〈艦これ×FGO〉神機残響海戦 七大洋 ~天地人の狭間~   作:やみなべ

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2話でありながら未だに出番のない主人公たち。今回のコンセプトの一つが「一話あたりの文少量抑え目」なのでご容赦を。


序/2027年2月1日

東京都新宿区、防衛省庁舎の一室に二つの人影があった。

片や頭髪に占める白いものの割合が多くなり、その分の貫録と怜悧さを感じさせる顔立ちのスーツ姿の初老の男性。

片や髪はいまだ黒々とし、それと対比するような純白の制服を身に纏った柔和な顔つきの壮年男性。

 

初老の男は重厚なデスクに腰掛け眉間の皺を深くているのに対し、壮年男性の方は背筋を伸ばしながらもよい意味で肩の力の抜けた自然体。表情こそ引き締められているが、上役の前だというのにこのリラックスした態度を崩さないのは、ある意味大物の証拠だろう。

初老の男性の方も今更この部下の態度を正す気はないのか、眼鏡をはずして眉間を揉み解すだけでそのことには触れず、話を先に進めるつもりのようだ。

 

「つまり、こういうことかね? 制服組の連中は、これだけ逼迫した状況にありながらも未だに体面にこだわっていると?」

「皆が皆、というわけではありませんが、“保守派”が大勢を占めているのは事実かと」

「連中は……現実が見えていないのか?」

「ですが、言わんとすることは正論では?」

「民間人を守るのが自衛隊の仕事、か。確かにそうだろう。

だが、現実を見たまえ一佐。“ゑ号”なしには我々は自国の領海はおろか沿岸部すら守れなかった。あのままでは、奴らの上陸は時間の問題だっただろう。業腹ではあるが、それを防げたのは国連がどこぞから引っ張ってきた奇怪な兵器とも呼べん兵器によるものだ。それがあったからこそ、辛うじて近海まで戦線を押し上げることができた。

今更、“ゑ号”を運用することに何の不満がある。議論も衝突も散々やり尽くしたではないか。それを今更蒸し返すなど……」

 

苛立たしげに人差し指でデスクを「コツコツ」と叩きながら、忌々しそうに顔を歪める初老の男性に対し、壮年男性の方は相変わらず柔和な表情を崩さない。彼はその穏やかな表情に相応しいゆったりとした口調で、目の前の上官の言葉をやんわりと否定する。

 

「忘れたわけではありませんよ、次官。ただまぁ、“ゑ号”については外見はともかく“兵器”ということで何とか納得することもできました。外見こそ“アレ”ですが、中身は人ではありません。日本が誇るアニメ文化、その象徴の一つですからね“人型兵器”というのは。

ですが、これは流石に本分に悖る…と思うお歴々が多いのでしょう。まぁ、お気持ちはわからんでもないですがね」

「“アレ”が人かどうかは我らが決めることではないが、現実問題として奴らを排除するには“アレ”を用いるしかなく、その運用ができる者は限られる。背広・制服を問わず、予備役すらも引っ張り出して辛うじて近海まで戦線を押し上げることはできた。しかし、それで頭打ちだ。これより先、かつての領海まで制海権を確保するには根本的に数が足りん。

ましてや、それ以上となれば……」

「ここで実績を示せば、首尾よく事態を鎮圧できた折には国際社会で存在感を示せますし、一昔前のご近所さんのように領海を広げることも不可能ではありませんからな。それも、自分たちで確保した領域です。文句を言われる筋合いはないでしょう。それにあわよくば、“世界の警察”とやらも……」

「やめたまえ。我々は、あくまでも自国とその国民を守るための組織だ。領土的野心などなく、あくまでも世界的混乱を終息するためだ。違うかね?」

「おっと、そうでしたそうでした。それは“星の似合う”国の方々の目的でしたな。

 とはいえ、我らの領海を侵犯されても困りますし、やはりここは率先して動くのが吉なのは事実ですな」

「無論だ。まぁ、中には感謝してこちらに“気を遣ってくれる”国もあるかもしれんがね」

「ははぁ、情けは人の為ならず、というやつですな」

 

実際問題として、日本は比較的早く“●●・●●●●●●”…自衛隊内では“ゑ号”と呼ばれる兵器を導入した。四方を海で囲まれ、本土から離れた離島を多く抱える日本にとって一日でも早い制海権の奪取は至上命題だったからだ。多くの問題を孕んだ兵器ではあるが、それらに目を瞑ってでも急がなければならなかった。

深海棲艦が現れて6年、ここまで戦線を押し上げ維持できている国は少ない。これは、国際社会で存在感を示し、その立場を強める格好の機会でもある。せっかくの勢いをここで殺してしまうわけにはいかないのだ。

 

とはいえ、当初は“国防上の秘匿事項”で通してこられたが、最近では“ゑ号”の情報は流出し始めている。まず、戦線を押し上げるにつれ海辺に人が戻ってきているという点だ。

沿岸部を封鎖している間は問題なかったが、海洋国家である日本にとって海に関連する事業・産業は生命線の一つ。船舶による大規模な物資の輸入は未だできず、空路では輸送力に難があるし、国内の生産力には限度がある。その状況では、“海産物”は貴重な食料品である。一時期は大きな混乱などもあったが、今はある程度落ち着いているのも限定的ながら漁業を再開できたのが大きい。スーパーでは肉より魚のスペースが増え、野菜と同じ感覚で海藻などが食される時代になったのだ。

とはいえ、そうして海に出る人が増えれば当然“ゑ号”が人の目に留まる機会も生じる。また、近海の制海権を確保したとはいえ、絶対安全とも言えない。彼らの安全を守るためには、哨戒艇などを回すより“ゑ号”の方が確実だ。下手に“事故”や“襲撃”があれば、叩かれるのは自衛隊と政府なのだから。

 

他にも、日本がある程度順調に成果を上げていることから、その足を引っ張るために他国が手をまわしているという話もある。上辺では“ゑ号”運用のノウハウを求めつつ、裏では足を引っ張ろうとする輩には事欠かないのが現状だ。

 

「ですが、世論もそろそろ五月蠅くなってくる頃合でしょう。そんな時期に“民間人の登用”はリスクもあるのでは?」

「表現には気を付けたまえ。我々は別に強制しているわけではないし徴兵など以ての外だ。あくまでも、適性のある者に“お国のために働ける機会”があることを伝え、希望者に“然るべき教育”をしようというだけだ、違うかね」

「いえ、その通りですな」

「“ゑ号”にしたところで外見こそ年頃の娘を模してはいるが、中身は血の通わん人形だ。少なくとも、国連がよこした“型”はそうだ。ならば、アレは人ではない。違うかね?」

「違いませんな」

「だというのに、マスコミや考えの足りん連中はすぐに勝手なことをほざきおる。国連も国連だ、訳の分からん技術もそうだが、何故人間の形をしている必要がある。いや、それを言うならいっそターミネー〇ー風にでもすればよかったのだ。そうすれば、むしろ世論を味方につけることもできただろうに」

(ある意味、人気ではありますが……“艦娘”か。“日本人は未来に生きている”とか昔は言われていたらしいが、時代が追い付いてきたというべきかな?)

 

口に出せば絶対に怒りを買うので言わないが、もちろん彼はそのあたりのことも承知している。

“ゑ号”の存在が明るみに出るにつれ、一部界隈(オタク層)から“艦娘”などという名称で呼ばれるようになった。それが瞬く間に浸透し、今では自衛隊内でもこの名称を使う者がいる。

防衛省事務方のトップとしては、頭の痛いことだろうが。

 

「とにかくだ。“ゑ号”の数は揃えられるが、運用できる人間が足りなくては意味がない。大勢を占めているのは“保守派”だろうが、それはあくまでも制服組の中の話に過ぎん。“革新派”には頑張ってもらわなければならん、この私が後ろ盾になっているのだ。分かっているな」

「無論ですとも」

 

自衛隊…より正確には防衛省内にもいくつかの派閥がある。

その中で現在最も大きなものが“保守派”と“革新派”だ。

“保守派”は言ってみれば“艦娘”否定派。胡散臭いこと極まりない兵器を信用していないが、かといって彼女らなしには制海権の確保は不可能。そこで彼女らを徹底して“使い捨ての兵器”として扱うのが保守派の基本方針だ。同様に、民間人の起用にも否定的で、“国と国民を守るのは自衛官である”という強い自負を持っている。

対して、“革新派”は“艦娘”肯定派。何はともあれ艦娘なしには話が進まないのだから、彼女らの存在を受け入れようというのが基本方針。その結果、彼女らの個性や人格についても受け入れ、兵器というよりは“仲間”や“部下”に近い接し方をする者が多い。彼らは基本的に「なりふり構っていられる余裕はない」という考えなので、民間人の起用にも賛成している。

実際には各派閥にはさらに細かな派閥があり、“艦娘は認めるが民間人はアウト”だったり、“ゑ号を兵器として扱えるなら民間人も渋々認める”だったりと色々だ。さらに、二大派閥の他に“中立”という名の“日和見”や企業や他国と繋がって自身の利益を追求するような連中もいたりと、様々な者たちがいる。

事務次官にしたところで大まかには革新派に属するが、「ゑ号という兵器を効率よく運用するためにあれらの個性を認める」という方針に過ぎない。どこを見渡しても、一枚岩からは程遠いのが実情だ。

 

(いや、そもそも私からして一枚岩とは無縁か)

 

なにしろ、彼はほとんどの派閥に対して顔の利く実質的には“多重スパイ”だ。建前上は“革新派”だが、“保守派”に情報も流すし、何なら“利益派”に対して協力することもある。

まぁ、そんな彼だからこそ事務次官にこうして裏工作の指示を受けているのだろうが。

 

「ですが、“保守派”を黙らせるとなると“スキャンダル”ないし“失態”を演じてもらうのが手っ取り早い手になりますが?」

「それはいかん」

「やはりですか」

「下手に付け入るスキを作れば、それこそ余計な連中を調子付かせる」

「となると、“革新派”の息のかかった者に実績を上げてもらうことになりますが……」

 

“保守派”に比べ“革新派”の提督たちは実績を上げている方ではあるが、だからこそ目新しさに欠ける。少しずつ影響力を強めることにはなるだろうが、趨勢を傾けるほどとなると厳しい。

それこそ、“起用された民間人が結果を残す”くらいでないと……しかし、それだと順序があべこべだ。“民間人の起用”を押し通すために影響力が欲しいのに、起用した民間人の実績を以て影響力を強めるなどできるはずがない。いや、できなくもないが、その場合リスクが高すぎる。

 

「一応、適性者の中から有望そうな者には秘密裏に教育を始めていますが……使いますか?」

「いや、それだと万が一が怖い。無理を通して起用した者が失敗すれば、それこそ“保守派”を調子付かせることになる」

(一際有望なのもいるが、アレはなぁ……)

 

表沙汰にはできない伝手から紹介された人物であり、色々と癖が強いのでまだ事務次官も知らない相手だ。

期待はできるものの、事務次官を納得させられるかとなると……。

 

(何しろ、お偉方に受けの良いキャラクターをしていないからなぁ。オネエで明らかな偽名を名乗っているとか、こっそり紛れ込ませるくらいでないと……)

「……実はな、国連から推挙されている者が一名いる」

「国連から、ですか? ですが、連中にこれ以上借りを作るのは望ましくないのでは?」

 

この点に関しては、“保守派”“革新派”を問わず共通の見解だ。ただでさえ艦娘の件で多大な借りを作っているのに、これ以上国連が口出しをする口実を作るのは好ましくない。

そんなこと、この事務次官がわかっていない筈がないのだが、そんな考えを読んだかのようにデスクに一冊の冊子を取り出す。

 

「見たまえ。調べたが、何故推薦されたのかわからんくらいに凡庸だ。強いて言えば、高校を休学し留学していた時に運悪く“空白”がぶつかったくらいか」

「ほぉ、ちなみにどちらに?」

「うむ。ロンドンに留学していたようだ。復学後、そのまま卒業し以降は“深海”のことがあるまでは海外を飛び回っていたようだが、とりわけ何かをしたというわけではないらしい。今は、インテリアデザイナーをしているようだ」

「……なぜ、そのような人物を?」

「国連が用意した留学プランに参加した、というくらいしか繋がりはない」

「家族に国連職員がいたり、軍事教練を受けたりは?」

「特にないらしい」

(ますますわからないな。いったいなぜ国連はそんなことを……)

 

だが、国連がよくわからないことをするのはこれが初めてではない。それこそ、“艦娘”の配備を進めようとした時も、各国は“意味が分からない”という顔をしていたものだ。

ならば、この推挙にも何か思惑があるのかもしれないが……。

 

「それを飲むのですか?」

「国連には借りがある、無視はできん。とはいえ、これで失敗するなら良し。その時には、国連の影響力ごと排除し、こちらの有望な者に挿げ替えるまでだ」

(なるほど、国連の推挙を盾に“保守派”を押し切り、失敗すれば挿げ替えて“革新派”の功績にする、と)

 

上手くすれば、国連と“保守派”の両方を黙らせられる一石二鳥の策だ。

強いて問題点を上げれば、国連の候補者の後に“革新派”の候補者を充てるのには少々強権を振るわなければならないことか。だがそれも、事務次官という事務方トップの権力があれば行けるだろう。

いや、もう一つ問題点がある。

 

「もしその候補者が成功したらどうなさるおつもりで?」

「いいや、成功せんさ」

(……なるほど、成功させる気はないということか)

 

事務次官の資料を見る限り、確かにこれといって特筆することのない人物に見える。

“気付けば一年以上の時間が経っていた”という現代の“七不思議”にドンピシャで海外留学中に巻き込まれたことは運が悪いとしか言いようがないが、そんなのは正直掃いて捨てるほどいる。あとは、そんなことがあった後にも拘らず海外を飛び回ったアグレッシブさは非凡と言えるかもしれないくらいか。

とはいえ、それだけの人物がいきなり提督として艦娘の指揮を任されたとして、どうなるかは…想像に難くない。

 

(まぁ、運が悪かったと諦めてもらうしかないな)

 

それが、結果的には国と多くの国民のためになる。恨むのも憎むのも、何なら呪ってくれても構わない。そんなものは所詮負け犬の遠吠えで、何の意味もないことなのだから。それで満足するならいくらでもすればいい。

世界はいつだって「犠牲者」と「利益を得る者」とで回っている。それだけのことだ。

 

「承知しました。では、さっそく要請し了解を得られ次第着任してもらいましょう」

「うむ、習うよりも慣れろ、というからな」

「立場が人を育てるとも申します。()()提督の活躍を期待すると致しましょう」

「ああ、良い働きを期待しているとも」

 

一抹の同情と共に現住所に目を通すと、そこは……「なんでこんなところに?」と言いたくなるような辺鄙な山奥だった。




普段、1話あたりだいたい2~3万字書いている私なわけですが、基本的に1日…長くて2・3日で書き上げてるんですよね。で、書き始めから終わるまでほぼノンストップ。正直、書いている間は食事を取るのも億劫だったり。ガッツリ集中して書いていると言えば聞こえはいいですが、勢いに任せて書いているというのが正確でしょうね。だからこそ、集中し切れないと全然進まないのが悪癖なわけで。なんというか、書きたいところまで書き切れないと気持ち悪く感じる性分でして。
とはいえ、やはりこのままというのもよろしくないと常々感じてはいました。そこで…というほどのことでもありませんが、“ちょっとずつ書く”という練習をしていこうかな、と。ついでに、一話あたりの文字数をコンパクトに収められたらいいなぁ…とも。

そんなわけで(なにが?)「地の文なし」「会話文オンリー」「一話あたり千字以内」を目標に「頻度優先」でやってみようと思い立って書き始めたのが本作。

ただ、文字数少ないし会話文のみということで色々引け目もあり、活動報告でこっそり出していたのですが、この度運営さんから叱られてしまったのと、思いの他評価は悪くなかったようで「小説として投稿しては」というお声をいただいたことから出してみることにした次第。
「intro」はあと2話、そこから先は上述の通りになりますのでご注意を。

ネタバレ上等の設定集、いる?

  • いる
  • いらない
  • そんなことより続きはよっ
  • 全部晒してしまえwww
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