人間”と評するのだろうが、苦難の旅を経て培ったその人間力は類稀なもの。そんなあなただからこそ、協力して欲しいと思っている」
ホント、今思い返しても随分と持ち上げてくれたものだけど……あれが始まりだったんだよね。
そのまま、あの当時はまだ箝口令を敷いて隠蔽してた…って言ってもチラホラ噂になりだしてた“深海棲艦”のこととか、現代兵器では対抗できないこととか、色々な話を聞いてさ。
そうして最後に…艦娘の話も聞いた。まだ実戦配備前の実験段階だったけど、期待以上の成果を上げているって。でも、問題があった。同時にそれが、私を呼んだ理由でもあったわけだけど。
「世に言う“空白”を経て間もなく現れだした“
しかし、相手は人型の軍艦とも言うべき存在、その心と知性は我々と遜色ない。いや、むしろ部分的には我々人間以上に個性的ですらある。ある程度成熟した精神を有しながらも、彼女らには圧倒的に“生きる”、そして“人と接する”経験が少ないんだ。経験の乏しさを、知識と精神性で補っている。この危うさを理解している者が、あまりにも少ない。あるいはその“戦力”だけを見て、心と知性を度外視して“兵器”として扱おうとする者もいる。万が一にも彼女らが離反すればどうなるか……だが、私たちには“人あらざる者”とどう接すればいいかわからない」
「そこで私、なんですね」
「こと、“人であって人でないモノ”との交流において、あなたの右に出る者はいないだろう。加えて、各地を転戦する傭兵ですら持ち得ないほどの実戦経験もある。不測の…それこそ人知の及ばぬ事態が起こったとしても、あなたならば落ち着いて対応することができる。あなたにとっては、慣れたものだろう?」
まぁね。“対処”できるかはともかく、錯乱したりせずに“対応”するくらいならできると思うよ。“想定外”とか“予想外”とかには慣れっこだし。まぁ、ハロウィンは例外だけど……。
なにより、艦娘の話を聞いて思っちゃったんだ。
「仰りたいことはわかりました。でも私、自衛隊員でも何でもない一般人ですよ? いきなりその艦娘? って人たちのことをどうこうは……」
「いや、それについては心配いらない。近く、“艦娘を指揮する者”を育成するための“養成校”が設けられる。もちろん、秘密裏にだがね」
「そこに私が?」
「ああ。なにぶん、自衛隊内からだけでは“適性者”が到底足りない。これでは、とても外洋への進出はおろか日本近海の守護すらままならないのだ。そこで、適性を持ち、思想等に問題がない人物には片っ端から声をかけることになる。
いまのところ一期生は自衛隊内から10名、民間から20名を予定している。そこで丸一年をかけて必要な教育を行い、現場に出てもらうことになる」
ああ、うん。わかるわかる、一年って普通に考えれば絶対おかしいよね。でも、それ位状況は切羽詰まってたってこと。日に日に深海棲艦は活性化していくし、情報統制も限界が近かったらしいから。一日でも早く、それでいてある程度の教育を…ってなると、一年が限界だったわけ。どっちの意味でもね。
「一年……」
「無論、通常の教育課程だと一年では到底足らない。そこで、“養成校”では“戦略論”や“戦術論”、“軍事法規”……“指揮官”として必要なものに絞って詰め込んでいくことになる。当然、当人の戦技訓練や部隊訓練などの類はすべてなしだ。そのため民間登用の場合、通常の階級は与えられず“特佐”という特別階級が設けられることになった。一応は佐官待遇だが、おそらくは些か下に見られるのは避けられんだろう」
「元々自衛隊の人も同じ教育を?」
「いや、既に受けている、または身に付けている内容については免除だ。感覚的には、大学のカリキュラム制に近いだろう。まぁ、民間登用組の場合、自分でカリキュラムを組むことはできないも同然だが。
とはいえ、時間が空いたからと言って暇などはない。その分、艦娘運用のための訓練や演習が入ることになる。必然的に、民間登用組との間で差が出ることになるが……」
まぁ、仕方のない部分ではあるよね。時間の有効活用をした結果差が出るって言うのは当然のことなんだしさ。ただまぁ、そのおかげで
厳しい訓練を受けて自衛隊員になった人たちからしたら、あとからきて体力的には楽して士官になろうとしてた私たちは、気分の良い物じゃなかっただろうし。大将も、そうなるって予想がついてたからためらい気味だったんだろうなぁ。
あ、もちろん私もちゃんと一年みっちり叩き込まれたよ。そこでずるしても後々面倒になってただろうし、アレでよかったんだと思う。でもまぁ、基礎的な錬成訓練とかが免除だったのは助かったかなぁ。“こんな身体”だし、変に詮索されたり気を遣われるのも嫌だったからさ。「誇りに思う」って言えるほど骨太じゃないけど、だからって「恥ずかしい」なんて言うつもりもないしね。ただ、周りから見れば気持ちの良い物じゃないのも事実だから。私だって、他人のそれを知ったら色々考えちゃうだろうし。だから、普段は長袖とか手袋で隠すようにしてたってわけ。
え、「実際座学の成績は微妙だった」って? ……ほっといてよ。私が考えてることと理論が微妙に合わないことが偶にあったんだからさぁ。私だって困惑したし、正直「どっちにすればいいの?」ってずっと悩んでたんだよ。
まぁ、演習の時は理論よりそっち優先したけど。
「ようやく勝ち取った日々であり、不条理にも多くのものと引き換えに得た世界でありながら、あなたにはまたも苦労を掛けることになるが……どうか、頼まれてはもらえないだろうか」
「…………私に、できることがあるのなら」
とまぁ、そんな感じで大将…あの頃は海将補だったけど、あの人の頼みに応えることにしたわけ。大学は中退して、大将に推薦される形で養成校に入ってさ。いやぁ、一期生だったからって言うのもあったけど、あのアウェー感は今思い出してもすごいね。同期の生え抜き組の大半から全身から“一緒にするな”オーラ出てたし、20人いるはずの外様組が実際には10人しかいないし、教官も周りの人からも「なんでこんな奴らに」って空気がヒシヒシとね。中にはさ、意志はあっても適性がないせいで養成校に入れなくって、そのことで「なんであなたみたいな人にできて私が……!」って詰られたりもしたっけ。そうそう、良くうちを視察に来る“キャリアウーマン”って感じの憲兵さん。そりゃ不本意なのはわかるけど、私たちに当たられてもねぇ……。
その上、授業はどんどん進んでいくからついていけない人もいて、その度に「こんなこともわからないのか」って感じの目で見られるし。泣いたり落ち込んだりしてる同期を励ますのが日課になってたなぁ。
え? 私? 私は別に……昔取った杵柄があっても座学は「中の上」だったし、それでも突っかかってくる人は演習で黙らせたから。
まぁ、その度に生え抜き組からの敵意が増してったんだけど……。
「すまん、藤丸候補生。せっかく色々教えてくれたって言うのに……」
「ふんっ。所詮は覚悟も意思もなくエサに釣られてきた連中だ、読みも指示もまるでなっちゃいない! そんなていたらくで国と国民を守れると思っているのか!」
「ホントだよな。これだから外様の連中は」
「まったくだ。ここは護国の刃を研ぐための場所だというのに、遊び気分でいられては困る」
「仕方がないさ。あの兵器どもと同じで、使い道があるから使うだけの連中だ。期待するだけ無駄というものだろう」
「……ふ~ん。その割には、艦娘指揮演習で私に目下三連敗中なのはどこの誰でしたっけ?」
「「「貴様っ!」」」
ああ、うん。イラっと来て煽ったのも原因ではあるんだよね。誇りを持つのは良いんだけど、偉そうにするのは違うって言うかさ……。おかげで、今も生え抜き組の提督からは嫌われてるんだよねぇ…私。
ん? そうだね。もちろんそうじゃない人もいるよ。同期の首席で、横須賀で第一艦隊張ってる
(……う~ん、流石は主席。前あった甘さがどんどんなくなっていく。前回の敗因をちゃんと分析して、対策してきてるってことか…他の人たちなんて「どうせマグレ」「セオリーにない運用が偶々ハマっただけ」とか言ってる中で、この人はちゃんと私の意図とか狙いを考察してる。これは、勝つのがまた一段と大変になるか)
何しろあの人、初めての演習の時から私のこと侮ったりしてなかったんだよ?
強敵とは思ってなかっただろうけど、それでも手堅く堅実に勝とうとしてたからさ。ただまぁ……優秀ではあったけどあの頃はまだまだ圧倒的に経験不足って言うか、理論が先行してるタイプだったんだよねぇ。
(でも、艦隊の動きが硬いって言うか、理屈っぽいのは相変わらずか。実戦経験なんてほとんどないんだから当然なんだろうけど、初手と迷った時にセオリーばっかりを優先するのはやめた方がいいと思うなぁ)
(ここで空母を単独行動? 何を考えてるんだ!)
(あ、ま~た理屈に合わないことに混乱してる。ダメだよ、もちょっと柔軟に行かないと。合理主義は良いけどさ、そのために“非合理を排する”から視野が狭まる。こんなの、全然“奇策”なんて呼べるものじゃないんだから)
そんな感じにね、あの手この手で色々やったわけ。なんとなくだけど、カエサルたちの気持ちが分かったかなぁ。
あの頃は「カエサル相手とかムリムリムリムリカタツムリ!?」「本気で来られたら一手打つ前から詰むって!」「なんで勝負になってるの、ねぇなんで? ワケワカメなんですけどぉ!?」「これが、これが大人の接待か」って思ったし、実際カエサルにとって私に勝つなんてそれこそ朝飯前、赤ちゃんの手をひねるより簡単なこと。
アレってさ、所謂“指導碁”みたいなものだったんだよね。“こういう時はこうしろよ”“こう来ても良い様にここに打っておけよ”って、理論じゃなくて実地で頭と体に叩き込む…そのための聖杯戦線だったわけ。カエサルたちの戦術論とかを教えられても、凡人の私じゃ飲み込めないし消化できない、血肉にするなんてもっての他。そもそも、頭でわかってるだけじゃ意味がない。
だからこそ、私にも身に着けられる範囲のことを全身に叩き込もうとしたんだろうなぁ。
で、養成校で演習やってるとさ、ついつい「こうすればいいのにな」「ああすればいいのにな」って思っちゃうんだよ。だからつい、ね。今だったら……まぁ普通にやったら負けるんじゃない? 私よりも頭のいい人なんて一杯いたし、私が演習成績トップだったのも経験とみんなに教わったアレコレがあったからだもん。
……うん、座学が微妙なのもあって次席で卒業した時も、正直「いいのかなぁ?」って思ったものだよ。
え、演習手伝ってくれた艦娘からは人気だった? ド田舎に配属が決まってからも、転属希望が結構あったと。
へぇ、そうなんだ。って言っても、演習の前に作戦説明がてらに差し入れ持って行って、終わったら意見聞きに行くついでにお茶してただけなんだけどなぁ。
は? 他の人はやってなかった? 一方的に作戦を指示するだけで、説明も相談もなし、終わったらそれっきり……なにやってんの、あの人たち。現場の意見とか超重要なのに……はぁ、教官からの指導と講評だけ、もったいない。
でまぁ、とにかく演習成績だけは良かったから、それを口実に大将が艦隊を一つ任せてくれたわけ。他だったら、先行して運営されてたところで艦隊を持つのが普通だったんだよ。
まぁ、あとで知ったんだけど、私の場合受け入れてくれる人自体がいなかったから、ワケアリの所に放り込むしかなかったってのもあったらしいんだけど。
そ。それがこの艦隊の始まり。戦果を挙げて、その度に艦隊の規模を拡大して、それに伴って配置も変わって……気付けば佐世保鎮守府丸々預かることになってるんだから、人生ってわからないものだよね。
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「で、此処がそうなの、叢雲」
「そうよ。アンタが着任する“大湊警備府”の“第7分屯地”。何か文句でもあるわけ?」
「文句ってわけじゃないけど……寂れてない?」
そう、実際この分屯地は大いに寂れていた。ぼろいとか古いとかではなく、人の気配がないというか、活気がないというか……とにかく物寂しい。養成校時代には鎮守府や基地の見学に行き、現場の雰囲気を体感したり、あるいは数週間にわたって見習いとして勤めたりもした。
その時のことを基準に考えれば、あまりにも静かすぎる。いくら小規模とはいえ、人の声も、艦娘たちの訓練の気配も、工廠の騒音すらしないのはおかしい。それどころか、今日着任するという連絡があったはずにも拘らず、分屯地の門にはだれも来ていない。
そして、三ヶ月前から“円滑な連携のため”という名目で組むことになった初期艦殿は、素知らぬ顔で目を逸らしておられる。
「…………………………………気のせいでしょ」
「叢雲? ねぇ、普段ハキハキしてるのにどうしてこんな時だけ目を逸らすのかな、ねぇってば」
「ほら、ボーッとしてないで早くいくわよ。それとも酸素魚雷でも食らいたいのかしら!」
「それまだ装備してない奴!?」
初めは気位の高さもあって余所余所しかった叢雲だが、三ヶ月の間にすっかり気安い仲になった。こんな軽口を叩き合えるくらいには……得物の槍を構えているのは、彼女一流の冗談だろう。
とりあえず、追い立てられるままに分屯地の敷地に入ったのだが……その様はまるでゴーストタウンのようだった。
「壊れてるわけでも汚れてるわけでもないけど…だからこそかえって不気味」
「ええ、まさかここまでとは……」
「やっぱり何か知ってるでしょ」
「……そうね。海将補…いまは“海軍”に再編されて少将だったわね。少し話は聞いていたのだけど、正直信じられなかったというか……」
以前は偶に会ったりもしていたが、それが原因で「海将補を身体で誑し込んだ」「“女”で地位を買おうとしている」などと噂されだしたことを機に、連絡や相談などは叢雲を介するようになった。元々、彼女は少将の息のかかった艦娘であり、そう言った事態を見越しての采配だったようだが。
とそこで、茶色の髪をセミロングにしたライトグリーンの制服を身に着けた後姿を発見する。
「あ、第一村人発見! すみませーん、ちょっといいですかー?」
「あ、こらっ! 待ちなさい! 気を抜いてると……!」
“ジャキ”
「なに、あんた。勝手に入り込んで…撃ってもいいわよね?」
「待って待って待って!? お願い話を聞いてプリーズ!?」
いきなり単装砲の砲口を突き付けられホールドアップ。艦娘は個性的な性格をした個体も少なくはなく、中には人間に対し非好意的な者もいることは知っていたが、まさかここまでとは予想外。古今東西の曲者たちを相手にしてきたのも昔の話、久しぶりの塩過ぎる対応に若干の冷や汗を滲ませている。
「アンタ、軽巡の球磨型4番艦“大井”ね」
「そう言うあなたは、確か特型駆逐艦…だったかしら?」
「ええ。吹雪型5番艦の叢雲よ。で、それが今日付で着任した」
「藤丸立香特佐です。えっと、よろしく?」
「チッ」
(なんか舌打ちされた!? かわいい娘だけど、結構口が悪い感じ?)
そんな感想を抱くも、大井の方は渋々と言った様子で手にした単装砲を降ろす。
どうやら、事情が分かった以上は攻撃的な姿勢を貫くわけにはいかないと思ったらしい。逆に言えば、叢雲が間に入らなかったらどうなっていたか……あんまり考えたくない。あの目には、割と本気の敵意と言うか軽蔑が滲んでいた。
「ご案内します。どうぞこちらへ」
それまでとうってかわって朗らかに言う大井だが、直前までの様子を知っていると本心からのものとは思えない。無論、相手もわかっていてやっているのだろう。
「嫌われたものね」
「私、まだ何もやってないんだけど……」
「アンタがやってなくても、アンタの同類がやったんでしょ」
「ああ、そういう?」
色々気になるところではあるが、叢雲も別に事情については教えてくれない。彼女との付き合いも既に三ヶ月、おおよそ何を考えているかは予想がつく。「自分の目と耳で確かめなさい」と言ったところなのだろう。実際、ここまで来てしまえば大差はない。あるいは、予備知識がない方がいいという可能性もある。叢雲が持つ情報や印象と、直接見聞きした際に湧き上がるものが同じとは限らないのだから。
そうして大井に案内されたのは、艦隊の中枢とも言うべき「執務室」だった。
「どうぞ、こちらでお待ちください。いま、他の娘たちを呼んできます」
“バタン”
「…………………メッチャ埃っぽいんですけど?」
「とりあえず、待っている間に掃除かしらね。司令官、窓開けてちょうだい。私は掃除道具を探すから」
「は~い……前途多難だなぁ、これは」
「……………………………………アンタなら、それでも何とかするんでしょ」
「あれ、もしかして期待されてる?」
「ばーか」
初めのうちこそ厳しい態度をとっていた叢雲だったが、しばらく経つと厳しいながらも彼女なりの配慮や信頼を見せてくれるようになった。気安い態度をとるようになったのもこの頃からだ。
特別何か親しくなるようなキッカケがあったわけではないが、それでも叢雲は言外に「アンタならできるでしょ」と自らの司令官の意思と決定を尊重してくれる。苦言は呈すし叱責もする、だが最後には「アンタが決めたことなら、やり遂げて見せなさい」と背中を押してくれる。そして、叢雲自身もまた司令官の決定を実現するために全力を尽くす。
そこまでされてしまったら、信頼に応えたいと思うではないか。
そのまま無言で掃除に専念することしばし。やがて、機械的なノックの音と共に彼女たちはやってきた。
「お待たせしました、提督。当艦隊の全艦娘、集合いたしました」
言葉こそ丁寧で声色もかわいらしく親しみがあるように聞こえるが、その実どこまでも平坦で棒読みだ。
大井を皮切りに残す艦娘たちも敬礼するが、一様に提督に向けられる目は非好意的だ。猜疑の目を向ける者、怯えを見せる者、中には明確な敵意を孕んでいる者もいる。
だが、当の提督はそれらをどこ吹く風と受け流し、一番の疑問点を口にする。
「え、あなた達だけ?」
「なによ、何か文句でもあるわけこのクズ!」
「か、霞ちゃん……」
「そうですね、霞。司令に対し、そのような無礼は許されません」
噛み付く“霞”とおどおどしつつ窘めようとする“潮”、そして冷静に指摘しながらも油断なく指揮官から視線を切らない不知火。加えて、大井ともう一人も提督を警戒している。
「申し訳ありません、提督。彼女には、私からよく言っておきますので……どうか、叱責は私に」
「あ、いや、別にそれくらい気にしないでいいから」
「そう、ですか」
「神通さん……」
「久しぶりですね、叢雲。……この姿では初めまして、でしょうか。でも、話はまたあとで」
「……はい」
「それにしても軽巡2に駆逐3……叢雲も含めれば一個艦隊としての数は揃ってるけど」
「戦力不足も甚だしいわね。この有様じゃ近海の警備だってままならないでしょうに」
気を取り直して現状を確認するが、かなり危うい状況だ。いくらここが小さな分屯地で、メインは大湊警備府の艦隊とは言え、万が一にも本格的に攻め込まれれば守り切るのは難しいだろう。
というか、それなりの期間に渡って運営されてきたにしては規模が小さすぎる。運営を続ければ艦娘は増えていくはずにも拘らず、此処にはこの5名しかいないという。そんな状態で、今までどうやってやりくりしてきたというのか。
「というか、確かどの艦隊でも明石と大淀がいるんじゃなかったっけ?」
「そうね。大淀はまだしも、工廠を預かる明石抜きでの艦隊運営なんて……」
「その点については、私からご説明いたします」
一歩前に出た神通が言うところによると、この艦隊を預かっていた提督は艦娘たちを“兵器”として扱い、彼女らの意見や進言をすべて「余計なもの」として切って捨てたらしい。そんなワンマン運営でも上手くいっているのなら問題はなかった。だが、実際には資材管理も艦隊運用も杜撰の一言。大型艦建造のために資材を浪費し、艦娘を“消耗品”として捉え無策にぶつける。
そんな扱いを受ければ、艦娘たちとて黙ってはいられない。見かねて進言や反抗に出た神通と大井、続いて不知火に霞は営倉送りにされた。それも、短期ではなく長期にわたって。彼女たちが営倉から出てきたのは、つい最近のことだ。
その間、他の艦娘たちも苦言を呈するようになると、前任者は艦娘たちの反抗を恐れた。適当な名目をつけて大湊警備府に逃げ込み、警備府の責任者に訴えたのだ。
“あそこは反乱分子の巣窟、このまま放置するのは危険である”
“急ぎ艦隊を解散し、結束できぬよう解体すべきだ”
もちろん、艦娘たちにも言い分はある。しかし、人間と艦娘どちらの言い分を聞くかと言えば……。結果、この分屯地には営倉に押し込められて忘れ去られた艦娘だけが残された。
例外は、気弱さ故に何も言うことができず、また容姿が気に入られたこともあり連れて行かれた潮だけ。とはいえ、如何に気弱な彼女でもとてもではないがそんな指揮官の下にはいられない。しかし、解体覚悟で進言したところで受け入れられないのは目に見えている。が、そこで飛騨少将が視察に訪れた。彼は潮の様子に違和感を覚え話を聞き……分屯地に戻ることを正式に許可。神通達は潮の手で解放され、そこへ彼が手を回した提督が着任したわけである。
「……………………なるほど、寂れているわけね」
「私、なんにも聞いてないんだけど……」
「ま、つまりあのオッサンに面倒ごとまとめて押し付けられたってことよ」
「知ってたんなら教えてよ、叢雲~」
「仕方ないでしょ。アンタの場合、変なところで下積みするよりこうした方がよさそうだったし」
とはいえ、これでは艦娘たちが猜疑的だったり警戒したりするのも当然だ。彼女たちは、根本的に人間というものを信用していない。例外は、曲がりなりにも飛騨少将に助けられた潮くらいだろう。
「それで、どうなさいますか?」
「え?」
「転属を希望されるのなら早いうちが良いでしょう。つい最近までここには“戦力がない”ことになっていたので、他の艦隊が哨戒してくれていました。ですが、私たちが解放されたことでそれもなくなるでしょう。
遠からず、深海棲艦にも動きがあるはずです。その時、提督の身の安全は保証できません。提督も、私たちのことを信用できないでしょう。ですから……」
「なるほど…なら、急いで対策を講じないといけないか」
「は?」
予想外の答えに、神通をはじめ艦娘たちの目が点になる。拒否する…ならまだ予想の範疇だったが、それすらすっ飛ばして話を進めていることに驚きを隠せない。
だが、提督も叢雲も皆の反応を他所にどんどん話を進めていく。
「叢雲、とりあえず舞鶴に連絡とって。あそこ確か、少将と付き合いのある人いたよね」
「資材の融通と人員の派遣ね。でも、借りを作ることになるわよ。良いの、勝手にやって」
「問題ないんじゃない? そもそも最低限の人と物が揃わないと話にならないし、それで怒られるなら甘んじて怒られるよ」
第一、大淀も明石も寄越さなかったのは少将の方だ。分かっててやっているのだから、提督の対応位予想済みだろう。少将が便宜を図り過ぎている、として問題にしようとする勢力があるとの話もある。だからこそ、自力で解決させようとしているのやもしれない。その場合、全ての借りは提督に降りかかってくるわけだが…いたし方あるまい。
「それじゃ、改めて…本日付で第七分屯地に着任した藤丸立香特佐です、よろしく」
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「え、他にも誰かいるの?」
「その…はい。雲龍型三番艦の“葛城”さんが……」
「空母じゃない!? でも、その割には姿を見ないわね。どういうわけ?」
「葛城だったら今は営倉にいますよ」
「は? ちょっと大井。確か、潮が解放したんじゃないの?」
「鍵は開いているわ。でも、出るかどうかは本人の意思次第でしょ」
「出たくない理由がある…ってことか」
(……あの娘が来たまでは良かった。でも、あの娘は空母でありながら艦載機を持っていなかった。だから、前任は彼女を“欠陥空母”と呼んで冷遇した。それがキッカケになって正規空母を狙って建造を繰り返し、資材を浪費するように……そのことに責任を感じていたのは知っていた。だけど、私たちは何もできなかった。せめて艦隊のためにできることをと進言したけど、制裁の名のもとに暴行を受けて営倉送り。挙句の果てに無茶な進軍で仲間たちが沈んでいく。
そりゃ、引き籠りたくなるのも当然よね。提督、あなたに彼女を立ち直らせることができますか? もしできたのなら、その時は……少しくらい、信じても……)
・
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「ねぇ、葛城。聞こえてる? まぁ、聞こえてなくても勝手に話すんだけど」
「……」
「私さ、君たちの指揮官になるって決めてたくさん勉強したんだ。艦隊の運用とか、運営とか…でも、一番楽しかったのは君たちのことを知ることだった。色々な来歴の娘たちがいて、会いたいって気持ちがどんどん強くなった。その中でも特に会いたかった娘がいる。例えば、雷と電。二人ってさ、敵艦の生存者を助けたことがあるんでしょ?
それってさ、凄いことだと思う。敵を倒すだけじゃなくて、誰かを…それも敵だった人を助けられるって言うのは、本当に凄いことだよ。実際に会ってみたらちっちゃくて可愛くて…でも、その中に誰にも負けない強さと優しさがあるのが分かった。きっと、一緒に戦えたら凄く心強いんだろうね」
(そう……みんな、みんなすごい人たちばっかり。だけど、私は…違う。昔は生まれるのが遅すぎた、今は水上砲台としても力不足。瑞鶴先輩にも、他の正規空母にも全然及ばない……)
「それとね、君にも同じくらい会いたかった」
(わた、し? 嘘、そんなはず……)
「葛城ってさ、戦後は復員船として働いたんでしょ? それを知った時から、ずっと言いたかったんだ。
………………ありがとう、葛城。君たちが頑張ってくれたから、たくさんの人が帰ってくることができた。その中には、私の血縁だったり、知り合いに縁のある人もいたかもしれない。今の日本があるのは、私が今日まで生きて来れたのは、葛城や鳳翔、鹿島に神風…みんなのおかげだよ。だから、ありがとう」
(どう、して…そんなこと言うの? 私は艦載機も持たない役立たずの空母で、昔も大切な時に間にあわなかったのに……)
「ねぇ、葛城。私は、君と一緒に戦いたい。君がいてくれれば、きっとどんなに厳しい戦場からだってみんな帰って来られる。だって君は、正規空母で、復員船の“葛城”なんだから。こんなに凄いことってそうはないよ」
(………………………本当に、そう? 私は、その言葉を、信じてもいいの?)
「…………………ごめん。これ全部、私の勝手な希望だ。あと、嫉妬もちょっとあるかな?」
(嫉妬? どうして、
「戦う力があって、みんなを守れて、たくさんの人を包み込んで連れて帰る……私が欲しいものを、私がやりたいことを、君はできる。それが羨ましくて、少しだけ妬ましく思っちゃうんだ。だからこそ、こんなところで燻っていて欲しくない…ごめん、やっぱり私の我儘だ。
……ねぇ葛城、今すぐじゃなくてもいい。いつか……少しだけでいいから、力を貸してくれると、嬉しいな」
「……」
「……それじゃ、また来るね」
“キィ……バタン”
「……………………………ぅ、うぅ…ズルいよ、あんな言い方、ズルい。……私だって、戦いたい。みんなと一緒に、みんなを守って…戦い、たいよぉ……。雲龍姉、天城姉、瑞鶴先輩…私、どうしたら……」
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「いやぁ、負けた負けた」
「ちょっとこのクズ! 演習で負けて何笑ってんのよ! ホンットに迷惑だわ!」
「不知火も同感です。負けたというのに、悔しいと思わないのですか?」
「だいたいアンタ、今まで演習で負けたことがなかったんじゃないの!」
「養成校の話を持ち出されてもなぁ…それに、別に演習で負けたくらいで……」
「そんな弱腰でどうすんのよ!」
「う~ん……というか、私としてはこれからもガンガン負けていくつもりなんだけど」
「「はぁっ!?」」
「いや、別に負けたくて負けるわけじゃないよ? ただ、今のうちの戦力だと戦艦とか空母で固められると、ねぇ?」
「それはっ……そうかも、しれませんが」
「不知火! 何アンタまで弱気になって……」
「ですが、実際に今の我々では射程内に捉えることすら厳しいのが実情です」
「くっ…情けないったらないわ。元とはいえ華の二水戦メンバーがこれだけいてこの体たらくだなんて……」
「さ、さっさと戻って夜通し反省会だ~」
「夜通し?」
「反省会?」
「うん。負けはしたけど、だからこそ足りないこととか必要なことが見えてきた。みんなで徹底的に洗い出せば、次はもっといい勝負ができる。特に戦術面、色々試してもらったけどみんなの所感はどう? そこらへん特に聞きたいんだけど」
「……いくつか、手応えのあるものもありました」
「まったく、何をとっかえひっかえやらせてるのかと思えば…確かにそういうのもあったけど、ほとんどが全然役に立たなかったのよ!」
「あ、その辺の話も聞きたいな。どうダメだったのか分かれば、そこんとこ改善して次で試したいし」
「ダメだったものも、ですか?」
「当然でしょ? 一回や二回の失敗じゃ諦めるには早いよ。もしかしたら、何度も試して改善していくうちにすっごい作戦とかできるかもしれないし。まぁ、流石にうまくいくまでやる…とまでは言わないけどね。
試せるだけ試して思う存分失敗すればいいんだよ、所詮演習なんだからさ」
「「……」」
「どうかした、二人とも」
(ああ、この人は…本当の意味で勝つために演習をしているんですね)
(……ふん。いいわよ、なら思う存分ダメ出しさせてもらおうじゃないの!)
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“バンッ!!!
「ああ、腹立つ!!」
「大井、扉は静かに開けなさいよ」
「叢雲……アンタ、知ってたわね!」
「なにがよ」
「提督の評価よ! アイツら、散々好き放題に行ってくれたわよ。“身体で地位を買った商売女”だの、“定石も知らない素人”だの……」
「ああ、そういう話? で、それがどうかしたわけ」
「どうしたって、アンタは悔しくないの! 仮にも、私たちの提督なのよ! それを、あんな……」
「意外ね」
「……なにがよ」
「アンタ、アイツのことむしろ嫌ってたじゃない。まぁ、正確には“人間を”なんでしょうけど」
「それは……」
「それがまさか、司令官の悪口に怒るなんて…なに、実は結構気に入ってる?」
「魚雷撃つわよ」
「怖い怖い……で、知ってたかどうかって言うのなら、もちろん知ってたわ。ついでに、司令官もね」
「見返してやろうと思わないの?」
「言いたい奴には言わせておけばいいのよ。どうせ、こっちが何言ったって真面目に取り合ったりしないんだから」
「だとしても……!」
「それに、司令官に言わせれば“勘違いも甚だしい”らしいわよ」
「は、勘違い?」
「“身体で買った地位”なんて大間違い。そんなもので買えるほど、安い場所じゃないのに…ですって。アイツが怒るとしたら、そっちの方でしょうね」
「……なに、それ。自分じゃなくて、私たちのためだって言うの……?」
「そういう奴よ。いつだってアイツは……自分が悪く言われる分には笑って流すけど、身内を貶された時こそ本気で怒る」
「やめてよ…アイツの身内になったつもりはないわ」
「アンタになくても、アイツにとっては十分身内よ。だってアンタ、アイツの手を取ったでしょ」
「それは……! 一応戦果は挙げたし、最低限の礼儀、それだけよ……」
「それだけで十分よ。アイツにとっては、善も悪も関係ない…あ、いや、そりゃ悪事を働けば叱るし、善行を積むなら喜びはするけど。でも、私たちの在り方や本質がどんなものであれ、差し出した手を取ってくれた相手を見捨てることだけはしない。そのことは、覚えておきなさい」
「たかだか数ヶ月の付き合いの割に、分かったようなことを言うのね」
「…………数ヶ月。そうね、濃すぎるものを見せられて、とてもそうは思えないけど」
「? ? ?」
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「ん~、神通~」
「ひゃんっ!? て、提督! あ、あの何を……」
「眠い、おんぶ~」
「わ、分かりました、分かりましたから! ですから後ろから抱き締めないでください! うなじに鼻筋を擦りつけないでください! 私、まだシャワー浴びてなくて、きっと汗の匂いが……」
「ん~、神通良い匂いする~」
「は、はわわわわわわ……!」
「あの、提督? ちょっとご相談が……」
「潮! よかった、お願いします助け……」
「ご、ごめんなさい! お邪魔しました――――――――――っ!!」
・
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「さて、久しぶりの再会を祝して乾杯と行こうじゃないか」
「はぁ、どうも」
「ふむ、せっかく良い料亭を押さえたというのに、好みではなかったかな?」
「……こっちはまだまだ立て直し中で忙しいんですから、呼び出すのはやめて欲しいんですけどねぇ。私は今更ですけど、また何か言われますよ」
「ハハハハ、なに、それこそ気にすることではないよ。だが…そうだな、以降は気を付けよう。詫びではないが、支払いは私が持つ。遠慮はいらないぞ」
「普通に払えるんで別に有り難味ないですけどね。多分、総資産私の方が上ですし」
「……そうだった。君、地味にトンデモナイ大金持ちだったな」
「まぁ、それはそれとして遠慮なく奢られますが。あ、一番高いの片っ端からお願いしま~す」
「……君、時々凄まじく図太いな。少しは遠慮というものは無いのかね? 私の財布が轟沈してしまうぞ」
「する時はするし、しない時はしないことにしてます。メリハリ大事、サーヴァントと付き合うコツの一つですよ。時には大胆に行かないと、一方的に流されちゃいますから」
「なるほど、そういうものか……だが、そういう割には彼女たちとは一線を引いているようじゃないか。
聞いているよ、風呂もシャワーも一緒に入らないそうじゃないか。一部から、信用されていないから無防備なところを晒さないのでは…という声が上がっているそうだよ」
「ああ、もしもしケンペイサン? うちの上司がたったいまセクハラ働きやがったんで……」
「待て待て待て待て待ちなさい待ってください、お願いします!」
「少将~…それ、割と本気でセクハラですよ? 次はないので気を付けてくださいね」
「う、うむ。だが、それはそれとして彼女らの不信感は由々しき問題ではないかね?」
「……一緒に入るのは別にいいんですけどね。私ほら、こんな身体じゃないですか」
“プチプチ…ペロッ”←シャツのボタンを外して首筋から肩を露に
「……年頃の娘が、あまり肌を晒すものではないと思うがね」
「襲ったら本当に通報しますから♪ という冗談はさておき」
「冗談なんだな? 本当に冗談だよね?」
「お偉いさんなんですからもっとどっしり構えてくださいよ」
「しかし、彼女たちも戦場に立つ身だ。今更、傷の一つや二つ気にはせんだろう」
「……あの娘たちの場合、大抵のキズは治って痕も残りませんから。生傷ならともかく、古傷って逆に見ることがないんですよ。特に、人間がどれくらいの傷を負うと危ないのかよくわかってないみたいで、軽い怪我でも動揺するみたいですから。こんなの見たら、泣いちゃうかもしれません」
「…………………」
「あの娘たちに泣かれるのは…ちょっと、堪えます」
「そうか……しかし、時間の問題ではないかな?」
「その時間で、何かしら考えますよ」
「間に合えばいいがね」
「言わないでくださいよ。そういうこと言うと、ホントになりそうで……」
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「こちら遠征隊、旗艦“叢雲”! 葛城、聞こえる!」
「叢雲? どうしたの、そんな慌てて……」
「輸送任務中に敵艦載機を発見、多分…いいえ、確実にこっちも見つかった」
「っ! わ、わかった。すぐに神通と大井を……」
「やめなさいっ! 遠目だったから艦上機かまではわからなかったけど、艦載機がいた以上は空母か航巡、場合によっては航空戦艦がいる。そんなの相手にうちの戦力じゃ焼け石に水よ。
それよりも母港から離れる航路を取って何とか引き離すから、せめてそこだけでも……」
「そんな……せめて、周辺艦隊に救援要請を……」
(救援…寄越してくれるかしらね。司令官のおかげで多少は信用回復してきたけど、それでも腫れもの扱いだし……)
「葛城」
「提督? 大変なの、急いで救援を向かわせないと……」
「……叢雲、あとどれくらい猶予があると思う?」
「今のところ艦載機が追いかけてくる様子はないけど、時間の問題でしょうね。多分、そう時間はないわ」
「……分かった。葛城、地図を」
「う、うん!」
「叢雲、現在地と進行方向を教えて」
「なにか、危ない橋を渡るつもりじゃないでしょうね?」
「……少将には、少し骨を折ってもらうことになるだろうね」
「………………………………無茶すんじゃないわよ」
「死なない程度にね」
「……ったく、仕様のない司令官ね、ホント」
「提督、持ってきたわ!」
「提督!」
「私たちにもご命令を!」
「ありがと。それじゃ、目的地を指示するから何とかそこまで持ちこたえて、対応は臨機応変に。とにかく、そこまでたどり着くことを最優先にね」
「任せなさい。しっかり作戦は立てるし内容も狙いも細かく共有する癖に、実施段階になったら“臨機応変”が常だったおかげで、柔軟に対応するのは慣れっこよ」
「よし。あと、大井と神通は目的地に先回り。遠征隊が到着したら援護を」
「「はい!」」
「あと、葛城」
「な、なに、なんでも言って!」
「遠征隊の状況報告を逐次二人に伝えてあげて、必要なら合流地点の変更もね」
「わ、わかった! あれ、でも提督は?」
「私はやることがあるから、あとよろ~」
「えっ、ちょっと!?」
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「はぁ? 提督がどっか行ったですって!? 何やってんのよアイツ!」
「落ち着いて大井。葛城、提督はなんと?」
「えっと、やることがあるって……」
「……まさか、逃げたんじゃないでしょうね」
「そんなこと……」
「そうじゃなかったらこのタイミングでどうしていなくなるのよ。せっかく、少しは信じてもいいかと思ったのに……」
(提督、本当に逃げたんですか? 葛城を立ち直らせて、私たちに心砕いてくださったのは、全て嘘だったんですか……?)
“カチャ”
「その刀……」
「え?」
「そう言えば、提督からの預かりものなのよね」
「え、ええ。敵と接近した時は、砲や魚雷より取り回しが良いだろうと」
「天龍型とかは近接用の装備もあるらしいけど、人間の刀がどこまで役に立つのかしらね」
「……わからない。でも……私は信じたい。提督のことも、この子のことも」
「神通さん! 大井!」
「来たわよ、神通!」
(……そう、今はそんな場合じゃない。目の前のことを、できることをしないと……)
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「どうして…どうして私はこんなところにいるの? また私は、大事な時に、何も……」
「よぉ、ちょいと聞きたいんだが、合流地点ってのはここであってるかい?」
「え、ええ…って、だれあなた!?」
「なぁに、通りすがりのしがない弓兵だ。しかし……ふむ、良い場所だ。ちょいと高台に登れば狙いやすそうだな。流石、俺の好みそうなことをよくわかってる」
「なにを、言ってるの?」
「悪いが時間がない。とりあえず、こっちは任された。お前さんは急いで地下室に行ってくれるか? そこで一人ぶっ倒れてるからよ、介抱してくれ」
「え? え?」
「そいじゃ、頼んだぜ!」
・
・
・
「み、みんな、怪我はない?」
「無傷とはいきませんが、沈むほどではありません。霞は?」
「こっちもよ。って言うか、今のなに? いきなり敵の艦載機が軒並み撃ち落とされたわよ。どっかの空母でも救援に来たとか?」
「えっと、空母の人たちは弓で艦載機を飛ばすけど、矢そのもので戦ったりはしない、んじゃないかな?」
「……それもそうね」
「だとしたら、今のはいったい…叢雲?」
「急いで戻るわよ! 葛城! 聞こえてる葛城! 応答しなさい!」
「ちょっ、アンタどうしたのよ!」
「叢雲ちゃん!」
「あの矢、間違いない。だとしたら、司令官が危ない!」
「あーもう! あとでちゃんと説明しなさいよ!!」
(さて、間に合ったようだが…やっぱ、無理な現界じゃこのあたりが限度か。悪ぃなマスター、しっかりやれよ)
・
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・
「葛城! 司令官は……」
「叢雲ぉ…提督が、提督がぁ……」
“ヒュー、ヒュー……”
「まさに虫の息ってわけね…まったく、だから無茶するなって言ったのに」
「さっき、少しだけど心臓も止まっちゃって、私、私どうしたら……」
「叢雲! いい加減説明を……」
「提督!? いったい何が……」
「大井、医務室に行って有りっ丈の栄養剤と点滴引っ張り出して! 神通さんはこいつを運んで、急がないと本当に死ぬわよ!」
・
・
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「「「「……」」」」
「不知火ちゃん、提督…大丈夫だよね?」
「……」
「ったく、何がどうなってるのよ。クズ司令官は持ち場離れるし、かと思えばわけわかんない攻撃で敵艦載機も敵艦も撃破されるし、戻ってきたら死にかけてるし……」
「叢雲、あなたは何か知っているのではありませんか?」
「……」
「あなただけは、驚いてはいても困惑はしていませんでした。司令官のことも、敵を撃破した謎の攻撃についてもです。もしや、司令から何か……」
「私は、アイツから何も聞いてないわ。聞きたいなら、アイツから直接聞きなさい」
「「「……」」」
“ガチャ”
「「「「っ!」」」」
「神通さん!」
「司令の容体は……」
「安定しています。今は葛城がついてくれていますが、恐らくもう大丈夫でしょう」
「でも、急いで医者に見せた方がいいでしょうね。私たちじゃ、人間の身体のことなんて碌にわからないし。それよりも…叢雲、アレはどういうこと?」
「どうって?」
「とぼけないで! 提督は民間登用じゃなかったの! あんなの、どう考えたって普通じゃ……!」
“スッ”
「……どういうつもり、神通」
「冷静なりましょう。冷静さを欠いては、お互いのためにはなりません」
「……わかったわ。でも、私は冷静になれそうにないから、あなたに任せるけど」
「ええ、構いません」
「なら、お願い」
「それでは叢雲、提督がどうして倒れていたのか、理由はわかりますか?」
「聞いてない」
「あなたはまっすぐ地下室に向かいました。何か知っていたのでは?」
「私は何も聞いていないわ」
「では質問を変えましょう。敵艦載機と敵艦を撃ち落としたあの矢、アレに心当たりは?」
「さぁ?」
「…………………………最後の質問です。提督の全身の傷跡、これについて知っていることは? 一応言っておきますが、慎重に答えてください。私も、そろそろ冷静さを保つのは限界なので」
「あ、あの、傷跡って……」
「まず右手がなくて、残る手足も一部の指が欠損していたわ。それに、普段から厚い化粧をしていたんでしょうね。化粧を落としたら、顔にもいくつもキズがあったわ。中には……詳細は見た方が早いわね、言葉で説明できるものじゃないし」
「どういうことですか、叢雲」
「言ったでしょ、私は何も聞いてない」
「アンタね! 知らないで済むと思ってんの!」
「ま、待ってみんな! ねぇ、叢雲ちゃん。どうして“知らない”じゃなくて“聞いてない”なのかな?」
「……どうやら一番冷静だったのは潮みたいね。
理由は簡単、アイツと会ってから妙な夢を見るようになったからよ」
「「「「「夢?」」」」」
「初めはただの変な夢だと思った。でも、段々違うことに気付いた。アレは私の内側からくるものじゃなくて、どっかの誰かさんの足跡なんだって。……ったく、そりゃアンタにも都合があるんでしょうけど、さっさと白状しとけってのよ」
提督が目覚めたのはそれから三日後、体調が戻るまでにはさらに一ヶ月を要した。
不自然な深海棲艦の撃退は少将の手で改竄され、真相を知るのは当事者たちだけ。そして、この一件こそが本当の意味での始まりだった。
う~ん、だいぶ「優しい世界」だな。まぁ、その分発展性とか自由度とかはぐだ男提督の方が優れているのでしょうが。これを長く続けるのは難しそう。
やっぱ、ある程度苦難があった方が話は広げやすいですよね。
ちなみに、こちらでは一応単独でのサーヴァントの召喚が可能です。
ただし、本来なら提督の魔力量では一騎召喚するのも無理。それを可能にしているのは、サーヴァントの側も相応の無理をしているから。召喚された傍から霊基が崩壊をはじめ、マスターがいるにもかかわらずクラス関係なく長時間の現界は不可。ついでに、霊基の崩壊に伴い激痛が走るおまけつき。また、提督は召喚の時点で魔力切れを起こしているので、現界や戦闘に必要な魔力は崩壊した霊基を魔力に変換することで賄っています。言わば魔力のオートファジー、自分自身を薪にしているようなもの。ハハハハハ、何この縛りプレイ。
そして、提督自身も魔術回路に過負荷がかかり数日は昏睡、一ヶ月はベッドの住人になります。完全快復するにはさらに一ヶ月…つまり、どんなに早くても二ヶ月に一度しか召喚はできません。加えて、内臓機能も低下するので外部からは「病弱」と認識されていたり。
ネタバレ上等の設定集、いる?
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いる
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いらない
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そんなことより続きはよっ
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全部晒してしまえwww