〈艦これ×FGO〉神機残響海戦 七大洋 ~天地人の狭間~   作:やみなべ

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キャスト:提督、榛名


「絶対泣かす」

「はい。じゃ、これ御守り。久しぶりの休日だし、楽しんでおいで」

 

「「はい、失礼します」」

 

(さて……別に持っていたからって“特別な幸運”に恵まれたりするわけじゃないけど、念のため今日は“危うきに近寄らず”でいった方がいいか)

 

「提督、少々お時間よろしいでしょうか?」

 

「榛名? どうぞ」

 

「失礼いたします。今出て行かれたのは扶桑さんと山城さんでしょうか? なんだか、いつになく明るいご様子でしたが……」

 

「二人とも今日は非番だからね」

 

「ああ、それで……でも、なぜ提督のところに? ご挨拶か何かでしょうか?」

 

「まぁ、せっかくの休日にケチがつかないように、ちょっとした御守りをね」

 

「御守り、ですか?」

 

「ほら、二人とも不幸体質でしょ。偶の休みくらい、細々とした不運を気にせず過ごせた方がいいじゃない」

 

「はぁ……」

 

「それで、何か用件があったんじゃないの?」

 

「あっ、そうでした。実は……」

 

 ・

 ・

 ・

 

「へぇ、そんな投書があるんだ。他には?」

 

「ええっと、細々としたところですと“食堂のメニューを増やして欲しい”“お酒をもっと充実させて欲しい”などでしょうか。ただ、中にはかなり大掛かりになりそうなものもあって……」

 

「なになに?」

 

「……楽しそうですね」

 

「そりゃあね。みんなが色々やりたいこととか欲しい物とか言ってくれるようになるのは嬉しいよ。せっかく意志と感情…ありていに言っちゃえば“心”かな。心があるんだから、目一杯満喫しないと損じゃないか」

 

「はぁ……」

 

「欲を言えば規則の抜け道を探したり、なんならもっと直接的に悪さするくらいの気概を持ったりしてほしいところなんだけど。あ、今の大淀と電には内緒ね。怒られちゃうから」

 

「あの、それは流石にマズイのでは……規律の問題もありますし」

 

「まぁ、確かに軍隊としては規律は大事なんだろうけどさ。でも、時には規則に反することもしちゃうのが“心”なんじゃないかな? それが“私利私欲”なのか、あるいは譲れない“ナニカ”のためなのかにもよるところかもだけど。

 だけど、俺としてはやっぱりみんなにはできるだけたくさんの選択肢を持って、自分たちの未来を選んで行って欲しいと思うんだよね」

 

「人間のように、ですか?」

 

「人間に限らず、だよ。意思と感情を持った知生体の義務、なんて言ったら大げさだけど」

 

「榛名には難しいお話です」

 

「まぁ、別に今すぐにって話じゃないさ。榛名は建造されて日も浅いし、ゆっくり馴染んでいけばいいと思うよ。

 それで、大掛かりなのってどんな?」

 

“ワクワク”

 

「はぁ……なんでも“ジェットコースターに乗りたい”と」

 

「ジェットコースターかぁ……作るか」

 

「ええっ!? ですが、それは……」

 

「人間が乗れるようにってなると安全性にかなり気を遣わなくちゃいけないけど、艦娘仕様なら少しくらいいい加減でもいけるんじゃない?」

 

「ま、まぁ……艤装ありきでしたら、多少の事故が起きても大丈夫だと思いますが」

 

「よし。面白そうだし、時間がある時に明石に設計頼んでみようか!」

 

「ほ、本気ですか?」

 

「どうせなら国内…いや、世界最高速度を目指したいね! となると、かなりの高低差がいるか。あとループとかもいっぱいあった方が楽しいよなぁ」

 

(これは、提督も含めたブレーキ役が必要なのでは……?)

 

“ドンッ!”

 

「きゃっ!」

 

“グラグラグラグラグラ……!”

 

「おおっ……今のは結構揺れたな」

 

「……提督、ご無事ですか!」

 

「俺は座ってたから大丈夫、榛名は?」

 

「揺れた拍子に少しよろけただけで、榛名は大丈夫で……」

 

“ガタッ!”←壁際の本棚が倒れてきた

 

「提督!」

 

(ああ、そう来たか……)

 

「勝手は、榛名が、許しませぇん!」

 

“ドォン!”←展開した艤装からの砲撃

 

「ご無事ですか、提督!」

 

「ゲホゲホ…助かった。ありがとう、榛名」

 

「いえ、当然のことをしたまでです。でも、その……」

 

“さー……”←大破した窓側の壁を見て顔を青くしている

 

「はぅ……やり過ぎてしまいました。榛名、失敗です」

 

「まぁ、咄嗟のことだったし仕方ないよ。電たちには俺も一緒に謝るから気にしないで」

 

「ありがとうございます……はっ! それよりも、お怪我はありませんか!?」

 

「ええっと……とりあえずは大丈夫、かな?」

 

「よかった。でも、どうして書棚が……しっかりと固定してあったはずなのに」

 

(“偶々ネジが緩んでいた”とか、そんなところか。定期的に点検してるから普通なら起こらない筈の事故だけど、俺の場合はなぁ……“運命力”下がってるし、仕方がないか)

 

「っ! 提督、左手が!」

 

「ん? ああ、破片で切ったのかな? 別に大して痛みもないし……」

 

「いけません! 今すぐ手当を!」

 

「え、あ、いや…それは、その……ほら、これくらい自分でやれるから」

 

「片手では不便ですから、榛名にお任せください! さあ! さあ!!」

 

「あ~れ~、そんなご無体なぁ~!」

 

「ふざけてないで、傷を見ますから早く手袋を取ってください!」

 

(力じゃどうやっても勝ち目がないし、これは腹を括るしかないか……)

 

「失礼しま…っ!」

 

「なんと言うか…ごめん。気を遣わせたくなくてさ……」

 

「……なにが、あったんですか。こんな、ヒドイ……」

 

「いやいや、傷って言うならみんなの方が……」

 

「茶化さないでください! 確かに戦闘になれば私たちも傷を負います。でもそれは、入渠してしまえば消えるんです! 提督のように、こんな……」

 

「そう、だね。古傷って言うのは、かえって見慣れないか」

 

「……手当てします。動かないでください」

 

(弱ったなぁ。そういう(泣きそうな)顔をしてほしくないから黙ってたんだけど……)

 

(特に多いのは、手の甲を中心に刻まれた大小無数の切り傷と縫合の痕。完治はしているけれど、皮膚が歪に盛り上がって色も周囲の組織と違う。中には、明らかに刃物とは違う切り傷もある。それに、掌が爛れているのは…火傷の痕、かしら。

何より目を引くのは指先。黒く変色して、こんなのもう壊死しかけたとしか……だとすると、小指と薬指が不自然に短いのはまさか……!)

 

「あ~、榛名? 流石にそんなにマジマジ見られると……」

 

「………………提督。一つ、伺ってもいいでしょうか」

 

「……まぁ、流石に誤魔化せないか。なに?」

 

「お姉さまから、提督は肌を見せようとしないとお聞きしています」

 

「うん。まぁ、見て気持ちの良い物じゃないからね」

 

「それはつまり、左手だけではなく全身が…ということですか。あるいは、もっと……」

 

「……世界中を旅していたことがある。その時にね……俺にとっては旅の思い出の一部みたいなものだけど、他人(ひと)から見たらまた別でしょ? だからまぁ…あんまり見せない方がいいかと思って。

 実際、榛名にそんな顔させちゃってるわけだし」

 

「…………………………………だれも、守ってくれなかったんですか!」

 

「榛名……」

 

「こんな、こんな傷普通じゃありません! いったいどんな旅をすれば、こんな……どうして誰も、あなたを守ってくれなかったんですか!」

 

「違う、それは違うよ榛名。俺はいつだってみんなに守られてた。みんなが守ってくれたから、今の俺がいるんだ。泣いてくれるのは嬉しいけど…“守ってくれなかった”なんて、言わないでくれ」

 

「………………………どうして、笑っているんですか」

 

「涙なら、それこそ目がふやけるほど流したからね」

 

(違う。この人の涙はきっと、自分のためではなくて…身体の傷は塞がっても、心に負った傷はいまも開いたままなんだ。塞がることを、古傷になることを善しとしていない。だからこんな風に、悲しそうに笑っている……この人にとって、その思い出は“過去(終わったこと)”ではなく“現在(いま)”なんだ)

 

「今はまだ泣いちゃいけないって踏ん張ったりもしたけどさ…ちゃんと泣いたよ。だから、もう大丈夫」

 

「そうじゃない…そうじゃありません! 全然、大丈夫じゃないじゃないですか! 本当に大丈夫なら、そんな風に笑わないでください!

 提督にとっては大切な思い出なのかもしれません。でも、もう“過去”にしてしまっていいじゃないですか。誰かのためではなく、ご自分のために泣いて、泣いて、泣いて…何もかも洗い流して“過去(終わり)”にしてしまえば良いじゃありませんか……」

 

「…………ごめん、それはできない」

 

「どう、して……」

 

「さっきの旅で、実は世界を救ったり滅ぼしたりしてたんだって言ったら、どうする?」

 

「……信じます」

 

「自分で言っておいてなんだけど、眉唾どころじゃないよ?」

 

「はい、榛名もそう思います。でも、信じます。理由も根拠もなく、信じると決めました。

 提督は私たちに考えること、自分で選択することを望んでいらっしゃいます。たぶん、他の娘たちならちゃんと考えて疑ったり、冗談だと流したりするのでしょう。

でも、一人くらいは提督を妄信することを選ぶ娘がいてもいいじゃありませんか。だからどれだけ突拍子のないことでも、榛名は提督のおっしゃることを信じます。

 世界を滅ぼした、そのことに責任を感じているんですか?」

 

「ちょっと違う、かな。……俺たちだけなんだ、覚えているのは。だから、俺たちがそれを“終わったこと(過去)”にしてしまったら、もう何も残らない。正直、どうするのが良いのかなんてわからない。でも、それだけはイヤなんだ」

 

(……ああ、今ようやくわかった。お姉さまが“提督を泣かせたら許さない”と仰ったのは、私たちのことも“過去(終わり)”にしようとしないから。ずっと、傷つき続けてしまうからなのですね)

 

「ごめんね、こんな面倒な奴で……」

 

「……決めました」

 

「うん?」

 

「お姉さまは提督を泣かせないと仰いました。ですが、榛名は提督を泣かせます」

 

「もう、十分泣いたよ」

 

「足りません。泣いて泣いて、恥も外聞もなく泣き散らして……全部、過去にしてしまいましょう。昔、そんなこともあったんだって……そうやって振り返るだけのものにしてしまえるように」

 

「ありがとう。でも……」

 

「榛名なら! そんな顔されてまで、覚えていてなんて欲しくありません! 覚えていようとしてくれるのは嬉しいです。でも、そのために傷つき続けるなんて……そこまでして欲しいわけではありません!」

 

「……そこを突かれると、弱いなぁ」

 

「それでも、お考えは変わりませんか」

 

「言ったでしょ、我ながら面倒だって」

 

「でしたら、榛名も諦めません。絶対に、提督を泣かせてみせますから」

 

(ベクトルは違うけど……似た者姉妹だなぁ。こうと決めた時の目が、金剛と良く似てる。それにしても、まさか榛名が“泣かせる”とは…嬉しく思っちゃうのは不謹慎、なのかなぁ)




~鎮守府裏日誌~

流石の提督も、ジェットコースターの設計は無理だったようだね……え、違う? そうじゃないって?
コホン、提督も別に前を見ていないわけじゃないんだけどね。ただ、彼にとってあの旅路は「過去」という言葉に置き換えたくはないものなんだろう。それはさながら、自分で自分のカサブタを剥がし続けるような生き方なのかもしれないね。
戦争を生き抜いて新しい時代の訪れに立ち会った榛名からすれば、許せない…とは言わないまでも、区切りをつけて(しがらみ)なく未来に向けて進んで欲しいと思うんだろう。

ところで、彼女は提督の傷にショックを受けていたわけだけど、アレでもだいぶマシな方なんだよ?
特異点を修正していた頃はカルデアに戻るまで十分な治療を受けられないこともザラだったけど、異聞帯攻略では移動拠点とも言うべきシャドウ・ボーダーで治療を受けられたし、アスクレピオスが召喚されてからはさらに改善されたからね。まぁ、それでも応急処置で済ませなきゃいけない場面は少なくなかったし、完治してなお生々しい傷跡が残っているわけだけど、こればかりはね。

それはそれとして提督の運命力、こっちは真面目に底をつく寸前だ。どんな生命も“危険に遭遇しない”という幸運を使って生きているわけだけど、“生存のために使われている当然のような幸運”が乏しいということは、ただ歩いているだけでも間の悪い事故に遭遇することを意味する。ちょうど、地震が起こったら偶々家具の転倒防止用の留め具が外れて倒れ込んできた、みたいにね。
幸運の御守りで補正してはいるけど、“運命力”と“通常の幸運”では質が違う。どれだけ幸運でも、運命力の乏しさは完全には補えないんだ。だからあの御守り、提督には“あんまりご利益がない”ってわけさ。まぁ、ないよりはマシ…くらいかな。
要は、普段は特に不運でも何でもないけど、偶に致命的な不運に見舞われるってことだね。

ネタバレ上等の設定集、いる?

  • いる
  • いらない
  • そんなことより続きはよっ
  • 全部晒してしまえwww
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